82 ギルドマスターは少しだけ私生活を話します
pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!
そしてまたしても遅刻です、すいません・・・(汗
この日は朝から最悪だった。
だってせっかくの休みなのに、楽しく遊びだしたらいきなり臨時メンテナンスが入るとかあり得ない!
公式の告知によれば四時間もかかるとか、もっとあり得ない!
特に予定を入れていなかったわたしは……VRで遊ぶつもりだったから当然だけれど、思わぬところで空いた時間を潰すために兄を呼び出して買い物に出掛けたんだけれど、ちょっと可愛いワンピースを見つけたのにサイズがないとかあり得ない!
せっかくお財布がいるのに、収穫はスカート一枚にブラウス一枚だけ。
しかもどっちも通勤用とか、面白くない。
他に一枚、いいなと思ったトップスがあったのに、またしてもサイズがないとかあり得ないの連続。
帰りに入ったコーヒーショップには本当にコーヒーしかないし……。
「あーちゃん、まだコーヒー飲めないんだ」
そんなもの一生飲めなくても支障ありません。
「そりゃないけど、炭酸も飲めないし、お酒も飲めないじゃない」
お茶とお水があれば十分水分補給出来ます。
「機嫌悪いなぁ。
あのワンピース可愛かったのに、残念だったね」
そういって頭を撫でてくれる兄の泰輝をすれ違う女の子たちが振り返る。
クロウと歩いている時と違って、兄と歩いている時は女の子に妬まれることはない。
だって顔を見れば兄妹だってすぐにわかるもの。
わたしは全然男顔じゃないし、兄も全然女顔じゃないけれど、製造元が同じで原材料も同じ。
だから出来上がるのはどうしたって兄妹なのよ。
でも一八六㎝と一五八㎝っていう恨めしいほどの身長差はどうして出来るわけ?
ちなみに兄がわたしを 「あーちゃん」 と呼ぶのは、わたしの本名が藍月だから。
ずっと幼い頃からそう呼ばれていて、二十歳を過ぎた今もそう呼ばれている。
「今度は琉輝も一緒に……そうだ、アクセサリーを見に行こう。
そういえばあーちゃんが指輪とかしてるの、見たことなかったね」
「持ってないもん」
「じゃあ可愛い指輪と、お揃いのペンダントとかあればいいね。
会社にも付けていけるようなのを選んであげるよ。
琉輝にいいお店がないか、きいておいてあげる
だから機嫌を直して」
わたしは実家住まいだし、事務職にしてはお給料もいいし、家に食費と光熱費を入れるだけだから別にお金に困っているわけじゃない。
だから本当は兄たちを財布にする必要はないの。
比べて兄たちは家を出て一人暮らし。
なにかとお金が掛かるんじゃないかと思うんだけれど、いわゆる超ハイスペックなのよ、うちの家族って。
みんな顔もいいし背も高い、わたし以外は。
大学もいいところを出ていて、いい会社に勤めていて仕事も出来る、わたし以外は。
だから凄くお給料がよくて、でも自身は贅沢とかには興味がなくて、両親なんてすでに老後資金の用意をほとんど終えていて、計画まで立てていて、子どもたちは世話をしなくてもいいっていってる。
兄たちは、貯金はちゃんとしてるから大丈夫って、わざわざ通帳を見せてまで妹のわたしに貢いでくる。
仕事が忙しいから会えるのも月に一回あるかないかだし、で、結局ついつい甘えちゃうのよね。
おかげでお金を使うことがないから貯金が貯まるばかり。
まだ社会人二年目だから知れてはいるけれど、どうせ彼氏もいないし、結婚の予定なんて…………あ~……落ち込んできた……。
昨日も会社の人に、将来有望株のアラサー営業職(役職付き)を狙うアラフィフお局様(営業事務)を少しは見習ったら? って言われたのよね。
貪欲すぎる肉食女子って……女子って………………女子?
だめだめ、もうこの話は無しで。
実は自ら財布になりに来る兄がもう一人いて、それが琉輝。
残念なことに今日は仕事で出掛けていて、電話には出てくれたんだけれど、仕方がないから泰輝と二人で出掛けるっていったら、泣きながら 「次こそはぁ~!」 って叫んでいた。
この顔がどんな表情をしてあの叫び声を上げていたのか? 思わず琉輝と同じ顔をした泰輝の顔をマジマジと見ちゃったわ。
兄たちは一卵性の双子だから顔が同じなのよ。
「なに、あーちゃん?
