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77 ギルドマスターはあまりにも長くて読めません

pv&ブクマ&評価、ありがとうございます!

 もうポチるなんて可愛い言葉じゃなくて、仕事並みの速さでウィンドウのソフトボードを叩いちゃったわよ。


 運営、許さん!


 関西エリアにある琵琶湖、その中に正体不明の 「藻」 が現われたり、今回の、落ちたら上れないような場所に横穴を造ったり、最近の運営はなにをしてるのっ?!

 カニやんなんかは


『色々崖っぷちな運営だから仕方ない』


 なんて溜息を吐いていたけれど、崖っぷちなのは転送位置。

 あんな場所に転送して……そもそもあれは座標を間違えているの?

 それともここは無限ループのダンジョンなの?

 ダンジョンのボスは強度の魔法耐性で物理攻撃無効の火焔魔人。

 そのくせ身体能力の高い前衛職の協力がないとループから脱出出来ないとか、いったいどうなってるのよっ?

 いずれにせよ落ちたら最後。

 あの焔の巨人を倒すまで崖下から脱出出来ないとか、色々終わってる……。

 どうするのよ、これっ?


『どうもしないだろう?

 ちゃんと道をつけて行き来出来るようにするか……どっちみち修正入るな』

『まともな修正ならいいけどね』


 インカムから聞こえてくるカニやんの声は、わたしの剣幕に呆れているのか、それとも運営の無計画さに呆れているのか。

 少なくともクロエはどっちでもいい感じ。

 ま、クロエはクロエだからね。

 あの火焔魔人に対し銃士(ガンナー)がどう戦うかちょっと興味が……ううん、かなり興味があったんだけれど、後日、カニやんは柴さん、ムーさんと一緒に行ったみたい。

 きけばクロエも誘ったんだけれど、あっさり断られたって。

 今、ぽぽやくるくると一緒に樹海通いをして、遠距離射撃にはまってるんだって。

 まぁレベル的にも、装備的にも、あとセンスも関係あるのかな?

 いずれにしても二人がクロエにかなうはずはないんだけれどね。

 しかもカニやんが面白いことを言っていた。


「例のサラマンダー、取得にINT(ステ)とレベル制限がある。

 で、俺は取得不可」


 ちょっと待って。

 レベル38のカニやんで取得不可ってどういうこと?

 レベルが足りないってことはないでしょ?

 ステータスだって足りないなんてこと、ないでしょっ?

 でも取得不可なの?


 なんで???


「なんでって言われても、それも運営に訊いてよ。

 あのダンジョン、さっき見に行ったら封鎖されてる」


 え? そうなの?

 カニやんがいうには、横穴自体が消えてたって。

 え? じゃあどうやって戻ってきたの?


「もちろんあの崖を上りました」


 うへ……思わずカニやんの真似しちゃった。

 肩をすくめたわたしの前にインフォメーションが出る。


information 運営 からメッセージが届きました


 噂をすればなんとやら。

 ダンジョン攻略中ということをすっかり忘れていたわたしは、何も考えずにメッセージを開く。


『いつも 【the edge of twilight online】 をご利用いただき、ありがとうございます。

 この度お問い合わせいただきましたダンジョンにつきまして確認しましたところ、ご指摘いただきました点以外にも不具合が見つかりました。

 修正及び改善を行いますため、本日午前零時をもちまして一度対象のダンジョンを閉鎖させていただきました。

 早期発見により多くのプレーヤーに多大なるご迷惑をおかけすることなく済みましたことに感謝いたしますとともに、今後とも、ご協力いただけますようお願い申し上げます。

 尚、取得されましたスキル・サラマンダーにつきましては今後ともご使用いただけます。

 アールグレイ様におかれましては日頃の感謝を込め、お詫びとお礼の品をお届けさせていただきますとともに…………』


 …………長い!

 長すぎて最後まで読めない!!

 文字数制限はどこに行ったのよ?

 っていうかこれ、文字数制限一杯まで書いてるんじゃないっ?

 わたし、業務連絡(テンプレ)しか普段から読まないからこんなに長いのは無理!

