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ギルドマスターは今日もギルドを運営します! ~今日のお仕事はなんですか?  作者: 藤瀬京祥


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84 ギルドマスターはSOSを受けます

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

「四時間とか、半端すぎ」


 突然の臨時メンテナンス終了後、少し遅れてログインしてきたカニやんはその四時間のあいだに本を読んでいたらしい。

 もうすぐ読み終わるところだったから、読み終えてからログインしたらちょっと遅くなっちゃったっていうね。

 わたしが兄を財布にして買い物に行っていたことを話すと……


『凄いなグレイさん。

 VR(ここ)じゃクロウさんを財布にして、現実(リアル)じゃ兄貴が財布かよ。

 この美人はどんだけ貢がれてんの?』


 違うわよ、兄の財布が欲しかったんじゃなくて車を出して欲しかったの。

 今日は父が出張でいないし、母も出掛ける約束があるっていうし、でもわたしは免許を持っていないから。

 ほんと、人聞きが悪いんだから。

 結局わたしが部屋に籠もってログインをしたあと、追い出された兄の泰輝(たいき)は下のリビングでお茶を飲み、出掛ける母を送ってそのまま帰ったらしい。

 もう少しいたら、お見送りぐらいしてあげたんだけどね。


『せっかくの休みに寝ていたところを妹に電話で叩き起こされて運転手(あし)にされるとか、不幸な兄貴だな』


 余計なお世話です。


『ところで鍵の意味、わかった?』

「うん、ドロップした」


 ベリンダにいわれた鍵がなんなのか、まず現物を見ようと思ってシャチ銀に潜ったらドロップに混じって確かに鍵がある。

 いつものようにドロップは自動取得にしていたから、ダンジョンをクリアしたあと、外に出てからインベントリに入っている鍵を確認した。

 ステータスを確認したら……


「【謎の鍵】?

 なにこれ、そのままじゃない」

『それ、シャチ銅でもドロップします』

『エリアの雑魚キャラも確率で落とすわ』


 わたしの呟きに、ラウラ、ベリンダと続く。

 ラウラはキンキーと一緒にシャチ銅に潜っていて、さっきまでシャチ銀に潜っていたベリンダは、その鍵のドロップを検証するためにナゴヤジョーを出たみたい。

 今はナゴヤジョーとドームのあいだあたりで適当に雑魚を狩ってるって。

 鍵に種類はないみたいで、譲渡は不可ってことだから売れないわね。

 しかも廃棄も不可と来た。


『グレイさん、その鍵、よく見たらインベントリの数に含まれてないんですけど……』


 確かにトール君の言うとおり、インベントリには入っているけれど格納数にはカウントされていない。

 さらにはインベントリから取り出すことが出来ないって……ほんと、なに?

 鍵なんだから解錠、あるいは施錠するための物だと思うのに、取り出せないなら使うことも出来ないとか。

 こんな物でなにをするの?


『さっきの臨時メンテナンスでぶっ込んできたのが、この鍵って可能性は高いよな』


 さすが、カニやん。

 確かにメンテナンス前にはなかった要素だけど、臨時メンテナンスのついでだったのか、それともこの要素の追加が目的の臨時メンテナンスだったのか。

 わからないけれど、いずれにしてもずいぶん急よね。

 要素の追加は普通、毎週決まった曜日に行われる定期メンテナンスの時に行うもの。

 やり方に無理があるような気もする。

 うーん……ん?


「ねぇクロエが静かね。

 いるんでしょ?」

『はい、ログインしていました』


 トール君が、いつもの賑やかなクロエの挨拶をきいたって。

 だったら鍵のことを知らないとは思えないんだけれど、この会話に入ってこないことに違和感がある。

 意味がわからないまま鍵集めをするためシャチ金に潜っている脳筋連中も、クロエとくるくる、ぽぽの三人が樹海に行く相談をしているのをきいたって。

 クロエのことだから、ステータスにもこれだけしか書かれていないってことは考えても無駄とでも思ったのかな。

 確かにそれはそうなんだけど……


『なんかですねー』


 不意に割り込んでくるのはマメの声。

 休憩ついでにナゴヤドーム内のバザーを、いわゆるウィンドウショッピングをしていた彼女がいうには、公式サイトに告知(アナウンス)が出ているらしい。


『次のイベントに関係があるアイテムらしいでーす。

 でもそれ以上は書いてません!』

「集めたほうがいいの?」

『それも書いてませんねー』


 たいして意味のない告知(アナウンス)ね。

 一応ウィンドウを開いて公式サイトを自分の目で確かめてみたけれど、マメの話どおり、ほとんど内容のない告知(アナウンス)が、ずいぶんと小さくこっそりと出されている。

 イベント関連の告知(アナウンス)ならもっと大々的に出せばいいのに……。


『さっきの臨時メンテナンスといい、このひっそりこっそり具合といい、変な感じだよな』


 やっぱりカニやんもそう思うわよね。

 考え込もうとしたわたしの耳に、ようやくクロエが話しかけてきた。


『グレイさん、聞こえる?』

「うん、聞こえるわよ。

 どうかした?」


 わざわざ直通会話を使ってくるってことは、鍵関連の話じゃないってことかな?

