771 ギルドマスターはさっきの敵になります
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まさかカニやんが 【愚者の籠】 を取得したっ?
そんな疑惑の真相は・・・
「俺?
えっ? なんで俺っ?!」
なんで俺って、カニやんが紅軍だからじゃない。
期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 2日目第一戦。
開始直後にまたしても魔法使い同士で遭遇してしまったから、ここは先手必勝とばかりに 【業火】 の焔で燃やしてあげました。
燃えなかったけど
むしろわたしのほうが訊きたいわよ、なんで燃えないのっ? ……てね。
でも訊く前に一応自分でも考えてみます。
わたしだって自立した大人の女性ですから。
なんでも訊けばいいってものでもないことぐらい知ってるわ。
……というわけで考えてみたというか、考えるまでもなく可能性は一つよね。
常時発動スキル
魔法攻撃が効かないということは、わたしにわかるスキルは二つ。
恭平さんが所持している 【震える鏡】 とわたしが所持している 【愚者の籠】。
だけど反射しなかったということは 【震える鏡】 ではない。
という簡単な消去法で、残るはわたしと同じ魔法攻撃を吸収する 【愚者の籠】。
いつ取得したの?
もちろん取得スキルをわざわざ報告する必要なんてないし、むしろ秘密兵器はギリギリまで隠しておきたいもの。
わたしなんて小心者だからね、本当にギリギリまで切り札としてとっておくわ。
簡単に見せられるような札じゃ切り札にならないもの。
………………
いえ、きっと小心者のわたしはどんなショボい札でも最後の最後まで隠して、逆に切りどころを間違えるのよ。
典型的な小心者だからね。
自滅コースまっしぐらというところまでがセットです。
「そこは否定せぇへんけどな」
「してよ!
起動……」
「せやから待てって!」
待つわけないでしょ!
「百花繚乱」
わたしは撃った火焔系攻撃魔法 【百花繚乱】 がカニやんに通用しないのを見て、改めてしまった! ……と思ったわ。
カニやんが常時発動スキル 【愚者の籠】 を所持している可能性を考えたばかりだったのに、無駄なことをしてしまった。
「これはあれね?」
「どれや?」
「クロエが無駄弾を嫌う気分?」
「いや、ちゃうから。
全然違うから」
「じゃあどこかのお侍さんの……なんだっけ?
あの決め科白」
古いアニメでなにかあったわよね?
なんでも斬れる凄いお侍さんが、仲間に頼まれて?
いえ、仲間をピンチから助けるためだっけ?
斬ったあとで必ず言うのよ、いつも同じ科白を。
決め科白
「ああ、あったな。
あれ、決め科白言うんか知らんけど、またくだらないものを斬ってしまった、やろ?」
「そうそう、それ!」
さしずめこの状況だと、くだらないものを燃やしてしまった、みたいな?
「失礼やな!
そのくだらないものて俺のことやんな?
間違いなく俺のことやんなっ?」
「そうとも言う」
「そうとしか言わへんから!
あんたが今燃やそうとしたん俺やから!
間違いなく俺やから!」
そんなに必死になって主張しなくても、今日も朝からイケメンよカニやんは。
安心してください、イケメンです。
誰がなんと言おうとイケメンです。
もちろん必死になって自己主張していてもね。
ムカつくくらいイケメンです
「パンツ穿いてますみたいな、そんな安心感いらんわ。
だいたい一回撃って効けへんかってんから、さっさと諦めぇや。
なに二回も三回も撃っとんねん」
三回目は撃ってないけど、二回目はほら、あれよ。
念のためです。
一回目はまぐれとか、目の錯覚だったとか、そういう感じだったかもしれないじゃない。
「ほんま小心者やな。
まぐれでも錯覚でもあらへんから」
「やっぱりそうよね」
「がっつり俺撃ってるから」
「うん、外してない自信はあるの」
「なんでそんなとこには自信あんねん。
でも絶対ダメージ出ぇへんから。
出てたまるか……てか普通に当たってたら俺、もうとっくに落ちてるやん。
なんで落ちひんと思てんねん?」
そこがわからないから考えてるというか、迷っているというか。
でもカニやんのおかげで、ちょっといつもの調子が戻ってきたかも。
「結局寝ぼけとんのかい」
「失礼ね、ちゃんと起きてるわよ」
「失礼はお互い様。
ほなただの勘違いや」
勘違い?
わたしがなにを勘違いしてるの? ……という疑問にカニやんが答えてくれるより早く邪魔が入る。
「え? グレイさんとカニやん?」
「よう、の~りん」
他のプレイヤーのあいだから、カニやんの小舟に乗り移ってきたのは紅軍のの~りん。
同じ紅軍だからカニやんはのんびりと構えているけれど、わたしはそうもいかないのよね。
しかもの~りんは、普通に 【ヤシマ】 を目指して移動してきたわけではなく、白軍プレイヤーに追われてきたっていうね。
「てめーっ!!」
罵声を上げながらの~りんを追ってきたのは……見覚えのある人ね。
確か真凛さんだっけ?
