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ギルドマスターは今日もギルドを運営します! ~今日のお仕事はなんですか?  作者: 藤瀬京祥


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91 ギルドマスターは精神年齢三歳です

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

 今、インカムから聞こえてくる話題の中心は 「運営の小林」 なる人物。

 わたしには、誰よそれ? って感じなんだけど、カニやんの話によれば昨日、二回目の臨時メンテナンスが行われる前に入った運営の音声インフォメーション。

 その中で運営の人がいっていたらしい。

 あれって合成音声でAIが喋ってるんじゃないの?

 わたしはずっとそう思っていたし、そんな細かいところまで聴いていなかったんだけれど、いつもの挨拶(テンプレ) 『【the edge of twilite online】 をご利用いただき誠にありがとうございます』 の後で名乗っていたらしい。

 でも、言われてみれば地下闘技場で実況をしているあれも、AIにしてはずいぶん臨機応変が効いていてNPCとは思えなかったっけ。

 意外に 【中の人】 はAIじゃなくて本当に運営だったりして。

 でもそういう時ってだいたいHN(ハンドルネーム)とか使ってて、小林なんて本名みたいな名前じゃないわよね。

 なんなの、その 「運営の小林」 って?

 ひょっとしていつもイベント最後に登場するあのクマも名前があるとか?

 表彰式とかでマイク握っている、あのファンシー要素なのかファンタジー要素なのか、微妙なデザインのクマ。


『ありそうですね』


 わたしの突っ込みに穏やかに応えてくれるハルさんの声はインカムから聞こえてくるんだけれど、実は隣の部屋にいるの。

 今わたしはギルドルームにいるんだけれど、ハルさんは自分でギルドルーム購入券を課金して、ギルドルームの続き間にして作業部屋を作った。

 もちろんそれが出来るのは主催者(わたし)だけだから頼まれてそうしたんだけれど、扉一枚隔てたその部屋は休憩室と反対側にあって、ギルドルームだから誰でも入れるんだけれど、みんなとちゃんと話してそこをハルさん専用の作業場兼保存庫に。

 ハルさんの許可なく入るのは禁止ってことになっていて、今もハルさんはそこにいる。

 何をしているのかは知らないけれど、手伝えることがあればするけど? って声を掛けたんだけれど、今は大丈夫です、だって。

 で、クロウにいわれるまま、わたしはギルドルームで大人しくしている。

 ちゃんと言いつけを守って大人しく待っていたんだからご褒美を頂戴ね。

 対戦を終えて戻ってきたクロウに、冗談めかしておねだりしてみたら……


「なにがいい?」


 ……………………え? ……えっ?! ご褒美、くれるのっ?

 嬉しくって小躍りしながら何度も確認してしまうわたしに、クロウは少し苦笑い。


「無理なものでなければな」


 ……じゃ、じゃあお願いしてみよう、かな?

 大丈夫、全然高いものじゃないし、難しいことでもないし……たぶん。

 うん、大丈夫。

 たぶん、クロウにはなんでもないことだと思うから。

 でもわたしにはちょっとハードルが高くて、お願いするのにも勇気がいるんだけれど……うん、よし、ここなら誰も見ていな…………いやいやいや、隣の部屋にハルさんがいる!


 気づいて良かった……


 危うくまた深い穴が必要になるところだったんだけれど……ここはギルドルームだから掘れないのはわかってるけれど、でもわたしには必需品なのよ。

 この先幾つの墓穴が必要になるかわからないわたしに、ハルさんは穏やかに言ってくれる。


『俺のことなら気にしなくていいですよ』


 気にする!!

 どこをどうしたら気にせずにいられるのよっ?

 わたしは、心臓に剛毛をボーボーと生やしているクロエとは違うんだから。

 自分で言うのもなんだけれど、小心者なの。

 それこそどうしようもないくらいのね。

 そんなところで聴かれてるってわかっていたら絶対無理。

 恥ずかしくて言えない。

 ただひたすらに苦笑を浮かべているクロウを……う、ごめんね、対戦が終わったばっかりで疲れてるかもしれないけど。

 少し休みたかったかもしれないクロウを、なにも言わないのをいいことに強引に外に連れ出す。

 ドアが閉まる音で気づいたらしいハルさんには、最後までからかわれたけれど。


『お出掛け?

 ほんと、俺には気を遣わなくていいのに』


 だから無理だってば。

 絶対ハルさんってばわかっていて言っているんだから。


『遊ぶんならナゴヤジョーでも来る?

 こっち、トール君と双子がいるけど……あ、人数が余るか』


 なんだ、珍しくトール君と組んでカニやんがシャチ銅に潜ってると思ったら双子のお守だったのね。

 …………あ、あとでね。

 クロウにご褒美もらったら合流しようかな?


