表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

78/806

78 ギルドマスターはクエストを手伝います

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

「アールグレイ、ログインしました」

『あの、グレイさん』


 インカムからみんなの挨拶が返ってくる中、そんなに申し訳なさそうな声を出さなくてもいいのにっていうくらい、申し訳なさそうなトール君の声が話しかけてくる。

 またなにか相談事だと思うんだけれど、わたしが話の先を促す前にクロエの声が割り込んでくる。


『トール君、このあいだのこと、忘れてないよね?』


 同じく挨拶に混じってクロエの声が聞こえてきたんだけれど、それ、なんの牽制?

 たぶん言っている 『このあいだのこと』 はきっと、クロウに内緒で地下闘技場に行ったことだと思う。

 いいじゃない、結局わたしがクロウに拳骨落とされたんだから。

 クロエが落とされたんなら牽制したくなるのもわかるけれど、痛い思いをしたのはわたしです!


『あ、はい、大丈夫です。

 あの、今日は普通のことなので』

『普通ってなに?』


 なんだかいつになく絡むわね、クロエってば。

 普通っていえばこのあいだの地下闘技場のことだって、普通にクエストだったわけだけれど……あ、報告に行くの、忘れてた……。

 基本的にエピソードクエストは、ナゴヤドームの長官室にいるNPC長官に報告をしてクリアになる。

 だからまだわたしのウィンドウにはラストのエピソードクエスト 【フェイトに挑戦しよう!】 が残っていた。

 せっかくクリアしたのに、なにやってるのよわたしってば。

 これは後で報告に行くとして、まずはトール君の話を聞かなきゃね。

 やたらしつこくクロエが絡んでうるさいんだけど。


『その、クエストなんですけど』

『このあいだもクエストだったよね?』

『はい。

 今回はフチョウかトチョウに付き合ってもらえたらと思って……』


 あら、いいじゃない。

 フチョウでもトチョウでも行く行く。

 わたしはどっちでもいいわよ~……ってウキウキなんだけれど、まずはクロエをなんとかしなくちゃ。

 思えばクロエは、はじめの頃からトール君には少し厳しかったような気がする。

 性格が合わないとかそういうのではなさそうなんだけれど、クロエにしては珍しく当たりがきついように思う。

 その理由はともかく……と思っていたら、今回は理由があったみたい。


『じゃ、フチョウにして。

 いいよね、グレイさん』


 なんでクロエが決めるのよ?

 うん? クロエも一緒に行くの?

 フチョウに採取アイテムはなかったと思うけれど……もちろんドロップはあるけれど、何かの素材になりそうな物はなかったはず。


『違うよ、行くのは僕じゃなくてぽぽ』


 ああ、つまりぽぽもクエストね。

 しかもフチョウを指名してくるってことは、トチョウは終わってるってこと?

 うん、まぁどちらでもわたしはかまわないわよ。

 トール君とぽぽが一緒でよかったらわたしは全然かまわないし、たぶんクロウも。

 一応ご機嫌を伺うように見上げてみたら、クロウもこっちを見返してきた。

 うん、今日も格好いい……じゃなくて……あ、もちろん格好いいのよ。

 でも今はそういうことじゃなくて、こっちを見返してきて 「好きにしろ」 だって。

 どうせ一緒に来るだろうから、あと一人……クロエ、来る?


『フチョウは銃士(ガンナー)二人は向かないでしょ。

 ピエロなんて範囲攻撃ないと厳しいし』


 仰ることごもっとも。

 ということでそのままクロエはくるくると樹海で遊んでるって。

 パーティーは五人まで組めるからあと一人、希望者がいれば……と思ったんだけれど、ちょっと思いついた。


「恭平さん、いる?」

『なんですか?』


 ハルさんの紹介で 【素敵なお茶会】 に入ったばかりの恭平さんはまだお試し期間なんだけれど、なぜかまだわたしは直接会ったことがない。

 あまり言いたくないというか、認めたくないというか……わたしの気のせいでなければ、思いっきり避けられてる……たぶん。

 以前から知り合いのカニやんとか柴さん、ムーさんとかは普通に遊んでいるらしいんだけれど、【素敵なお茶会】 に入ってから知り合ったわたしやクロウとか、クロエなんかを避けているような気がする。

 クロエはあの性格だから全く気にしていないみたいで、そもそも今は樹海通いにはまっていて同じ銃士(ガンナー)とばかり遊んでいる。

 クロウはだいたいわたしと一緒にいるから……やっぱり避けられているのはわたし?


