764 ギルドマスターは鏡を割って愛します
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厄介な強敵・恭平を、くるくるやぽぽの助けを借りて落としたグレイ。
次はいよいよクロウを! と言いたいところですが・・・
さすがのクロエでもあの速さで連射は不可能。
どんなに縮めても絶対に再装填時間があるからね。
それこそさすがのクロエでも再装填時間を0にすることは不可能。
でもそうなると、あの連射速度で恭平さんを撃ったのは二人ということになる。
直前にカニやんと話していたこともあって、わたしはあの二人を想像した。
だから落ちる直前の恭平さんの問い掛けにそう答えたけれど、実際のところはどうだったのか?
『正解』
いいタイミングでカニやんから、明快すぎるほど明快な回答があった。
わたしの声と状況を推測しての回答だと思うけど。
そのへんはさすがカニやんと言ったところかもしれない。
でも脳筋コンビには内緒。
下手なことを言えばあの筋肉に恨まれるもの。
『筋肉に恨まれるてなに?
肉は恨まへんやろ?』
「わからないわよ」
だってあの二人だもの。
どんだけカニやんのことが好きだと思ってるのよ?
それこそそんな風にあの二人の気持ちを弄んだら、そのうち痛い目に遭うから。
『いや、いっつも斬られてるから。
とっくに痛い目見てるから』
「弄んでる自覚があるのね」
『言うとくけど、あんたには言われたないから』
「どうしてよ?」
『自分の胸に手ぇ宛てて、よぉ~く考えてみ?』
「そんな余裕はありません。
起動……業火」
攻撃魔法の天敵というか、魔法使いの天敵スキル 【震える鏡】 を持つ恭平さんが落ちてくれたから遠慮は要らない。
周囲にいた紅軍に向けて得意の範囲魔法 【業火】 を放つ。
……というかね、案外恭平さんが 【震える鏡】 を所持することは有名だったのか。
わたしがいつ魔法攻撃を仕掛けるかわからず、紅軍のみならず白軍まで警戒していた節が見え隠れする。
わたしが所持する常時発動スキル 【愚者の籠】 は攻撃魔法を吸収し、その何%かをMPに換えてわたしに還元してくれるスキルだけど、恭平さんが所持する常時発動スキル 【震える鏡】 は、威力を少し落として反射する。
一般エリアではともかく、PKが出来るエリアでは、その反射でオウンゴールならぬ味方殺しをしてしまう可能性がある。
第二戦でアキヒトさんがしたように自爆も出来ちゃう。
そしてここ期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 が開催されるエリアも、敵と味方に分かれてPKが出来る。
おまけにこういう期間限定エリアって通常エリアと条件が違っていて、反射をわたしの攻撃とみなすか。
あるいは恭平さんの攻撃とみなすかで落ちる相手が代わる。
紅軍プレイヤーが落ちるか、白軍プレイヤーが落ちるか。
はたまた軍問わず落ちるか。
周囲ではクロウとパパしゃんが派手に水飛沫を上げていることもあって、そこそこレベルのプレイヤーじゃ近づけない状況になっていて、高レベルプレイヤーが集まっているから余計に用心されたのかもしれない。
二人とも器用で、邪魔なプレイヤーを結構サックリ落としてるからね。
「起動……百花繚乱」
まぁおかげで 【業火】 の一撃では落ちないプレイヤーも結構いて、恭平さんが落ちて反射の心配が無くなったからって早速かかってくるし。
パパしゃんにはなんとしてもクロウを落としてもらわないと困るんだけど、もし……もしだけど、支援をする余裕があるならパパしゃんのほうをしてもらえない?
接近戦には弱い銃士のほうが大変な状況だってことはわかってる。
射程とか、範囲攻撃がないこととか、魔法使いより全然不利な状況だってことは百も承知で言ってみる。
『あんた、自分の旦那を落とす算段とか、よう考えるわ』
そ、それはもちろんゲームだからであって、その……冷汗が……その、ひ、人聞きの悪いこと言わないでくれるっ?
