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96 ギルドマスターは扉を開きます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます! ←はしゃぎ過ぎたので、ちょっと冷静に戻りましたw

 課金アイテムであるギルドルーム購入券。

 その券で購入するギルドルームは、ギルドメンバーしか入れない場所だから鍵はない。

 許可があれば入れるとかそういうシステムすらないから、本当にギルドメンバーしか入れないのよね。

 だから飾りとしての鍵穴さえなかったはずの扉に、なぜか鍵穴が当たり前のように付いている。

 椅子にすわったままのわたしがぼんやりとそのことを尋ねると、クロウは、ミーティングルームを挟む二つの小部屋、つまり休憩室とハルさんの作業部屋、それぞれに続く扉を見て鍵穴がないことを確かめる。


「お手柄だな」


 やったー! クロウが褒めてくれた!!

 思わず小躍りしそうになって、ニヤリと笑うベリンダと目が合ってしまった。

 なに、その目?

 とりあえず小躍りはやめておいたら、カニやんにも褒められた。


「さすがグレイさん、持ってるね。

 これ、上手くいけば一番乗りかもな」


 ひゃほーい!


 小躍りはしなかったけれど、両手を挙げてバンザーイくらいはいいわよね?

 イベントには参加しないけれど、観戦と見送りをしてくれようとしていたラウラとキンキーに真似されちゃったけど……。

 気を取り直して早速出発と思ったけれど、今度は開け方がわからないと来た。

 だってあの 【謎の鍵】 は、誰がどう頑張ってもインベントリから取り出せなかったのよね。

 試しにと柴さんがそのまま扉を開けてみたんだけれど、普通に外の廊下に出られるだけ。

 もちろん何度扉を開閉しても鍵穴は消えないんだけれど、このままでも埒が明かない。

 イベントが始まれば取り出せるように変わっているかも……そう思った恭平さんがインベントリを開いてみたんだけれど、やっぱり何度ポチっても 【謎の鍵】 は反応せず。

 つまり取り出せない。

 カニやんは近くにいたパパしゃんと一緒に、もう一度運営が発表したルールを確認していたけれど……やっぱり書かれていないみたい。


 うん? これ、どうなってるの?


 ここはやっぱりあれかしら?

 なにかを開くときの呪文はやっぱりこれじゃない。


「開け、ごま!」


 …………また静まりかえるんだから…………それまで好き勝手にうるさいくらい喋っていたくせに、どうしてわたしが何かするたびにみんな黙り込むのよ?

 ………………ねぇお願い、誰かリアクションして、ねぇ!


「泣くくらい悲しいならやらなきゃいいのに……」


 カニやんの意地悪、そういうことはやる前に言ってよ。

 しちゃってから言われても遅いのよ。

 ちなみに泣いてません!


「無理でしょ?

 グレイさんのその、突拍子もない発想とか行動とか、たぶんクロウさんでも予測出来ないから」


 どうしてここで、わざわざクロウを持ち出すのかがわからないんだけれど、とにかく今は考えましょう。


「え? わざわざ持ち出したのに突っ込んでくれないわけ?」


 ……突っ込んで欲しかったの?


「そこ、コントはもういいから考えて」


 二人してクロエに怒られた。

 もちろんちゃんと考えてるんだけれど、なにも浮かばないのよ。

 なにかヒントでもないかと思って鍵穴をのぞいてみたけれど、向こう側が見えるわけでなし。

 しかもカニやんとコントをしているあいだに、すでに柴さんが同じことをやったとか突っ込まれた。

 じゃあ他にどうするのよ?

 ただ見ているだけじゃ埒が明かないし、かといって他に鍵穴を探しても、結局鍵の開き方がわからなきゃ意味がないと来た。

 すでに恭平さんがインベントリから取り出そうと試みて失敗。

 任意がダメなら自動ってこと?