「決まらないなら、またあとにしたらどうだ?」


 この後の予定を考えるわたしの様子を勘違いしたクロウに、危うくお預けを食らいそうになる。

 だめだめ、いま頂戴。

 躾のなっていないワンコは待てが出来ないの。

 末っ子で甘やかされてきたわたしは、お預けが出来ないの。

 自分の好きなものは一番最初に食べるタイプです、全然関係ないけど……。

 クロウは約束を忘れたりはしないんだろうけれど、わたしが忘れるのよ。

 そうしたらクロウのことだから、次にわたしがおねだりするまで言い出してくれないと思う。

 永久に忘れたままだったらどうするのよ?

 どんだけもったいないことするつもり、わたし!

 今、今もらわないと……ああ、でも恥ずかしい。


「面白い百面相だな」


 お、お願いだから、人が勇気を出して言おうとしてるときに茶化すのはやめて。

 よし、言う…………………………言う。


「あ、あのね」

「ん?」

「あ……頭、撫でてもらって、いい?」


 ………………ん? なに、この沈黙?

 今の今までみんな、それこそ好き勝手喋っていて、その声がインカムから聞こえていたんだけれど、急に静まりかえっちゃった。

 わたし、またやっちゃった?

 なにかまずいことしたっ?

 ねぇ誰か……いやいやいや、誰かに訊いちゃダメだった。

 どうしていいかわからなくて、とりあえずすぐそこに立っているクロウを上目遣いに見上げようとしたら、一瞬先に誰かがインカムで吹き出した。


『なにを言い出すかと思ったら……あんた、どこまで喪っ?』

『ちょ……なに、この可愛い生き物っ?』

『尊すぎて眩しい!』

『尊い! 神々しいほど尊い!!』

『親父どもは心身ともに汚れきってるからな』

『え? 俺、○貞っす』

『嘘つけ、このクソが!』

『クソが!』

『マメも童○』

『絶対嘘だろ、マメ!!』

『そもそもテメーは女だろうがっ!』

『それを信じる奴はいねぇー!』


 …………マメが自爆して集中砲火を浴びるのはいい。

 うん、どんどんみんな浴びせてあげて。

 集中砲火を浴びせて細胞の一片も残さず溶かし、て…………て、どこから聞いてたわけ?

 ちょっと待って、この声って、キンキーとラウラも入ってないっ?

 どの声かは言えない……っていうかわたしのか細い神経を守るために言いたくないんだけれど、トール君の声がすっごく控えめに


「二人とも、大人の世界に入っちゃダメだよ」


 とか言ってる。

 なんでこうなるのっ?

 わたしがクロウに頭撫でてもらうだけなのに、この騒ぎはなに?

 せっかく頑張って勇気を出しておねだりしたのに、この言いたい放題はなに?

 うん、でもトール君、全然大人の世界じゃないけどね。

 JBとマメの○貞説は嘘だろうけれど、トール君はそうかもね…………ってわたしってば、なに言ってるのよーっ!!

 とりあえずどこかに穴、開いてない?

 もうね、地球の裏側まで届くくらい深い穴が欲しい。

 あ、でもそうしたら反対側から出ちゃうわ。

 出ないように、埋め戻しは裏側からもしてもらうってことで、お願い、誰か、わたしを地中深くに埋めて……もう嫌だぁ……。


「なにをごちゃごちゃ言ってるんだ?

 泣くことじゃないだろう。

 これでいいのか?」


 クロウってば、安定の冷静さ。

 それでも少し笑いながら大きな手で頭を撫でてくれる。

 も、嬉しすぎて死にそう……


『精神年齢三歳児』


 わたしの気が済むまでクロウは撫でていてくれて、わたしはもう死にそうなくらい嬉しかったんだけれど、それとこれとは別問題。

 その言葉は絶対に忘れないからね、カニやん!

 さりげなく 『しまった』 って呟いたところまで聞いていたから。


「そういうところは普通に女の人だよな」


 頭のてっぺんから足のつま先まで普通の人ですけど?


「いや、全然普通じゃないし」


 どこがっ?


「だから全部が」


 そういうカニやんこそ……カニやんて、彼女とか、二人とか三人とか四人とか……もっといそうよね。


「なに、それ?

 俺、そんなにモテそう?」


 モテそうな感じがする。

 うん、おべっかとかそんなんじゃなくて、普通にそんな感じがする。

 しかも頭良いし、器用だから絶対バレなさそうだし、修羅場とかにはならない感じ。


「いいね、それ。

 そういう人生も楽しそう。

 でも俺、結婚してるし」


 え? ええっ? ……なんか今、サラッと凄い個人情報が出たような気がする。

 カニやんてば、結婚してたの?

 妻帯者なの?

 ちょっと前のめりに食いついてしまったわたしに、カニやんはいつものようににひって笑うの。


「そ、だから奥さん一筋……って嘘だけどな」


 カニやんの奥さんってどんな、ひ、と……って嘘?

 嘘なのっ?

 え? でもちょっと待って、その 「嘘」 はどこに掛かってるの?

 奥さん一筋が嘘ってこと?

 つまり浮気性ってこと?