わたしだってゲームじゃなけりゃ……というか、敵でなければ考えないわよ!
でも勝敗はヤシマに辿り着いた紅軍の数と、終戦時に生き残った白軍の数で決まるわけだし、パパしゃんの火力は全然無駄に出来ないし、そ、そこは同じ白軍なわけだし?
カニやんだってわかってくれると思うんだけど……
「起動……スパイラルウィンド」
『わかってるけどな。
起動…………氷雪乱舞』
ん? んん?
なんだか久々にカニやんの詠唱を聞いたような気がするんだけど?
ひょっとしてカニやん、全然お仕事してなかったとか?
『ちょっと俺にも都合ってモンがあんのよ』
「どんな都合よ?」
『すぐわかるって』
「早く教えてよ」
『ちょい待って』
「すぐわかるって言ったくせに」
『せやからすぐやて』
「じゃあ今すぐ教えてよ」
『急いては事をし損じるて言うやん』
なにこれ?
わたしたち、禅問答でもしてるの?
『こんなん禅問答ちゃうやん』
「起動……業火」
じゃあその事情? いや、都合か。
そのカニやんの都合とやらをすぐに教えてください。
「ギルマス!」
ドォォォォォン!
またしても轟音とともに、よりによってすぐとなりにある小舟に乗り移ってきたパパしゃん。
その呼び声すらかき消すくらいの轟音を立ててね。
おかげでカニやんとの禅問答ではない問答が途絶える。
もちろん隣の小舟に来るのはいいんだけど、出来たらもう少し静かに来て欲しい。
そ、その、舟がゆ、ゆれ……れてね、詠唱をした直後だったからよかったけ、ど……舌を噛みそうになったわ。
「すいません、ちょっと気になることが聞こえたので」
うん?
わたし、なにか変なこと口走った?
いや、その、まぁクロウを落とそうとはしてるんだけど、それはほら、ゲームだから仕方がないというか、今は敵だし?
焦ったわたしがしどろもどろに言い訳を並べ立てていたら……うん、もちろんこれが言い訳だってわかってるんだけどパパしゃんもわかっていて、面白そうに笑われた。
「そういうのを殺したいほど愛してるって言うんですかね?」
ひぃぃぃぃぃぃ~~~
なに、それっ?
待って、か、顔が熱い。
ううん、顔どころか耳まで熱い。
ヤバイ! ヤバイヤバイヤバイ。
海に顔を浸けて冷やすべきっ?
速効で冷えてくれる?
「すいません、つい」
わたしの狼狽えぶりを見てパパしゃんったら、面白そうに笑わないでよ!
しかもクロウまで、パパしゃんに斬り掛かる振りをして全然本気じゃないし。
だからパパしゃんも軽く打ち払うだけだし。
もう、なんなの?
わたしがなにを言ったのっ?
「いえ、勝敗って白軍は生き残らなくてもいいのでは? と思いまして」
うん? どういうこと?
いやいやいや、待って。
確か生き残らないと駄目じゃなかったっけ?
第二戦が終わったあとそういう話をしたはずだけど……あ、パパしゃんはいなかったっけ。
そういえばいなかったわね。
パパしゃんは第三戦が初戦だし。
だからあの会話を知らないのはともかく、なにを言ってるわけ?
「……休戦だ」
不意に割り込んでくるクロウ。
カニやんと違って、パパしゃんとわたしはエリアチャットで話しているからね。
紅軍とはいえ、クロウにもわたしたちの会話は聞こえている。
だからそれはいいんだけど、休戦というのは何?
そういうルールでもあるの?
「ない」
そうよね
頷くわたしを見てクロウが笑う理由がわからないんだけど、パパしゃんとクロウのあいだでは休戦協定とやらが結ばれたらしい。
パパしゃんのすぐ隣に立ってもクロウはパパしゃんを斬らないし、パパしゃんもクロウを斬らない。
でも二人に斬り掛かってくるそれぞれのプレイヤーは容赦なく斬り落とす。
なに、その男同士の友情みたいなのは?
