762 ギルドマスターは鏡に自分の姿を映します
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クロウv.s.パパしゃんの攻防戦。
グレイの放った 【クロノスハンマー】 によって水を差され、クロウが不利にっ?!
VITの差が運の尽き?
わたしの放った無属性魔法 【クロノスハンマー】 によって、その影響範囲内にいる全てのプレイヤーが動きを止める。
ほとんどダメージは与えられないけれど、それがこの魔法の効果。
それこそVITの高さによるけれど、流出するHPの量なんてサラッとよ。
今回の期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 では味方の攻撃はダメージが出ないから、白軍プレイヤーは身動きこそとれないけれどダメージは皆無。
紅軍プレイヤーは……まぁレベル次第というか、VIT次第。
クロウほどの高レベルプレイヤーはサラッと程度ね。
そんなクロウには少しレベルで劣るけれど、VITの高さはクロウ以上のパパしゃん。
一瞬早く 【クロノスハンマー】 の影響を振り切ったパパしゃんの一撃に、次の瞬間には、やはり 【クロノスハンマー】 の影響を振り切ったクロウも辛うじて背を逸らせてかわすけれど、間に合わずその首を半分くらいざっくりと斬られて大量のHPを流出させる。
その瞬間、クロウがなにか言ったような気がしたけれど聞こえなかった。
なんだろう?
わたしと遭遇した時、すでにわたしの一撃を受けていたはずのクロウ。
視覚効果の影響でその時に流出したHPの量はわからないけれど、魔法使いとはいえ、わたしもそれなりの火力は持っているつもり。
まぁでも、思い返してみればノーキーさんもなかなか落ちてくれなかったもんね。
ノギさんも……。
あの脳筋イケメン兄弟め!
そう考えればクロウがまだ落ちないのはわかる。
当然パパしゃんもわかっていて、大盾から持ち替えていた剣を次の瞬間にはまた大盾に持ち替え、そのままの勢いで大盾による体当たり、【シールドチャージ】 をお見舞いしようとする。
このへんの手早さはさすがに慣れたもの。
これを正面から食らえばさすがのクロウも……と思ったけれど、食らわないのがクロウです。
お仕事が出来る上司様はゲームも出来るのよ。
しかも以前にチラリときいたところでは、学生時代に武道?
えっと、空手だっけ?
経験者
仮想現実ではすべてが自由自在というわけではなく、やはり現実世界での経験が物を言う。
実際に現実世界で動いてみたことがあるというのはアバターにも大きく反映されるから、STRやVIT、AGIなど数値が全ての世界という制限はあるけれど、経験の有無で動きそのものが全然違う。
ほら、初戦でノーキーさんが見せたあの弓。
あれって絶対経験者よね。
ノーキーさんが弓道……というか武道経験者っていうのがちょっと、いえ、凄く意外だったけど。
だって礼儀作法とは全く縁のないところで生きてそうだもの。
もちろんこれはわたしの偏見であって、現実世界ではとっても実直とか、堅実に生きている人かもしれない。
いわゆる人格設定は仮想現実の楽しみの一つだからね。
憧れのキャラクターを演じてる人は多いと思う。
残念ながらわたしはそのままだけど。
上司様もね!!
そういえばこの第三戦が始まる少し前、どこかにいるマメが掲示板情報を教えてくれた。
相変わらずなにをしているのか、全然メンバーの前に姿を見せないマメ。
でもログインはしていて装備の交換とかしてるみたいなんだけど、その関係で掲示板にも張り付いている。
そういうスレッドが幾つかあって、マメはその利用者というか、お得意様なんじゃない?
