773 ギルドマスターは運動神経と戦います
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グレイのうっかりでルゥが参戦っ?!
まずはいつものあれから・・・
今朝は寝坊して事前登録はギリギリセーフだったけれど、開戦時間には余裕……と思っていたらうっかりギリギリ。
おかげで自分が紅白のどちらかもわからないまま転送されちゃって、味方であるはずのカニやんだけでなくの~りんにまで攻撃しちゃって。
挙げ句にはルゥをしまい忘れていました。
「きゅ♪」
まぁルゥはご機嫌よね。
最近は夜にログアウトする時もそのままにしているから、わたしがログインすると同時にルゥもギルドルームに出現する。
その場所によっては鼻チューでご挨拶してくれるけど、だいたい遠い場所だからいちいち来てくれないのよね。
淋しい……
「あんたかて、出しっ放しで連れてきてること気づいてへんかったくせになに言うてっ……えーっ!!」
わざわざ舟を移ってきてルゥをモフろうとして、バックリやられたカニやんに言われてもねぇ。
ぜぇ~んぜん説得力がありません。
まぁ味方だし、ダメージは出ないから好きなだけ噛まれてください。
「どんなマゾやねん、俺は……」
え? 噛まれたいんじゃないの?
「俺はモフりたいねん!」
つまりルゥとは認識の相違があるのね。
「相違っていうか、普通にカニやんが嫌われてるだけだと思うけど」
「嫌われてもえぇからモフりたいねん、俺は!」
ルゥの毛皮は最高のモフだもの、カニやんの気持ちもわからなくもありません。
でもわたしはルゥの気持ちを尊重したいので、諦めて噛まれてください。
「なんでやねん!」
「カニやんのそれって、一番嫌われるパターンだよね」
うん、でもそっか、今回のイベントはルゥも参加OKなのね。
うっかりしまい忘れてしまったというか、慌てすぎて存在を忘れていたというか……ゲフゲフゲフ……ま、まぁそれは内緒ってことにしておいて下さい。
こ、こういうのをきっと怪我の功名っていうのよね。
「言えへんから」
「言わないと思う」
「起動……業火」
「きゅ!」
「おふっ!」
わたしが詠唱をすると、ルゥもお仕事を思い出したのか凜々しい声で鳴いた……と思ったら、カニやんを短い足で力強く海に蹴り落とし……うん、まぁカニやんも非力だからね。
このゲーム最凶のNPC 【幻獣】 のルゥには全然敵いません。
なんか情けない声を上げて、あっけなく海に蹴落とされました。
「起動……」
なにか危険を察したのか、慌てて詠唱を始めるの~りん。
カニやんはまだ海の中です。
ルゥは短い足で、まるでゴム鞠のように小舟と小舟のあいだを飛び回り、わたしたちに向かってくる白軍の剣士を蹴り飛ばしまくる。
時々頭突きも交えて。
うん、可愛い
「……百花繚乱。
今日も凶暴だよね」
「可愛いの間違いでしょ?
起動……百花繚乱」
「起動……」
あら、カニやんがもう上がってきた。
しかも器用に詠唱をしながら。
ちょっと息とか切れてるけど、そこはもう悲しいほど非力だから。
の~りんも出来たら海に落ちないようがいいわよ。
「そうなの?」
「脳筋コンビの話だと、STRが関係あるみたい」
「あ~……魔法使いはないもんね。
ありがとう、気をつけるよ。
起動……」
「……氷雪乱舞」
「冷たっ!!」
小舟の上に転がるように這い上がったカニやんが、息も絶え絶えに 【氷雪乱舞】 を放った直後に聞こえてくる悲鳴というか、苦情というか、その、なんというか?
【氷雪乱舞】 の雪や氷をイメージさせる青白い視覚効果の中から、HPを流出させながら姿を現わしたのはホリーさん。
さっきの~りんが噂しちゃったもんね。
手遅れでした
「止めんのが遅かったか、クソが。
起動……」
「起動……」
カニやんとホリーさんの攻撃型魔法使い同士の対決……と思ったらそうは問屋が卸さない。
いつもとは登場の順番が違うからいないのかと思ったけど、やっぱりいたのね。
「ゆーたー!!」
遥か上空から聞こえてくるとっても元気な声。
このゲームの中でカニやんを本名で呼んでくる唯一のプレイヤーの登場です。
蟹江優歌
何回聞いてもいい名前よね。
顔も名前もイケメンとか、イケメンらしすぎてムカつきます。
うん、ムカついてばっかりもいられないけどね。
3対2とはいえ、3人側は揃いも揃って魔法使いで、対する2人側は一人が剣士。
近づかれれば落とされるのが運命の魔法使いの天敵です。
しかもこんな時に限って頼りのルゥが反対側にいるのよね。
3対2の勢力図をあえて崩してくるミッキーさんとホリーさんの狙いはカニやん一人。
まぁわかってはいたけれど、各個撃破みたいな感じ?