 鍵のことならギルドチャットに混じって、みんなで検討したほうがいいと思うんだけど……ん?

 なに、この妙な間は?


「ねぇクロエ、どうしたの?」


 やっぱり妙な沈黙が続いて、いつものクロエとはちょっと違う声が聞こえてくる。


『頼みがあるんだ、すぐに樹海まで来て欲しい。

 樹海がPKエリアになっていて、とち狂った脳筋馬鹿野郎たちがプレイヤー狩りを始めた。

 僕とくるくるは今のところ無事だけど、ぽぽが危ない。

 僕らだけじゃ脱出は難しいと思う。

 助けて欲しい』


 どういうことっ?

 途中で何度か入れたわたしの問い掛けを無視し、一方的に喋ったクロエは、このあと何度呼びかけても答えてくれない。


「クロエってば、返事をして!

 PKって……どういうこと?」

「グレイ、どうした?」

『グレイさん、どうしたの?』

『グレイさん?』


 クロウに続いてカニやん、それに他のメンバーたちがわたしに呼びかけてくる。


「クロエから直通会話が入ったんだけど、様子が変なの。

 樹海がPKエリアになって、プレイヤー狩りが始まってるって」


 脳筋ってことは、プレイヤー狩りをしているのは剣士(アタッカー)ってことよね。

 ただでさえ射線が通らない樹海は銃士(ガンナー)にとって不利なのに、複数の剣士(アタッカー)に狙われたらもっと厳しくなる。

 しかもクロエがSOSを出してきたってことは、樹海内にはかなりの混乱が生じてるのかもしれない。

 つまり危険ってことよね?

 も、もちろん剣士(アタッカー)がみんな脳筋とは思ってないわよ、うん。

 クロウとか、不破さんも頭良さそうだし、わたしの予想に反して転職(クラスチェンジ)してしまった恭平さんだって、育成の要領がよくてもうレベルに見合うくらいに腕を上げている。

 だからもう立派な火力として考えてるんだけれど……。


「……キンキー、ラウラ、まだ潜ってる?」

『いま終わったよ』

『なにかする?』

「じゃあすぐにギルドルームに戻って。

 あなたたちにも手伝って欲しいことがあるから、とりあえず戻ってハルさんと一緒に待っていてくれる?」

『わかった』

『ダッシュで戻るね』


 こんな時だけれど、素直で可愛い双子ね。

 今日はジャック君とゆりりんはお休みだから、保護が必要なのはこの二人とハルさん。

 でももちろんこの三人にも役割を担ってもらうんだけれど、まずは安全な場所への移動が優先。

 ついでにマメも。


「マメはギルドルームから公式サイトをチェックして、運営の動きを教えて。

 状況によってはまたメンテが入るかも知れない」

『りょーかーい!

 マメもダッシュで戻ります!』


 残る戦闘職全員で樹海に向かうつもりだったわたしに、JBが声を掛けてくる。


『ギルマス、トール君とベリンダさんは残ったほうがよくないすか?』


 もちろん意地悪とかそういうのじゃなくて、火力的な問題。

 JBの声は凄く遠慮がちで、二人を心配しているのがわかる。

 わたしもそれはわかってるし、二人には悪いけれど、火力を期待して連れて行くわけじゃないの。

 もちろん危険がないわけじゃないけれど……ううん、状況によってはかなり危険かもしれないけれど、それでもやって欲しいことがある。


『もちろん行くわよ』

『俺も行きます』

『大丈夫かよ?』

『おいおい、無理すんなよ』

『あのさ! おチビ連中に仕事があるのに、あたしらはなしなわけっ?』


 柴さんやムーさんも心配してるみたいだけれど、気の強いベリンダの口撃に気迫負け。

 なんだかんだいって、わざと負けてくれるところが優しいのよね。

 特にこの二人は、女の子や歳下に弱い。


『結構なプレイヤーのあいだで話題になっているみたいだが、まだ詳しいことを知ってる奴はいないみたいだな』


 わたしたちも関東エリア方面に向かって早足に移動しているあいだ、何人かのプレイヤーとすれ違ったんけど、そのうちの何人かに話しかけてみたカニやんの手応えでは、噂だけは凄い勢いで広がっているけれど、詳細はみんな、まだ知らないって感じ。

 マメにきいてみても、すでに話題(トピ)は立てられていて凄い勢いでスレも伸びている。

 でも 「kwsk」 とか 「調査に行ってくる」 的な書き込みは沢山あるのに、その具体的な内容を書いたレスは一つも上がらない。


『乞うご期待! とか煽り文句書きやがったこいつも全然レスしません!