わたしは入れてもらえないわけ?
「入ってもらわないと困る」
「ギルマスはクロウさんを落とせますからね」
このHPお化けがそんな簡単に落ちるものですか。
『ツンデレ』
ちょっとカニやん、なにか言った?
『別に』
うん? また詠唱が止まってる。
ひょっとしてカニやん、移動してる?
それで詠唱出来ないのかも……というのは置いといて、突如として結ばれた男同士の友情……じゃなくて、休戦協定について聞いてもいい?
「ですからルールです。
白軍は生き残らなくてもいいのでは?」
「え? そうなの?
起動……百花繚乱」
「グレイ、ウィンドウを開け」
さすがにこの状況じゃね、クロウもパパしゃんも剣を持っているし。
斬り掛かられたら、受けるか斬り返すかしないと落とされてしまう。
そうなると詠唱さえ出来ればいいわたししか手が空かないわけで、クロウもいつものように二人羽織のようにわたしの手を操ることも出来ない。
だから自主的に手を動かしてウィンドウを開き、イベントページを開く。
【白い鉢巻きを受け取ったプレイヤーは、以降白軍と呼びます。
また紅い鉢巻きを受け取ったプレイヤーは、以降紅軍と呼びます。
開戦と同時に、白軍は紅軍を追ってこれを撃破すること。
紅軍は白軍を撃退しつつ、一人でも多くヤシマに辿り着くこと。
またイベント時間内では、ミニゲームが発生することがあります】
…………ん? んん?
待って。
書いてあるとおりだとすると、白軍は紅軍を落とした数。
紅軍はヤシマに辿り着いた数と、白軍を落とした数?
いや、白軍を撃退しつつだから撃破、つまり落とさなくてもいいわけだ。
ということは、白軍は紅軍を落とした数。
紅軍はヤシマに辿り着いた数ってこと?
あれ? だとしたら白軍は紅軍に落とされても関係なくない?
むしろ紅軍のほうが、ヤシマに辿り着けなくても白軍に落とされないほうがいいってことじゃない?
「俺はそう思ってましたけど……」
なぜか申し訳なさそうな顔をするパパしゃん。
いやいやいや、合ってるし。
パパしゃん大正解だし。
むしろわたしたちのほうが間違っていたというか……誰だっけ、間違ってるとか言いだしたの?
……………………
ちょっとカニやん?
ここで沈黙ってことはあれよね?
沈黙も答えってやつ。
しかも白軍は落ちてもいいって、ノーキーさんが言っていたことが正解って……
やっぱり嫌!!
『もうちょい待って。
俺、今ウィンドウ開かれへんねん』
やっぱり移動してるんじゃない。
ぽぽたちを置いてどこをほっつき歩いてるのよ?
まぁ 【3B】 の皆さんが引き受けてくれてるならいいけど、カニやんだって十分すぎるほど非力なんだから。
あまり迂闊な単独行動しないでよ。
『次からは気ぃつけるわ』
そうしてください。
でも、これで休戦協定は終了ってことよね。
男同士の友情はあっけなく破綻です。
しかも白軍は生き残らなくてもいい。
それならわたしがクロウと差し違えるわ。
周囲にいる白軍紅軍かまわず巻き込んで落とす! ……と意気込んだのに、今度は運営に水を差されるっていうね。
information これよりミニゲーム 『落ち武者タイム』 が始まります。
【那須与一タイム】 に続く新たなミニゲームが唐突に始まった。
実は勘違いだったことが判明したルール。
毎回どちらに軍になるかわからないところがややこしかったのか?
あるいはそこが運営の目論見なのか?
初参戦のパパしゃんのおかげで間違いに気づけたグレイたちでしたが、新たなミニゲーム 【落ち武者タイム】 とは?