92 ギルドマスターは独占します
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
運営が新しいスキルをくれるって言うんだけれど、もらってみたらまた範囲魔法!
わたしが欲しいのは単体魔法だって、もう何度も言ってるのに取得出来るのはなぜか、悲しいくらい範囲魔法ばかり。
同じ魔法使いのカニやんがいうには
『そもそも範囲魔法のほうが多いんだよな』
そうなの?
『みたいだな。
火属性と氷水属性でいえば圧倒的に火属性が多いし、雷撃や風属性なんて微々たるもんだろ?』
その代表格が避雷針でありスパイラルウィンド。
わたしはその両方を取得出来ていて、カニやんはスパイラルウィンドのみ。
ギルドにもう一人いる魔法使いのの~りんは、まだどちらも取得レベルにはいたっていない。
かまいたちはまだ試作段階だったのか、カニやんの話では攻略wikiにも載っていないらしい。
火焔魔人スルトの固有スキル 【サラマンダー】 といい、未実装と思われるスキルを惜しげもなくくれるのは嬉しいんだけれど、取得経緯が崖から落とされたり切り刻まれたり……結構酷い目に遭わされてるのよね。
おかげで新しいスキルを探しに行く時間もなかったし……時間が潰れちゃったことを考えれば、スキルを二つ、しかも目的の単体じゃない魔法をもらっても嬉しさ半減。
『また我が儘を……』
『グレイさんって贅沢だよな』
カニやんには呆れられ、の~りんには羨ましがられる。
『そもそもあの巨人といい、怪鳥といい、なに?』
うん? そうよね、どちらも不具合であったとしても、巨人なんてダンジョンとしては機能していたわけだし……脱出後の転送位置がアレだったけれど……つまりダンジョンとしての不具合ではなかったのにすぐ封鎖。
早すぎるくらいの事象の確認といい、対応の乱暴さといい、不具合というより運営にとって予期せぬ事態だった、そんな感じ。
例えば追加するべき本来の要素ではないものを実装してしまったとか、そんな不測の事態というか……でもそれって、明らかな間違いよね?
事前に確認していれば防げるような、とっても単純な間違い。
でもあの怪鳥はなに?
元々樹海には多くの鳥が飛んでいて、それほどアクティブではないけれど、上空から樹海を彷徨っているプレイヤーを狙ってくる。
あの日もクロエたち三人の銃士たちは、その鳥を撃って遠距離射撃の練習をしていたんだけれど、あの怪鳥は今後追加される予定だった要素ってこと?
『樹海はエリアダンジョンのくせに攻略対象はいないからな。
追加要素としてはありかもしれないけれど、あれはどうなんだ?』
『あれさ、スザクのバグじゃないかって噂があるんだけど、知ってる?』
の~りんが聞いた噂では、インスタンスダンジョン富士・火口での不具合が影響し、樹海がPKエリアになり、ダンジョンからスザクが出てきた……って、なによ、それ?
思いっきり首を傾げるわたしに、カニやんも同じような反応を見せる。
『そんな、現実世界ならあり得るかもしれないが、VRだぞ。
データの破損でそんな現象が起こるのか?』
うん、わたしなんかよりずっと現実的且つ論理的な解釈ね。
現実世界にはもう怪獣も恐竜もいないからその点では非現実的だけれど、物凄い敗北感もあるけれど、ここは冷静に受け止めましょう。
でもの~りんが聞いた噂も、一部のプレイヤーたちのあいだでまことしやかに囁かれているのも事実。
全プレイヤー数から見たら実物を見た数は少ないだろうから、余計に噂が噂を呼んでいるのかもしれない。
一部のプレイヤーたちは、アカウント停止処分を恐れてビクビクしてるんだろうけれど……。
『それもまだわからないな。
このあいだグレイさんを真似て問い合わせてみたけど、返事は 【現在調査中】 って無茶苦茶素っ気なかった』
わたしを真似てっていうのは余計なんだけれど、まぁカニやんも気になるわよね。
別行動だったけど、クロエに聞いたら、カニやんも結構な人数をPKしてるっていってたし。
あの日の~りんがログインしていなかったのは、二回目の臨時メンテナンスを行うため、運営はまず公式サイトを使ってログインしようとするユーザーを停止。
それからログイン中のプレイヤーのログアウトを促したわけだけれど、の~りんは止められたユーザー。
後で話を聞いたら、ちょうどログインしようと思ってセットしている最中に公式での告知が出たらしい。
「まあ結果として、ログインしなくて良かったわけだけど」
そうね……って、あれ? 急にの~りんの声がインカムじゃなくてエリアチャットに?
