778 ギルドマスターは黒星で顎を割られます
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期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 2日目第一戦は紅軍の負け。
敗北です。
初黒星です。
でもまぁ今回のイベントは団体戦だからね、こればかりは仕方がない。
おそらく両軍の火力は対等になるよう運営も配慮しているはず……というか、おそらくそういうプログラムで陣分けされているはずだけど、結局団体戦だと個人がどんなに奮闘しても負ける時は負ける。
敗戦です
まぁそういうものですよね。
というわけで初めての敗戦を味わったわけですが……
「いや、あんた今回はほとんどなにもしてへんやん」
「ほとんどっていうか、なんもしてへんやん」
「ワンコは頑張ってたけどな」
余計なお世話です!
ほんっと、この三人はいつもうるさいんだから。
そもそも柴さんが言ったんじゃない、ルゥは自由にしたほうが火力として有用だって。
だからわたしはおとなしく運ばれてあげたんじゃない。
「なんか違うくないっすか?」
はい、そこの白軍は黙ってて!
勝ったら兜の緒を締めなさい!
「またわけのわからないことを言ってる……」
JBはうまく牽制出来たけれど、恭平さんは無理だったみたい。
なんかぼやかれました。
さすが 【素敵なお茶会】 が誇る二つの頭脳の一つです。
まぁ脳筋コンビも、現実世界では国家資格を持つとっても優秀な頭脳の持ち主だけど、仮想現実では脳筋全開です。
ついでにカニやんLOVEも全開です。
もう一つの頭脳であるカニやんは、その脳筋に甘やかされっぱなしだけどね。
「あんたに言われたないわ」
「余計なお世話です」
というか、誰もわたしのことは甘やかしてくれないじゃない。
さっきだって、米俵扱いはやめてって言ったのに聞いてくれなかったし。
「だったらグレイさんは自分で立ったらいいんじゃない?」
痛いところを衝いてくるのはさすがクロエです。
でも正直、同じ紅軍だったから負けた腹いせだと思う。
だってクロエはそういう性格だからね。
さすがクロエというべきかしら?
みんなが遠慮して言わないことでも鋭角で斬り込んでくる性格です。
痛い
その射撃センス並みに的確に打ち込んでくるのよね、言葉の銀弾を寸分違わずに。
ほんと、痛すぎる。
この痛みを癒すべく、わたしはルゥを呼び寄せる。
「ルゥ、おいで」
「きゅ♪」
今回のイベントに限らず別エリアに転送された場合、だいたい元の場所に戻される。
うちのギルドのメンバーは、特に取り決めたわけでもないのに開戦前にギルドルームに揃うから、当然イベントが終わると再びギルドルームに揃うわけで、わたしと一緒に戻ってきたルゥはいつものようにギルドルームを楽しく探索していた。
丁度わたしに可愛いお尻を向けていたルゥは、呼ばれて振り返って可愛らしく鳴くと、そのまま戻ってくるかと思ったのに戻ってこなかった。
通常運転です!
飼い主としては悲しいというか、淋しいというか。
ついでに虚しさも一杯です。
でもね、ここでへこたれているようじゃルゥの飼い主は務まらないわけで、呼んでも来てくれないのならこちらから迎えに行くまでです。
「ルゥ~」
改めて呼びながら、それほど広くない、かつ代わり映えのないギルドルームをいつものようにフンフンフンフン……と楽しく探索していたルゥの背後から迫り……といっても名前を呼んでいるから近づいていることはルゥも知っているわけで、でも逃げないからこのままおとなしく捕まってくれるかと思ったら逆でした。
久々に割られました。
なにを割られたかといえば、もちろん顎です。
「あぐっ!!」
それまでわたしにお尻を向けて、可愛い尻尾をブンブン振っていたルゥが突然振り返った……と思ったら、短い足で力強く床を蹴ってジャンプ。
おっきな頭でわたしの顎に頭突きをかましてきました。
ぐ……ぁあああああぁぁぁぁぁ~
ルゥはやるってわかっているのに……わかっているのに、うっかりしてたわたしが悪いのもわかってる。
わかってるんだけど痛いのよ!
