792 ギルドマスターはワンコの習性に頭を抱えて叫びます
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「きゅ~♪」
嬉しそうなルゥの鳴き声を聞くと良心に咎めるものがあるけれど、だからといってスカートの中にルゥを入れたままにもしておけない……というか恥ずかしい。
しかもルゥったら、わたしの足をつっかえ棒代わりにして立ち上がると、その……ね、お……お、しりの匂いを嗅ごうとするの!
やーめーてー!!
っていうか、それが目的でスカートの中に潜り込んできたんでしょ!!
いくらズボンの上からとはいえ、鼻を押し当ててフンフンフンフン……
いやーっ!!
これがワンコの習性だってわかっていても、嫌というか、恥ずかしいというか、両方というか。
こ、これはどう対処したらいいのよ?
いつもはスカートの中に潜り込む前に止めるんだけど、落ち武者に気をとられすぎてうっかり侵入を許してしまったら最後。
手でスカートの上から押さえても、もう中に入り込んでるからどうにも出来ない。
走って逃げてもルゥの速さには全然かなわないもの。
そのへんはほら、もう全然ステータスが違うから。
最凶の【幻獣】
と、ということはあれね。
最終手段というか、いつもの常套手段というか。
「る、ルゥ、抱っこしてあげる」
精一杯体を捻りながら声を掛けたのに、ルゥは 「きゅ♪」 とご機嫌な返事をするだけ。
その、い、一所懸命にわたしのおし……を嗅いでる。
いや、うん、わかってる。
これがワンコだってわかってる。
正しくはルゥはワンコではないけれど、たぶん狼にも似た習性があるんだと思う。
頭ではわかっているけれど、感情が納得しないというか……
羞恥心が半端ない!!
こんなところを誰かに見られたら……と思ったら来るのよね。
しかもこういう場面にばかり遭遇するのは、だいたいいつも同じ。
「……なにやってんねん?」
ええ、カニやんよ。
「これ、どういう状況?」
どういうって……見たままですけど?
超絶穴があったら入りたい場面ですが、ないので自分で掘らなければならないっていうね。
いっそ落として欲しい。
落ちたら一般エリアに強制転送されるから、この状況から逃れられるはず。
ひょっとしたらルゥとはこのままかもしれないけれど、その時は穴を掘ろうと思います。
きっとルゥが埋め戻してくれるから。
無理だけど
だってカニやんは同じ白軍だからね。
どんなにカニやんの超重火力で仕掛けてもらっても、痛いとか痒いとかはあっても被ダメ0です。
あ……いえ、カニやんでなくても、紅軍の魔法使いの攻撃は効かないんだった。
所持する常時発動スキル 【愚者の籠】 の存在を忘れるなんて、わたしったらどんなうっかりよ?
もう、ルゥのせいで動揺しまくりです。
ついでにカニやんの出現でさらに動揺MAXよ。
「え? なに?
俺、なんかヤバい?」
カニやんったらいつものようににひっと笑うから、まるでわたしのピンチに駆け付けてくれたみたいに見えるけど、全然違うっていうね。
そこはほら、カニやんだから。
イケメンの考えることはわかりません。
「俺も美人の考えることはわからへんけどな」
わたし程度を美人なんて、相変わらずの社交辞令なんだから。
ほんと、イケメンは口も上手い……というか、イケメンには口の上手さも必須なのかもしれない。
必須条件みたいな感じ?
「なに言うてるかわからんけど、俺も、グレイさんの審美眼がレベチなんはわかってるから大丈夫」
何が大丈夫なのかわかりません。
それより、どうやってここに? ……というか、わざわざ海底に来る理由は?
「理由って……」
なぜかわたしの質問に困った顔をする。
うん? わたし、そんな難解なことを訊いたかしら?
「いや、そうじゃなくて……えーっと、どこから説明する?」
「もちろんどこからでもOKです」
「グレイさんはそうやろうけど、俺は困んねん」
「じゃあ質問を変えるわ。
海上はどうなってるの?」
「それな」
まぁその苦笑いを見れば、ろくなことになっていないということだけはわかる。
クロウがいるはずだけど、どうしてるのかしら?
それに柴さんとムーさんも……あら? そういえば柴さんかムーさんは落ちてるんだっけ?
そのあとの時間が、短いわりに濃厚すぎるほど色々とありすぎて記憶が怪しい。
でもわたしが海に落ちる前に、どちらかが落ちていたはず。
だからどちらかは残っていたはずだけど……
「そうなん?
俺が見た時はどっちもおらんかったけど」
つまりクロウに落とされたのね。
じゃあどうなってるのかしら?
とりあえずクロウはいるのかしら? ……というか、二人とも落としたのにわたしは放置プレイなのね。
ひょっとして忘れられてる?
