761 ギルドマスターは首の皮一枚が繋がります
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期間限定イベント【ヤシマの眩惑】初日第三戦は夜の海。
不運にもクロウと遭遇したグレイだが、パパしゃんが合流。
二対一でクロウを追い込むのかと思ったら・・・
そういえば、クロウとは初戦でも遭遇してるのよね。
登場シーンはよく覚えていないけれど……もうね、ほら、いろんな人がいろんなところからわらわら登場したから、今回のイベントでは。
まだ二戦しか終わっていないのに、ね。
お初のプレイヤーからご無沙汰のプレイヤーまで、本当にいろんな人と遭遇したからもう記憶が混乱。
大混乱よ
まぁそんなわけでクロウとの第一次遭遇は覚えていません。
そして現在第二次遭遇中……というか、大絶賛大ピンチ真っ最中ですとも。
第三戦にして二度目の遭遇よ、不運だわ。
いえ、確かに第二戦でも遭遇しているけれど、味方だったから合流と言ったほうがいい。
うん、あれは合流。
そして今回は遭遇です。
どうしてよりによってクロウと遭遇するのよ?
よりによってクロウと……
「ギルマス、下がって!」
そんなところに登場したのが、今回のイベント初参戦のパパしゃん。
絶体絶命のわたしを救出すべく登場してくれたけれど、相手はクロウ。
もちろん開戦直後の混戦状態の中、周囲には紅白入り交じって多くのプレイヤーがいる。
いるけれど……その、なぜかしら?
最初はそれこそ混戦状態で芋洗いっぽい状態だったんだけど、ある瞬間……その、クロウが現われた瞬間じゃないかしら?
わたしが放った攻撃魔法の視覚効果の中から現われたクロウが、わたしを視認して名前を呼んだのに気がついて……このあたりからさーっと波が引くように、周囲からプレイヤーが遠ざかったというか、離れていったというか。
なに、これ?
それでもまだまだ周囲にはプレイヤーがいて、状況次第ではわたしたちの間合いに入らざるを得ない。
それぞれが戦闘状態だからね。
当然クロウもわたしも、間合いに入られては仕掛けずにはいられないわけで、適時迎撃みたいな?
そんな状態の中、クロウの背後から現われたパパしゃん。
「パパしゃんっ?!」
続けて 「気をつけて!」 と言おうとしたけれど、大きくジャンプをしてクロウの背後に迫ったパパしゃんが、クロウと同じ小舟に着地をした衝撃音にかき消されるというか、かき消される前に阻まれたといったほうが正確かもしれない。
その迫力の凄さに言えなかったのよ。
ドォォォーンッ!!
いや、もっとこう……なんていうのかしら?
重量感溢れるというか、重量そのものというか、とにかく凄い音がして息を呑む。
激しい水音とともに、勢いよくパパしゃんが着地すると小舟は大きく深く沈み、反対にクロウが立つ舳先が浮き上がる。
STRから言えばクロウだって重量はあるはず。
でもそのクロウを跳ね上げる勢いで足下がせり上がり……おそらくこのタイミングに合わせてクロウがジャンプしたのだと思う。
でも一見パパしゃんの着地の衝撃で跳ね飛ばされたように見えた。
うん、STRから考えればクロウにも重量はあるはず。
だからパパしゃんの着地でどれほどの衝撃があるかも予測出来た。
一見、ノギさんやノーキーさんと同じく大剣を使うパワープレイヤーに見えるクロウだけれど、装備を換えずともスピードプレイに切り替えることが出来る万能剣士。
剣を頭上に掲げて大きく飛び込んできたパパしゃんの懐に入る込むなんて造作も無いはず。
隙だらけだからね。
けれど着地の衝撃を考え、躊躇なく退いた。
たぶん
あとで柴さんやムーさんに聞いた話では、このシチュエーションでパパしゃんたち盾剣士のVITだとシールドチャージ並みの衝撃があるのではないかと。
これはちょっと、クロウやノーキーさんたちのSTRでもダメージは避けられないとも言っていたから、クロウが自分からジャンプをして距離を置いたというわたしの予測は間違っていないと思う。
クロウにとって舟が揺れること自体たいした問題ではないだろうけれど、VITが高い分、パパしゃんにダメージを与えるのは少し難しいからね。
体勢を整え直すためにも距離を置いたのだと思う。
でもね!!
だからといってわたしと同じ舟に飛び移るのはやめてくれないっ?
