791 ギルドマスターは禁断の言葉を何度も言い掛けます
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は・な・し・てー!!
骨しかないということは筋肉がないってことよね?
それなのに海底から突き出た落ち武者の手の握力ったら、凄いのなんの!
筋肉どころか無駄肉の一片はもちろん、皮の欠片もないくせに、捕まえたら離さない勢いでわたしのスカートを引っ張ってくる。
うん、これはただ握っているんじゃない。
間違いなく捕まえている、よ。
捕獲
もうね、食らいついたら二度と獲物を放さないスッポン顔負けの勢いというか、執念深さというか。
でも幸いにしてここは仮想現実。
おかげで服が破れるなんてことはないし、今回のイベントでは装備の損耗もない。
武器はもちろんだけど、防具もね。
だからそっちは心配していないけれど、それ以上に問題なのよ。
解けない
どんなに引っ張っても振り払っても、スカートの裾を握った落ち武者の手が解けない。
あまりにもビクともしないから蹴り飛ばしたりもしたけれど、そもそも筋肉や皮膚だけでなく神経もないんだもの。
痛みなんて感じるはずがないのよね。
だから痛みに訴える攻撃は効かないというか、無効というか。
そもそもわたしにSTRがないんだけどね。
魔法使いだから
こればっかりはどうにもならない。
うん、もちろんだからといって握られたままでいられるわけじゃない。
ここから動けないのはもちろん困るわけだけど、落ち武者は海底からどんどん出てくるのよ。
数はもちろんだけど、その、どんどん海底から姿を現わしてくる。
だいたいは手から出てくる感じだけど、やっぱり地中でのポーズによりけりなのかしら?
刀の先から出てきたり、兜の突端から出てくる落ち武者もいるにはいる。
でもだいたいが手から出てきて、揃いも揃ってわたしのスカートの裾を掴むの。
このままだと海底に縫い付けられる……と思ったけれど、さっきも言ったとおり落ち武者はどんどん海底から這い上がってくるわけで、最初は片手で握っていたのが両手になって、続いて頭が……頭が……
ちょっとーっ?!
す、スカートの中を覗かないで!!
つるっぱ……ゲフゲフ……ご、ごめんなさい、動揺のあまりついうっかり禁句を口にするところだったわ。
だってほら、きっと落ち武者だって気にしてると思うの。
あの時代も武士は月代を剃っているだろうけど、剃ると禿げるは違うもの。
やっぱり禿げたくはないわよね。
それなのについうっかりつるっぱ……ゲフゲフ……危ない危ない、また口を滑らせてしまうところだったわ。
まぁその、はい
仕方ないわよね。
だって落ち武者たちは骨しかないわけで、頭蓋骨には当然頭皮もなくて、毛髪の一本も残っていない。
でも頭髪の残ってるタイプの落ち武者もいるわよね。
このゲームでは残っていないタイプの落ち武者が採用されてるけど、あれって頭皮がないのにどうして残ってるのかしら?
不思議ね
そういえばなにかの本で読んだことがある。
確か遺品整理とかゴミ屋敷をお掃除したりする……そうそう、特殊清掃。
その特殊清掃をお仕事にしておられる方が書かれたエッセイみたいな本を興味本位で読んだことがあるの。
特殊清掃というのは亡くなった人の部屋を現状回復することもあるお仕事で、そこにね、書いてあったのよ。
孤独死した方が死後数ヶ月後に発見された現場で、警察が現場検証を終えたあとに残っていたある物のことが。
当然ご遺体も警察署に搬送されたあとで清掃に入られたんだけど、なぜか大量のゴミの中にカツラがあったの。
ウィッグ
ごめんなさい、言い直します。
大量のゴミの中にウィッグがあったの。
でも今時ウィッグの一つや二つくらい持っている人も珍しくはないと思う。
わたしは持っていないけれど、コスプレイヤーさんたちなら持ってるでしょうし、そう考えると蟹江家にはあるかもしれない。
だってほら、カニやんの妹の海希さんは腐女子だからね。
でもコスプレはしないかもしれないし、ウィッグも持っていないかもしれない。
どっちでもいいけど
とにかく特殊清掃のために入った現場にウィッグが落ちていたの。
でもそのウィッグ、実はウィッグじゃなかったっていうね。
いったいなにを言っているんだと思われるかもしれないけれど、ウィッグじゃなかったのよ。
じゃあなんだったのかと言えば……
人の頭髪
一本や二本じゃないから毛髪ではなく頭髪と表現したけれど、でもたぶん合ってると思う。
いったいどういうことかと言えば、そもそも人間に限らず動物の体は死んだ瞬間から腐敗が始まる。
そしてだいたい一ヶ月くらい経つと、髪が頭皮ごと剥がれ落ちるらしい。
それがまぁウィッグみたいな形で残っていたということらしい。
で
なにが言いたいかというと、落ち武者の髪も、本当なら頭皮ごと剥がれ落ちてつるっぱ……ゲフゲフ……えーっと、その、頭蓋骨だけになるはずなのよ。
だから髪が残っているタイプの落ち武者は不自然というか、不正解というか……いえ、腐敗の仕方によってはあり得るのかしら?
う~ん……
なかなか難しいわね、落ち武者の頭髪の考察も。
でもきっと、頭皮もない頭蓋骨に直接兜を被るのは裸足で革靴を履くみたいなものね。
たぶんこれは合っていると思うの。
あとでカニやんにでも訊いてみようかしら?
とりあえず……
スカートの中を覗かないで!!
頭皮もなければ毛髪もない頭蓋骨だけど、ついでに眼球もない。
でも見られているような気がして……というか見えている設定よね、これって。
両手はスカートを押さえるのに忙しいので、やむなく海底から顎あたりまで出てきた頭蓋骨を蹴り飛ばす。
もちろん加減なんてしません。
する必要もないしね。
普通ならここで頭蓋骨は気前よく飛んでいくものだけど、飛ばないどころかビクともしないのが悲しいくらいの魔法使いです。
こういう場合は蹴った足が痛むものだけど、幸いにして衝撃はあるけれど痛みはない。
もう一つ、防具の損耗がないのも幸いだったわ。
靴も防具だからね。
これだけビクともしないと、通常なら攻撃した側のダメージのほうが大きいはずだから。
その点は助かったけど、スカートの下にズボンも穿いているけれど、スカートの中を覗くとかあり得ないんですけどっ?!
やーめーてーっ!!
「きゅ?」
不意にルゥの声が聞こえた……と思ったら次の瞬間にはロケットランチャーよろしく凄い勢いで飛んできて、わたしのスカートを覗く頭蓋骨に頭突き勝負を挑む。
もちろんルゥが勝者よ。
一撃必殺です。
飼い主の不甲斐なさを見事に挽回してくれる強さよ。
さすが!
本当にルゥったら可愛くて強いんだから。
なんと言ってもこのゲーム最凶の 【幻獣】 だもの。
しかも飼い主のピンチに飛んで来てくれるなんて、いつもいつも残念なAIなんて言ってごめんね……というのは謝り損でした。
だってルゥってば、実は頭蓋骨に代わってわたしのスカートの中に潜り込みたかっただけっていうね。
ちょっとルゥっ?!
ちょっと不謹慎に感じられたましたら申し訳ございません。
まぁそんな話もあるということで、そろそろグレイには浮上してもらおうと思います。
クロウたちのほうがどうなっているかというと・・・次話へw