 なぜ?


 これ、ハルさんに訊いたらなにか教えてくれる?

 今も呼び掛けには応じてくれたけれど、フチョウ行きをお誘いしたらさっくりと断られた。

 一緒にどこかのダンジョンに潜っているらしい脳筋コンビが珍しく気を利かせて 「行って来いよ」 とか言ってくれていたんだけれど、なぜか恭平さんは頑としてお断り。

 どうして?

 恭平さんとは会ったこともない知らない人なのに……


『一人空くなら俺が行く。

 カニ、ログインでーす』


 そ、そう……わかった。


『なにグレイさん、その不満そうな声。

 俺じゃ嫌ってか?』


 違う!

 どうしてそうなるのよ?

 カニやんってば、わかっていて言っているでしょう!

 ほんと、性格悪いんだから。


「それ、クロエも言ってましたよ」


 結局ログインしてきたばかりのカニやんを含めた五人で行くことになったんだけれど、銃弾の補充に来たぽぽとナゴヤドームで合流。

 もちろんクロエが言っていたのはカニやんの性格が悪いってことじゃなくて……うん、それも以前から言ってるんだけれど、今は恭平さんがわたしを避けてるんじゃないかって話ね。

 クロエ自身も避けられてるんじゃないかってことはこれっぽっちも気にしてないらしくて、クロエらしいといえばクロエらしい。

 銃を肩に担いだぽぽは、そういいながら少し笑っていた。

 もちろんカニやんも気づいてはいるけれど、理由に心当たりはないらしい。


「恭平は 【シシリーの花園】 でサブマスをしていたらしくて、シシリーに対しては当然腹を立ててるんだろうけれど、どうなんだろうな?」


 本当にカニやんもよくわからないって感じ。

 これはハルさんに訊いてみるしかないかな?


「ただクロエが言うには、グレイさんが嫌いなら、春雪さんのお誘いとはいえ 【素敵なお茶会】 には入らないんじゃないかなって。

 今、結構色んなギルドがあるし、わざわざ 【素敵な(嫌いな人が)お茶会(いるギルド)】 を選ぶ必要もないわけだし」


 それこそ無理をしてまでギルドに所属する必要もない。

 すでに恭平さんはレベル30を越えているから、ソロでもやっていけないこともないし。

 じゃあどうして?

 余計にわからなくなってきた。


「あの……まさかとは思うんですが、サブマスになりたい、とか?」


 本当に自信がなさそうなトール君とはフチョウ前で合流した。

 恭平さんが以前のギルドでサブマスだったとはいえ、新設のギルドならともかく、【素敵なお茶会(うち)】 みたいにそこそこ古いギルドが新規加入者にいきなりサブマス権限を与えるなんてこと、まずしないでしょ?

 そもそも恭平さんはまだお試し期間で、正式に加入が決まったわけでもない。

 そこそこギルドメンバーに対して干渉出来る権限を持つサブマスに任命するには、早すぎるというか、早計すぎるというか……。

 万が一にも権限を振りかざすような人だと困るもの。

 今のところ恭平さんにそんな感じはしないけれど、インカムを通した声しか知らない相手を信用するには、やっぱり早すぎると思う。

 少なくとも小心者のわたしには無理。

 もし……もし恭平さんがそれを望んだとしても、たぶん三人のサブマスの同意がなければ拒否するべきよね。

 わたしの一存でクロウ、クロエ、カニやんをサブマスに任命したあの頃とは状況が違いすぎるもの。

 あの頃はたった四人しかいなかったギルドも、今は二十人を超す大ギルド。

 ランカー揃いの重火力ギルドとして注目度も高くて…………なんだか考えたら怖くなってきた。

 今更だけどクロウ、主催者(マスター)を代わって……くれないわよね……ケチ。


「たいがいの我が儘はきいてくれるクロウさんも、それだけはきいてくれないんだ」


 少しクロウをからかうようなカニやんは、肩をすくめてにひって笑う。


「当たり前だ、面倒臭い」


 ねぇクロウ、それだけが理由ってひどくない?