なにか欲しい?」
「彼氏」
「あーちゃんにはまだ早いかな?
そのうち兄さんたちが見つけてきてあげるよ」
…………ねぇ兄さん、わたしがもう二十三だって知ってる?
二十三年間彼氏がいないって知ってるっ?
世間ではわたしを 「喪女」 って呼んでるの、知ってるっっ?
わたしはね、泰輝も琉輝も、中学高校大学と、ずっと彼女を切らしたことがないのを知ってるのよ!
「今はいないから安心して。
あーちゃんより自分を優先しろとか、結婚結婚ってうるさいからね」
それ、このあいだ琉輝も言ってた。
言っとくけどわたし、彼氏が出来たら兄さんたちより彼氏優先だと思う。
元カノさんたちの主張も正しいと思うって言ったら泰輝ってば……
「……あーちゃんが幸せになれるなら、兄さんたちは我慢する」
……兄らしいことを言ってくれてるんだとは思うけれど、なんで泣きそうな顔してるわけ?
自分たちだけ彼女をつくって楽しんでたくせに!
わたしも楽しんできますってことで車で帰宅早々、部屋まで荷物を運んでくれた泰輝を閉め出してログインしました。
でもついてない日っていうのはとことんついてないみたい。
臨時メンテナンスが終わってから、まだクロウはログインしていないみたいだったから、ギルドメンバーたちにログインの挨拶をしつつ一人でナゴヤドーム内を歩いていたら久々に出会っちゃった。
「アールグレイ、覚悟!」
しません。
ローズってば何度いえばわかるのよ? ……っていうか、久々に見たローズは、ますますこう……布面積っていうの?
あ、でも鎧だから布じゃないんだけれど、面積が減っていて……つまり露出が増えていた。
なんかもう胸とか見えそうなんだけど、それ、そんなに動いて大丈夫?
わたしより胸ないんだからズレたりしない?
パンツなんてほんとギリギリで……もう、見てるわたしが恥ずかしくなってくる。
【特許庁】 が派手好きな個性派集団ってことはもちろん知ってるけれど、不破さんも結構露出が高くて目の遣りどころに困るんだけれど、不破さんを越えたわね、ローズ。
わたしがその鎧を着るわけじゃないけれど、居たたまれない!
一緒にいるのも恥ずかしい!
その鎧、運営の 「公序良俗」 に反するってことはない?
どういう答えが返ってくるかわからないけれど、とりあえず通報してみる?
いや、でもさすがにこれは難癖になる?
どうしよう?
と、とりあえずHPが減らないといっても、ローズなんかに斬られるのは嫌だから反撃しておく。
ローズが大きな声で宣戦布告をしながら斬りかかってきた段階で、近くを通りかかったプレイヤーたちは速やかに避難済み。
じゃ遠慮なくってことで、わたしも杖を大鎌に変える。
STRの差はどうしようもないけれど、ローズは大振りだから動きが丸見え。
何度か首を斬ってあげたんだけれど、一般エリアじゃどうしようもないのよね。
「もう、いい加減にしてよ」
「黙れ、この売女め」
うん? ねぇローズ、その格好でそのセリフはどうかと思う。
品位を疑われるからそのセリフもその装備もやめなさいって。
大きく鎌を振りかぶったわたしは、力任せに、それこそ放り投げるように斬りかかってくるローズの大剣を打ち払おうと……あ、あら?
え? やだ、動かない? なにこれ?
大鎌がびくともしないんだけれど、なぜ?
それこそ背負い投げを真似て全力で鎌を引こうとしたんだけれど、本当に動かない。
微動だにしないって、どうなってるのよっ? ……と思ってようやくのことで振り返ってみたら、クロウが立っていた。
いつの間にログインしたの?
うん、まぁそれはいんだけれど、とりあえずその手に握ってる鎌、離してくれない?
離してくれないとローズが……あ! 早く、早く! 早く離してよクロウ!
ローズに斬られちゃうじゃない!!
「もらった!」
その勝利宣言、ムカつく! ……のにクロウが離してくれ……た。
でも間に合わないじゃない!!