力業で勢力図を1対2に変えようとする。
「このバカップルがーっ!
起動……」
魔法使いにとって剣士を相手にするのは分が悪い。
……となると狙いはホリーさんよね。
魔法使いには一撃で首を落とすことはもちろん、胴を断つなんて力業は出来ない。
だからホリーさんを相手にするなら、普通に攻撃魔法対決になる。
そうなるとカニやんのレベルなら、ホリーさんの一撃では落ちない。
でもホリーさんはすでにカニやんの一撃を受けているから、結構なHPを削られているはず。
あと一撃、あるいは二撃くらい食らわせれば……
きっと落とせる
でもそのあいだにミッキーさんがカニやんの首を落とす。
それが二人の作戦だと思う。
昨日もそうだったけど、意外にホリーさんってば自己犠牲を厭わないのよね。
面倒だわ
まずはミッキーさんの接近を阻む。
そう意気込んだのはよかったけれど……
「スパーク!」
「え? ちょ!」
わたしじゃありません。
そうなの、わたしが 【スパーク】 でミッキーさんの接近を阻むより早く、カニやんと対峙していたホリーさんが 【スパーク】 を唱えてカニやんを吹っ飛ばしていた。
つまり情けない声を上げたのはカニやんです。
吹っ飛ばされたのもカニやんです。
その背後に剣を構えているのはミッキーさんです。
「飛んで火に入る優歌!」
「スパーク!」
「え? ちょ!」
奇しくも同じような声を上げながら吹っ飛ばされてくれるミッキーさん。
予想外にホリーさんが唱えた 【スパーク】 に驚いて一瞬遅れたけれど、カニやんに近づけないのが目的だったけれど、よりによってカニやんのほうが近づいていっちゃうっていうね。
カニやんの首を守るためにミッキーさんを吹っ飛ばしておきます。
でも気前よく海に落ちたカニやんとは違い、危うく落ちそうになりながらも落ちないのがミッキーさん。
状況の違いはもちろんあるけれど、ほら、小舟の位置とかね。
でもミッキーさんは落水を回避。
落ちたカニやんもすぐに顔を上げて声も上げる。
「てめぇ!!」
「汚兄様、見事な落ちっぷりですね」
「優歌ってば、無様」
「これだから運動神経のいいオタクは……」
渾身の力で体を小舟の上に引き上げるカニやん。
水を含んだ装備が重そうに見えるのは、ただSTRがないだけです。
「今は多様性の時代なんですって。
運動神経のいいオタクにも腐民権があるんですよ。
だいたいその腐民権をくださった偉大なる汚兄様がそんなことを言うなんて、駄目じゃないですか」
「うるせぇ」
「ホリー、仕切り直すわ」
またしてもカニやんの背後に位置を取り直したミッキーさんの合図を受け、ホリーさんが 【スパーク】 を放とうとする。
でもね、二度も三度も同じ手は使わせません。
だいたい元々3対2の構図を、無理矢理1対2に変えようとしてるんだもの。
構図の外に追い遣られた2の対処を考えてないのは駄目じゃない?
というわけで……
「起動……避雷針」
当然わたしが狙うのは厄介なミッキーさん。
【避雷針】 の痛烈な一撃で、ズバンと脳天を撃ち抜かせて頂きました。
「ミッキー!」
「起動……雪月花!」
「だから冷たいんですよ、汚兄様の攻撃は!!」
「さっさと落ちろ」
この状況でミッキーさんにかまっている余裕がホリーさんにあるわけもなく、カニやんの怒りの一撃で落とされる。
「……なんか、どっと疲れたわ」
「俺も、見てるだけで疲れた。
起動……」
うん、あの二人が落ちただけでイベントは終わってないからね。
の~りん、ナイスファイトです。
というか、期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 2日目第一戦は始まったばかりで、わたしが抱えている問題も解決していないっていうね。
「それよりわたし、思い出したことがあるの。
というか、カニやんに謝らないと」
「なんやねん?
起動……」
「間違えてミッキーさんに 【避雷針】 使っちゃったわ。
カニやん用にとっとくって言ったのに、ごめん」
「いや、とっとかんでえぇし」
「……百花繚乱。
どうしてそうなってるのかわからないけど、カニやん味方だから。
どんなに強烈な 【避雷針】 で撃っても落ちないってわかってる?」
……そうだったわね……うん、そうだったわ。
謝罪は撤回でお願いします。
ルゥの参戦で荒れるかと思ったのですが、意外にも荒れなかったような?
いえいえ、ルゥの本領発揮はここからです。
いつもどおりルゥにバックリやられたカニやんですが、次話では・・・