 自動でインベントリが開くなんてことはないはずだけれど、例えばこう……手を鍵穴にかざしたら反応するとか………………あ、反応した。

 だってほら、インフォメーションが出たもの。


information 【謎の鍵】 を取り出しますか?


「やった!」


 今度こそ本当に、小躍りどころか飛び上がって喜びそうになったら、よりによってクロウに抑え付けられるとか……なんでよ?

 腰を屈め鍵穴をのぞき込むように手をかざしていたら、出てきたインフォメーションを見て、わたしが喜びのリアクションをするより早く上から覆い被さってきたクロウが、まるで二人羽織の出来損ないみたいにわたしの手首を掴んで、出てきたウィンドウを操作し始めたの。

 もちろん表示は質問形式だから 【yes】 か 【no】 で、ポチるのはもちろん 【yes】。

 わたしが余計なことをするとでも思ったのか、【yes】 をポチらせたクロウは、わたしの眼の前に現われた問題の 【謎の鍵】 をとると、なぜかわざわざわたしに握らせて鍵穴に差し込む。

 これって別に、クロウがそのまま鍵穴に突っ込んでもよかったんじゃないの?

 とりあえずね……近すぎる……離れてぇ~!


「グレイさん、真っ赤」


 うん、わかってる。

 わかってるからわざわざ言わなくていいの、ベリンダ。

 こっち見てニヤニヤしてないで、さっさと行くわよ!

 気を取り直して立ち上がると、そっとドアノブを回して扉を開けてみる。

 そこにはあるべき廊下ではなく、緑濃い森が広がっていた。


「ここが 【フェンリルの森】 ?」


 ドアをくぐったそこは、ギルドルームから見た以上に緑が濃く、深い森が広がる。

 全員が扉をくぐり、キンキーやラウラ、ハルさんのお見送りを受けて閉めた瞬間に扉が消え、代わりにそれぞれにインフォメーションが現われる。


information 【フェンリルの森にようこそ】


 メッセージはそれだけだったんだけれど、とりあえずここまでは間違いなく来られたってことね。

 じゃあ予定どおり、パパしゃんとベリンダはゆりりんのカバーで。

 トール君はマコト君と組んでもらって、恭平さんはJBとね。

 絶対にムーさんや柴さんはダメだから。

 その理由がわからず二人はしきりに首を傾げるんだけれど、あえて教えるつもりはありません。

 だって、そのうちに絶対わかるから言わなくてもいいと思う。

 もちろん言いたくないっていうのもあるんだけれど……。

 銃士(ガンナー)三人はそれぞれ臨機応変でカバーに入ってもらって……出来たらゆりりんとトール君&マコト君中心でよろしく。

 カニやんとの~りんについては、柴さんとムーさん、どっちでもいいわよ。


「出来たら決めてくれたほうがいいんだけど?」


 選びかねているの~りんの気持ちはわかるけれど、嫌よ、お断り。

 だって面倒臭いんだもの。

 それに、どう組んでも一緒でしょ?

 だったら四人で決めて。

 それこそ柴さん、ムーさんからの逆指名もありで。


「じゃあ逆指名で」


 わたしの提案に早速乗ってきたのはムーさん。

 ムーさんのほうが元々少し上だったレベルも、気がつくと同じレベル34。

 でもこの二人、夜勤とかでログイン状態が不規則になりやすいから、差が付いたり追いついたりをずっと繰り返している。

 今は、少し前まで差を付けられていた柴さんが追いついた状態。

 でもカニやんとの~りんには相変わらず10くらいのレベル差があるから、一見カニやんと組んだ方が楽に思えるけれど、お役目柄、カニやんのカバーのほうが危険だったりする。