……って思ったのに、次の瞬間わたしの横を擦り抜けたクロウが大剣を抜刀。
わたしに向けて振り下ろされるローズの剣を打ち払う。
そのまま間に割って入るクロウは、剣先をローズの首元に突きつける。
「ローズ、これはなんの真似だ?」
「クロウ様……これは、その……」
ねぇローズ、さっきまで顔を真っ赤にしてたのはわたしに対する腹立ちだったと思うんだけれど、今の顔の赤さは別の意味よね?
そりゃクロウはモテますよ。
格好いいですよ。
そういう反応をする女性プレイヤーも見慣れてるつもりだったんだけど……なんか腹が立ってきた。
…………なんで腹が立つのかよくわからないんだけれど、とりあえずもう一発くらいローズを殴りたくなってきた。
というわけでクロウ、ちょっと退いて……っていっても退いてくれない。
「グレイ、大人しくしていろ」
「だって……」
「あれ? クロウさんとグレイさん?」
口を尖らせるわたしの邪魔をしたのは不破さん。
うしろから歩いてきたから、声を掛けられるまでわたしもクロウも気づかなかった。
「……と、うちのローズじゃないか」
ちょっと蝶々夫人を思わせる艶やかな笑みを浮かべる不破さんに、不穏な空気を感じたのはわたしだけじゃなかったと思う。
クロウはともかく、ローズの顔が面白いくらい引き攣っている。
不破さんの登場でクロウは剣を引き、背に負った鞘に収める。
「どうやらまたうちのローズが面倒を掛けたみたいですね。
申し訳ありません」
ここでわたしとローズのあいだで何があったかなんて、不破さんは聞くまでもないわよね。
だって前にも似たような状況に出くわしたっていうかなんていうか、ね。
でもわたしもローズも不完全燃焼っていうかなんていうか、このままじゃ腹の虫が治まらない。
クロウの邪魔がなければ、戻した杖で殴りかかっているところよ。
何度も退いてっていってるのに、全然きいてくれないんだから。
しかもわたしはクロウに押さえ込まれているっていうのに、ローズはまだ自由の身のまま。
「せめて一太刀!」
ほら、また斬りかかってきたじゃない。
だから退いてって言ってるのに、このままじゃクロウが背中から斬られちゃうっていうのに不動。
代わりに動いたのが不破さん。
刀身の長い屍鬼をスラリと抜くと、さっきクロウはローズの剣を打ち返すだけで済ましたけれど、不破さんは容赦ない力でローズの大剣を跳ね飛ばした。
「君ね、このあいだ蝶々夫人に怒られたばっかりだよね?
少しは懲りるとか、学習するとか、出来ないわけ?」
跳ね飛ばされたローズの大剣が中空で回転しながら落ちてくると、不破さんのすぐそばに突き刺さる。
この程度のことで平静を失うことのない不破さんは屍鬼を鞘に収め、地面に突き刺さるローズの大剣を引き抜く。
「グレイさんに粉掛けないで、直接クロウさんに言いなさい。
君の玉砕は目に見えてるけど」
「そ、そんなことは……」
腰を屈める不破さんは挑発するように、さらに赤くなったローズの顔をのぞき込む。
「でもちょうどいいところで会った。
クズマスに誘われてるんだ、一緒に地下闘技場においで。
こんなろくでもないことをしてるってことは暇なんだろ?
久々にノーキーに稽古でもつけてもらえば?」
「切り刻まれるんですけど!」
「いいじゃない、君もグレイさん、切り刻もうとしたんだから。
そうそう、美人を切り刻む悪趣味はノギさんにお仕置きしてもらおうかな」
「ちょ……不破さんっ!」
「それじゃグレイさん、クロウさん、また。
この詫びはあとで蝶々夫人がしてくれると思うから」
夜の街に似合わない爽やかさで言った不破さんは、ローズを引き摺るように連れて行ってしまった。
蝶々夫人のお詫びって、ひょっとしてまた長文の謝罪?
いらなぁ~い!!
もう最悪。
何度もいっているけれど、わたしは普段から単調な業務連絡くらいしか読まないから長文はダメなんだってば。
ほんと勘弁してよ……って思っていたら、インカムからベリンダの声がした。
『グレイさん、そっち終わった?』
「終わった……と思う。
どうかした?」
『この鍵、なんだと思う?』
鍵? 鍵ってなに?
話が唐突すぎて見えないんだけど?