 誰か要約してよ!! ……っと思ったんだけれど、こんな時に限ってクロウがいないのよね。

 今週は残業で遅くなるんだって。


「クロウさんって、グレイさんの要約機だったんですね」


 一緒にダンジョンに潜っていたトール君に呆れられてしまった。

 だって本当に長いんだもの、この運営からのお手紙。


「しかも専用な」


 カニやん、うるさいんだけど?

 それともなに、羨ましいの?

 言っておきますが、カニやんにだってクロウはあげません。


「いりません。

 クロウさんにも断られるに決まってるだろ」


 そう? 結構便利なのに。


「あの……グレイさんにとってクロウさんって、なんですか?」

「なにって……サブマス?」

「ちょっとクロウさんが可哀相な気がします」


 ??? なんで?


「トール君、それ、この喪女に言っても無駄だから」


 ものすっごく言い返したいところだけれど、 年齢 (イコール) 彼氏いない歴 の喪女だって自覚はあるから。

 会社の営業さん(同僚)たちとくらいならご飯に行くこともあるけれど、一対一のデートなんて……ううん、グループ交際だって経験ありません。

 あぁぁぁぁ……なんか落ち込んでくるからこの話は早く切り上げよう。


「いいわよ、あとでクロウがログインしたら読んでもらうから」

「結局クロウさんに読んでもらうんですね」

「専用だからな。

 仕事が忙しくて疲れてるのに、それでもわざわざ顔だけでも見にログインしてくれる旦那にこの仕打ちとか、どんだけひでぇ嫁だよ」


 なんだかずいぶんな言われようなんだけれど、言っておきますが、わたしは仕事が忙しいなら休めばって、ちゃんと言ったんだから。

 それでもログインしてくるのはクロウの自由よ。


「そりゃ放っておくと何するかわからないからだろ?」

「だからカニやんの監視で、トール君と三人でシャチ銀に潜ってるんじゃない」

「あーこの趣旨は理解してたんだ」

「ねぇカニやん、どんだけわたしを馬鹿だと思ってるわけ?」

「馬鹿とは思ってない。

 天然だと思ってる」


 …………その二つの違いがよくわからない。


「あの……ちょっと手伝ってもらっていいですか?」


 すっかりダンジョンに潜っていたことを忘れていたわたしとカニやんに、シャチ銀のラスボス銀シャチに苦戦していたトール君が遠慮がちにSOSを出してくる。

 ごめん。

 お詫びというかなんというか、わたし自身もまだ試したことのないスキルをお披露目するから勘弁して。


「起動……サラマンダー」


 さすがに銀シャチはトール君一人では硬くて、しかももう三つにまで分身が進んでいる。

 特に理由がないと分身前に倒してしまうからわたしは知らなかったけれど、銀シャチって時間の経過とともにどんどん増えるのね。

 二体でも狭くなると思っていたけれど、分身が三体に増えると部屋が狭くて狭くて。

 しかもこの狭さでビッチビッチ跳ねながらシャコーンって……けっこう地獄。

 狭すぎてシャチ同士でビッチビチと(はた)きあってるし、さすがにシャコーンはやらないけれど、これ、四体目はどこに増えるのかしら?

 たぶん、この調子でどんどん増えるんでしょ?

 すでに横幅は一杯だもん。

 四体目がどこに分裂するか、見たいと思わない?

 物凄く興味があったのに、大斧を構えるトール君が泣きそうな顔をしたから、次の分裂前に一体叩いておくことにした。

 さすがにスキルの元々の所有者である火焔魔人(スルト)ほどの威力はないみたいだけれど……わたしが所有するスキルの中では焔獄、業火の次くらいの威力かな?

 ただ再起動準備(クールタイム)が凄く短くて、MPの消費もそれほど高くない。

 これで単体魔法だったらいうことなかったのに、残念!


