766 ギルドマスターは兄妹の愛で蹴散らします
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始まったミニゲーム 【落ち武者タイム】 の最中、グレイに呼びかけてきたミッキー。
その用件とは・・・
『えーっと、アールグレイさん?』
不意に始まったミニゲーム 【落ち武者タイム】 で色々忙しい中、これまた不意に聞き覚えのある女性の声が直通会話で呼びかけてきた。
いや、まぁ 【落ち武者タイム】 が始まらなくても、そもそもイベント開始直後の混乱で忙しい真っ只中。
超多忙!
「起動……百花繚乱」
ちなみにミニゲームはルールに書かれているからいつ発生してもおかしくはない。
こればっかりは備えようがないというか、備えていても始まらない可能性もあって、しかもルールにはミニゲームが発生するとしか書いていないという雑さ。
まぁここの運営のことだから、おそらく意図してやっていると思われる。
まぁ別にいいけど
本心を言えばよくないけれど、言っても仕方がない。
だってここの運営は運営だからねぇ……。
そういえば小林さん、お元気かしら?
最近は直接ゲームに干渉してくることもなくてご無沙汰だけど、たぶんあの人たちのことだから元気よね。
うん、たぶん元気よ
えーっと、そんなことより直通会話よね、直通会話。
その相手をすぐに思い出せなかったわたしも悪いとは思う。
思うけれど、そもそもそんなに接触がないのよね。
だから声を聞いただけではすぐに思い出せなかったんだけど、でもちゃんと思い出す努力をすべく待ってと言ったのに、聞いてくれなかった相手は自白というか自供というか。
非常に積極的で前向きな性格の主でした。
『時間ないんで自供します、ミッキーです』
あ、自供が正解です。
詠唱で忙しくしていて返事が遅れたら……本当は誰だったか思い出すのに時間がかかったということは内緒です。
うん、まぁそこは内緒にしておいてもらって、痺れを切らした向こうから教えてくれたのはともかく、人聞きの悪い言葉を使うところはさすが兄妹というべきかしら?
自供ってなによ?
犯罪者でもあるまいしねぇ~……という話は置いといて、本題です。
直通会話で呼びかけてきた声の主は、現実のお友だちだけで結成されたギルド 【3年B組ドンパチ戦線】、通称 【3B】 所属の剣士で、カニやんの妹蟹江海希さん。
カニやんや脳筋コンビと違って、わたしとはほとんどつながりがないというか、接触がないというか。
これまでに会ったことも数回だし、話だってほとんどしたこともない……はず。
たぶんね
ちょっと、その、記憶が曖昧なんだけど、印象が特殊すぎて存在感激強なんだけど……うん、そういえば犯罪まがいのことをやらかして、運営からアカウント停止処分を食らったこともあったわね。
おかげで特殊な印象なんだけど、本当にわたし自身は付き合いがないのよね。
そんな海希さんが遥か本州近くから、直通会話を使ってわたしに呼びかけてきた。
名前を呼んでくれたから繋ぎ間違えたわけでもなさそうです。
ちなみに海希さんの現在地についてはぽぽとくるくるが情報提供者。
そのご縁を繋いだのはもちろんカニやんです。
しかも時間がないとか言って少し焦っている……のはちょっと違うかな?
でも様子がおかしい。
いったいなんの用かと思ったら……
『優歌、知りません?』
優歌と言いますと、本名も顔もとってもイケメンなカニやんのことよね?
フルネームは蟹江優歌、言わずとしれた海希さんのお兄さんです。
えーっと、カニやんのことは知っているけれど、たぶん海希さんのこの質問はそういうことを訊いてるわけじゃないのよね?
『もちろんでーす!』
陽気な海希さんは笑いながら応えてくれる。
ノリがいいというか、付き合いがいいというか。
助かります
「起動……スパイラルウィンド」
じゃあなにを訊いているのかと言えば安否確認って、これまた物騒な言葉を使ってきました。
言葉のチョイスセンスがさすが兄妹だわ……というか、なぜ海希さんがカニやんの安否確認を?