なんで? って思ったら、ナゴヤドームとナゴヤジョーへと続く道の途中での~りんを含むメンバーの何人かが集まって顔をつきあわせていて、そこをわたしたちが偶然通りかかったっていうね。
「グレイさん、クロウさん、来たんだ」
ちょっと拍子抜けしたような顔をするの~りんに、一応訂正しておく。
わざわざ来たわけではなく、通りかかっただけって。
「何してるの、こんなところで」
顔を揃えていたのはカニやんとの~りん、それにトール君、柴さん、ムーさん、JBに恭平さんの七人。
まあようするに 【素敵なお茶会】 の厳ついところが顔を揃えていたって感じ。
「え? 俺も厳つい?」
の~りん、その質問をトール君にするのはやめてあげて。
他のメンバーならナイスな切り返しをしてくれるんだろうけれど、トール君には難易度が高いから。
物凄く困ってるから。
「いや、カニがトールの装備のことで相談したいっていうから」
そう答えてくれたのは柴さん。
それぞれでダンジョンに潜っていたところをカニやんに呼びかけられ、最初はナゴヤジョーダンジョン前ロビー……っていっても本当にロビーがあるわけじゃなくて、プレイヤーたちがそう呼んでいるだけの少し開けた場所。
そこから各種プレートを使ってダンジョンを生成、転送され、攻略後もまたそこに転送されて戻ってくる。
つまり結構人の行き来が多い場所で、邪魔にならないようにと避けて、避けて、また避けて……と移動しているうちにこんなところまで来てしまったらしい。
結構な移動距離よね、これって。
【素敵なお茶会】 はランカー揃いで結構顔が知られているし、こんなに人数が揃っていると凄く目立つと思う。
恭平さんはギルドに入ってまだ間もないし、転職したのもごく最近だからともかく、の~りんはランカーっていうほど有名なプレイヤーじゃないけれど、うちのメンバーとしては結構な古参。
トール君は第一回イベントでノギさんに斬りつけるなんて、派手なことをしちゃったからね、それなりに有名になっている。
今後も他のプレイヤーの邪魔をしない配慮は忘れないでね。
ところでカニやんの相談って?
「グレイさんには前に話しただろ、トール君は大斧に振り回されてるって」
そういえば前にフチョウに行った時だっけ?
トール君とぽぽのエピソードクエストの時、そんな話をした記憶があるわ。
ついさっきまで二人きりでシャチ銅に潜っていたカニやんが、改めてトール君とそのことを話して、じゃあどうするかってことになって、剣士の先輩たちに話を聞いてみようってことになったらしい。
で、このメンバーが揃ったわけだけど、の~りんがいるのは、偶然通りかかっただけっていうね。
「一回足止めたら立ち去りにくくなっちゃって、そうしたらグレイさんから話しかけられて……」
で、そのままここに居続けていると。
「うん。
だって俺、ここにいても全然役に立たないじゃん。
武器なんて持たないし」
それこそ知識も経験もなく、アドバイスの一つも出来るわけじゃない……と、苦笑いを浮かべる。
わたしも武器とは縁がないし、ここにいても仕方ないわよね。
じゃあの~りん、一緒にシャチ銀にでも潜る?
言い出しっぺのカニやんは仕方ないけれど、わたしたちは用なしだもんね……って思って行きかけたら、なぜかクロウに襟首を掴まれてここに留まらされるっていうね。
「なんなのよ、クロウ?
