95 ギルドマスターは第四回イベントに参加します
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そうか、そうよね、トール君に言われるまで気がつかなかったけれど、その可能性は十二分にある。
だってここしばらくの運営ったら、不具合を出し続けてその後始末に忙しかったはず。
臨時メンテナンスに次ぐ臨時メンテナンスとか、その不具合へのお詫びを含めた対応。
メッセージの送付だけでなく対象アカウントの確認に、お詫びの品のポスト送付。
まぁ色々とやったわよね。
うん、おかげで色々ともらったわ。
消耗品だらけなのは仕方ないけれど、うっかりそんなもので誤魔化されるところでもあったけれど、思い返せば物凄く迷惑も掛けられたのよね。
まぁそんなこんなで忙しくて、結果、予定していた日程に第四回イベントの告知を出し忘れた、と……。
いや、違うか。
続いたミスの集大成が、今回の告知忘れってことじゃない?
そう考えれば告知からイベント当日まで一週間もないっていう、この性急すぎる日程にも納得がいくってもの。
もちろんこの状況に納得が出来るだけで、このやり方に納得出来るわけじゃない。
すでに告知していた予定を変えるわけでもなし、ここまで無理をしなくてもいいんじゃないかって思うのは、わたしの性格が呑気だからってわけでもないと思うの。
でも運営には変更しがたい理由があったっていうね。
「これで当日、イベント開始を忘れたらゲーム崩壊だな」
いや、さすがにそれはちょっと。
カニやんたら、なんて恐ろしいことをサラリと言ってくれるのよ。
問題の第四回公式イベント 【フェンリルの森にようこそ】 なんだけど、いつものNPC長官の号令は 【次元の隙間を探し出し、奴らの侵攻を阻止せよ!】 っていうんだけれど、この次元の隙間って何?
その次元の隙間に 【フェンリルの森】 があるとして、たぶんそこにつながる門か扉なんかを開ける鍵が例の 【謎の鍵】 なんだと思う。
公式サイトの隅っこにも、あれが次のイベントに関連するアイテムだって告知が上がっているしね。
でもそれだと一人一つで済むはずなのに、どこででも簡単にドロップして、簡単に幾つも入手出来るっていうのは疑問がある。
ただ運営には、この 【謎の鍵】 のドロップを始めた以上、第四回イベントは始まっているも同然。
だから告知をし忘れても予定を変更出来なかった……そんなところかしら?
イベント自体は今回もレベル制限はなく、個人参加、団体参加、どちらでもOK。
これもどうするか、二、三日のうちに決めなきゃね。
『あ、俺は不参加で』
不意にインカムから割り込んでくるのはハルさん。
すっかり忘れていたけれど、今日も隣の作業部屋にいるらしい。
「参加しないの?」
『当日は忙しくなりそうだから』
忙しいっていうのはハルさんの本業、調合ね。
当日、イベントの詳細が発表されたらまた打ち合わせることになるけれど、ハルさんが言うには、ポーションの売り時はイベント前後。
つまりイベント前の準備と、イベントで大量に消費された後、大勢のプレイヤーがほぼ一斉に補充するタイミング。
そのタイミングに合わせて無人バザーを出店したいから、イベント自体は不参加。
但しイベント当日、イベント参加メンバー全員にポーションを配布。
使用分のみ通貨買い取りをして、不使用分はイベント終了後すぐに現品返却をして販売に回す。
結構忙しいけれど、支援はしてもらえるってことでOKかな。
全員に周知する必要はあるけれど……って思っていたら、自分の店にいるりりか様からもリクエストが入る。
『わたしも、武器耐久の修理に鱗がいるから買い取り希望。
まずは手持ち在庫のメッセージをくれる?』
なるほど、こちらもイベント終了後に繁盛しそうね。
ただ、武器の製作の材料としてはもちろん、削れた耐久を修復するのにシャチの鱗を使うって不思議よね。
誰の発想かは知らないけれど、運営的にはファンタジー要素のつもりなのかどうなのか。
でも火力を持たない生産職の遊び方よね、これって。
うん、楽しそうでなにより。
じゃあハルさんの件と合わせてイベント関連ってことで、後でまとめてメンバー全員にメッセージを送るわ。
まだ鍵の使い方もわからないし、参加方法の詳細もわからない。
ここで顔をつきあわせていても仕方がないってことで、わたしたちも遊びに行きましょうか?
