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797 ギルドマスターはどんぶらこっこのリズムで恩を返します

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!





ちょっと長めの今話ですが、いつもどおりサラッと読めます!

どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ♪

information これよりミニゲーム 『那須与一タイム』 が始まります。

      あなたが射手(いて)に選ばれました。


 このインフォメーションとともに突然始まるミニゲーム 【那須与一タイム】。

 突然始まるのがこのミニゲームの仕様というのなら従わざるを得ないのがプレイヤーの運命だけど、またしてもわたしが射手(いて)に選ばれるっていうのはどうなの?


 オープン当初ならともかく、今やこのゲームだってかなりの数のユーザーがいて、毎回イベントにはかなりの数のプレイヤーが参加していて、このイベントにもかなりのプレイヤーが参戦している。

 それなのになぜ同じプレイヤーが選ばれるのよ?

 しかもそのプレイヤーがわたしっていうね。


 なにか悪いことした?


 うん、悪いことっていうより運営の印象が悪いってことよね。

 まぁその、心当たりがあるというかないというか……そのあたりは察してもらえると助かります。

 どうせ二度同じことを当たるならもっといいことで当てて欲しいところだけど、それを言ったところで聞き入れる運営ではないし、すでに選ばれてしまったのだから今更。

 まずはわたし自らが運営の印象をよくするところから改善しないと始まらないわけだけど、それだって結局今更なので明日から心掛けてみようと思います……というのはやらない人の常套句で、たぶんわたしもやらないと思うわ。


 明日は平日


 普通に仕事だから現実世界でのお仕事を頑張ります。

 お仕事の出来る上司様は依然見当たらないというかどこにいるかもわからないけれど、代わりに真田さんとノーキーさんがいます。

 ノーキーさんは紅軍()だけど。

 見るのも恥ずかしいほどはだけた胸に、首から下げた紅い鉢巻きが潮風になびいています。


 海に沈んだままのフレデリカさんの存在は気になるところだけど、わたしの立ち位置より本州側は休戦地帯。

 安全とは言い難いので、あくまでも休戦地帯です。

 でも一応は 【那須与一タイム】 が終わるまでは襲われる心配がないので、とりあえず今は射的に集中します。


「ギルマス、ファイっ!!」


 美沙さんの体育会系を思わせる応援は気になるところだけど、集中です、集中。

 ノーキーさんには先に言われたしね。


「言っておくが俺は敵だからな。

 今回は教えてやらねぇよ」

「わかってます!」


 ええ、もちろんわかってますとも!

 しかもあの時とは違って自立出来るようになったし。

 わたしだって進歩するんだから。


 立派な成長です!


 ……誰も褒めてくれないけど。

 そうなの、なぜかだぁ~れも褒めてくれないのよ。

 わたしにしては無茶苦茶成長したのに!

 しかもたった三日のうちによ、三日!

 うん、まぁまたこういう状況になったら立てなくなるんだろうけど……。


「グレイちゃん、()てなくても大丈夫よ。

 鬱陶しい徳貴(のりたか)は俺が始末してあげるから心配していいわよ」


 真田さんに、珍しいくらい心強いお言葉をいただきました。

 真田さんの腕を振りほどくのを諦めたらしいノーキーさんは 「鬱陶しいって言うな!」 とか抗議してたけど。


 そもそも弓道経験者とおぼしきノーキーさんと違い、わたしは初心者なんだから的に届けば上々だと思う。

 ポイントにならなくても()に掠ればもっと上出来よね。

 個人的には海坊主……ではなく、澄ました顔をして扇を構えている女房の眉間を射抜きたいところだけど、たぶん()()てるより難しいと思う。


「ギルマスって、綺麗な顔して時々根に持ちますよね」


 美沙さんがなにか言っていますが今は射的に集中したいと思います。


「そうそう、自分に都合の悪いことに耳を貸す必要なんてないから」


 またしても真田さんから心強い同意をいただきました。

 実際に真田さんは、自分に都合が悪い……かどうかはわからないけれど、ノーキーさんの 「放せ」 という文句に全く耳を貸していません。

 そんな真田さんの意志の強さを見習いたいと思います。

 見習って海坊主たちの眉間を射抜きたいと思います!


「ギルマスぅ~、あれ海坊主じゃないしぃ、撃つのも眉間じゃないっすよ」

「そ、そうね」


 ついうっかり本音というか、本心が口から漏れてしまったわ。


「だだ漏れっすよ」


 はい、だだ漏れです。

 決心したつもりだったのに、わたしったらまだまだ甘いわね。

 でもやると決めたからにはやります。

 たぶんどんな形であっても、三射を終えないとこのミニゲーム自体が終了しないから。

 イベントの終了時間が近づくと紅軍(こうぐん)はヤシマに行ってしまうだろうけれど、【那須与一タイム】 が終わらないと白軍(はくぐん)は追えないからね。

 そうすると、いま生存しているプレイヤー数を考えればほぼ間違いなく白軍が負ける。

 で、そうなった場合、敗因はわたしってことよね。


 不名誉で済めばいいけど、たぶんそんなレベルじゃないと思う。

 それこそ戦犯くらいの扱いを受けそうで恐ろしいからさっさと射ます。

 とりあえず落ち着け、わたし。

 えーっと、あの時ノーキーさんはなんて言ってたっけ?