だってわたしたち、ここにいたって仕方がないじゃない」
武器なんて使わないんだしって口を尖らせて抗議したら、柴さんとムーさんに言い返される。
「よく言うぜ、大鎌で首狩りしてるくせに」
「このあいだは屍鬼使ってたじゃねぇか」
ちょっと柴さん、人を首狩り魔みたいな言い方しないでくれる?
あれは本来対魔法使い対策で、ノギさんたちに使ったのは苦肉の策。
屍鬼だって、地下闘技場のシステムを知らなくて丸腰だったからでしょ。
二人とも、状況も理由も知ってるくせに!
「そういえば屍鬼って……」
声を張り上げて二人に言い返すわたしをよそに、何かを思いついたようなトール君の言葉。
何気なく振り返ってみればトール君と目が合う。
「屍鬼がどうかした?」
「あれはどうなんですか?」
屍鬼がどうしたの?
わたしは話の途中で割り込んだものだから唐突に思えたんだけれど、それまで話していた柴さんたちはトール君のこの提案の意味がわかるらしく、ちょっと思案顔を見合わせる。
「いや、あれはちょっとな」
「確か固有スキルを持ってるから、使いこなせりゃ面白いだろうが……」
「俺、見たことないっす。
屍鬼ってなんすか?」
「wikiには載っていたけれど、一般販売されてないんじゃなかったっけ?」
JBには恭平さんの勤勉さを見習ってもらうとして、その恭平さんもその程度の知識しか持っていないのは仕方がない。
だってクロウは普段、大剣・砂鉄を愛用してるもんね。
もう一本の屍鬼は 【特許庁】 のメンバー不破さんの愛刀になっているけれど、攻略wikiには所有者までは書かれてない。
でもJBも地下闘技場に出入りしているのなら、それが屍鬼だとは気づかないうちに見ているとは思うけれど。
屍鬼の所在を知る脳筋剣士二人は歯切れ悪く、困惑気味の顔でクロウを見る。
その横では恭平さんが、屍鬼についてJBに説明する。
「へぇ、長剣ってどれくらい長いんすか?」
「いや、剣じゃなくて刀。
あれ、片刃だから」
「それに普通じゃ抜けないし、扱いがなぁ……」
どうにも歯切れの悪い二人にJBも恭平さんも不思議そうな顔をしているけれど、クロウを見ていた脳筋コンビの視線が、なぜかこちらを向く。
うん? わたしからクロウに、屍鬼を出してもらうようお願いする?
別にいいけど……って思っていたら、クロウがウィンドウを開いてインベントリから屍鬼を取り出す。
鞘に収まったままでもその刀身の長さと細さがよくわかる屍鬼を、初めて見る恭平さんとJBは感嘆の声を上げる。
その屍鬼をクロウがトール君に差し出すのを見て、思わずその腕にしがみついちゃった。
ごめん、でも……
「クロウ、屍鬼、あげちゃうの?」
わかってる、屍鬼はクロウの物だから譲渡はクロウの意志で決定する。
でも……もったいないとかそんなんじゃなくて、その、なんて言えばいいのかわからないんだけれど……とにかく、屍鬼がクロウの物でなくなるのが嫌だと思った。
だからつい、とっさにこんなことをしちゃったんだけど……
「欲しいのか?」
そうじゃなぁーい!!
そうじゃないんだけど、自分の行動を上手く説明出来ないわたしはクロウの腕にしがみついたまま、冷や汗が止まらない。
もう汗染みがやばいレベルで止まらないんだけど、どうしよ……。
「欲しいならやる。
少し待ってろ」
だからそうじゃないんだってば。
屍鬼はクロウに持っていて欲しいの。
もう、どうしてわかんないのよーっ!! ……って、自分でもそれを上手く説明出来ないんだから、クロウにわかるはずがないわよね。
クロウにわからないんだから他のメンバーにだって絶対わからない。
わからないのはもう仕方ないけれど、でもだからって……
「これはあれか?
クロウさんの物は女王の物ってやつ?」
「いや、そんなん前からだろ?」
「クロウさんのインベントリ、半分グレイさんの物だしな」
ちょっと三人とも、わたしのことをジャイ○ンみたいに言わないでよ!!