しかも着地と同時にわたしと目が合うと、また困ったように笑うの。
クロウを追うべくダダダンッ! ……と勢いをつけて再びジャンプするパパしゃんと距離を置きたいのか、やはりクロウも再び隣の舟へと飛び移る。
この時、てっきり行きがけの駄賃に首を刎ねられると思ったわたしは屍鬼を構えたけれど、クロウにとってわたしの首よりパパしゃんとの対戦のほうが魅力的だったらしい。
一瞬たりと動きを止めず隣の舟に飛び移り、追ってくるパパしゃんを迎え撃つべく体勢を整える。
なんか悔しい……
続けざまに重量級剣士の着地でどんぶらこっこどころでは済まない激しい揺れに、さすがに立っていられなくなったわたしはすわりこむ。
でも二人の様子を見てばかりもいられない。
パパしゃんを追ってくる紅軍プレイヤーを、詠唱を終えていた 【業火】 で薙ぎ払う。
勢いに釣られてパパしゃんを追ってきたらしい紅軍プレイヤーたちは、その向こう側にわたしを見て 「しまった!」 みたいな顔をするの。
失礼じゃない?
これはそういうゲームです!
いや、まぁ、だからといってクロウとは遭遇したくなかったけどね。
ついでに言えば、今この時もどこからかクロエが狙ってくるのではないかとハラハラドキドキしてます。
クロエは紅軍です!
でもぽぽとくるくるは白軍という珍しい陣分けになっている。
まぁ今回のイベントは、全参加者を火力だけで分けている感じだからね。
当然のように起る可能性だったわけだけど、この銃士三人の対決はちょっと見てみたい気もする。
もちろん近くでは見たくない。
だってクロエのことだから、うまく二人の射線を切って周囲にいる別の人まで撃ってきそうだもの。
絶対撃たれる
「起動……スパイラルウィンド」
でも状況的に考えて、クロエは、本州側に退避していると思われるぽぽやくるくるの射程にはもう入っていない。
ま、逆も言えるわけだけど、言えるわけだけど……うん、たぶんわたしたちは双方の射程に入ってるのよね。
だからヤバイというわたしの危機感は決して間違っていないはず。
ということで、ここはパパしゃんを援護して早めにクロウを落としたい。
うん、落としたいんだけどね。
「起動……百花繚乱」
わたしとクロウが遭遇した場面を見て引いたプレイヤーたちが、パパしゃんとクロウが交戦し始めるのを見て再び活気づいたというか、その、ね。
パパしゃんを踏み台にしてクロウを討ち取ろうというのか、あるいはその逆か?
わたしにとってはどちらでもいいけど、紅白入り乱れて襲って来るから、とりあえず紅軍には落ちてもらいます。
『むしろグレイさん狙いじゃね?』
イベントエリアのどこかにいるカニやんの声がインカムから聞こえてくる。
エリアチャットではなくあえて直通会話を使っているということは、かなり遠距離にいると思われる。
見つけた
距離的に本州近くに見える派手な視覚効果、たぶんあれね。
カニやんったら、派手にやってるわね。
あれじゃあ注目してくださいとか、集まってくださいって言ってるようなものじゃない。
『あんたに言われたないわ。
そっち、ガチで集まっていってるで』
同じく派手な視覚効果でわたしを見つけたとか、なんか癪なことを言ってくれて。
ちなみに直通会話が出来る = 白軍です。
それにしても他のプレイヤーの動きまでわかるなんて、よく見えてるわね。
カニやんってそんなに視力良かったっけ?
『こっち、ぽぽとくるくるおるから』
なるほど
確かにあの辺りだと銃士の退避ラインか。
じゃあそのまま二人のフォローよろしく。
銃士の南下のイミングはカニやんに任せていいわね?
『俺もそっち行きたい』
なんだか縋るように言われたけれど、特にくるくるやぽぽと仲は悪くなかったはず。
いや、柴さんたちを探しに行きたいってことかしら?
『違うよ』
不意にぽぽが割り込んでくる。
もちろんこれも直通会話。
インカムの向こうではエリアチャットで、ぽぽやくるくるにもカニやんとわたしの会話が聞こえているらしい。
少なくとも聞こえるくらい近くにいるってことよね。
『えっと、ミキさん? だっけ?』
「……ひょっとしてミッキーさん?
カニやんの妹さんの」
『そうそう、カニやんの妹がいるんだよ』
それでカニやんがその場を離れたがっていると、笑いながら話すぽぽ。
続けて、ちょっと苦笑い気味のくるくるが説明してくれる。
もちろん直通会話でね。
『3Bっていうんでしたっけ?
ほぼギルドメンバーが揃ってるらしくて』
つまり何?
