781【番外】sideカニやん v.s. バカップル
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「ゆーたぁー!!」
開戦を知らせる法螺の音とともに……いや、法螺の音を掻き消して響く聞き慣れた声……というよりも、聞き飽きた声と言ったほうがいいかもしれない。
おかげで誰か? ……なんてカニやんには考えるまでもなかった。
それこそ誰か? なんて考えるまでもなくわかる声であり、考えるのも嫌になるほど聞き飽きた声である。
「マジなんやねん、お前ら!
しつこいっちゅうねん!!」
またしてもの遭遇……いや、もうここまで来ると遭遇ではない。
故意である。
例え本当に偶然であったとしても、ここまで偶然が重なればもう故意だろう。
未必の故意
いや、少し違うかもしれない。
陣分けは、おそらく運営が意図して火力が対等になるようにしている可能性は十分にある……というか、おそらくそうしているだろう。
ワンサイドゲームではプレイヤーが白けてしまうから。
だが転送位置はほぼランダムのはず。
だからこそとんでもなく不遇な位置に転送されることもあるのだが、今戦でのカニやん自身の転送位置はそう悪くない。
少なくとも不遇な位置ではない。
それなのになぜか発見されてしまうのである。
「汚兄様、覚悟!」
「するか、ボケ!
スパーク!」
近寄られれば落とされるのが運命の魔法使いだが、それは相手が剣士の場合である。
では魔法使い同士ではどうなるか? ……といえば、火力と戦略がものを言う。
もちろんこの場合の魔法使いは、回復系魔法使いではなく攻撃型魔法使いのこと。
そしてカニやんを 「汚兄様」 と呼ぶのは、このゲームではただ一人。
【3年B組ドンパチ戦線】 通称 【3B】 と呼ばれる問題ギルドの主催者であり、カニやんと同じ攻撃型魔法使いでもあるホリー。
本名は堀居
下の名前は不明だが、ほぼほぼ本名をアバター名にする彼は正面からカニやんに突っ込んでくる。
なぜか両腕を広げて……。
ひょっとすると着地点にいるカニやんに抱き留めて欲しかったのかもしれない。
だが彼に 「汚兄様」 と呼ぶことを許していないカニやんが抱き留めるはずもなく、かといって詠唱を始めて迎え討つわけでもなく。
【スパーク】 で力任せに吹っ飛ばすと、悲しいかな、VITを持たないホリーは見事なくらい吹っ飛ばされる。
しかもカニやんとはレベル差もあるから、本来はほぼダメージの出ないスキルであるにもかかわらずHPを流出させながら……。
だがこれで一件落着とならないのは、そもそもホリーは囮だからである。
やはりこのゲームでただ一人、カニやんを本名の優歌と呼ぶ大本命が吹っ飛ばされたホリーと入れ替わりに姿を現わす。
蟹江優歌
それがグレイには 「名前までイケメン」 と言われているカニやんのフルネームである。
「優歌、覚悟!」
「だからせぇへん言うてるやろ、このボケェ!
スパーク!」
いつもは面倒見がよくお人好しのカニやんが、加減せず、容赦を忘れて叩きのめすバカップルの片割れが、やはり 【スパーク】 を正面から受けて吹っ飛ばされる。
蟹江海希
言わずと知れたカニやんの実妹であり、カニやんの本名をバラした張本人でもある。
しかもホリーの彼女にして腐女子で、やはりホリーと同じくミッキーという、ほぼ本名と変わらないアバター名を使っている。
「起動…………雪月花」
気前よく吹っ飛んだホリーと比べれば、VITを持っているミッキーは思ったほど吹っ飛ばない。
彼女は剣士だから。
当然魔法使いのホリーよりVITは高く、ひょっとしたらカニやんよりも高いかもしれない。
けれどレベル差があるため、同じ剣士でも、押し戻されることはあっても吹っ飛ばされることのないノギやノーキーたちのようには堪えられない。
(あの人ら、グレイさんの 【スパーク】 でも吹っ飛べへんもんな)
それを思えばましだが二対一である。
レベル差では補いきれない火力差がある。
いや、二対一でも、この二人が相手なら火力はカニやんのほうが高いかもしれない。
だが機動力には明らかな差がある。
近寄られれば落とされる運命の魔法使いにとって、その天敵である剣士と接近戦をすること自体が無謀であった。
しかも 【スパーク】 を使って接近を阻むのにも限度がある。
例え 【スパーク】 が無詠唱スキルであっても、限度がある。
だからホリーを思い切り吹っ飛ばし、ミッキーを一人にして 【スパーク】 で接近を阻みつつ確実にHPを削る。
ホリーと同じく馬鹿正直に正面から突っ込んだミッキーは、やはりカニやんの放った 【スパーク】 を真正面から受けて吹っ飛ばされたが、VITのおかげで隣の小舟に転がり落ちた。
すかさず立ち上がって剣を構えようとしたところで、カニやんが続けて放つ単体の氷結魔法 【雪月花】 を正面から食らう。
「お前ら、どうやって俺見つけとんねん!