イベントまで数日しかないけれど、トール君は少しでも武器の製作準備を始めたいだろうし、わたしも単体魔法を探したいもの。
『それ、まだ言ってるの?』
インカムから聞こえるカニやんの声は酷く呆れていたけれど、これ、わたしにとっては結構切実な問題なんだから。
どう効率を考えても、範囲魔法ばかり使うのはMPの無駄遣いなのよ。
節約と効率を考えないと、パーティ戦ならともかく、個人戦は厳しい。
第一回、第二回と違い、第三回イベントではHPはプレイヤーの意志で回復出来たけれど、代わりに減ったMPの自動回復はなかった。
つまり公式イベントでも常にMP無制限ってわけじゃない。
『半端ない範囲魔法ばっかり持ってるからじゃん』
半端ない威力を持つ範囲魔法は半端なくMPを消費する。
そんなこと、の~りんに言われなくてもわかってます。
だから単体魔法を探してるっていってるのに……二人とも、わたしのこと本気でただの火力馬鹿だと思ってるでしょ。
そのへんの脳筋と一緒だと思ってるでしょ!
『筋肉はないけどな』
『グレイさん、STRないでしょ?』
言っておきますが、皆無じゃありません!
もちろんわたしが探して取得した術じゃなくて、クロウに引きずり回されて自動的に取得してしまっただけの常時発動スキル。
ただそれもステータスを振っていないから、当然剣士レベルには遠く及ばない。
それこそ0じゃないってレベルのものだけれど、初耳だったらしい二人には驚かれた。
でもね……まぁわかってたわよ、そんな簡単に、それもこんな短い時間でどうにか出来るものじゃないって。
結局わたしは新しいスキルを見つけることは出来なかったんだけれど、幸いにしてトール君は剣を作るところまで間に合ったらしい。
「ムーさんとりりか様に借金してますけど」
あら、そうなの。
これから装備も作らなきゃならないのに返済を抱えるなんて大変だろうけれど、それでも少し嬉しそうなトール君は、両手剣に近い長さの片手剣を装備していた。
ただ両手剣にしては刀身が細い。
りりか様と色々相談したらしいんだけれど、どうしても刀身を太く丈夫にしようとすると両手剣扱いになって、トール君では片手で振れなくなるらしい。
片手剣はもちろん両手で握れるし振れるけれど、両手剣は、片手で持つことは出来ても振るうことは難しい。
製作途中で相談を受けた時にクロウに訊いてみたら、大剣を片手で振るえる、そんな便利な常時発動スキルはないんだって。
残念
でも、じゃあクロウやノギさん、ノーキーさんが臨機応変に片手で振るっているのは? って思ったら、コツとプレイヤースキルだっていうから驚いた。
もちろんステータスポイントで振るSTRや、それを底上げしてくれる常時発動スキルの影響も大きいと思うんだけれど、いずれにしたって他の剣士がこの三人に追いつくのは結構大変かも。
でもトール君は追いつくのよね?
ノギさんに宣戦布告しちゃってるものね。
「トール君にしょうもない圧掛けてないで、さっさと始めようぜ」
まるでわたしがトール君を虐めているような言い方をするカニやんは、壁面に設置された大型モニターを操作し、つい先程発表されたばかりの今回のイベント 【フェンリルの森にようこそ】 の詳細ルールを表示する。
「まずは例の 【謎の鍵】 だけど、これを使って異次元にあるっていう 【フェンリルの森】 に入る。
で、同じ鍵を使って入った全員が一つのパーティと見做される」
【素敵なお茶会】 の場合、いくつかのパーティに分けて参戦するなら、パーティごとに別れて同じ鍵を使って 【フェンリルの森】 とやらに入らなきゃならないわけだけれど、イベント自体はその鍵穴探しから始まる。
今回のイベントも開催時間が設定されているから、酷い話、鍵穴を見つけられないままイベント終了ってこともありうる。
それだけは嫌。
鍵穴自体はイベント開始時刻を以て出現するっていうから、事前に見つけておくことが出来ない。
だから鍵穴を見つけられずに……って可能性は十分にある。
今回の参加メンバーはわたしにクロウ、クロエ、カニやん、パパしゃん、の~りん、柴さん、ムーさん、ベリンダ、ゆりりん、マコト君にぽぽ、くるくる、トール君、それにJBと恭平さんの十六名。
生産職の二人は事前に不参加を表明していたけれど、なぜかマメも不参加。
同じく不参加の年少組三人と一緒に観戦を決め込んだ。
きけばまだステータスの振り直しをしていないとか……あんた、本気で振り直す気あるの?
