801 ギルドマスターは踏みつけて裏をかきます
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落とすと決めたらためらいなく詠唱よ!
…………うん、たぶんわたしのこの決断は間違えてなかったと思う。
ううん、絶対に間違いじゃない。
3対4の不利な状況を打開しなければならないという判断も間違いなかったけれど、アキヒトさんをうっかり 【スパーク】 で吹っ飛ばしたのは痛恨のミスでした。
本当についうっかり……
相手問わず、とりあえず接近されたら 【スパーク】 で吹っ飛ばすのが条件反射みたいになってる気がする。
でも相手を見極めなきゃでした。
そもそも基本的に魔法使いはわたしと相性が悪い。
だから剣士ならともかく、魔法使いが相手ならわざわざ吹っ飛ばすなんてワンクッションを置かず、直接というか、一撃で落とした方が効率的というか手っ取り早いというか。
しかもアキヒトさんは物理攻撃をほぼほぼ持ってないしね。
カモ中のカモ。
まさにベストオブカモじゃない。
そのアキヒトさんを、わざわざ 【スパーク】 で吹っ飛ばして所在不明にするというか、むしろ逃がしてあげたというか。
でもアキヒトさんと遭遇した時点では恭平さんとJBの目論見に気づいてなくて、ベリンダの接近に気づけたのが奇跡のタイミング。
その時点で3対4の不利な構図が発覚して、わたしは迷わずベリンダを落とすことを選んだ。
え? ひょっとしてこれって、わたしにしたらすっごいベストな判断じゃない?
「いや、ギルマスはいっつも判断は的確っすよ」
「ありがと、JB」
褒めてくれても見逃してはあげないけどね。
「駄目っすか!」
「もちろん駄目」
どんなに爽やかな好青年ぶっても駄目なものは駄目です。
そもそもJBだってただ強いだけじゃない。
ランカーだから強いのは間違いないけれど、頭だって悪くないのよね。
うちにはカニやんと恭平さんの二大頭脳があるから目立たないだけで、JBだって頭が良い。
美味しいところで天然にボケてくれるところもあるけどね。
でも頭は良いから油断がならない。
今こうやってJBがわたしに絡むのだって、アキヒトさんがリトライする隙を作ろうとしているのかもしれない。
落ちてないからね
アキヒトさんも色々とアレな人だけど、恭平さんがここにいる以上は遠くに逃げることはない……というか、この状況ならいつものように逃げてくれたほうが助かるんだけど、こんな時に限って思惑どおりに動いてくれないのよね。
だってほら、すぐそこに恭平さんがいるからね。
あの超絶かまってちゃんウザ絡み派のアキヒトさんだもの、きっとそのへんに潜んでいると思う。
そんでもって美味しいシーンに飛び出して、恭平さんに恩を売ろうって魂胆よね。
だいたい失敗するけど
魂胆が浅すぎてわたしにさえバレバレなのもあれだけど、どんなに頑張っても、それこそたまに成功しても、恭平さんにお礼すら言ってもらえないのは日頃の行いよね。
アキヒトさんの自業自得です。
そもそもアキヒトさんが頑張るってことがほとんどないわけだけど、折角の狙い目でアキヒトさんを逃したのはわたしの自業自得というか、うっかりミスというか。
いえ、自業自得はちょっと違うか。
でもそんなこと以上にわたしったらまた大きなミスをしちゃったのよね。
また 【避雷針】 使っちゃった
ほんと、ごめんねカニやん。
わたしったら、何回同じミスをすれば気が済むのかしら?
自分でもちょっと嫌になってくるわ。
あれだけ 【避雷針】 はカニやん用に取り置きしなきゃって思って、開戦前まではちゃんと覚えてるのに。
ううん、開戦後も覚えてるんだけど、こう……ふとした拍子に忘れて使っちゃうのよね。
ついうっかり……
一撃必殺の 【避雷針】 は強力なスキルで、よほどの、それこそランカークラスでもなければだいたい一撃で落とせるほど強力っていう利便性も落とし穴なのよね。
そんでもってわたしったら、ついうっかりその落とし穴に落ちてしまうっていうね。
しかも誰もその落とし穴から引き上げてくれないっていうね。
「せやから今回もカニは味方やて」
「使てもえぇけど効けへんで」
この脳筋コンビの発言は慰めてくれていると受け取っていい?
