770 ギルドマスターは朝日が眩しい海に映えます
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期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 初日が終了!
いよいよ二日目が開始・・・と思ったらグレイが・・・
ルールが謎すぎるミニイベント 【落ち武者タイム】 により、初日第三戦は引き分けで終了。
具体的な疑問としては、【落ち武者タイム】 は夜時間しか発生しないのか?
まずこれが一つ。
イベント期間はあと2日、夜の海戦はあと2回ある。
それに 【落ち武者タイム】 でなくても、生存プレイヤーの数が一定数を切ると引き分け判定が出るのか?
これが二つ目。
「俺はありと思うっす」
二つ目の疑問に対して肯定派のJBが言うには
「特に紅軍が 【ヤシマ】 に向かわないとイベント自体が成立しないわけじゃないっすか」
つまり紅軍を 【ヤシマ】 に向かわせるための予防線みたいなものだとJBは言いたいらしい。
考え方としてはありだと思うけど、そもそも白軍は紅軍を落とすのが仕事というか、今回のイベントでの役割というか。
紅軍が数を減らすのは当たり前だから、もしそうなら白軍の生存数のほうが問題になるような気がする。
でも 【落ち武者タイム】 だと、白軍も紅軍も落とされ放題。
今回わたしの周りには重火力が揃いすぎたせいでよくわからなかったけれど、学生組が言うには、NPCの火力はもちろん、HPも高めの設定だったらしい。
「なんとなくですけど、そんな気がしました」
学生組を代表してマコト君が話してくれる。
ちなみに転送位置も陣もバラバラだった学生組だけど、【落ち武者タイム】 で仲良く全滅している。
わたしたちみたいに知り合いと休戦協定とか結べればよかったけれど、毎回そう上手くはいかないものよね。
夜の海戦があと2回あることを考えると、わたしもなにか対策を考えないと。
当然のことながら、運営がルールを公開しないから結論なんて出ない。
それでも通常エリアに戻ったわたしたちはギルドルームでそんな議論をして、この夜はログアウトが少し遅くなってしまった。
もちろんそれだけが理由ではないと思うけど、翌朝、わたしは寝坊をしてしまいました。
ひぃぃぃぃぃぃ~!!
主催者にあるまじき初歩的ミスです。
ちょーっと夜更かしをしただけで寝坊するなんて、わたしももう若くないから……という言い訳はおいといて、大慌てで色々セットしてログイン。
なんとか参加登録には間に合いました。
でも1日の計は朝にありって言うからかしら?
色々と調子が狂いました。
「いや、言わへんし」
いつものようににひっと笑ったカニやんにはがっつり否定されましたが、これで調子を取り戻せればよかったんだけどね。
全然ダメだったのよ。
カニやんのイケメンは崩れなかったのにね、わたしの崩れた調子は取り戻せませんでした。
おかげでとんでもないミスというか、勘違いをしてしまったというか。
恥ずかしい……
ちなみに正解は 「一年の計は元旦にあり」 です。
そういえば今年は日の出を見てなにか願掛けをしたような気もするけれど……いやいやいや、そんな遠い記憶に思いを馳せている時間はありません。
現実よ、現実。
目の前の現実です!!
願掛けなんて叶えばそのうちにわかるだろうし、普段から気にするだけ時間の無駄です。
いえ、その、ちょっと罰当たりなことを言っている自覚はあるのですが、とにかく時間がなかったの。
time is money
でもだからと言ってもお金では買えないけどね。
ん? あれ? 時は金なりってどういう意味だっけ?
当たり前のように使っている言葉だけど、あえて意味を考えるとわからない……というか、今のわたしには考える余裕もない。
自分でもビックリするくらいがっつり寝坊してしまったわたしは、みんなにはわからないのをいいことにパジャマのままあれやこれやとセットして慌ててログインしたから、無事に参加登録を済ませたあと一度ログアウト。
イベント開始30分前には余裕で戻ってくるつもりだった。
でもまぁ予定というものはあくまで予定であって、なかなか予定どおりにはならないもの。
世の中はそんな甘くない
だって服を着替えて顔を洗って歯を磨いて、ついでにちょっと髪を束ねるくらいの時間はあると思ったの。
それだけで30分もかかるとは思わないじゃない。
着物やドレスの着付けをするわけでもないわけだし。
でも気がついたらイベント2日目第一戦開始10分前だったわけ。
慌てて部屋に戻ってあれやこれやセットしてログインしたら、ギリギリ転送5分前。
セーフ!!
