767 ギルドマスターは兄妹の愛で錆びた刀をぶった斬ります
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腐女子腐兄の集合体ギルド 【3年B組ドンパチ戦線】 のメンバーでありカニやんの妹ミッキーに頼まれ、カニやんを回収することになったグレイとクロウ、パパしゃんの3人だが・・・
その……ですね、いい歳して自立出来ないわたしが悪いと言えばそうなんだけど、でも足場が揺れるっていうのも悪いわけで、だから米袋とか米俵みたいな扱いを受けるのは不本意なわけですよ。
「なに言うてるかわからん。
ケツ向けたままごちゃごちゃしゃべんなや」
「見覚えのあるケツや思たら女王のケツか」
人をお尻で判別しないで!!
パパしゃんの先導でクロウに担がれてカニやんを探しに来てみれば……うん、もう一度言うけれど、わたしは米袋でも米俵でもないから。
でも自立出来ない現実は目を逸らせないわけで、しかもこの二人は強いからおとなしく連れてきてもらったほうが早いってうね。
効率重視!!
そう! 効率重視よ!
だからおとなしく担がれてたんです!
「まぁそういうことにしといたるわ」
「相変わらず悪足掻きしよんな」
うるさいわね!!
二人のおかげでカニやんのところにすんなりと辿り着けたところまではよかったのよ。
うん、ここまではよかったの。
カニやんの居場所自体は、ほら、ど派手な視覚効果で結構な距離があってもすぐにわかるからね。
でもね、辿り着いてみたら心配して損したというか、当たり前と言えば当たり前なんだけど、さっきからうるさい二人が先客でいたっていうね。
「なんや、俺らがおったらあかん?」
「俺らなんもしてへんで?」
うん、なにもね……っていうか、訊いてもいい?
「なんでも訊いて」
「答えられることやったらな」
この二人に答えられないことがあるとは思えないほど優秀な頭脳をお持ちなんだけど、あえてカニやんに訊くわ。
「どうしてこの二人がいるの?」
「なんでそれを俺に訊くねん?
おかしいやろ?
起動…………氷雪乱舞」
だからあえてカニやんに訊くって前置きしたじゃない。
顔も性格も、本名までイケメンのカニやんはわたしの質問に答え……てないわね。
突っぱねて詠唱すると、こちらを見てムカつくほどのイケメンでにひっと笑う。
そういう顔をしてもイケメンなのよね。
「そりゃどうも。
グレイさんこそケツで個体識別されるとか、どんな……」
どんな……なに?
今の時代じゃヤバいことを言い掛けたわよね?
もちろん途中でやめたから明確になにを言おうとしたかはわからないけれど、絶対にヤバいことを言おうとしたはず。
いくらわたしが鈍いと言ってもそのぐらいはわかります。
だってドスケベを猛進する脳筋コンビはともかく、カニやんはそういうところもイケメンだから、言い掛けて気づいた瞬間に、それこそ 「しまった!」 みたいな顔をしたからね。
この正直者!!
がっつりそこまで見させてもらいました。
さっきと同じようににひっと笑おうとして、今度はちょっと引き攣っていたけれど、それでもやっぱりイケメンです。
ほんっと、ムカつくほどイケメンだわ。
「そりゃどうも」
「で、どうして柴さんとムーさんがいるの?
起動……業火」
「せやから俺に訊かんといて。
起動…………スパイラルウィンド」
今日も照れ隠しですか。
ほんっと、この二人はカニやんのことが大好きなんだから。
こんな危険な中をわざわざカニやんを守りに来るなんて。
「それ、ちゃうから。
こいつら、がっつり俺落としに来たから」
「なんで俺らがカニ守らなあかんねん?」
「キモいこと言わんといて」
カニやんどころか脳筋コンビまで照れ隠し。
おっさんどもが揃いも揃ってイケメンに群がって。
しかも群がるおっさんもイケメンっていうね。
そんなんだからわたしみたいな喪女が黒歴史を更新し続けることになるんじゃない!
「まさかの八つ当たり」
「そう来るとは思わんかったわ」
「さすが斜めに来たな」
「起動…………ダイヤモンドダスト」
「起動……百花繚乱」
「ちょ」
「白軍二人で無茶苦茶撃ちまくるなや」
「俺ら紅軍やて。
忘れてへんやろなっ?」
そうなの
今戦で柴さんムーさんの脳筋コンビは紅軍なのよね。
カニやんだけ白軍で、他の誰かに落とされるなら俺が落としてやるみたいな感じで落としに来たらしい。
「違うと言われへんのが嫌やな」
「違うと言いたいけどな」
否定しないんだ。
ほんっと、この二人はどんだけカニやんが好きなのよ?