それともやっぱりカニやんの擁護発言?
「カニが落ちても落ちひんでもどうでもえぇわ」
「どこぞでのたれ○んでくれて大いに結構」
今戦は味方なんでしょ?
「【避雷針】 がカニやん専用っていうのはよくわからないっすけど、味方相手だとスキル発動しないんじゃないっすか?」
「お前はさっさと落ちろや!」
「いやっすよ。
ムーさんこそ、さっさと斬られるっす」
「なんでお前に斬られなあかんねん!」
一見じゃれ合っているように見えるムーさんとJBだけど、たぶん本人たちは本気だと思う。
その横で打ち合っている……というかこの二人が脇というのが正確かもしれない。
【避雷針】 の直撃を食らって電子分解を始めるベリンダが、柴さんと本気モード全開で斬り結んでいる恭平さんに声を掛ける。
「恭平、ごめん!」
「お疲れ!
またあとで」
恭平さんの言葉が最後までベリンダに聞こえたかどうかはわからない。
しかもこの瞬間、視線をベリンダに向ける恭平さんに、柴さんってばJBとムーさんの会話にわざと割り込んで見ない振りをするとか……
イケメン過ぎる
ただの脳筋じゃないのが脳筋コンビなのよね。
しかも恭平さんの視線が自分に戻る瞬間を狙って打ち込み、手は抜いてません、みたいな態度をするのよね。
これはひょっとして、噂に聞くツンデレですかっ?
「ちゃうわ!」
「俺から言うのもあれだけど、違うと思う」
即行で柴さんが否定してくるのは想定内だけど、まさか恭平さんまでが口添えしてくるとは……。
うん、違うのね。
残念だけど修正しておくわ。
「なにが残念やねん」
「なにが残念かわからないけど……」
なぜか戸惑いがちな恭平さんの相手は柴さんに任せて、ムーさんにはJBの相手をしてもらいます。
そんでもってわたしは、アキヒトさんを警戒しつつ周囲を一掃します。
近寄られれば落とされるのが運命の魔法使いだけど、わたしには心強い相棒がいるからね。
大丈夫よ!
「きゅっ♪」
ほんと、ルゥったら心強いんだから。
しかもとんでもなく楽しそうに小舟と小舟のあいだを飛び回り、近づいてくるプレイヤーをことごとく蹴り飛ばしたり頭突きを食らわせたり。
さすが最凶の 【幻獣】 よね。
安定の強さで周辺海域を保持してくれる。
わたしも結構奮闘したんだけど、なぜかアキヒトさんが改めて現われることはなく再戦は叶いませんでした。
どういうこと?
わたしの予想では、アキヒトさんは恭平さんのそばを離れるとは思えなかったのよね。
まして好敵手のJBが恭平さんのそばにいるのに。
これはいったいどういうことかしら? ……と思って終戦後、転送されたギルドルームでアキヒトさんに訊いてみたら……
「グレイさん、どういう躾してるのさ?
俺、ワンコに踏まれたんだけどっ?!」
なぜか涙目でそんなことを言われました。
踏まれた?
躾?
えーっと……まず、ルゥに躾は無理だから。
ルゥに躾が出来るのは、飼い主のわたしではなく創造主の小林さんだけ。
ついでにルゥの凶暴さについても、苦情は小林さん及び運営にお願いいたします。
あとなんだっけ?
……あ! 踏まれた?
えーっと、改めて訊くけど、踏まれたってどういうこと?