いろんなプレイヤーとやり取りをしているらしい。
つまりマメが掲示板情報に詳しいのは、ギルドメンバーのために情報を集めているのではなく、ただのついで。
ま、別にいいんだけどね
本人が楽しむのが一番だから、マメだって例外じゃない。
そのマメが掲示板を巡回していて見つけた書き込みによると、あの最後の最後、それこそ終戦を報せる法螺が鳴るまで大混戦を極めた第二戦。
あれ、紅軍はミニゲーム 【那須与一タイム】 の発生を期待していたというか、かなりの数の紅軍プレイヤーが必ず発生すると考えていて、あれが発生すれば必ず逃げ切れると思っていたらしい。
だからギリギリまであんな場所にいたわけね……
なるほど
確かにルールとして、白軍は射手の位置よりヤシマ側にはいけないことになっている。
でもあれ、射手に選ばれるプレイヤーがどこにいるかにもよるじゃない。
それこそヤシマ近くにいれば、ミニゲームが始まっても全然逃げ切れない。
ポイントを捨てれば、適当に連射して数秒で終わらせることだって出来るしね。
そもそもルールとして……
【白い鉢巻きを受け取ったプレイヤーは、以降白軍と呼ぶ。
また紅い鉢巻きを受け取ったプレイヤーは、以降紅軍と呼ぶ。
開戦と同時に、白軍は紅軍を追ってこれを撃破すること。
紅軍は白軍を撃退しつつ、一人でも多くヤシマに辿り着くこと。
またイベント時間内では、ミニゲームが発生することがあります】
必ず発生するとはどこにも書いてないのよね。
むしろ発生することがあるけれど発生しないかもしれないわけで、確率? ランダム?
いずれにしても発生をあてにして戦略を立てるのは無謀だと思う。
むしろ発生した場合を注意すべきで、発生しない前提で考えたほうがいいと思う。
射手を経験した身から言わせてもらうと、結構本格的な感じだったし、的にだってなかなか当たらないと思うし。
まぁあんな具合に、特にこのゲームの運営は細かいところにこだわる癖があるから、どうしても経験の差が出る。
経験値の差
おかげでわたしなんて、揺れる小舟の上で立つことも出来ないわけだけど。
でもお仕事が出来る上司様はゲームも出来て、空手の経験もある。
だからといってこの場面で、大盾相手に拳や蹴りが通用するはずがない。
もちろん怪我はしないけれど、ダメージは、むしろクロウのほうが負うはず。
なにしろ相手はVITの高い大盾で、その大盾を操る盾剣士。
しかもクロウはすでに結構な量のHPを失っているから、もうあまり無茶は出来ないはず。
そこで登場するのがいわゆるプレイヤースキル。
もちろんここじゃなくても登場するけどね。
特に剣士は
しかもパパしゃんは、一度片手剣に持ち替えてクロウをその間合いに入れている。
つまり二人の距離が近く、大盾に持ち替える早さはさすがだけれど、盾剣士の得意技とも言える 【シールドチャージ】 でクロウを仕留めるには助走の距離が足りない。
うん、そこはわたしも注目します。
絶対にそこを衝くと思う。
思うけど……動けないのがわたしです。
ここよ!
ここに経験値の差が出るの。
片手剣の間合いなんて、クロウにしろパパしゃんにしろ一瞬で詰められる距離。
クロウがおとなしく突っ立っているはずがない。
もちろんパパしゃんだってそれはわかっていたはずだけれど、攻めなければクロウの反撃に遭うことがわかっている。
引くに引けない状況であり、クロウを落とせるかもしれない絶好の機会でもある。
逆にクロウは、落とされるか生き残れるかの瀬戸際かもしれない。
大盾の上に片手をついた……と思ったらそのまま握り、えーっと、跳馬?
ほら、体操競技にある跳馬。
あれの要領で、パパしゃんを体操器具としての跳馬に見立て、跳んでかわしました。
大盾を掴んだ瞬間、わたしは大盾を奪うつもりなのかと思ってしまったけれど、冷静に考えてみれば、たぶんそれはクロウでも難しいと思う。
なにしろパパしゃんはVITが高いからね。
大盾争奪戦をしても、HP残量に不安を抱えるクロウが不利。
所持スキルを考えても、クロウが大楯を役立てられるかわからないし。
いえ、もちろんパパしゃんから攻撃手段の一つを奪うという意味はあるわけだけど、リスクと天秤に掛けたら、まぁかわすという選択がクロウの答えだったわけで。
再び強固な守りを誇る大盾と、絶大な攻撃力を持つクロウの大剣砂鉄との攻防戦が始まる。
攻めきれないか
同じ剣士に分類される職種とはいえ、盾剣士はその呼び名のとおり守備が専門。
VITの高さには定評があるけれど、攻撃手としてはここぞという時の火力が足りない。
ならばパパしゃんとわたしの二人で……といきたいところだけれど、そうもいかないのが現実です。
恭平さん
VITの高さではパパしゃんに、レベルやSTRではクロウに及ばない恭平さん。
でもランカーなのは伊達じゃない。
この二人に次いで、わたしが放った無属性魔法 【クロノスハンマー】 の影響を振り切るのはわかっている。
他のプレイヤーと同様に連続攻撃で落としてしまいたい。
これまでそうやって来たようにね。
出来ないのよ!!