「そこは否定しとくわ」
「絶対否定させて」
「俺も否定させてもらうわ」
どうしてカニやんまで?
「否定せなあかんところやから。
ついでに拒否や」
それこそ絶対に否定しなければならないところらしい。
その、恋愛経験が全くといっていいほどないわたしには女心もよくわからないのに、男心なんてわかるはずもなく。
全くカニやんのモテイケメンの男心に共感出来ません。
「せんでえぇて。
起動…………氷雪乱舞」
謎すぎる……
でも世の中には知らなくてもいいことが沢山あるっていうし、きっとこのモテイケメンの男心も知らなくてもいいことだと思う。
だってほら、わたしは女だし?
「このジェンダーの時代になに言うてんねん」
「女王はキャパオーバーやろ」
「喪相手に、加減したれや」
なんかちょっと屈辱を感じます。
そこでなにか仕返しに意地悪でもしてやろうかと思ったんだけど……
「撃たんといてや」
「落ちてまうから」
なにかを察したらしい二人が先に牽制してきました。
この二人の超高性能危機管理能力は相変わらず有能でムカつきます。
そこでわたしが思いついたのはこの三人の関係にひびを入れること。
ということで爆弾を投下してみようと思います。
「そういえばミッキーさんがカニやんのこと心配してたわよ」
そもそもわたしたちは、カニやんのことが心配で心配でたまらないミッキーさんから相談を受けて探しに来たというか、回収しに来たというか。
だから脳筋コンビは邪魔……ゲフゲフ……なんでもありません。
カニやんという強火力を失うのは惜しいので、この混乱の中を守っていてくれたことには感謝します。
「海希ちゃん?」
「あー 【3B】 も参戦しとるんや」
わたしはあくまでも他人行儀で 「ミッキーさん」 とアバター名で呼ぶけれど、やっぱりそれなりに親しいと思われる柴さんは 「海希ちゃん」 と本名呼び。
フルネームは蟹江海希さんね。
しかも兄のカニやんは、どこぞのおっさんに妹をちゃん付け呼びされているのに全く気にしないとういうか、どうでもいいというか。
「こいつらの方が相手せぇへんやん」
またそんなこと言って。
ミッキーさんもこの大変な中で、カニやんを心配してわざわざ私に報せてきたのよ。
この麗しき兄妹愛に少しでも応えようとは思わないわけ?
「思わへん」
なに、その迷いのない返事は?
しかも間髪を置かず返してきました。
「ちょ、女王、麗しき兄妹愛て……」
なによ柴さん、その吹き出しそうな顔は?
わたし、なにかおかしいこと言った?
「言うた、言うた」
「カニんとこの兄妹愛て……」
「兄妹愛言う以前にやな、普通の妹は兄貴を柱に縛り付けたりせぇへんから」
「ひん剥いたりもせぇへんから」
あー……
そ、そういえばそんなこともあったわね……と過去を思い出しつつチラリとカニやんを見れば、あの時のことを思い出したのか、その、表情が強ばっていたというか、張り付いていたというか。
「起動…………氷雪乱舞!」
「ちょ、カニ!」
「せやから俺らに撃つな言うてるやろ!」
「このボケが!!」
がっつり二人を射程に捉えてお得意の氷雪系範囲魔法 【氷雪乱舞】 を放つカニやん。
冷たい氷の礫に撃たれながらも文句を言う脳筋コンビだけど、当然のことながら落ちません。
うん、でも 【落ち武者タイム】 が終わったら即座に敵に戻るわけだし、ちょっとくらい削っておくのもいいかもしれない。
そんなちょーっと悪いことを考えていたら、さらにカニやんの機嫌を悪くする声が聞こえてくる。
「優歌ーっ!!」
このゲームにも結構な数のユーザーがいるけれど、カニやんを本名の 「優歌」 と呼ぶプレイヤーはただ一人。
唯一無二の存在にして諸悪の根源が登場です。
うん、まぁお兄さんが心配で心配で……というのは脳筋コンビに否定されたけれど、否定理由にも納得はいったけれど、でも実際に本人が登場したというのはどういう状況?
それともう一つ疑問があります。
この 【落ち武者タイム】 まだ終わらないの?
いよいよ期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 初日第三戦も終了間近。
え? ここから終了っ? ・・・と思われるでしょうが、終わります。
はたして勝敗はっ?
そして兄妹愛の行方はっ?!