いえ、実はまだセーフとは言えなくて。
本当のセーフは、転送までにポストに配布された鉢巻きを装備すること。
これが間に合わないと不戦敗として減点処分が待っている。
折角初日に連戦連勝したんだから、不戦敗なんて不名誉な減点は御免被ります。
「グレイさん!」
「来た来た!」
「なにやっとんねん!」
「ギルマス、ギリギリっすよ」
みんな今戦も参加登録をしたことを知っているから、なかなかログインしないわたしにハラハラしてギルドルームで待っていてくれた。
まさかこんなに心配してくれるなんて思ってなかったから恐縮です。
ごめん
「グレイ」
お仕事が出来る上司様にまでご心配をお掛けしてしまい、大変申し訳ございません。
でもクロウが言いたかったのはそんなことじゃなくて、いきなりわたしの腕を掴んだかと思ったら無理矢理ポストを開かせる。
あ、はい、わかりました。
鉢巻きですよね?
これをアバターのどこかに装備するところまでが準備です、はい。
ということで慌てて取り出した鉢巻きを、クロウが髪に結んでくれる。
結び終わるのを待っているあいだ、ついうっかり手で喉元あたりを煽いでしまう。
だって暑いから
もちろんアバターは汗は掻かないんだけど、本体のほうがね。
7月だし、部屋はちゃんとクーラーをガンガンに効かせてるんだけど、それでもやっぱり慌てて部屋に戻ってきたり、焦っていたりしたからたぶん汗を掻いていると思う。
それでついうっかり、無意識のうちに煽いでいたっていうね。
お恥ずかしい
こういう無意識の仕草って、気がつくと恥ずかしくなるのはたぶんわたしだけじゃないはず。
それでこう……気がついてすぐ、さりげなく手を下ろして誤魔化したんだけど、お仕事が出来る上司様はなにかを察したのかもしれない。
「出来たぞ。
やはり映えるな」
そんなことを言いながらも、それとは別のなにかを言いたそうにわたしの顔を見ていました。
いつものわたしなら 「なにか付いてる?」 とか訊いてしまうところだけど、わたしのほうも珍しく察してしまったので訊かないでおきました。
だって墓穴を掘りそうじゃない。
とりあえずこれで準備も出来たし一安心……と思ったところで時間が来て、転送が始まる。
本当にギリギリね
ギルドルームに揃ったメンバーたちと一緒にイベントエリアに転送され、法螺の音とともにイベントが始まる。
期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 第四戦。
開戦!!
イベントエリアに転送された時は見えなかった敵プレイヤーが、法螺の音が聞こえてくるとともに姿を現わす。
「……なんでおんねん?」
「それはわたしの科白です」
またしても魔法使い同士で遭遇してしまうっていうね。
しかもカニやんは紅軍です。
ここはやっぱりあれよね?
先手必勝!!
「起動」
……あれ?
どういうこと?
その、カニやんだったらすぐに反応すると思ったの。
カニやんでなくても、魔法使いが攻撃を仕掛けられたらすぐに迎撃態勢に入ると思う。
特に反応の早い剣士はね。
カニやんは剣士ではなくわたしと同じ攻撃型魔法使いだけど、普通に考えて反撃に出ると思う。
でも反応しない……というか、反応はした。
うん、反応はしたんだけど、わたしが想定していた反応とは違っていたの。
さっきも言ったとおり普通なら詠唱し返すと思うんだけど、なぜかカニやんは振り返って背後を確認していた。
どういうこと?
カニやんにしては珍しいというか、ずれた反応ね。
うん、まぁいいわ。
ここは初志貫徹で先手必勝です!
「……業火」
「俺?
えっ? なんで俺っ?!」
わたしを向き直ったカニやんは、これまたちょっと意味のわからない反応を見せる。
わからないけれど、とりあえずカニやんを 【業火】 の焔で包んでおきます。
包んで……
どういうことっ?!
確かにカニやんを 【業火】 の焔で包んだのに……いえ、包んだと思ったけれど包んでいなかった……て自分でもなに言ってるのかちょっとわからない。
でももっとわからないのはカニやんに 【業火】 が効かないこと。
ひょっとしてだけど、カニやんも常時発動スキル 【愚者の籠】 を取得したとか……。
恭平に続いてカニやんまで対魔法使いスキルを取得っ?
しかもよりによってグレイと同じ 【愚者の籠】 を・・・っ?!