「それ、例のスキルだよな。

 ダンジョンが閉鎖されても使えるんだ」


 ちょうど三体いるから一体ずつ倒しましょうってことになって、受け持ちを攻撃しながらもよそ見をしていたカニやん。

 途中で読むのをやめちゃったけれど、運営からのメッセージにそんなことが書いてあったし、実際に今、発動してるしね。

 ひょっとしたら、あのダンジョンで火焔魔人(スルト)を倒す以外にも取得する方法があるスキルなのかもしれない。


「うーん、わからないな。

 でも初めて聞くスキルだと思う」

「そうなんだ」

「……あの、すいません、手伝ってもらってもいいですか?」


 まだまだレベル21のトール君に銀シャチは硬いらしく、たいしてHPも削れておらず、また分裂してる。

 これ、ひょっとして無限分裂する?

 何体まで分裂するかを試してみようかと思ったら、カニやんに二体とも倒されてしまった。

 うん、さすがに重火力、あっという間ね。

 ……じゃなくて、どうして邪魔するのよ!


「シャチ銀は制限時間一時間でしょ、なに考えてるんだよ?」

「楽しいことに決まってるじゃない」


 ほかになにを考えるっていうのよ?

 あ、単体スキルの取得方法も考えなきゃね。

 どうせだったら火焔系以外で探してみようかな?

 このあいだ火属性無効で苦労したし。


「ああ、あれね、水や氷でも二時間かかった。

 グレイさん、本当に 【灰燼】 使ってないんだよね?」

「だってクロウがダメだって……」


 だから地味に削って削って削って削って……物凄く我慢して削り続けたんだから。


「つまり、俺とグレイさんの今の差ってわけだ。

 きっつ」

『相手が火焔魔人でも、グレイさんも灰色の魔女だからね、負けないんじゃない?』


 追い打ちを掛けられたようでカニやんはがっくりと肩を落としていたけれど、ちょっとクロエ、それ、どういう意味よ?

 まるでわたしがボスキャラと変わらないみたいじゃない。


『変わらないっていうか、もうボスキャラでしょ?

 得意の火焔魔法全部無効なのに、氷結系得意のカニやんより早く倒しちゃうとか』

「あり得ねー」


 あり得ます。

 わたしがあの火焔魔人を二回も倒すのに、どんだけMPポーションを消費したと思ってるの。

 常時発動(パッシブ)スキルの 【愚者の籠】 と 【水面の夢】 がなきゃ、とっくにMPが枯渇してたわ。

 しかもなぜか、ハルさんから供給されたポーションの支払いはクロウ持ちっていう謎の結末。


「嫁の稼ぎは嫁の小遣いでいいんじゃないの?」


 わけわかんない。

 それよりハルさんに相談があったことを思い出した。


『ちょうどよかった。

 実は俺もグレイさんに相談したいことがあったんです』


 カニやんが銀シャチを倒しちゃったからダンジョンを出たんだけれど、なにか言いたげなトール君を横目にハルさんと話す。

 またクエストか何かの相談だと思うんだけれど、ちょっと待っててねトール君。

 わたしにとっては結構大事な相談というか、商談というか。

 とりあえずハルさんの話を聞こうかしら。


『あ、いえ、グレイさんからどうぞ』

「いいの?

 じゃあお先に。

 ちょっと厚かましい相談なんだけど、わたしの手持ちのHPポーションをMPポーションと交換してくれない?」


 もうね、いい加減クロウから送られてくるHPポーションがポスト一杯になっちゃって、そろそろ出さなきゃならなくなってきたの。

 でもわたしはほとんどHPポーションなんて使わない。

 でもこのあいだの火焔魔人戦でMPポーションをほとんど使い果たしてしまったから、MPポーションは購入しなきゃならない。

 で、交換出来ないかな? と思ったわけ。

 先に言っておくけれどクロウに交換を持ちかけても無駄だから。

 MPポーションと一緒に、交換用に送ったはずのHPポーションを送り返してくるから。

 そもそもなんでクロウってば、いつもあんなにMPポーションをインベントリに入れてるわけ?

 使わないんだから邪魔じゃない?


『いいですよ。

 個数を送ってくれたら……あ、先に俺が送ります』


 どっちが先に送ってもいいけれど、まずはお互いの在庫数を確認してからね。

 それで? ハルさんの相談ってなに?


『以前にお願いしていたんですが、キョンのことで』

「入ってくれるの!!!!」


 ……つい嬉しくって大きな声出しちゃった……みんなごめん、耳、痛かったわよね?


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