「グレイ、足を……肩幅より少し狭いくらいで」


 そうそう、立ち位置を決めるのよね。

 弓道で 【足踏み】 と呼ばれる手順の一つ。

 本来はこの前に 【執り弓の姿勢】 と呼ばれる動作があるけれど、前回同様に今回も飛ばします。

 前回はノーキーさんという支柱があったけれど、それでも飛ばした動作をわたし一人で出来るはずがない。

 なにしろ立っているのがやっとの状態なんだもの。

 まして弓道を理解していないわたしが作法だけを辿っても意味がないしね。

 それこそ形だけのものになるし、だったら時間ももったいないので飛ばして正解だと思う。

 次は……


 【胴造(どうつく)り】


 立ち位置を決めたら、次は姿勢を正すというか弓を射る体勢作り。

 わたしは全然立ち位置も決まらないんだけどね。

 足下フラフラしてるから、決まらないんだけどね。

 それこそ全然決まらないんだけど、言葉どおりここが踏ん張りどころです。


 次は弓を構えて弦に矢を(つが)える 【弓構(ゆみが)え】 から 【打起こし】。

 あれからもう一回wikiを読み直したけれど、結局今もどこまでが 【弓構え】 で、どこからが 【打起こし】 にあたるかわからないまま。

 まさか二回も射手に選ばれるなんて思っていなかったからそこまでちゃんと調べてなかったっていうものあるけど、そもそも調べたって結局わからないのよね。

 これも前回思ったことだけど、こういう作法って動きこそ厳密だけど、説明的なところは結構曖昧だから。

 結局 「習うより慣れろ」 だと思う。


 そして弦に矢を番えた弓をゆっくりと下ろしながら、弓は前へ、番えた矢ごと弦をゆっくりとうしろへと引く 【引分(ひきわ)け】 へを行なう。

 前回は実際に弓を引いたのはノーキーさんで、わたしは手を添えていただけ。

 だから全然わからなかったけれど、これ、結構な力がいる。

 たぶん腕の力だけじゃ引けない。

 もちろん引くのは腕の力だけど、腕を支えるために他の筋力が必要で、その上体を支えるために足の踏ん張りが必要になる。

 つまりここに至るまでの行程の意味を実感する。


 弓矢の道


 前回教えてもらった時、ノーキーさんはこのあたりから的を見ていたような気がする。

 剣士(アタッカー)のノーキーさんと違い、魔法使いのわたしにSTRはない。

 まぁそこは仮想現実(ゲームの世界)だからね、ご都合主義よ。

 もちろんその都合は運営の都合だけど。


 プレイヤーじゃないの


 渾身の力で、弦をギリギリと軋ませながら弓を引き、的を絞る。

 意識こそ前回の記憶と今の状況を行き来するけれど、視線はもう的を外さない。

 ノーキーさんもそうしていたからね、ちょっと真似をさせてもらうわ。

 わたしがやっても様にはならないだろうけど折角教えてもらったことだから。


 その前回、ノーキーさんは二射を確実に()てるためにはじめの一射を捨てると言った。

 弓の強さはわからないし、矢道の長さも目測でおおよその距離しかわからない。

 それこそ弓道経験者でも外したっておかしくはないと思う。

 でもノーキーさんは()ててきた。

 この強気な攻めはさすがノーキーさんだけど、わたしに同じことは出来ない。


「もちろん一射も狙っていくけどな」


 一射を試し撃ちとして捨てるなんて断わりを入れておきながらもただ捨てるわけではなく、外れる前提でも諦めるつもりはないという、いつものノーキーさんらしい悪足掻きを見せてくれたっけ。

 そんなところがイケメンなのはノーキーさんらしいけど。


 弓道ではこのあと矢を放つ 【離れ】 に移り、そこから 【会】 に移行する……といってもわたしにはこの 【会】 がなんなのかわからないのよね。

 武の心得がないと理解出来ないとか、そういうことかしら?


 降参


 たぶん、やっぱり目測だけど矢道は前回と同じ50mくらい。

 ただノーキーさんと違って、弓道の経験がないわたしには近的(きんてき)(28m)とか遠的(えんてき)(60m)とか関係ないけどね。

 遠いものは遠いのよ。

 ただそれだけ。

 だからね


 全力で射ます!


 魔法使いのSTR(腕力)なんてしれているけれど、的を射る以前に届かないと話にならないから。

 それこそノーキーさんじゃないけど、とにかく一射は海坊……じゃなくて、開いた扇()を前面に構えて小舟に揺られている女房たちまで届かせる。

 番えた矢は()を耳から目の真横を通して、矢尻で女房の眉間……じゃなくて開いた扇()を狙う。

 まずいわ、どうしても雑念が払えない。


 ……ん?


 でも確か矢って真っ直ぐには飛ばないんじゃなかったっけ?