 ほんとの本当に奥さん以外に愛じ……ゲフゲフ……ダメよダメ、わたしってば何を言ってるの!

 これはトール君やキンキー、ラウラだって聞いてるんだから、教育上よろしくない言葉は使っちゃダメ。

 えっと、だから、奥さんがいるのに、別に彼女がいるってこと?

 頑張って言葉を選んでみたら……


「なんかグレイさんの中の俺の印象って、ノーキーさん並みにクズだな。

 俺、そんなにモテそうに見える?

 そんなクズに見える?」


 怒ってるわけじゃないからホッとしたんだけれど、完全に呆れられちゃった。

 わたしも確かに言いすぎたけど、騙そうとしたカニやんも悪いんじゃない。


「面白そうだと思って、つい」


 つまり、あくまでわたしの精神年齢は三歳児だっていいたいわけね。

 ちなみにモテそうに見えます。

 実際に結構格好いいです。

 でもクズに見えるかといえば……ノーキーさんを想像すると見えない、かな?


「それはどうも。

 安心した。

 正解は結婚してません、お気楽な独り身です」


 なんだ、残念。

 カニやんの奥さんなら、凄い綺麗な人じゃないかと思ったのに……


「それはそれはどうも。

 だいたいグレイさんが気にするなら、俺じゃなくてあっちでしょ」


 あっちってどっちかと思ったら、カニやんが面倒臭そうに杖で指し示すのは、わたしたちの前を歩くクロウの背中。

 前衛だから、後衛のわたしたちより少し前を歩いているのは当然なんだけれど、わたしたちの話も聞こえているはずなんだけれど、ちーっとも反応せず。

 今もインカムから聞こえる柴さんたちの 『騙されてやんの』 とかいう余計な突っ込みを一緒にされるとウザいけれど、ウンともスンとも言わないのはクロウよね。

 で、クロウの何をわたしが気にするの?

 首を傾げるわたしを見て、カニやんてばわざとらしいくらい大きな溜息を吐くの。

 なによ、それ?


「いや、さすがグレイさんだなと思って。

 ちなみに、まだ耳まで真っ赤。

 頭撫でてもらったぐらいで、どんだけ嬉しいの?」


 う、うるさいんですけど……。


「で、俺をご指名した理由は?」


 さっきまでトール君たちとシャチ銅に潜っていたカニやんを、わざわざ指名してこちらのパーティに入ってもらったのにはわたしなりの目的があってのこと。

 もちろんあの余計な、漢字ばかりを使った余計な一言に対する復讐とかじゃなくてね。

 じつはさっきから、視界の隅で何かがチカチカしてるのよ。

 でも聞けばクロウにはそんなものは見えないっていうの。

 これ何かのお知らせみたいなものだと思うんだけれど、カニやんだったらわかるかと思って呼んでみたら、わざわざパーティに来てもらうまでもなく三秒で解決した。


「それさ、読み忘れてるメッセージがあるんじゃないの?」


 もちろんカニやんにもそんなものは見えていないっていうの。

 いわれてメッセージボックスを確認してみたら、本当にもう一通、未読のお知らせがあった。


information 新しいスキルを取得しました


 うん、どうしてこのタイミング?

 そもそもスキルを取得するようなことは何もしてないと思うんだけど?

 今日はログインしてからほとんど何もしてないっていうか、その……雑用? しかしてないんだけど……今もほとんどクロウが落としちゃうから、わたしとカニやんのところまでは金魚の一匹、二匹くらいしかおこぼれも来ないし……とりあえず(スキル)をくれるみたいだからウィンドウを開いて確かめてみたんだけれど


「なに、この 【かまいたち】 って?」

「あーそれな、なんか知らんけど俺も取得してる。

 さっき銅シャチで使ってみたけど、燃費悪すぎ」


 クロウとカニやんの協力を得て、着いたボス部屋で早速銀シャチに使ってみたんだけれど、スキル自体はあれ。

 あの怪鳥が使っていた、翼の起こす風と風をぶつけて(やいば)に変えるあの切り裂き(スキル)

 もちろん怪鳥が使うほどの威力はないけれど……たいていこの手の(スキル)は、プレイヤーが取得出来るのは威力を落としたミニチュア版で、このかまいたちも漏れなくそれ。

 それでも結構な威力があるんだけれど、カニやんの話どおり凄く燃費が悪い。

 避雷針並みに強力なんだけど、避雷針並みにごっそりMPを持って行かれるの。

 しかもわざわざウィンドウを出して確かめたら、再起動準備(クールタイム)も避雷針並みに長いって……使えない。


「実戦じゃ俺は使えないな。

 一撃でこれだけ持って行かれたら、すぐMP切れ(息切れ)する」


 パーティを組んでの攻略なら場面によっては使えなくもないんだろうけれど、単身では迂闊に使えないかな。

 凄く使うタイミングを選ぶ(スキル)だと思う。

 しかもまた範囲魔法……わたしが欲しいのは単体魔法だって、もう何度も言ってるのに……。

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