恭平さんには常時発動スキル 【震える鏡】 があるからね。
簡単に言えば第二戦のアキヒトさんの二の舞。
もっともわたしにも常時発動スキル 【愚者の籠】 があるから反射されても問題はない。
そう、わたしはね。
でも周囲のプレイヤーはそうはいかない。
問題がないのはわたしと恭平さんだけで、クロウとパパしゃんを含めた周囲のプレイヤーには問題大ありです。
わたしが放った攻撃魔法が、わたしに反射されて返ってくるなら問題はないけれど、そうでなければ他の誰かにあたるわけで。
距離的にクロウもパパしゃんも有効範囲内です。
パパしゃんは大楯で防げるとして、クロウはやっぱりPSでかわすのかしら。
しかも反射の場合、今回の期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 の自軍はダメージを受けないというルールが有効かどうか。
わかりません
うん、わからないけど、とりあえず恭平さんが 【クロノスハンマー】 の影響を振り切る前に仕掛けなければわたしに勝ち目はない。
幸いにしてクロウ対策というか、せめてもの抵抗を試みるために換装していた長刀屍鬼がある。
揺れる小舟の上では立てない……なんて言ってる時じゃないわよね。
自分の身は自分で守る!!
いえ、その、はい、基本的なことですよね。
はい、当たり前のことです。
今さらな自覚ですが、ついでに覚悟も来て立ち上がると、心許ない足場を、それでも精一杯踏ん張って大きく踏み込みながら屍鬼を抜刀。
狙うのはもちろん恭平さんの首。
魔法使いの非力なSTRでも一撃で落とせる、このゲーム最大の急所よ。
全プレイヤー公平の、ね。
STRもVITもない魔法使いが剣士に対抗するには、有無を言わさず火力でゴリ押しするか、その火力を捨てる覚悟で不慣れな武器を使って一撃必殺を狙うか。
【震える鏡】 を所持するプレイヤーには前者は通用しないから、必然的に後者となる。
この選択をするのに迷いはなかったし、恭平さんが乗っている舟に乗り移るためのジャンプも躊躇わなかった。
だって、次の瞬間には 【クロノスハンマー】 の影響を降りきった恭平さんに落とされるか、ジャンプに失敗して海に落ちるか。
どちらにしても落ちるのよ。
だったら跳ぶしかないわよね。
跳びました!!
距離的に見ればわたしでも十分に跳べる距離。
届けば着地は失敗でもいい。
屍鬼の長い刀身が恭平さんの首に届けば十分。
転けながらでも横に薙ぐ!
わたしにしては珍しく、なんとしてでも恭平さんの首を落とすという意気込み十分で跳んだ。
いける!!
……と思った刹那、恭平さんが本当の本当に厄介なプレイヤーであることを思い出さされました。
恭平さんの用心すべき点が常時発動スキル 【震える鏡】 の所持だけではなかったことを……。
レベル20を越えていたため、課金をしてステータスポイントを振り直したとはいえ、転職する前はわたしと同じ攻撃型魔法使いだった恭平さん。
INTが足りずほとんど発動しないとはいえ、かつて取得した魔法スキルは健在で、その中のいくつかは今も使える。
使えるのよ!!
そしてそれを恭平さん自身、自分の強味であることをわかっているから決して忘れない。
アキヒトさんはことごとく忘れるけどね。
あんなに恭平さんのことが好きなくせに綺麗さっぱり忘れるとか、あ……その、あ、ぃが足りないんじゃないかしら?
わたしも気をつけないと。
でも今気をつけるべきはそこじゃない。
覚悟と勢いで跳んだわたしの接近を阻むべく、恭平さんは容赦なく詠唱する。
「スパーク!」
グレイが放った無属性魔法 【クロノスハンマー】 の影響を振り切って繰り広げられる攻防戦。
前話から続く クロウ v.s. パパしゃん 戦に続き グレイ v.s. 恭平 戦が開戦!
生き残るのはっ?!