 面倒臭いのはみんな同じなんだから、いっそクロエ、カニやんも入れて週替わりで主催者(マスター)をしない?


「相変わらずぶっ飛んだ身勝手を言い出す人だな。

 俺は絶対にお断り。

 だいたいあの連中が俺のいうことなんてきくかよ」

「別に言うことなんてきかせなくていいじゃない。

 みんな好き勝手に遊んでるんだから」

「その好き勝手のケツを持つ自信はありません」


 なによ、それ。

 このパーティーチャットでの会話はこの五人だけの内緒話。

 ぽぽからクロエの耳には入るんだろうけれど、それはたいした問題じゃない。

 それじゃトール君とぽぽのエピソードクエスト、フチョウ攻略を始めましょうか。


「一つ、提案があるの」


 トール君はレベル21、ぽぽは少し上の25。

 だったら大丈夫と思ってわたしが提案したのは早い者勝ち。

 いつもはクエストの主賓を優先させるんだけれど、今回は早い者勝ちで敵を倒していいってことで攻略しようというもの。

 つまり遠慮無しってことね。


銃士(ガンナー)のぽぽはともかく、トール君は少しでも前に出ないと全部グレイさんが溶かしちゃうってこと」


 カニやんの説明にぽぽは苦笑い。

 だって銃士(ガンナー)が前に出ることはないもの。

 前衛より先に敵を射程に捉えられる銃士(ガンナー)は、距離をとって、その速さと正確さで敵を落とす。

 ただ今回はクロウがいるから、それこそクロエでもそう簡単にはいかないんだけれど、ぽぽだともっと難しいかもね。

 でもPKは出来ないから……誤射されたら衝撃や痛みはあるけれど、HPは減らないから安心してどんどん攻めて。

 出遅れる傾向があるトール君にはもっと大変だと思う。

 ぽぽの射程より早く敵を自分の間合いに入れなきゃならないから。

 その上でクロウと敵の争奪戦。

 これはわたしでも大変なんだから。


「じゃ、俺が殿(けつ)を持てばいいわけだ」

「よろしく」


 殿(しんがり)はわたしが務めてもいいんだけれど、せっかくの申し出なので受けることにする。

 カニやんてば 「楽が出来る」 なんて笑っていたけれど、本当は全然楽な役じゃないし、カニやんもわかってるはず。

 でも殿をカニやんから申し出てくれたってことは、お役目はお任せってことでスタートしましょう!

 趣旨を理解したトール君もぽぽも結構いい調子でスタートしたと思ったんだけれど…………うーん、まぁ予想どおりの経過かなぁ~?

 ぽぽはそこそこ撃てているんだけれど、焦るあまり照準が甘いというか、手ぶれが凄いというか、結構トール君やクロウを誤射している。

 落ち着いて撃てる状況ならもっと高い確率で当てられるんだけれど、今回は早い者勝ちだから瞬時に標的(ターゲット)を見つけて照準を合わせ、撃つ。

 一番攻撃行動(アクション)が速い銃士(ガンナー)の特性を最大限に生かさないと、見事に競り負けちゃうのよね。

 あ、ほらまたトール君を……ぽぽってば結構小心でわたしは親近感を覚えるんだけれど、イベントじゃポイントにつながらなくて苦労すると思う。

 特に個人戦だと厳しいからもう少し頑張ってね。

 トール君にいたっては………………頑張れー!

 完全にクロウに出遅れちゃってて、おまけに相変わらず大斧に振り回されちゃってて。

 セイウチ(仮)にはまたボールを模した設置型火焔魔法ファイアーボムを放り投げられて、しかもとっさにそれを拾いに行っちゃうし……つまり相変わらずNPCにからかわれ、猿にも逃げられ、巨大象には追いかけ回され……なんだか楽しい。

