757 ギルドマスターは鏡を磨きます
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「キョ~ちゃ~ん!」
船頭役をクロウに任せたのは正解だったのかハズレだったのか。
あっという間に目的地……といってもわたしたち白軍は、【ヤシマ】 を目指すという目的がある紅軍とは違う。
紅軍を一人でも多く落とし 【ヤシマ】 に辿り着かせないことが最終的な狙いなわけだけど、そのために自分たちで定めた防衛ライン……とはちょっと違うけど、このラインで紅軍を押し止めると定めた場所に到着。
本当にあっという間にね。
「グレイさんとカニやんがいると道が開くからさ」
楽でいいとか言って笑う恭平さんは、トール君と一緒に遊撃を担う。
それなりにレベルが高いとHPも高く魔法攻撃では一撃で落ちてくれないプレイヤーもいて、わたしとカニやん、美沙さんの三人で作る弾幕を越えてくる。
それを二人で落としてもらっているわけだけど……まぁだいたい越えてくるのは剣士で、近寄られると落とされるのがわたしたち魔法使いの運命だからね。
クロエたち銃士も。
もちろんそれなりに接近戦対策もしているわけで、魔法使いは 【スパーク】 を使って一時的に撃退。
銃士二人は超近距離射撃を使って、残り少ないHPを確実に削るっていう。
あら?
ひょっとして攻撃型魔法使いって、三人も揃ってここでも役立たずってこと?
そんなことはないと信じて、派手な視覚効果を使って衆目を集めます。
うん、まぁそれが狙いなんだけど、呼んでない人も来ちゃうのよね。
「この声って、アキヒトさんよね?
起動……業火」
「あんた、自分とこのメンバーの声ぐらいいい加減覚えぇや。
起動…………スパイラルウインド」
もちろん覚えてます!
ちょっと念のために確認してみただけよ。
ほら、面倒だし?
空耳だったらいいなぁ~とかも思ったけど、やっぱりアキヒトさんよね。
「ほっとけや。
あいつの狙いはあんたちゃうし」
まぁそうよね。
アキヒトさんの狙いというか、お目当てなんて言うまでもない。
大きな声で名前も呼んじゃってるし。
で、丁度わたしの横に着地した恭平さんが盛大に舌打ちしました。
「ちっ! うぜぇ!!」
「起動……百花繚乱」
気持ちはわかるんだけど……うん、わかるんだけど、一応同じギルドのメンバーだし?
今は紅軍と白軍に別れているけれど、そこまで露骨な態度はちょっと……。
「だからほっとけって。
起動…………氷雪乱舞」
うん、カニやんが放っておけと言う理由もなんとなくわかってるの。
だって、ねぇ、アキヒトさんと恭平さんだもの。
どうなるかなんて、見なくてもわかるというか。
まぁせっかくここまで頑張ってきてくれたんだから、恭平さんと感動の再会とかやる?
紅軍なのはここにいる全員が知ってるけど。
「会いたかったぁ~」
すぐ隣の舟に這い上がってきたアキヒトさんの嬉しそうな声が聞こえてくる。
うん、ご多分に漏れず、飛べると思った距離が飛べなくて水没したパターンです。
早く会いたくて気が急いたのは理解出来るんだけど、美沙さん然り、これはもうSTRのない魔法使いの運命だからね。
誰も逃れられません。
「起動…………ホットポット」
しかもやっぱり撃つし。
ここまで予想通りだとかえって拍子抜けするのはわたしだけかしら?
わたしもたまにうっかりするけれど、どうして忘れるのかしら?
ぶっちゃけ恭平さんって、たぶんこのゲームの全攻撃型魔法使いから嫌われてるというか、避けられているというか。
理由は、恭平さん自身が攻撃型魔法使いだった頃に取得した常時発動スキル 【震える鏡】。
これはそもそもわたしとの対戦を前に、対攻撃型魔法使い戦用として取得したもので、恭平さんはその後すぐに課金アイテムを使ってステータスポイントを振り直して剣士に転職。
【震える鏡】 も課金アイテムを使えば消せるけれど、一度消したスキルは再取得出来ない。
そのせいかどうかは知らないけれど、恭平さんは今も 【震える鏡】 を所持している。
魔法攻撃を反射する 【震える鏡】 をね。
わたしが所持している 【愚者の籠】 は魔法攻撃を吸収しMPに変換してくれる。
でも 【震える鏡】 はことごとく反射。
しかもどちらも常時発動スキルだからね。
所持プレイヤーの意志とは関係なく、ことごとく吸収、あるいは反射する。
まぁだからカニやんは 「ほっとけ」 って言ってたわけだけど、アキヒトさんも美沙さんと同じ、ファイアーボールの三連射 【ホットポット】 の愛用者。
この 【ホットポット】 は他にも 【特許庁】 のバロームさんも愛用している、このゲームでは割とポピュラーな攻撃スキル。
そして 【震える鏡】 は所持プレイヤーの任意で反射方向を選べるわけだけど、これをアキヒトさんに返そうとすると一時的に恭平さんの意識がアキヒトさんに向く。
あ、なるほど、アキヒトさんの狙いはそこか。
まぁ自爆行為に違いないわけだけど、そこはアキヒトさんだからね。
どんだけ恭平さんが好きなのよ?
