803 ギルドマスターは想定外を謙虚に乗り越えようとします
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終戦まで伏せて過ごします
「無理やけどな」
言われると思ってました。
当然のツッコミというか、それがカニやんの役目というか。
もちろんわたしだってわかってます。
だってほら、紅軍は 【ヤシマ】 に上陸しないとポイントにならないからね。
ただ生き残るだけでは意味がないというか、ポイントにならないというか。
小舟に揺られたまま終戦を迎えても意味がないのよ。
それこそ無駄な生き残り。
………………
なにかこう、もっといい表現はないかしら?
ちょっとしっくりこないというか、生き残って無駄とか言われたくないし言いたくもない。
だって折角生き残ってるのによ?
無駄とか、絶対に言われたくないわよねっ?
自分で言うのはもっと嫌よ!
「気持ちはわかるけど、立たれへんもんは立たれへんけどな。
起動……」
カニやんが言う 「立てない」 は立つわけにはいかないという意味。
同じ魔法使いのくせに、わたしと違ってカニやんは揺れる小舟の上でも立てるからね。
普通に立てるからね。
それどころか舟から舟に飛び移ることもだって出来る。
腹が立つ
そんなカニやんでも今は立つわけにはいかない。
さすがに9戦目ともなるとわたしだって少しは成長するわけで、それこそ少しは立てるようになったけれど、今は立つわけにはいかない。
繰り返しになるけれど、今は絶対立つわけにはいかないの。
撃たれるからね
今回のイベントの成果というか成長を最後に披露しようと思っていたのに、想定外の早さで対応してきた白軍銃士のおかげで大番狂わせよ。
魔法使い以上に接近戦を嫌うというか不得手とする銃士は、まずは開戦直後の混乱を回避するため、紅軍の銃士は一足先に 【ヤシマ】 方面へ。
そして白軍の銃士は本土に後退する。
そう思ってた
少なくともわたしは……いえ、カニやんもそう思ってたわよね?
だからわたしの作戦に乗ったのよね?
「思ってたな」
「乗ったな」
うん、カニやんに代わって答えてくれる脳筋コンビもね。
「おう、乗ったで」
「面白そうやったしな」
そうね、せっかくゲームをするのなら面白いことが一番よね。
でもそんな二人にとってもこの状況は想定外です。
「めっちゃ想定外や」
「めっちゃ痛いわ」
剣士は伏せてるだけじゃなにも出来ない。
だから二人は立って元気に走り回っているというか飛び回っているというか。
少し動きが大袈裟というか、余計な動きをしているのは、銃士の照準器を避けるため。
仮想現実では、ある意味体力は無尽蔵。
気力さえ続けば、HPさえあれば動き続けられる。
撃たれるけど
それもこの二人レベルの剣士ならHPも馬鹿みたいに高いしね。
簡単には落とされない。
だから 「めっちゃ痛いわ」 とか言ってます。
それこそ 「めっちゃ笑顔」 でね。
国家資格を持ってるイケメンがめっちゃ笑顔でね。
そんなインテリ脳筋でもこの事態は想定外。
クロウにとってもね
「インテリと脳筋は成り立たへんと思うで。
起動…………」
「なに言うてんねん。
不可能を可能にさせるのが筋肉や」
「筋肉は裏切らへん」
「氷雪乱舞。
そのクソ根性論が脳筋やねん」
「根性なしは黙っとれ」
「鍛えたろか?」
………………
えーっと、なんの話だっけ?
あ、そういえばカニやんはアイテムでHPの最大値上げてるじゃない。
ちょっとやそっと撃たれても落ちないでしょ?