 見ている分には凄く楽しい。

 あまりにもトール君が楽しくて、見るのに夢中になっちゃって途中で何度か出遅れてクロウに怒られた……。


「グレイさんも懲りないね」


 後ろから来るカニやんにまで呆れられちゃった。

 え? でもトール君、面白いじゃない。


「確かに面白いけど、トール君の場合、武器が合ってないんじゃない?」

「そう思う?」

「思う」


 カニやんがあまりにも力強く肯定するものだから、あとでクロウにも相談してみようかと思ったら、その前に一つの確信的事例が起こった。

 このフチョウのラスボス、屋上に現われるピエロ戦でのこと。

 虚像と実体がない()ぜに現われるピエロをひたすらに叩き続け、最後に残る一体だけの実体。

 それがトール君の背後に現われたんだけれど、大斧に振り回されるトール君は完全に振り遅れた。

 ピエロが振るう湾曲した剣がトール君の首を落とす直前、クロウの大剣・砂鉄がピエロを切り裂き、カニやんが発動させた魔法(スキル)がピエロを溶かす。


「最後にやっと俺の仕事かと思ったのに、クロウさんに負けた」

「二人とも美味しいところ取り」


 ちょっと茶化してみたら、カニやんったらにひっと笑って 「ご馳走様でした」 だって。

 ま、これが今回のカニやんの仕事だったんだけど。


「すいません、クロウさん、カニやんさん」


 疲れ切ったトール君は両手に持った大斧の先端を床に着け、ホッと息を吐いて安堵。

 カニやんのいうとおり、やっぱりトール君には大斧が重い気がする。

 クロエと同じように、エリアの境界を背に昇降口前に陣取っていたぽぽもホッと一息。

 構えていた銃を下ろし、銃口を床に向ける。


「二人とも速くて、追いつけません」

『なに言ってるのさ、ぽぽは。

 近接と中距離に負けてちゃ、銃士(ぼくら)の出番なんてないじゃん』


 ぽぽにはクロエからの叱咤激励があったから、わたしたちは一緒に苦笑いを浮かべるだけ。

 でも最後をクロウとカニやんに助けられたトール君は、やっぱりばつが悪いわよね。

 そっちのフォローはカニやんにお任せ。


「俺は楽が出来て経験値だけもらえてよかったかな。

 最後の一仕事でクロウさんに負けたのは癪だけど」

「いえ、でもあそこで助けてもらえなかったら俺……」

「その時はもう一回ってだけでしょ。

 ぽぽはクリアだけど。

 ま、そうならないようにするのが今回の俺の仕事だったから」


 そうなの。

 わたしとクロウでぽぽとトール君を煽るだけ煽ってムキにさせて、でも落ちないよう安全装置としてカニやんが二人をこっそりフォローしていたの。

 わたしかカニやんのどちらかが殿(しんがり)っていう最初の話は、カニやんもヒール程度の回復は持っているから。

 回復が必要なほど二人とも削られはしなかったけれど……そこまで敵を回さなかったからね、わたしとクロウが。

 だから回復はしていないけれど、途中でも何度か、さりげなく二人をフォローしてくれていたんだけれど、必死になりすぎて二人は気づいていないみたい。

 最後のあの場面でクロウがカニやんより速かったのは、たぶん、クロウはいつもどおりに動いただけだと思う。

 だってクロウだもん。

 こうやってメンバーのクエストのお手伝いをするのは、わたしたちにとってなんでもないいつものこと。

 けれど恭平さんには引っかかりを覚えることだったみたい。

 だから断ったんだけれど……とりあえずトール君とぽぽは中部東海エリアに戻って、ナゴヤドームでNPC長官に報告に行くっていうの。

 だったら私も行く!

 【フェイトに挑戦しよう!】 のクリア報告をまだしてなかったのよね。

 二人が報告に行くっていうのを聞いて思い出すまで、また綺麗さっぱり忘れてました。


「は? まだ報告してない?

 あれだけムキになってクリアしたのに、まだ報告してないって……あんたね……」


 ちょっとカニやんには呆れられちゃった、へへ。


お読みくださいます皆様のおかげをもちまして、先日、VRゲーム【SF】部門の日間ランキングで79位に入ることが出来ました。

本当にありがとうございます!

作品としてはまだまだ拙く誤字脱字に修正だらけではございますが、これを励みにこれからも頑張っていこうと思います。

どうぞ、よろしくお付き合いくださいませ。


                    2020/04/05 藤瀬京祥

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[気になる点] プレーヤー→プレイヤーかと思います。 [一言] 面白すぎて更新が待てないんです。どうしてくれるんですか?w
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