あまりの痛みに、わたしはみんなが集まっているギルドルームで、恥も外聞もかなぐり捨てて床をのたうち回る羽目に……
だって痛いのよぉ~
あとになって思い出せば、スカートの裾とか気にする余裕もなくてとんだ赤っ恥よ。
蝶々夫人が着ている赤いチャイナとは違い、わたしが着ている青いチャイナはアオザイタイプで下にズボンを穿いているから不評だけど、わたしはその、足が見えるというのも恥ずかしいけど、やっぱりスカートがめくれるというのも恥ずかしいわけで。
思い出すだけで顎の痛みとともに、恥ずかしさがこみ上げてきます。
顔が熱い……
「その、クロウ……」
みんなと別れて、ルゥの散歩がてら 【ナゴヤドーム】 内をクロウと歩いていても、ふとした拍子に思い出してしまう。
ついうっかり、無意識のうちに顎を撫でていることに気づいてね。
ほんと、無意識って怖いわ。
しかも同じ質問をすでに何度もしていたから、クロウも最後まで言わせてくれなくなった。
「割れてない。
大丈夫だ」
「そ、そう?」
クロウのイケボで言われても、その、信じられないわけじゃないの。
信じてるのよ。
でも、その、なんていうの?
「気になって仕方がないんだろう?」
「よくおわかりで」
さすがお仕事の出来る上司様です。
両手で顎を押さえながら苦笑いを浮かべるわたしに、クロウは少し気まずそうな顔をする。
「どうかした?」
……ひょっとして、わたしがあんまりにもしつこく同じことを訊くから、いい加減面倒臭くなったとか?
そ、その、確かに面倒臭い女の自覚はあるけれど、あるけれど……まさか、別れようとか……言わないわよ、ね?
急に冷汗が……
「いや、俺も剃り残しに気がつくと、次の日も、ちゃんと剃ったはずなのに今日も残ってるんじゃないかと気になることがある」
なんですか、それは?!
いえ、その、言いたいことはわかるの。
凄くわかるの。
でも、ね、わたしが顎を触ってしまうのと、剃り残しが同列って……
どうなのっ?!
「そ、そうなんですね……」
うん、でもわたしも大人です。
ここは無難に相槌を打っておこうと思います。
円滑な人間関係には必要なスキルだからね、わたしだってこの程度は出来るのよ。
そんなわたしたちが向かったのは 【ナゴヤドーム】 内にあるNPC武器屋。
新しい装備が欲しいわけではなくて、ちょっと見たい物があって。
それでクロウに付き合ってもらったの。
わたしたちの前を少し鼻高々に歩くルゥは当然のことながら行き先なんて知らないから、時々、わたしたちがうしろにいないことに気づいて慌てて戻ってくる。
その時のルゥがちょっと目に涙を溜めているのが凄く可愛いのよね。
着いた武器屋に、やっぱり一番に入るルゥ。
さりげなくクロウが扉を開けると、鼻歌でも歌っているように、短い足で軽快に武器屋に入る。
それにわたし、クロウと続く。
「槍か」
そう、今回わたしが見に来た武器は槍。
ほら、イベントで飛んできたあの槍のことが気になって、それでちょっと槍を見に来たわけ。
もちろん買うつもりも作るつもりもないから、鍛治士のカジさんのお店にお邪魔ましたら冷やかしになちゃうからね。
その点NPC武器屋は、店主がNPCだから気を遣う必要はないし。
冷やかし上等。
なんだったらルゥも入店OKです。
広くない店内、所狭しと並べられた武器の中から槍を見つけ、手にとって眺めるクロウ。
背には愛剣の砂鉄を背負って。
たったそれだけのことだけど、思わず見とれてしまうほど格好いいとか……
ヤバい、顔がにやける。
わたしとクロウの他はルゥと店長だけで、どっちもNPCだから見られて困るわけじゃない。
……と思って存分に見とれていようと思ったら、来たわ。
「グレイさん、顔」
「あれやな、いつも女王がカニに言うてるやつ」
「どんな変顔でもイケメンてやつか?」
「それそれ」
「確かに美人もどんだけにやけても美人やな」
「さすがの俺も負けるわ」
「カニは謙遜せぇ」
「お前は謙遜な」
その……言いたいことは色々あるけど、とりあえず一番言いたいことを真っ先に言わせてもらうわ。
邪魔よっ!!
今イベントで初紅軍を体験して初黒星を付けたグレイですが、団体戦はそんなものとあっさり割り切り。
イベント序盤で唐突に斬り込んできた槍のことを思い出したわけですが・・・