788 ギルドマスターは歴史と老化に葛藤します
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まぁ結果として、ランサーさん(仮)はあくまでも(仮)でした。
正直、最後まで(仮)を取らなくてよかった……と思ったけれど、もちろんこれはわたしの胸に納めておきます。
絶対に言いません
とんだ人違いでは済まないくらいの勘違いで、恥ずかしすぎる。
お陰様で墓まで持っていきたい秘密がまた一つ増えました。
もうこれで幾つになるかわからないくらい秘密が増えてしまって、そろそろなんとかしないと。
実際に墓まで持っていく秘密を選別というか、厳選しなければならない日も近いんじゃないかと思う。
なにしろあまりにも多すぎて、すでに幾つか忘れてしまっているくらいだもの。
持っていける数も限られているしね。
記憶力の問題
しかもわたし、まだ24よ。
人生の折り返し地点にも全然届いていない年齢で、これからますます 「墓まで持っていく秘密」 が増える可能性は大きい……というか、絶対に増えます。
でも歳をとるごとに弱っていく記憶力でどこまで覚えていられるか?
衰える記憶力と増える 「墓まで持っていく秘密」 が、わたしの中で大絶賛攻防しております。
葛藤
カニやんがここにいたら 「そんなくだらないもん、さっさと全部忘れてまえばえぇねん」 とか男らしいことをイケメンで言うんだろうな……ん? そういえばカニやんはどこに行ったのかしら?
今回は同じ白軍のはずだけど、開戦直前に少し話してから音沙汰なしね。
また妹さんカップルに捕まって拘束でもされているのかしら?
別にいいけどね
見掛けはとってもイケメンなカニやんだけど、中身は超重火力だからね。
なぜか妹さんカップルにはよく捕まってるけど本当は超が付く重火力で、そのへんの剣士じゃ近づけない氷の貴公子です。
氷の貴公子
わたしの知らないあいだにそんな二つ名を付けられていたけれど、カニやん自身がどう思っているのかは不明。
いつも照れ隠しに逃げるんだもの。
ついでに今なにをしているかも不明だけどね。
ひょっとしたらこの二人なら知っているかも……と思ったけど知らないらしい。
「なんで俺らが知ってる前提やねん」
「火力だけはきっついから生きてるやろ?」
どうしているかは気にならないけど、火力は信頼してるんだ。
さすがというか、愛ね。
………………
「なに自分で言うて顔赤してんねん?」
「相変わらず百面相やな」
相変わらずルゥに苦戦を強いられているように見える二人だけど……うん、本当に少しずつHPを削られているけれど、まだまだ余裕で、しかもなんだかんだ言いながら少しずつわたしとの距離を詰めてきている。
ルゥはね、こういうところが本当に残念で全く気づいていないの。
それどころ余裕をかまして、ちょっとずつ二人のHPを削り落とすという悪役っぽいことをして楽しんでる気がする。
わたしも危うく見逃すところだったけれど……
「起動……」
このままわたしが気づかないことを二人は願っていたと思う。
だって気がついたら一瞬で形勢逆転だもの。
このゲームには大きく三つの職種がある。
剣士、魔法使い、銃士
ここに銃士はいないからちょっと脇に置いておくとして、一番人数が多くて人気があるのは剣士。
たぶんこの手のゲームではどこもそうだと思う。
この 【the edge of twilight online】 では近距離戦闘専門みたいな職種で、自身を危険にさらしながらも急所である首を一撃で落とすことが出来る。
臨場感と爽快感を一番楽しめる職種だと思う。
STRと適度なAGIもあるしね。
でも剣の間合いに相手を捉えないとほぼ攻撃出来ない。
この間合いはプレイヤー次第なところがあって、この二人を含めた高レベルプレイヤーはほぼほぼ一瞬で間合いを詰めてくる。
でもそれだってある程度近づかないと出来ないわけで、その間隙を突く射程に位置するのが魔法使い。
攻撃力を持たない回復系魔法使いと火力一辺倒の攻撃型魔法使いの二種類があるけれど、ほぼほぼ魔法使いは攻撃型魔法使い。
【素敵なお茶会】 のギルド規模で回復系魔法使いが二人もいるのはきっと稀だと思う。
そのくらい稀少な回復系魔法使いはともかく、銃士ほどの射程はなく、剣士ほど近づかなくても攻撃出来るのが攻撃型魔法使いの特徴の一つ。
もう一つが範囲攻撃ね。
弱点としては一撃で相手を落とすことが難しいことと、剣士の間合いに入るとほぼほぼ確実に落とされること。
これらを踏まえてわたしが取るべき行動は決まっている。
ルゥの攻撃を躱しながらの二人は少しずつしか距離を詰められない。
そして今、まさにわたしの射程に入っている。
さらにはこのまま見過ごすと、今度はわたしが二人の間合いに入ってしまう。
だから、ね
わたしの詠唱に気づいた二人は 「やば」 とか 「ちょ」 とか言いながら、折角詰めてきた距離を諦めて後退しようとする。
もちろんルゥを躱しながらだから思うようにはいかず、逆にわたしは (いける!) と思ったんだけど、かっさらわれました。
クロウに……
「業火」
詠唱を終えたわたしが 【業火】 を放った次の瞬間、燃えさかる焔に包まれて全身からHPを流出させる二人。
それでもなんとか少しでも後退を試みた柴さんだったけれど、ムーさんは剣戟を響かせながら足場にしている小舟の上で踏ん張る。
………………
ちょーっと待ってくれる?