あ、いや、安否確認をするのは別のいいのよ。
そこは麗しき兄妹愛ということで……
『ヘドが出るんで、そういうの、いいです!』
ちょっとあれね、海希さんってカニやんの扱いが雑。
日頃の兄妹関係が透けて見えるというか、カニやんの情けなさが……ゲフゲフ……なんでもありません。
とてもしっかりしたお兄さんよね、うん。
まぁ蟹江兄妹の現実世界な関係性はそのへんに置いておくとして、どうして海希さんがカニやんの安否確認なの?
だってカニやん、そこにいるのよね?
さっきカニやん自身が直通会話でそう言ってたはずだけど……
『あー……その様子だと、まだ合流してないのか』
「合流って……」
そういえばさっきカニやん、移動してるみたいなこと言ってたっけ?
……まさかと思うけど、カニやんったらこの 【落ち武者タイム】 の中を単独で移動してる?
え? だってカニやんはわたしと同じ魔法使いよ。
この大混戦というか、大混乱の中を単身赴任……じゃなくて、単身で移動してるのっ?
ちょっと待って!
待って待って、カニやんのことも心配だけど、そっちは?
海希さんたち、通称 【3B】 のメンバーには悪いけれど、やっぱりこの状況だとぽぽやくるくるの方が心配になってくる。
同じギルドのメンバーというのはもちろんだけど、仮にもわたしは主催者なわけだし。
今回の期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 は個人戦同然の仕様というか、ルールだけど、それでもやっぱり同じ軍で連絡もついてるし、さっきは助けてもくれた。
どうしても心配になる。
そういう意味ではカニやんもメンバーだしもちろん心配だけど、まぁその、なに?
ここはやっぱり日頃の行い……ゲフゲフ……そ、その、重火力だし?
一応ね、カニやんには悪いと思うけれど、やっぱりぽぽやくるくるの方が気になるわけで……
『とりあえず銃士は無事です、ってかこの人たち強いんですけど?』
うん、ぽぽもくるくるも、トップ銃士のクロエに日頃から鍛えられてるからね。
そもそもクロエとセブン君が飛び抜けて強いだけで、あの二人だって十分すぎるくらい強いですとも。
主催者として自慢出来るくらい強いわよ。
それでもやっぱり近寄られれば落とされるが運命なのは魔法使いと同じ銃士。
この状況で落ち武者の接近を許せば……というか、数が数だもの。
紅軍も含めて圧倒的多数で押されれば、やはり接近を阻むのはかなり難しいと思う。
同じ非力でも、攻撃型魔法使いと違って銃士には範囲攻撃がないからね。
『一応優歌から指示があって、浜ギリギリまで後退して、落ち武者も紅軍も前面からしか接近出来ないようにしろって言われたんです』
そうすれば背後はもちろん、左右からも狙われにくい。
もちろん完全とはいかないだろうけど、それでも敵がほぼ前面からしか来ないならなんとかやりようもあるというか、防ぎようもある。
海希さんたち、通称 【3B】 のメンバーも強いしね。
壁になって敵の接近を阻んでくれれば、ぽぽとくるくるも後方から支援出来る。
さすがカニやん
とっさに状況を判断し、的確な指示を出す。
カニやんなりに持ち場を離れる代わりの責任を果たしたつもりだろうけれど、それで自分が心配されてどうするのよ?
しかも妹さんに。
どんな不出来なお兄さんよ?
ちょっとカニやんには悪いけれど、我が身を省みなさすぎです。
そりゃ自分至上主義も困るけれど、かといって自分のことをなおざりにし過ぎるのもどうかと思う。
そもそもどうして持ち場を離れたわけ?
一緒にいたらぽぽやくるくるだけでなくカニやんだって安全だったのに……
『あー……そこは優歌に聞いて下さい』
「うん、わかりました」
そうね、確かにカニやんに直接訊きましょう。
口ぶりから海希さんも知っていそうな感じだったけれど、海希さんも忙しいしね。
『というわけで優歌のこと、お願いしてもいいですか?』
「わかったわ」
『じゃ、そういうことで』
このあとウンともスンとも言わなくなったから、たぶん直通会話は切られたと思う。
ウィンドウで確認出来るけれど、開いている余裕はない。
それに差し迫ってわたしには別の問題があった。
いや、その、まぁなんですか?