 結局柴さんがカニやんと組み、ムーさんがの~りんと組むことに。

 ちなみに決定方法はじゃんけんという、いかにも脳筋コンビらしさ。


「の~りんがよかった……」

「おい、この脳筋、溶かされたいのか?」


 じゃんけんに負けた柴さんが嘆くのを、たまたま後ろに立っていたカニやんが聞きつけ、その後頭部を杖の先端でグリグリする。


「しっかり守れよ、そのむっさい筋肉で」

「美しい筋肉と言え」

「褒め、(たた)えよ」


 ムーさんまで混じっておかしなポーズを取り始めたから、もうこの三人は放っておくことにする。

 とりあえずムーさん、の~りんを放置するのだけはやめてね。

 もちろんそのくだらない遊びに付き合わせろって意味じゃないから、間違えないように。


 ……はぁ~


 今回のイベントエリアにはマップがあるんだけれど、プレイヤーの位置情報は表示されず地理が表示されているだけで、この森の(ぬし)フェンリルがどこにいるかもわからない。

 火力を二手にくらいなら分けても良さそうだけれど、もし、この森が樹海と同じなら……いや、マップがあるからそれはないか。

 じゃあ二手に分ける?

 開いたウィンドウにマップを表示させて悩むわたしの耳に、遠くから犬とおぼしき遠吠えが聞こえてくる。

 何気なく顔を上げた刹那、視界の隅を何かがよぎる。


 犬?!


「起動……サラマンダー」


 わたしの左手、トール君、マコト君のすぐ脇を疾走する無数の火の玉。

 その先には三匹の犬……わたしはそう呼んでいるんだけれど、正しくは赤い魔犬ガルム。

 種族は魔獣。

 主に関東エリアほぼ全域に出現するそこそこ強いエリアキャラで、樹海にも生息する。

 それが三匹、わたしが放った幾つもの火の玉に、殴られるように溶け落ちる。

 でも確かガルムって……わたしはとっさに首を巡らせて周囲を見る。

 わたしの行動で状況を悟ったメンバーたちも、同じように周囲に首を巡らせ臨戦態勢に。

 そう、ガルムってすぐに群れるのよ。

 ついいつものペースでのんびりまったりしちゃっているうちに、群れの斥候にでも気づかれていたのかもしれない。

 わたしたちは二十……ううん、三十匹はいるかしら?

 つまりすっかり囲まれていた。


「ここを離れますか?」


 トール君が訊いてくるんだけれど、それ、無駄だから。

 ガルムのしつこさはノブナガ顔負け。

 ノブナガはどう足掻いても関西エリアから出ることは出来ないんだけれど、このガルムは、下手をすると関東エリアを飛び出してくるどころかナゴヤドームまで付いてくるのよ。

 さすがに安全地帯のナゴヤドームにだけは入れないんだけれど、誰かが倒すまでドーム周辺をうろつき、近くにいるプレイヤーを襲う。

 あの辺りは初心者やレベルの低いプレイヤーが多いから、ローカルルールとしては放置厳禁なんだけれど、たまにわざとそれをするプレイヤーがいて、思い出したように物議を醸してくれる。

 ま、どこにでも性格の悪い人っているわよね。


「殲滅する」

「ぽぽは回避して」


 カニやんの指示に被るクロエの声。

 クロエってばどこにいるのかと思ったら木の枝に上り、すでに一匹を照準に捉えている。

 その最初の一発が放たれると、ガルムたちが一斉に襲いかかってきた。

 わたしたちは、あまりに距離が近すぎて攻撃に参加出来ないぽぽと、火力をほとんど持たないゆりりんを中心に、バラけないように迎撃。

 でも……チラリと見たら、やっぱりトール君が前に出すぎる傾向がある。

 剣を振ると、どうしても前に前に進んでしまう癖があるのよね。

 単純に足運びに問題があると思う。

 だって……例えば斬り込む時に右足で踏み込むと、その直後、左足を右足の横に持ってくるの。

 たぶん無意識のうちにしちゃってるんだと思うけど、そりゃどんどん前に行っちゃうわよ。


 治さないと


 でもガルムはそういうところを狙ってくるから、マコト君のカバーがなければちょっとヤバかったかな。


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