 マメはこいつを信じたのに!』


 そ、そう、わかった。

 引き続きサイトの巡回よろしく。

 でも勝手に信じて勝手に裏切られたって思って、勝手に復讐に走るパターンはなしで。

 どこの誰かは知らないけれど、その人も今は大変な状況になってるかもしれないんだから。


「状況を整理するわ」


 みんなに話を聞いてみたところ、いつからクロエたち銃士(ガンナー)三人と連絡がつかなくなっているのか、正確なタイミングはわからない。

 でもそれぞれのログイン挨拶はきいているから、樹海以外のエリアはもちろん、三人のインカムに問題があるわけじゃない。

 そしてマメの話。

 元々樹海は富士・火口を守るためのエリアダンジョンでマップがなく、個人の位置情報も表示されない上に方向感覚を失うなど、プレイヤーを迷わせる要素が満載。

 しかも一時間しかいられず、制限時間を越えたプレイヤーは自動的に樹海の外に放逐される。

 臨時メンテナンスが終わってからまだ30分も経っていないからこれは検証出来ないけれど、調査に行くといって樹海に入ったと思われるプレイヤーはなぜ書き込みをしないのか?

 考えられることは、単純に樹海から出られなくなった。

 この場合、クロエのことでもわかるようにチャットが外部と通じず、ウィンドウからの書き込みも出来ない。

 つまり外部に助けを求めることも出来ず、自力で脱出することも出来ない。

 もちろん自分から出てこないパターンもあり得るわけで、その場合……とても嫌な話だけれど、PKが楽しくなって夢中になっている。

 ゲームでもなければ目的もなく、ルールもない。

 第二回イベントや地下闘技場はルールがあって、斬る側も斬られる側もそれを承知で参加している。

 でもクロエのいうことが本当なら、いま、樹海ではルールも目的もなくプレイヤー狩りをしている馬鹿がいるってことよね。

 いくらゲームでも、やっていいことと悪いことがあるに決まってるじゃない。

 そもそもこの 【the edge of twilight online】 は一般エリアでのPKを奨励していないし、出来る仕様でもないんだから。

 一番最悪のパターンはPKされ、死亡状態のまま救助してもらえていない。


『樹海に入ったら出られない、そう考えたほうがいいかな?』

『可能性はあるが、最悪、ログアウトで対処出来ると思う』


 わたしの考えに同意する恭平さんに、カニやんも同意しつつ対処を考えてくれる。

 そうね、ログアウトは出来るんじゃないかな?


『ただ問題は、クロエたちがどこにいるか?

 あの広大な森を闇雲に探したって見つけられるとは思えない。

 向こうも移動してるはずだしな』

『二人一組(ツーマンセル)で行動するとか?』

『樹海内がどうなっているかわからない状態で、火力を分散させて人海戦術で探すのものなぁ』

「それなんだけど、ひょっとしたら樹海内ではチャットを使えるんじゃない?」

『根拠は?』


 根拠はクロエのSOS。

 クロエはぽぽ、くるくるの様子を知っていたけれど、一緒にいるわけじゃなさそうだった。

 それってつまり、樹海内の三人ではチャットで会話が出来ているってことじゃない?

 だからトール君とベリンダには、樹海エリアの境界に立って欲しいの。

 エリアの境界自体はマップが切り替わるからわかるし、エリアチャットはインカムを通さないから樹海の中と外でも会話が出来るはず。

 そうして樹海内とギルドルームを繋いで欲しいの。

 マメからの情報も欲しいし、場合によってはハルさんにSOSを出さなければならないかもしれない。

 ポーションはもちろんだけれど、【復活の灰】 が必要になるかもしれないから。

 しかも受け手側の人数がわたし、クロウ、カニやん、柴さん、ムーさん、JBに恭平さんと多いのよ。

 クロエたちと無事に合流出来ればさらに人数が増える。

 トール君とベリンダにも援護の必要があるかもしれないんだけれど、この二人に関しては、危険が迫るようなら避難して頂戴。

 これだけの人数をハルさん一人でフォローするのは難しいから、キンキーとラウラには、ハルさんの指示に従って必要なアイテムを必要なメンバーのポストに送って欲しい。


「出来る?」

『やります!』


 そうね、出来るか出来ないかじゃなくて、やるかやらないかよね。

 お願いするわ。

 ずいぶん大袈裟な対策をしてるって自分でも思ったけれど、実際の樹海内はもっと大変なことになっていた。

 樹海のエリア境界に残す二人は、なるべく人目につかない場所に潜んでもらってわたしたちは樹海内に入ったんだけれど、いつもは起こるはずの現象が起こらなかった。


「バラされないな」


 カニやんの言葉に、柴さんたちも大きく頷く。

 この樹海はマップが存在しない迷路で、パーティーで進入しても、必ずメンバーをバラバラの場所に飛ばす。

 でもマップが存在しないため合流が難しいだけでなく、たいていのプレイヤーは富士・火口を目指すために樹海に入るんだけれど、その火口の位置さえわからない。

 そして迷いに迷って、結局制限時間の一時間を越えて樹海から放り出される。

 その現象の一番最初が起こらない。


「どう動く?」

『その声、カニやんだよね?』


 カニやんがわたしを見て指示を仰いだ刹那、ようやくクロエの声が聞こえた。

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