あの盛大な視覚効果はカニやんだけでなく、お友だちギルド【3年B組ドンパチ戦線】 通称【3B】の 主催者ホリーさんも一緒にやってるってことね。
カニやんの妹蟹江海希さんの彼氏ホリーさんは、カニやんと同じ攻撃型魔法使いだから。
カニやんには及ばないだろうけれど、それでもかなり重火力。
ミッキーは海希さんのアバター名ね。
【3B】 には他にも攻撃型魔法使いも剣士もいるだろうし、あちらは任せていいわね。
ちなみにカニやんの本名は蟹江優歌。
強さより優しい感じの、あのムカつくくらいのイケメンによく似合う綺麗な名前よ。
「起動……業火」
『それよりグレイさん』
不意にまたカニやんが復活。
忙しいわね、コロコロ会話の相手が変わるなんて。
『そっちクロウさんおるやろ?』
「パパしゃんもいるわ」
足場の悪さを気にするなんてクロウらしくないけれど、それだけパパしゃんの大盾を警戒しているってことだと思う。
状況的にクロウも大剣を使ったパワープレイで押し返しているけれど、踏ん張りの利かなさが、いつもの思い切りの良さを発揮出来なくしていた。
ややパパしゃん有利って感じ?
こっちにクロウとパパしゃんがいることは、おそらくカニやんも知っているはず。
ぽぽやくるくるに聞いてね。
この混戦状況では二人もわたしを見つけるのは苦労しただろうし、監視することも難しいはず。
クロウたちのやり合う様子まではわからないかな? ……と思って伝えてみたら、カニやんの言いたいことはそうじゃなかった。
『そうやない。
クロウさんおるんやったら、恭平に気ぃつけや』
恭平さん?
そういえば初戦でクロウと遭遇した時、カニやんも一緒で、そのカニやんが落ちたタイミングで撤退の指示を出したのは恭平さんだったような……。
もちろん今戦の恭平さんは紅軍。
敵です!
だからカニやんに用心するよう言われたわけだけど、名前を聞いた瞬間に嫌な予感がしたわたしは条件反射のように唱えていた。
「起動……クロノスハンマー」
「ちょ……!」
無属性のスキル 【クロノスハンマー】 に攻撃力はほとんどないけれど、頭上から掛けられる圧力で、効果範囲内にいるプレイヤーの動きを止めることが出来る。
もちろんこれもVITとの兼ね合いで、よりレベルの高いプレイヤーはすぐに振り切るけどね。
でもスキル発動直後のわたしの周囲では、【クロノスハンマー】 の有効範囲内にいる全てのプレイヤーが動きを止めていた。
ギリギリ範囲に入ってしまったクロウやパパしゃんですら身動きがとれない状態で、レベルが低い、あるいはVITが低いプレイヤーは全身からHPの流出現象が起っている。
さすがにクロウはサラッとしか流出しないし、すぐに止まるけどまだ動けない。
同じく動けなくなっているパパしゃんだけど、味方だからね。
影響は受けてもダメージは受けない。
当然効果範囲内にいる他の白軍プレイヤーもね。
そんな中で聞こえてきた覚えのある声に、やっぱり反射的に振り返ってみれば恭平さんが、愛用の片手剣を抜刀した状態でわたしのすぐうしろ、数メートルのところに立ち尽くしていた。
『相変わらず悪運強いな……』
「グレイさん……」
皮肉とも聞こえるカニやんの呟きに恭平さんの声が被る。
たぶんくるくるかぽぽがカニやんに教えたんだと思う。
もちろんこの会話は恭平さんには聞こえないけどね。
「……ご忠告、ありがとう」
でも恭平さんって、厄介なのよね。
どう攻略するか……というか対抗するか。
いえ、この場合は抵抗かな?
わたしと恭平さんのにらみ合いをよそに、いち早く 【クロノスハンマー】 の影響下を出たパパしゃんが大きく踏み込む。
レベル的にはクロウのほうが全然上だけど、VITが違うからね。
そのへんの計算を運営は公表していないけれど、おそらくVITが防御力ではなく抵抗力として作用。
よりVITの高いパパしゃんがクロウを凌いで 【クロノスハンマー】 の影響を振り切り、大盾から持ち替えた片手剣を、大きく踏み出した勢いで横に薙ぐ。
一瞬遅れて 【クロノスハンマー】 を振りきったクロウは、その首に迫るパパしゃんの剣を払うのを諦め、辛うじて体を後ろに倒してかわす。
でも辛うじて、だからね。
半分くらい首をざっくり斬られ、大量のHPが流出する。
クロウが落ちるっ?!
クロウ(敵)の大ピンチに気をとられそうになるグレイですが、自身の前には恭平が立ち塞がるというか立ち尽くしているというか・・・
魔法使いにとっては鬼門の恭平を相手にどう戦うっ?!