 もちろんノーキーさんたち剣士(アタッカー)STR(腕力)があれば、真っ直ぐズドンと射ることも可能だろうけれど……ということは、ノーキーさんの言っていた 「弓の強さ」 はこういうことも関係していたのかもしれない。

 つまり魔法使い(わたし)のSTRだと、放物線を描いて飛ぶことを考えて女房の眉間を狙ってみるのもいいかもしれない。

 弓道経験者と思われるノーキーさんでも一射は捨てるって言ってたんだもの。

 わたし(未経験者)なら三射中一射でも()てられれば上等。


 行きます!!


 ……ということで本当に女房の眉間を狙ってみた。

 足場である小舟が波の揺られて上下左右運動をする中、立っているがやっとの分際で頑張って踏ん張ったわよ。

 でもはずれたっていうね。

 もちろんわかっていたことだけど、やっぱりちょっとがっかりしてしまった。


「てめぇ、集中を切らすな!」


 なぜかノーキーさんに怒られました。

 うん? ひょっとしてノーキーさんなりに応援してくれてる?


 敵だけど


「わざわざこの俺様が教えてやったんだ、一射くらい当てろや!」


 ……そっちね。

 変な矜持(プライド)


「グレイちゃん、距離は合ってる。

 ついでに真ん中は通ってるから、あとは上下角」

「あ、てめぇ!!」

「今のと同じ要領でやってみなさい。

 徳貴は動くんじゃねぇよ!」


 ノーキーさんに怒られながらも真田さんがアドバイスをくれました。

 そう、わたしの外した矢は女房の頭上遥か上を飛んでいったっていうね。

 そもそもの狙いが高すぎたのか、舟の上下運動に対して射るタイミングが悪かったのか。

 真田さんのアドバイスどおりなら、外した原因はこのどちらかかよね。

 ちなみにノーキーさんが怒ったのは弟子をとられたみたいな感じ?


「たぶんそうですよ!」

「うるせぇ!!」


 ノーキーさんったら、JKにまで本気で怒るのは止めてよね。

 でも折角の真田さんにアドバイスをもらったし。

 なんだかんだ言って紅軍()のくせにノーキーさんも応援してくれてるし、ここは()てなきゃ! ……ということで頑張った二射は、その……ちょーっと下過ぎて女房の下腹にぶっ刺さりました。


 難しい


「大丈夫よ、()たってるから」

「だーかーらーお前は余計なことを言うんじゃねぇ!」


 さっきノーキーさんに言われたとおり、ここは集中を切らせたら終わり。

 真田さんに言われたとおり、距離は合ってるし射線も中央を通っている。


 あとは上下角


 でもこればっかりはわたしの意志では調整では出来なくて……と思っていたら、美沙さんが変なことを言い出した。


「ギルマス、リズムですよ!

 どんぶらこっこどんぶらこっこ♪」


 どんぶらこっこ?


 ……なるほど。

 時々不規則になるけれど、波ってある程度規則的なのね。

 うん、まぁこれは実は裏があって、わたしの周囲の小舟をルゥが意図せず遠ざけていたっていうね。

 休戦状態だからルゥに蹴られても頭突きをされても噛まれても落ちないけれど、ダメージが出ないだけで物理的に吹っ飛ばされたりするわけで。

 おかげで不規則な波が起こされにくくなっていた……まぁそんな感じ?


 掠った!!


 最後の一射は四人の協力があってこその成果! ……と言いたいところだけど、残念ながら中央に描かれた日の丸は外したけれど、でも()には()たった。

 ギリギリでも()たりは()たりよ。


「よっしゃ!」

「さすがギルマス!」

「やるねぇ」


 不本意ながらノーキーさんと一緒にガッツポーズをしてしまいました。

 一緒にというか、正確にはたまたまタイミングが一緒だっただけ。

 でも端から見たら一緒にガッツポーズをとっていたっていうね。


 不本意至極


 これでミニゲーム 【那須与一タイム】 は終わり!

 休戦が終了し戦闘再開……の前に一つ。

 このミニゲームのルールが執行されてノーキーさんが消えたっていうね。

 射手が三射中に得たポイントに応じて、紅軍プレイヤーがこのイベントエリアから強制転送されてしまうっていうルールね。

 どうやらそれにノーキーさんが選ばれたみたい。


「はっ?!

 俺かっ?」


 不意に手許に現われたインフォメーションを見て素っ頓狂な声を上げたノーキーさん。

 そのインフォメーションは選ばれたプレイヤーにしか現われないみたいで、わたしたちにはそこになんと書かれていたかはわからない。

 わからないけれど、素っ頓狂な声を上げた直後にノーキーさんが強制転送されたということはそういうことだと思う。


「……あいつ、どんだけ日頃の行いが悪いんだよ?」


 さすがの真田さんも茫然としてたわ。

 うん、わたしもね。

前書きにも書きましたが、少し長めとなってしまいました今話。

どうしてもこの結末を今話の締めにしたかったのでw


さてノーキーが落ちてミニゲーム 【那須与一タイム】 も終了。

戦闘再開ですw

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