話の流れとはいえ、海希さんには 「わかった」 なんて安請け合いしてしまったけれど、その、ですね、はい、安請け合いしすぎました。
もちろんカニやんの居場所だってわからないんだけど、それ以上にですね、この状況でカニやんを探しに行くっ?
出来るのっ?!
……冷汗がちょっと止まらないかも。
だってわたし、自力じゃ移動出来ないのよ?
それこそカニやんの居場所がわかっても、どうやって辿り着くのよ?
むしろこちらの居場所を知らせるからカニやんの方から来て欲しい。
別に会いたいわけじゃないけどね
しかも迂闊に海に落ちたらどうなるか……というか、この 【落ち武者タイム】 のあいだは海中を見たくない。
なにかこう、おぞましい光景が見られそうな気がして嫌なのよ。
うん、まぁ現実は落ちるとか落ちないとか以前の問題で、こう激しく小舟が揺れると立ち上がるのも難しい。
そんな中でカニやんを探しに行く、しかもそれを自分から請け負うというとんでもないミスをしたおかげで冷汗が止まりません。
どうする?
んー……海希さんとはこの先どこで会うかわからないけれど、会う可能性自体がそもそも低いので、聞かなかったことにしてしまおうか。
そんなことを考えていたらクロウとパパしゃんの話が聞こえてきた。
「蟹江か」
「たぶんあの辺りじゃないですか?」
そう言ってパパしゃんが視線を向ける遥か先に、派手に水飛沫が上がっているのが見える。
あー……なるほど、確かにあの派手な視覚効果はカニやんね。
やっぱりちょっと遠いな。
うん、遠くなくても行けないけど。
となるとわたしも派手に視覚効果を上げてこちらの居場所を知らせる……とか考えていたら、落ち武者や、それぞれ白軍紅軍を落とすのに忙しいはずの二人がわたしを見る。
なに?
「回収に行くんですよね?」
「違うのか?」
なに、この以心伝心感は?
しかも二人で通じ合っているとか、どういうこと?
わたしの存在はどこですか?
い、一応主張させていただきますと、クロウは、その、わ、たしのか……でして、パパしゃんには奥様がいらっしゃいます。
別のゲームで遊んでるらしいけど、既婚者であることは宣言してるからね。
それなのにクロウと浮気ですか?
しかもか、じょの前で堂々と?
噛みまくり
「俺が先行します。
クロウさんはギルマスを」
「わかった、頼む」
やっぱり二人だけで通じ合って……合って?
あら?
ちょ、ちょっと待って!
わ、わたしは米俵じゃないのよっ!!
ま、ってってばクロウ。
いや、その、確かに自力じゃ移動出来ないんだけど、だからっていきなり肩に担ぎ上げないでくれる?
しかもパパしゃんもわかってる感じで……というかどこに行くつもり?
「蟹江の回収だろう」
それはそうなのですが、どうしてクロウもパパしゃんもわかってるのよ?
「そんな話をしていたようだったので。
相手は誰かわかりませんでしたが……」
えーっと、それはつまり、わたしの話を聞いていたってこと?
さすがに相手はね、クロウはもちろん、パパしゃんなんて海希さんと会ったことがあるかどうかも疑問だもの。
わたしの独り言が聞こえていたなら、ひょっとしたらくるくるかぽぽあたりだと思……わないか。
あの二人の声なら、さすがにわたしも一瞬で誰かわかるもの。
うん、まぁそんなわけで男の熱い友情で結ばれた二人は以心伝心なのね。
そんでもってカニやんのところまで連れて行ってくれたわけだけど、カニやんが無事だったのは当然だけど、そこにはカニやんだけでなく……
期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 初日第三戦。
夜の海での繰り広げられる戦いも終戦まであと少し・・・?