785 ギルドマスターは被ダメと与ダメで棒高跳びをします
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「初めまして。
わたしは 【素敵なお茶会】 というギルドを主催しているアールグレイといいます」
こうやってちゃんと名乗るのも久しぶりね。
この状況でちょっとした感慨に耽るわたしもわたしだけど、ランサーさん(仮)もちょーっとね。
こちらがちゃんと名乗りを上げているのに……
「お前なんて首切り女で十分!」
すっごく偉そうにそんな返しをされました。
失礼ね、ちゃんと名乗ってるのに。
でもたまにいるわよね、人の名前を覚えるのが苦手な人。
ランサーさん(仮)もそうなのかしら?
そう思えば腹も立たないけれど、たぶん違うからやっぱり腹が立つ。
だってこの返しは、どう考えても覚える気が端からないって感じじゃない。
やっぱり失礼だわ。
しかも名乗り返してくれないから(仮)を取ることが出来ないっていうね。
いい加減面倒になってきたけれど、自分で決めたことなので仕方なく続けるわ。
「お? なんだ、ヘボい魔法使いらしくなったじゃないか。
もうさっきの刀は使わないのか?
まぁ使ったところでダメ0だもんなぁ」
わたしが屍鬼から杖に換装したことに今頃気づいたらしい。
でもだからって、これで 「首切り女」 じゃなくなったなんて思わないでね。
まだ斬れるから……というか、斬るつもりだから。
そもそもいくらわたしが魔法使いだからって、さすがに与ダメ0はない。
基本パラメーターというのは職種に関係なく、レベルが上がればその基本パラメーターに従って魔法使いだってSTRが上がる。
ただ剣士はポイントや装備を使って基本パラメーターを遙かに上回る数値でVITを上げているから、たいした被ダメが出ないってだけよ。
0ではない
しかも剣士はHPも高いしね。
だから総合的に考えてたいしたダメじゃないってことで被ダメ0を誇張されがちだけど、あくまでも0ではない。
それこそHPゲージが真っ赤ならとどめを刺せるんだから。
まぁランサーさん(仮)もわかっていて言ってるんだろうけど。
だからわたしもわざわざ指摘したりしないけど。
余計なことを言えば言うほど相手に、煽り文句とか機会を与えるようなものだからね。
そこは大人の余裕でスルーするわ。
見た感じ、ランサーさん(仮)もあまり変わらない歳だと思うけど。
でもだからって、わたしに屍鬼はもったいないから渡せと言われても渡しません。
そもそも屍鬼はわたしの物ではないし。
クロウのものです
折角同じ白軍になったのに、そのクロウの姿が全然見えないのが残念です。
もっとも、いま来てくれてもランサーさん(仮)はわたしの手で落としてあげるけど。
こう……なんとなく?
そう、なんとなくそうしたくなったの。
だから落としてあげる。
絶対落とす!!
もちろんわたしが落とされる危険は十分にあるというか、十二分に承知です。
覚悟を決めて杖を握り直すわたしを見て、ランサーさん(仮)はニヤリと笑う。
ああ、もうなんか腹が立つ。
これはあれね。
あばたもえくぼ
……あ、違った。
これは真逆じゃない。
えっと、正解は……
坊主憎けりゃ袈裟まで憎い
たぶんこっちよ。
ひょっとしたら違うかもしれないけれど、ランサーさん(仮)が憎けりゃ笑顔でも憎いみたいな?