相変わらず男性っぽい言動で、両手に持った拳銃を撃ちまくりながらの~りんを追いかけてくる。
当たらないけどね
もちろん全く当たらないというわけではなく、流れ弾による被害は甚大です。
ただ狙っているはずのの~りんには当たらないっていうね。
さすが乱射魔の通り名を欲しいままにしているだけはあるわ。
しかも今回のイベント中は銃弾の消費がない。
もともとライフル銃にしても、装填時間がある変わりに銃弾の再装填という動作は必要ない。
撃ち放題
しかもインベントリにある残弾数を気にしなくていいから、それはそれは気持ちよく乱射しまくり。
同じ白軍プレイヤーにはダメージが出ないとはいえ、それでも当たると痛いのよ。
わたしも昨日撃たれたわ。
幸い昨日も今日も同じ白軍だからダメージは出ないけど……というかの~りん、真凛さんになにかしたの?
周りには他にも紅軍がいるのに……それこそカニやんだっているのに、真凛さんは他の紅軍プレイヤーには見向きもせずの~りんだけを執拗に狙ってるみたい。
なにかしたのよね?
「したっていうか、普通するでしょ?
俺、紅軍だし」
「とりあえずウザいし、落とそうぜ。
起動……」
そうは問屋が卸しません!
誤射されるのは御免だけど、真凛さんは同じ白軍だしね。
むざむざ味方が落とされるのを黙って見ているわけにもいきません! ……と思うんだけど、カニやんには効かないのよね。
ダメ元で三度目の正直狙ってみる?
「よくわからないけど、グレイさんの日本語が変だよ」
「……氷雪乱舞。
いつもや」
「そういえばそうだね。
起動……」
カニやんに続いての~りんまで、失礼ね!
カニやんは駄目でも、の~りんなら……
「起動」
「…………百花繚乱」
「……業火」
うっかりの~りんに一瞬の後れをとってしまった。
おかげでみすみす真凛さんを落とされてしまったけど、の~りんは落ちないっていうね。
うん、そりゃの~りんもそれなりのレベルですよ。
わたしたちは三人とも同じ魔法使いとはいえ、レベルが上がればそれだけで基本パラメーターが上がるわけで、当然のようにHPも上がる。
つまりレベルが高いというわけでHPもそれなりに高くなる。
うん、ここまでは 【the edge of twilight online】 の基本です。
でもダメージが出ないってどういうことよっ?
カニやんに続いての~りんまで、なにがどうなってるのっ?
これはひょっとして、わたしが不調?!
「えーっと、俺、さっきからグレイさんがなに言ってるのかわからない」
まぁね、の~りんは昨日、休日出勤だったからこれが初参戦。
よくわからないのも仕方がありません。
でもの~りんのレベルなら問題ないし、敵に塩を送るつもりもないし。
「敵? ……て、えっと、マジでわからないんだけど……」
「簡単な話やん。
寝ぼけとんねん、この人」
「なんだ、そういうこと」
どうしての~りんにはそれだけで通じるの?
今のカニやんの説明で理解出来るってどういうこと?
「せやから、あんたが寝ぼけとんねん」
カニやんはあくまでもわたしが寝ぼけてると言い張る。
もちろんわたしは納得しないけどね。
納得なんて出来るはずがないでしょっ?
「そこでグレイさんが意地を張るのもよくわからないんだけど、普通に考えてよ。
どうして攻撃が効かないのかとか、今回のイベントルールとか」
イベントルール?
攻撃が効かない……というか、味方には効かないわよ。
「うん、そうだよね。
だからグレイさんの攻撃はカニやんに効かないんじゃない?
あ、俺も紅軍だから効かないけどさ」
………………
ちょっと待って。
それってつまり……そういうことですか?
の~りんの親切な説明……といっても少し遠回りだけど、カニやんよりは具体的な説明をしてくれて、ようやくカニやんにもの~りんにも攻撃が効かない理由を理解したわたし。
そう言えばクロウが、鉢巻きを髪に結んでくれた時に映えるとか言っていたわね。
うん、つまりそういうことよね?
「……わたし、紅軍なのね?」
「やっと起きたか」
でもね、そうすると非常に重大な問題が発生するわけですよ。
自分が紅軍であることを理解すると同時に、わたしはその問題とぶち当たりました。
だってわたしは……
「えっと、紅軍ということは、わたしは 【ヤシマ】 を目指さないといけない、のよね?」
「そうだね」
「あ~……」
これが初参戦のの~りんは気づかないけれど、わたしの様子と合わせてカニやんは気がついたみたい。
ちょっと絶望した時みたいな声を上げるんだけど、それはわたしの科白……じゃなくて、わたしの心境というか、わたしの立場というか。
だって立つことも満足に出来ないのに、どうやって 【ヤシマ】 まで移動したらいいのよっ?!
今回のオチはグレイが自力では移動出来ないのに、どうやってヤシマを目指すのかっ?! というところまで。
今イベントで初登場を果たした真凛は相変わらずサックリと落とされておりますが、この先、活躍することはあるのだろうか・・・