この一言に尽きる。
我が身を省みず、一瞬でも恭平さんの関心を自分に向けたいとか、本当に恭平さんが好きなんだから。
逆に、それが面倒臭いというか、鬱陶しいというか。
まぁそんな理由から、恭平さんの口から派手な舌打ちとか
「うぜぇ!!」
なんて言葉が出てきたわけか。
うん、確かにこれは 「ほっとけ」 だわ。
カニやんが大正解でした。
ついでに言えば、自分が撃ったスキル 【ホットポット】 の反射を食らったアキヒトさんが
「キョウちゃん、酷い!」
と嘆くところまでがセットです。
「自分で仕掛けといて、あいつもなにが酷いやねん。
質悪すぎやろ」
とどめを刺すべくアキヒトさんに向かってゆく恭平さんに代わって、その心境をカニやんが代弁する。
たぶん合ってると思います。
同じく恭平さん大好きでもJBはやらないもんね。
そういえばJBはまだ見てないわね。
もちろん紅軍なので来ないでいいです。
「いや、JBはアキヒトほど恭平のこと好きちゃうし、普通に斬り合ってるから。
起動…………ダイヤモンドダスト」
そうだっけ?
「そうやねん」
「起動……スパイラルウィンド」
わたしとカニやんがそんな話をしているあいだにもアキヒトさんは恭平さんに斬られた……と思ったら、アキヒトさんだけでなく、恭平さんも呆気にとられる事態が起こる。
いや、まぁ混戦だし?
誰がどこから出て来てもいいんだけど……
「案内、ご苦労さん」
そんな言葉を掛けながらアキヒトさんを背後から一刀両断にする柴さん。
アキヒトさんの、電子分解を始めるアバターを挟んで顔を合わせた恭平さんに 「横取りすまん」 なんて呑気に挨拶をしている柴さんに、詠唱しかけたカニやんが声を上げる。
「柴やん、遅い!!
起動……」
嬉しいくせに
ちなみに柴さんの 「案内、ご苦労さん」 というのは、そもそも柴さんはかなり本州近くに転送されていた。
さすがに遠すぎてわたしたちの様子はわからなかったけれど、銃士の退避を援護しているうちにアキヒトさんを見掛けたらしい。
「アキヒトのことやし、すぐ恭平見つける思て」
それであとを付けてきたって……どんぴしゃりすぎるわ、柴さん。
でもそれって、柴さんのカニやん好きより、アキヒトさんの恭平さん好きのほうが強いってことにならない?
あまりにもあっさりと負けを認めすぎじゃない?
「勝ちたないし」
「負けでえぇわ、そんなん」
二人の照れ隠しに続き、恭平さんまでが
「俺も負けたい」
なんて、どこまでも恥ずかしがり屋な三人です。
今さらよね。
でもまぁ恭平さんの 「柴さんは、落ちていなければそのうち来るだろうから」 という予想は大正解だったわけだけど、その方法が、アキヒトさんならすぐに恭平さんを見つけられるだろうから……というのはちょっと皮肉よね。
まだJBとかベリンダとか、ジャック君とかマコト君とか姿を見せていない 【素敵なお茶会】 の参加メンバーもいるけれど、全員紅軍なので合流の必要はありません!
もちろん遭遇したら落とすしかないけれど、とりあえず合流不要ということにして、予定どおり派手に……と思ったら、アキヒトさんが柴さんを引き連れてきてしまったように、実は柴さんも面倒な人を引き連れてきていたっていうね。
「陛下ーっ!!」
忙しすぎてうっかりすっかり忘れていたけれど、そういえばあなぐまさんから頼まれごとをしていたのよね。
厄介この上ない真田さんの相手を引き受けてもらう代わりに……という条件で、見つけたらでいいからロクローさんを落としておいてくれって。
ロクローさん発見!
……というか、いつもそうだけど、今回もロクローさんのほうから来てくれました。
しかも 「陛下!」 とわたしを呼びながら、なぜか美沙さんの足下に登場。
間違えたというより、そこはロクローさんだから迷ったというべきか。
違うか。
血迷った
うん、多分そうね。
だっていきなり美沙さんの足下に現われるから、しかも足とか掴んじゃって驚かせるから、悲鳴を上げた美沙さんの容赦ない蹴りを、頭とか顔面とかに食らってます。
「変たーい!
○ね! ○ね! ○ーねー!」
「ちょ、やめ、ま……待ってって。
ね、おねが……」
「スパーク!」
えーと……このゲームでは首から上は欠損しない。
でも他の部位よりダメージが大きいという設定になっている。
おかげでランカーのロクローさん相手に、STRを持たない魔法使いの攻撃でもちょっとはダメージが出る。
足を掴んで水の中に引きずり込むつもりだったのか?
でも見上げたところにあった顔はロクローさんが狙っていたわたしではなくて、間違いに気づいて慌てて手を放したのが運の尽きって感じ?
ロクローさんは情けない声を上げながらJKの容赦ない連続蹴りに晒されている。
もちろんダメージなんて微々たるものだけれど、【スパーク】 で水に沈めたところ、舟の反対側から水に入って待ち伏せていた柴さんがケリを付けてくれたらしい。
上がってこないロクローさんに代わり、しばらくして剣を手にした柴さんが顔を出す。
もちろん次の瞬間、美沙さんが反射的に 【スパーク】 を唱えようとしたけれどトール君がすかさず止めてくれた。
「塚原!」
「ちょ!」
「え? ……あ、柴さんっ?
あれ? さっきの変態は?」
「落としといたから俺に 【スパーク】 撃たんといて」
「へへへ、ごめ~ん」
じゃあ一件落着? ……というか、とりあえずあなぐまさんとの約束はこれて果たしたということで。
もちろんあのあとあなぐまさんがどうなったかはわからない。
直通会話を使って話し掛けてみてもいいけれど、野暮な気がしたのでやめておく。
あのあと真田さんに落とされていたとしても、しっかり足止めはしてくれたわけだし。
こっちも約束どおりロクローさんを落とした。
それでいいわよね?
アキヒトが落ちて柴が合流。
あなぐまとの約束も果たし、いよいよ期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 初日第二戦も終幕へ!
勝敗は・・・