つまり、なに?
さっき二人が焦ったのは……ほら、「やば」 とか 「ちょ」 とか言ってたじゃない。
あれはひょっとしてだけど、わたしの詠唱に焦ったのではなく、わたしのうしろにクロウを見て言ってたとか?
ちょっとっ?!
「両方や、両方!」
「おっとろしい二大巨頭見て怯えたんや!!」
慌てて取り繕わなくてもいいわよ。
どーせわたしなんてへっぽこ火力よ。
「どこがやねん!」
「柴、ヘルプ!」
「グレイ!」
「起動……焔獄」
「詠唱速すぎやろ!!」
どれが誰のセリフかはご想像にお任せいたします。
まぁだいたい見当がつくわよね。
「すまん、ムー!」
わたしの放った 【焔獄】 はヒットしなくてもOK。
柴さんを後退させて、クロウとムーさんの邪魔を出来ないようにするための牽制だから。
通常なら牽制程度に 【焔獄】 を使うのはMPの無駄遣いになるけれど、このイベント中はMP無制限だからね。
なるべく大きなのを撃って柴さんをビビらせないと意味がない。
機動力もHPも高いランカーだもの。
ちなみにこの1分足らずのあいだにルゥがどこでなにをしていたのかと言えば、クロウの足に噛みついていたっていうね。
それこそ一瞬で標的を変え、迷いなくクロウの足を狙ってバックンよ。
ほんと、どんだけクロウが嫌いなのよ?
「そら果てしなく嫌いやろ」
「女王のこと大好きすぎるワンコやからな」
そんなルゥが足に噛みついていたから次手の反応が遅れたクロウ。
だからムーさんが柴さんにヘルプを出すのを見て、クロウもわたしに援護を求めたっていうね。
そうでもなければこの状況でわたしの出番なんてないもの。
……あ!
あったわ、もう一つ。
ついうっかり忘れるところだったわ。
少しいじけそうになったけれど、わたしにしか出来ない大役がありました。
そうとなれば早速役目を果たさないとね。
「ルゥ、おいで!
抱っこしてあげる」
そう、クロウの邪魔にならないようにルゥを回収すること!
誰がなんと言おうとわたしにしか出来ないとっても重要な役目です!
どんなに波の音がうるさくても、周囲のプレイヤーたちが上げる喚声が大きくても、ルゥはわたしの言葉は聞き逃さない。
毛がフッサフサに生えた大きな耳がぴくっと動いた……と思ったら、クロウをペッと吐き出す。
それはそれはまずい物を食べてしまったとでも言わんばかりで、さすがのクロウも苦笑を禁じ得ないくらい。
ごめん、クロウ
悪気がないのが一番質が悪いと言うけれど、ルゥはAIだからね。
お仕事が出来る上司様は理解もあって、懐も深いというか、広いというか。
しかも今はムーさんと斬り結んでいる真っ最中で、柴さんの邪魔が入る前に片を付けたい状況です。
ルゥが足から離れた瞬間に取り戻した機動力を生かし、ムーさんを片付けるべく愛剣・砂鉄を豪腕で振り切る。
そのあいだもわたしは柴さんの足止めをしなければ……と思ったのに、ルゥがやってくれました。
いえ、わたしが油断したと言うべきね。
ルゥは悪くない
「きゅ~♪」
抱っこしてもらえると思ったルゥが張り切って戻ってきたのはいいけれど……それこそゴム鞠のように、波間に浮かぶ小舟の上を跳ねてわたしのほうに戻ってきたと思ったら、顎を割られました。
おぐっ!!
目の前に星が飛びました。
痛みのあまり、変な声がでました。
「あ、女王!」
「グレイ!」
「あちゃ~」
そんなクロウたちの、三人三様の声が遠くに聞こえてくる。
でも続きは激しい水音に掻き消される。
顎を割るルゥの頭突きが勢いよすぎて水に落ちたっていうね。
もちろんルゥも一緒に。
でも今って夜時間なのよね。
そう、夜時間なのよ……
いつものように高いストーカー力(笑)を発揮して駆け付けたクロウですが、ルゥからの嫌われっぷりは相変わらずw
同じ白軍なのでダメージは出ませんが、クロウだけ顎ではなく噛みつき攻撃になる理由は不明です。
そして夜の海に落ちたグレイはどうなるっ?!