「いや、落ちるて」
「カニは見つかったら集中砲火食らうで」
「こいつ、白軍にしたら邪魔やしな」
そっか、VITがそんなに高くないか。
「こいつらと比べんといてな。
職業違うから。
起動……」
「せかやら鍛えたろか言うてるやん」
「人の厚意は素直に受け取れや、このひねくれモンが」
じゃあこのイベントが終わったら、カニやんも一緒に 【ミドースジ】 パレードね。
カニやんが来ればこの二人も付いてくるし、銀杏拾いは人海戦術だから助かるわ。
「パレードって……あんな廃墟でパレードすんなって。
起動……」
「いや、御堂筋パレードってとっくの昔にやってへんのちゃうん?」
「なんとか知事が廃止にしたやつな」
そうなのね、知らなかったわ。
の~りんとアキヒトさんとベリンダに恭平さん。
あとたぶんこの面子だとJBも付いてくるだろうし、トール君たちにも声を掛けたら結構なパレードになると思ったんだけど残念ね。
「仮装行列でもするつもりか?」
「まぁ行くけどやな」
さすが優しさで出来た筋肉ね。
じゃあまずはこのイベントを乗り切りましょう! ……と張り切ったわけだけど、ちょーっと嫌な予感がしてきた。
開戦直後の混乱を避けて本州に後退したはずの白軍銃士の前進の早さが想定外だったことはもちろんだけど、こう……漠然とした不安というか、嫌な予感というか……
なにかしら、この感じ?
とりあえず紅軍が白軍銃士対策を考えるなら、泳いで 【ヤシマ】 に向かうという方法もある。
もちろん海中でも剣士が剣で斬れるように、魔法だって発動するし銃も撃てる。
でもほぼほぼ隠れる場所がない上、浅瀬では標的を捉えることが出来ない。
それなりの深度に潜る必要が出てくると当然前進しなければならず、主戦場に近づくことは銃士にとってはリスクが高い。
現状、白軍の銃士が前進しているのは主戦場が 【ヤシマ】 に近いから。
あくまでも主戦場との距離を十分に取って自分たちの安全を確保しているわけだけど、そもそも紅軍が主戦場を 【ヤシマ】 近くに構えたのには理由がある。
ミニゲーム 【落ち武者タイム】
もう一つのミニゲーム 【那須与一タイム】 同様、突然始まるこの 【落ち武者タイム】 は始まったら最後。
紅軍 v.s. 白軍 v.s. NPC の三つ巴の大混戦。
しかもNPCはミニゲームが終わるまで無限湧きで、焼いても焼いても全然減らなくて絶望感が半端ない。
【ヤシマ】 に辿り着くどころか、そもそも生き残ることも難しい。
おかげで昨日までの夜の部二戦はDRAW。
そこで紅軍は 【落ち武者タイム】 が始まったら 【ヤシマ】 に向かうことを決め、開戦直後の混乱から主戦場を移動させたわけだけど……
「グレイ、ひょっとするかもしれん」
クロウに言われて……と言ってもクロウも具体的な言葉は出していない。
でも声を掛けられて、漠然としていたわたしの嫌な予感が瞬時に鮮明になった。
「ええ、【落ち武者タイム】 が発生しないかも……」
「はぁ~?」
「え? そういうパターンもありなん?」
「ありっちゃありやけど、そやったらじり貧ちゃうか?」
わたしの言葉にカニやんは素っ頓狂な声を出し、柴さんはちょっと呆気にとられた感じ。
三人の中では唯一肯定的なムーさんは、よりによって紅軍の敗戦濃厚説を言い出す始末。
わかってる
うん、確かにこのままだとじり貧だと思う。
このまま 【落ち武者タイム】 が発生しなければ、前進を続ける白軍の銃士と……銃士と……
「白軍の剣士はっ?!」
「【ヤシマ】 寄りやな。
起動……」
わたしが問い掛けるのとほぼ同時にカニやんが手許にウィンドウを開き、イベントMAPを確認する。
このMAPで個人を特定することは出来ないけれど、赤と白の点でおおよそのプレイヤーの位置や数がわかるようになっている。
そして白い点は 【ヤシマ】 側と本州側に寄っていて、その中央に紅い点が集まっている。
これは紅軍が白軍に包囲されつつあることを意味している。
「完全に白軍に読まれてたな」
動きが大きいから読まれるのは承知の上。
それでも 【落ち武者タイム】 が始まれば、混乱に乗じて押し切れるというか、勝つために押し切るつもりでいたのに、まさかまさかの 【落ち武者タイム】 が不発っ?
え? ちょっと待って。
どういうことっ?!
まさかと思うけど、最終戦で運営が白軍の味方をしたってことはないわよね?
ちょっと運営っ?!
まさかまさかの 【落ち武者タイム】 の不発でさらなる予想外っ?!
プレイヤーが対策を練ってくるのを予期した運営に裏をかかれたかっ?