「だから、踏まれたんだよ。
こう、俺が寝そべってる上に……」
アキヒトさんの話を要約すると、やっぱりアキヒトさんはわたしたちの……ではなく、恭平さんのそばにいたのよ。
近くの小船の底に寝そべってわたしたちから隠れ、案の定というか、恭平さんに恩を売れるタイミングを見計らっていたらしい。
でもその背中にルゥが着地したっていうね。
これが偶然かどうかはわからないけれど、なにが起こったのか確かめようとしたアキヒトさんが上体を捻りながら起こそうとしたら、背中に乗っていたルゥに頭をはたかれるような形で落とされたということらしい。
あの短い足で叩かれたの?
あの可愛い肉球でっ?
「そこっ?
グレイさんが気にするところはそこっ?」
「他のどこを気にせよと?」
思わず真顔で訊き返してしまうわたしに、アキヒトさんも真顔で言い返してくる。
「だから躾!」
「だからそれは無理。
要望は運営に出してくれる?」
なにしろわたしとルゥの場合、飼育責任より創造責任のほうが強いというか高いというか。
誰がなにを言おうと、この関係を変えることは出来ないから。
変えるつもりはないけど。
だってほら、わたしはルゥが可愛いならそれでいいの。
短い足とか、酷い癖っ毛でモッフモフなところとか、勝手に迷子になって泣きついてくるところとか。
時々間違えてわたしにも頭突きを食らわせてしまうけど、そこは愛嬌よね。
「女王は痛いだけで落ちる心配ないしな」
「どうせ愛情の暴走とか、ようわからんこと言うて納得しとるんやろ」
そうそう、そうなの!
ルゥはわたしが好きすぎて、ついうっかり距離感を間違えてぶつかってしまうのよ。
「いや、あれ、いつも頭突き出してるやん。
ワンコ、頭突き出して突進してるやん。
めっちゃ頭突き狙って突撃してるやん」
カニやんまでなにを言って……そう言えばカニやんにはまだ謝ってなかったわね。
「なにを?」
「実はベリンダに 【避雷針】 を使っちゃったの。
カニやんのために取っておくっていつも言ってるのに、ごめん」
「謝らんでえぇし、取り置きせんとバンバン使ってくれてえぇし」
そんな謙虚にならなくていいのよ。
どうせアイテム使用してるから、【避雷針】 の強烈な一撃でも落ちないくせに。
そうなのよね。
カニやんってば、今回のイベントではアイテムを使用してHPの最大値を上げてるの。
だからなかなか落ちないのよね。
「味方の時まで俺落とすこと考えんといてくれる?
自分はアイテム使用せんでも落ちひんくせに」
「カニ、そこは僻むとこちゃうで」
「お前に 【避雷針】 落ちるたびに俺らまで巻き込まれるんやから勘弁せぇや」
【避雷針】 の追加効果の 【放電】 現象ね。
単体攻撃魔法なのに 【放電】 現象のおかげで二度美味しい。
「とりあえずアキヒトはVITが低すぎるだろう。
いくらなんでもワンコに踏まれたくらいで落ちるとか」
正確には頭をはたかれて落とされたわけだけど、恭平さんはそういう解釈らしい。
相変わらずの~りんもVITには問題を抱えてるし、イベントが終わったら一緒に 【ミドースジ】 に銀杏拾いに行く?
「え? あそこって臭いし」
嫌なのね
まぁ連れていく方法は考えましょう。
たぶん恭平さんも協力してくれるでしょうから相談しよっと。
「OK。
ベリンダも銀杏が欲しいらしいからメンバーに入れてくれる?」
「もちろん!」
ちなみに銀杏は装備を作るために必要な素材で、VITを上げるのに効果的です。
収穫出来るのは 【関西エリア】 にある 【ミドースジ】 だけ。
まぁこの 【ミドースジ】 がちょっとあれなんだけど、とりあえず今はイベントに集中しましょう。
いよいよ最終戦だからね!
もちろんやってくれたわよ、運営が。
見事にプレイヤーを裏切ってくれました……。
お久しぶりです!
今度こそ本気で再会します!!
今イベントが終わる終わる詐欺で信憑性がありませんが・・・
そんなイベントも本当にいよいよ最終戦!
運営の裏切りとはっ?