最初に言い出してから、もう結構経ってるわよね?
ひょっとして……ひょっとしてだけれど、どの職に転職するのかをまだ決めてないとかじゃないでしょうねっ?
「内緒でーす」
なんて言っているけれど、マメだからね、マメなのよ。
今はイベント開始まで時間がないから、詳しくは終わって……すぐは無理だけれど、片付けなんかが終わったら少し話をしましょうね。
ほんと、もう、世話が焼けるんだから……。
「小分けにするなら四人四パーティか、五人五人六人の三パーティあたり?」
提案してくるクロエの頭では、ひょっとしたらすでにメンバー割も済んでいるのかもしれない。
それはありがたいんだけれど、今回は全員一緒っていうのはどう?
鍵穴探しは手分けするとして、一番最初に見つけた人のところに集合ってことで。
ちょっと気になることがあって、火力を集中させておきたいのよね。
「気になること?」
不思議そうな顔をするみんなを代表してカニやんが訊いてくるんだけれど……だって、気にならない?
そもそもどうして運営はこんなにも 【謎の鍵】 をばら撒いたのか?
それこそ 【フェンリルの森】 がある次元に移動するためだけに必要なものならば、一人一つ持っていれば十分。
それがどこででもドロップしたから、誰でも、幾つでも入手出来た。
これには意味があって、その意味もちゃんと発表されたルールに記載されていたんだけれど……プレイヤーが集めた鍵の総数でイベントのレベルを決めました……って書いてあるの。
これってひょっとして、ラスボスと思われるフェンリルはもちろんだけれど、イベント中に出てくる敵キャラのレベル自体も含まれてない?
「凄い深読みだな」
本能だけで危険を回避する脳筋コンビの片割れムーさんには露骨に呆れられたけれど、【素敵なお茶会】 の頭脳カニやんとクロエはわたしの考えに一理ありとみてくれる。
「今回のイベントはPKありだが、フェンリル撃破が目的。
ポイント制じゃないから、フェンリルに辿り着かなきゃそもそも意味がないわけだし」
「確かにそうだね。
一応別行動用の班作りをしておいて、同じ鍵を使って森に入る。
マップが有効なら、別行動をしてフェンリルを探すって方法も使える」
マップや各プレイヤーの位置情報なんかは、実際にイベントエリアに入ってみなければわからないけれど、そもそも運営が設定した今回のイベントレベルっていうのがどの程度なのか?
出現が予想される雑魚でも倒して量ってみたい。
別行動をとるのなら、それを参考に人数を割ったほうがいいんじゃない?
もちろん速やかに分けられるよう、先に決めておいてね。
どうせわたしが意見したって聞いてくれないんでしょ。
いつもいつもパーティ分けの時は無視されるんだから!
「そういじけないでよ」
「ちゃんとグレイさんとクロウさんは一緒にしてるじゃない。
なに怒ってるのさ?」
カニやんはともかく、クロエには話が通じてない!
うん、だからいつも無視されるのね……不本意だけれど、理由はわかった気がする。
あまり時間に余裕もないからと早速班分けが行われ……ほら、やっぱりすでに二人の頭の中じゃ班分けが出来てるんだから!
あとは装備の耐久や、ハルさんから送られたポーションがポストに届いていることを確認。
そんなことをしているうちに時間が過ぎ、やってきたイベント開始時刻。
『いつも 【the edge of twilight online】 をご利用いただき、誠にありがとうございます』
いつもの挨拶から始まる運営の音声インフォメーションが、イベント開始を告知。
終わった直後に鳴り響く……今回は狼の遠吠えってこと、これ?
いつもはサイレンなのに、今回は遠くで犬が高く長く吠える。
たぶんこれが開始の合図よね。
そんなことを考えていたら、みんなが、鍵穴の捜索に出るためにほぼ一斉に立ち上がる。
混雑するから一番最後に出ようと思ったわたしは、何気なく、まだ閉じられたままのギルドルームの扉を見て違和感に気付く。
「グレイ、どうした?」
クロウが、捜索に行かないのかと声を掛けてくれるんだけれど……けれど…………
「ねぇクロウ、あの扉に鍵穴ってあったかしら?」