まぁそんなちょっと黒めの感情です。
お坊さんや袈裟に恨みはないけど。
「覚悟!」
そう声を上げたランサーさん(仮)は、また小船の底に槍の切っ先を突き立てて棒高跳びの要領で大ジャンプをし、わたしの乗る小舟に飛び移ってくる。
でも棒高跳びだと、バーを飛び越える時に棒は向こう側に押し戻す。
そうしないと、下手をすると棒がバーを落としてしまうからね。
ランサーさん(仮)の場合、そうすると武器を手放してしまうことになる。
もちろんそんなことはしないわよ。
開戦直後の混乱の中で、詠唱が出来れば攻撃出来る魔法使いならともかく、物理攻撃が主力の剣士が丸腰になるなんてあり得ない。
………………
そうね、ノーキーさんとか、ちょっとアレな人ならわからないけど……いえ、うちの脳筋コンビなんかも……JBもね、その、変な縛りプレイでそういうことをやりそうだけど……素手縛りとかね、まぁそういう激ヤバプレイとかやりかねないけど、たぶんランサーさん(仮)はそこまでのレベルではないと思う。
だから武器は手放せない。
案の定、わたしの予想通り棒高跳びなら棒を手放すだろうタイミングで、船底に突き刺した切っ先を引っこ抜いている。
そしてそのまま……ちょっと手許を見損なったけれど、たぶん持ち替えた。
長い槍をうしろから大きく振り回し、頭上からわたしの頭を目掛けて殴りかかってくる……と見せかけて突いてきた。
以前トール君から、槍は突くだけでなく殴ることも出来る武器だって話を聞いていたから注意して見ていた。
どちらで攻めてこられても対応出来るようにね。
とっさの事態には対応出来ないけれど、あらかじめ予測していればなんとか……うん、ギリギリで躱せました。
被ダメ0
ギリギリとはいえ、掠りもしなければダメージは出ない。
被ダメ0っていうのはこういうのを言うのよ!……と思っても口には出さないけどね。
また煽ってくると思ったわけではなくて、そんな余裕がありません。
もちろんわたしに、です。
ランサーさん(仮)がクロウや脳筋コンビ、ノーキーさんとかノギさんとか、あのへんの激ヤバレベルの剣士ではないとはいえ、魔法使いが寄られれば落とされる運命なのは変わらないから。
この売られた喧嘩は、最低でも引き分けないと買った意味がないというか、わたしの気が済まないというか。
ぶっ○します!
杖を使って真っ正面から突いてくる槍を払いのけたわたしは、ちょっと足下をふらつかせながらも次手に備えようとしたけれど……けれど、その……転けました。
でもそのおかげでランサーさん(仮)の次手が空を切りました。
ザマァ!!
……ちょっとキャラじゃないわね。
無理をするとキャラ崩壊しかねないので自然体に戻します。
そのまま船底を転がってランサーさん(仮)から離れ、改めて杖を支えに立ち上がる。
「やるじゃん」
「そう?」
不遜な顔をするランサーさん(仮)に対して、わたしも大見栄を切って不敵に笑ってみせる。
内心じゃ、全然笑ってないというか、実際に不敵に見えたかどうかはわからないけれど、精一杯の見栄を張ってみせる。
こういう駆け引きで負けてちゃ運も逃げるじゃない。
わからないけど
でもなんとなくそんな気がしたから精一杯の見栄を張って返してあげる。
「さっきのワンコ、呼んだらどうだ?
まずはあいつからぶった斬ってやるよ」
「無理よ」
あ、ごめんなさい。
あまりにも奇天烈というか、無謀というか。
まぁそんなことを言い出すから、わたしも思わず素で返してしまった。
だってルゥを斬るなんて、きっとクロウだって難しいと思う。
それなのに、未だわたしにとどめを刺すどころか与ダメ0のランサーさん(仮)に出来るはずがないじゃない。
たぶんノーキーさんやノギさんだって難しいわよ。
真田さんだって、不破さんだってね。
脳筋コンビにいたってはカニやんが悲しむからルゥに剣は向けない。
だってほら、あの二人はカニやんが大好きだから。
カニやんに止められるまでもないわ。
そもそもランサーさん(仮)ったら、槍で斬るのはちょっと難しいと思う。
やっぱり前にトール君が言っていたけれど、槍は突くか殴るかよ。
刃の部分が短刀くらいしかないじゃない。
それでプレイヤーを斬るのはどうなの?
それこそこのゲームの絶対的な弱点である首も難しいと思うわ。
「あたしを馬鹿にしてるわけ?」
もちろん違います。
強いていえば、ランサーさん(仮)の顎を守ってあげてるんだけど?
気づいていないみたいだけど、さっきからわたしたちの周りで、何人のプレイヤーがルゥの痛烈な頭突きで顎を割られたと思ってるのよ?
あの変幻自在な攻撃と俊敏さをかわせるプレイヤーなんて、このゲームに何人もいないんだから。
当然ながら、飼い主のわたしはかわせません。
速さについていけないのはもちろん、あの可愛いフォルムや短い足とか、ついうっかり見とれてしまって……ええ、もちろん見とれる間もなく割られる時のほうが多いけどね。
もちろんランサーさん(仮)が顎を割られたいというのなら止めはしないけど、今はダメ。
なぜならわたしが落とすからです。
絶対ぶっ○す!!
申し訳ございません、久々の更新となりました!
半月も空くとか本当に申し訳ない限りですが、これからもお付き合い頂ければ幸いです・・・というか、是非ともお付き合いくださいませぇ~ (*꒪ཀ꒪)و
グレイの狙いはもうおわかりと思いますが、このまま思惑どおりにランサー(仮)を落とせるのか?
ちなみにこれは二日目の第三戦。
つまり夜時間です。
アレがいつ発動するか?
それともこのまま発動せずに終わるかっ?