このクソどもが!
起動……」
「え? どうやってって……勘?」
「……百花繚乱」
「ちょ……優歌!」
「うるせぇ。
起動……」
「ミッキー、そこはやっぱり愛って言わなきゃ。
勘なんて、そりゃ汚兄様も面白くないよ」
派手に吹っ飛ばされて海に落ちたホリーがようやく浮上してきたらしい。
カニやんの乗る小船の縁から顔を出してミッキーに話し掛けるが、詠唱途中で振り向いたカニやんが……
「氷雪乱舞」
「ぶはっ!」
「スパーク!」
船縁から出した顔面にカニやんの 【氷雪乱舞】 を食らって声を上げるホリーを見て、隙あり! とばかりに斬り掛かろうとするミッキーだが、改めてカニやんの 【スパーク】 で吹っ飛ばされる。
そしてここでホリーのほうが反撃に出る。
「スパーク」
「き……ぃ!」
詠唱を続けようとしたカニやんだが、横手からホリーの 【スパーク】 を食らい靴裏が船底を離れる。
そのまま海に落ちる……と思ったが、すかさず腕をつかんで引っ張り上げられる。
だが安心は出来なかった。
なぜなら腕をつかんで助けたのがミッキーだからである。
「へっへー!
つっかまえたぁ~」
その楽しそうな笑みを見てカニやんは嫌な予感を覚える。
なぜならこの二人には前科があるからである。
そしてその被害者はカニやんだったから当然だろう。
「お前……またろくなこと企んでへんやろ!」
「人聞き悪いなぁ」
兄妹の不穏な会話をよそに、再び船縁から顔を出したホリーが 「これぞ麗しき兄妹愛」 などと言っていたけれど、カニやんは彼を完全に無視。
助ける振りをして腕をつかんだまま放さない妹のミッキーを睨み続ける。
「まずはありがとうでしょう?
優歌ってば、子どもでもわかることだよ」
「うるさいわ!
さっさと目的言うてみぃ!」
「優歌のタマタマ!」
間髪を入れず返されたミッキーの、予想外の答えにカニやんは脳みそが機能停止。
だが危機管理能力が働いたのだろう。
わずか数秒の停止に留まり、即座にフル回転。
そして答えならぬ反応を返す。
「俺の○玉みたいな言い方すんなっ!!」
「だって優歌のタマタマでしょ?」
「だからその言い方、やめぇ!」
「朝会った時、女王陛下の犬がいたでしょ?」
またしてもホリーが横から割り込んでくる。
「あとで思い出したんですよ」
「そうそう!
それで陛下のワンコがいるなら優歌のタマタマもいるはずじゃん。
……と思って会いに来ましたー!!」
さっそくモフるべく 「で、どこ?」 と居場所を聞き出そうとするミッキーは、おそらくわざとだろう。
またしても 「優歌のタマタマ」 と繰り返す。
「せやからそれ、やめぇ!」
今回のイベントでは不参戦を決め込んだカニやんの愛猫タマ。
そのことで落ち込んだカニやんですが、さすがのバカップル。
知らないとはいえ、傷口に塩を塗りに登場。
このあとの二人の運命は……ご想像にお任せいたしますw