「クロウさんはおったけど、ノーキーさんと絶好調な一騎打ち中」
どうやら放置プレイはわたしの早とちりだったみたい。
それこそ彼女であることも忘れ去られたのではないかと心配したけれど……大丈夫、よね?
しかも不安が顔に出ていたからカニやんは申し訳なさそうな顔をしたのよね。
うん、ごめん。
でも、えーっと、そのノーキーさんはどこから出てきたのかしら?
「それは知らんけど、とりあえずえらいことになってる」
それでカニやんが海上を避けたのはわかる。
ベリンダやクロエたちほどではないけれど、カニやんも結構高い索敵能力よね。
でも、だったらそんな危険な場所に近寄るなんておかしくない?
君子危うきに近寄らず
とーっても賢いカニやんなら、一にも二もなく選択肢を間違えるとは思わない。
それでもあえてここに来たというのは?
「一応クロウさんに確認したら、案の定っていうか、グレイさん海に沈んでるっていうし」
それでノーキーさんの相手に忙しいクロウに代わってわたしの回収に来た、と……。
なるほど、なるほど。
いつものことながらお手数をお掛けいたしますというか、お世話になります。
ご面倒をお掛けいたします
ちなみに、どうしてカニやんがわたしの現在地というか、海に沈んでいるんじゃないかと予測出来たのかと思ったら、この周辺だけ落ち武者が湧いてこないから。
正確には、落ち武者が海上に出てこないからということらしい。
最初は海上にいると思っていたらしいけれど、クロウとノーキーさんの一騎打ちを見て、急いで海中に身を隠したというのはさすがカニやんです。
その判断に迷いがないのもカニやんよね。
で、わたしは海の中じゃないかと思ってクロウに直通会話で確認した、と……。
うん、心当たりがあるわ。
だってほら、ルゥがモグラ叩きよろしく、落ち武者の一部分が海底から出ただけで叩き潰していたからね。
それはそれ楽しそうに、ことごとくね。
ついでに他の場所で無事に湧けたのに、こっちにふらぁ~ときてしまったが最後。
ルゥの肉球パンチとか、短い足から繰り出される痛烈なキックとかで、やっぱりことごとく落とされたしね。
結果としてわたしたちの周りには落ち武者が湧くことが出来ず、周囲の海域には落ち武者がいない状態になっていた。
まさかそんなことになっていたなんて……
自分のことだけに一杯一杯でそこまでの状況が見えていませんでした。
それがよかったかどうかはともかく、クロウの援護に行ったほうがいい?
「やめたほうがよくね?
クロウさんが落とされるとは思わへんけど、俺ら、たぶん邪魔やで」
つまり、クロウってば全力で楽しんでるのね。
うん、図星ね。
カニやんったら、答える代わりににひっと笑うの。
今日もイケメンだわ。
「ありがと。
まぁクロウさんでも落ちる時は落ちるやろうけど、まぁそこはわかったはるやろし」
クロウのことは心配だけど……いや、もちろん強さは信じてるわよ。
クロウの強さは本物だし。
それでも勝負は時の運もあるし、ノーキーさんもトッププレイヤーだし。
フンフンフンフンフンフンフンフン……
カニやんの出現でうっかりすっかり忘れていたけれど、とりあえず助けてもらっていいかしら?
「それな。
さっきから訊こうと思とってんけど、まぁワンコやしな」
「特別に! 特別に3秒だけルゥに触らせてあげる」
「その3秒ルール、使い方間違とるで。
ま、ワンコ触らせてくれるならいいけど」
え? いえ、たぶん3秒以上はルゥが我慢してくれないと思っての3秒だったんだけど、まぁいいです。
とりあえず助けてください。
うん、まぁこの直後にカニやんの悲鳴が響いたのはいうまでもないと思う。
3秒も我慢出来なかったのは、ルゥだからね。
そこはほら、もう我慢出来ない……じゃなくて残念なAIだから。
「うがーっ!!」
まぁでも落ちるわけじゃないし、どこからどう見てもカニやんは嬉しそうだし、3秒すら必要なかったかもしれない。
ルゥにとっては、魔法使いだから脳筋コンビほど噛み応えはないだろうけどね。
とりあえずルゥがわたしの……えっと、その……あ、モグラ叩きをやめたから落ち武者が周辺でも湧き始めたので一度掃討するわ。
「あ、ちょ……」
「起動……かまいたち」
どこから湧いたかノーキー登場っ?!
とりあえず海底のグレイの存在には気づいていないようなので、このままカニやんとトンズラしましょう。
もちろんルゥを連れてw
そして次話ではいよいよイベント最終日へ・・・たぶん・・・