755 ギルドマスターはチキンとナゲットで悩みます
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ご無沙汰しております。
約一ヶ月ぶりの更新です。
そのお詫びというわけでもないのですが、いつもよりちょーっと長めとなっておりますが、心配はございません。
いつもどおりサラッと読めます。
「南側に移動するわ。
紅軍を北側に追い込んで南下を阻止する。
起動……百花繚乱」
あくまでわたしの感覚だけど、現状は紅軍の支配下にある。
うん、あくまでわたしの感覚よ。
でもこの支配権を取り戻さないと白軍に勝ち目はない。
間違いなく
実際の現状が、白軍も紅軍も支配権を握っていないとしたらなおのこと、握らないと勝ち目はないわけで、紅軍にされるがまま受け身の姿勢でいることは確実な負けを意味する。
じゃあどうしたらいいかという意見を恭平さんに求められて、わたしが出した答えがこれです。
一見……というか、あくまでもわたしの感覚だけど、紅軍が戦場を支配しているように思える。
たぶん紅軍の、少なくともわかっているプレイヤーはそう思っているはず。
レベル的に生き残るだけで必死のプレイヤーもいるから、必ずしも全員とは言えないけれど、火力に余裕があると、見えるプレイヤーは状況がちゃんと見えているからね。
もちろんこれもわたしの感覚にすぎないけれど、この状況を見てそう思っているプレイヤーがまったくいないとは考えられないから、とりあえずこのままそう思わせておく。
白軍は紅軍の思惑に気づかず、この混乱の中でヤシマに先行退避しようとする紅軍の銃士を少しでも減らし、後半に備えようとしている……とね。
でも実際は、北上して後半に備えようとしていた白軍の銃士こそが落とされている……とも思わせておく。
うん、まぁこれは実際にかなりの数の銃士が落とされていると考えている。
くるくるも落とされたし。
だからね!
思わせるだけよ。
だって、紅軍が白軍側の銃士を狙うのもある程度は想定内と言えば想定内だし、それ以上に、そもそもこの混乱の中で白軍が紅軍側銃士を主に狙うのは初戦と同じ訳でしょ?
つまり紅軍が優位に立っているつもりでも、よくよく考えてみればあまり状況は初戦と変わらない。
ただ白軍側の銃士は、紅軍側の粘着攻撃で初戦以上に残っていないと考えられることと、前線の移動やタイミングの主導権を紅軍側が握っている。
そのあたりが初戦とは違うところ。
まぁ漠然とした個人的な感覚だけど、それでもこれを把握しているのとしていないのとでは大きく違っていて、反撃のタイミングを計るには必要だと思う。
紅軍には、今だけ勝っていると思わせてあげるだけよ、今だけね!
しつこいようだけど、今だけだから!!
今だけよ!!
そりゃね、ちゃんと白軍が勝つために方法を考えたわけだけど、もちろんそれだって上手くいくとは限らないってことはわかってる。
だって勝負は時の運でもあるから。
まさにタイミングよ、タイミング。
いえ、もちろんタイミングだけじゃないけどさ。
でも人事を尽くして天命を待つともいうじゃない。
だからやれるだけのことはやります!
「グレイさんが言うと悪足掻きだよね」
そんなことないわよ!
もうクロエったら、さっきから八つ当たりはやめてって言ってるじゃない、カニやんが。
「そう、俺がな」
「カニやんが八つ当たりしていたんじゃなかったっけ?」
「ぽぽ、余計なこと言わんといて。
その話はもう終わってるんちゃうん?」
「そんなにムーさんが落とされたこととか、柴さんがいないのが寂しいなんて思わなかったよ」
「何度も言うけど、それ、ちゃうからな。
俺、マジでそんなこと、微塵も思てへんから」
またカニやんったら強がっちゃって。
少しは正直になればいいのに。
男の人って、どうしてこういうところで意地を張るのかしら?
見栄っ張りなんだから
「全然ちゃうから」
「そこで見栄を張るのはカニやんだけだよ。
俺、同じ男ってだけでカニやんと一緒にされるのはちょっと……」
カニやんったら、ぽぽになにか悪いことしたの?
いつも遠慮がちなぽぽにここまで言われるなんて……。
「してねぇーよ!
人聞きの悪いこと言わんといて。
ほんま、あんたが一番質悪いねん!」
それこそ人聞きの悪いことを言わないでよね。
図星を指されたからってムキになっちゃって。
本当にカニやんったら、わかりやすいわ。
「グレイさんもな。
話を戻しても?」
さりげなくわたしとカニやんを同類扱いして、割り込み強制終了をさせてくる恭平さん。
うん、マイペースね。
あ、話を戻すんだっけ?
えっと……はいはい、思い出しました!
「作戦」
「うん、わかってる!」
あら? なぜかしら?
恭平さんに先を越されて、ついつい声が大きくなってしまったわ。
お恥ずかしい。
えっと、作戦ね、はい。
忘れてないわよ
さっきも言ったとおり、この混戦の南側に陣取って紅軍の退路を断つ。
まぁ人数が人数だから、断つと言えるほどのことは出来ないだろうけれど、圧を掛けるくらいのことは出来るはず。
そう考えるわたしに、美沙さんのサポートに忙しいはずのトール君が、いつものように遠慮がちに訊いてくる。
「あの、それって、南側に先回りするんじゃないんですよね?」
たぶんトール君が言いたいのは、この戦場の南側という意味ではなく地図上での南側。
つまり 【ヤシマ】 に先回りするのかどうかを訊いている。
「うん、しないわよ。
だって時間の無駄になるもの」
「無駄?」
「そ、無駄。
起動……業火」
とりあえず移動しましょうか?
それこそここでうだうだやっていても時間の無駄だもの。
トール君はまだ話を聞きたそうだから、それは移動しながらってことで。
と、というわけでですね、その、ですね、えーっと、ばっさばっさと気持ちよく紅軍を斬り落としているところを申し訳ないのですが、ですから……やだ、なぜか冷汗が止まらない。
その、自分の置かれている立場を思い出したとたん、こんなことに……
もう嫌!!
「クロウさん、出番やで」
わたしがお願いするのに四苦八苦しているのに、そんなあっさりと簡単に言わないでよね、カニやん! ……とか文句をつけているあいだにも戻ってきてくれたクロウ。
これについてもね、ここまではいいの。
ここまでは!
じゃあなにが問題かと言えば、この先です。
だってクロウったら戻ってきたと思ったら、いきなりわたしを肩に担ぐのよっ!
それこそ物みたいに担がれるとか、わたしの立場というか、その……
この扱いはなにっ?!
「とか言うて、お姫様抱っこは抱っこで恥ずかしいんやろ?」
「そ、それは、その、そう、だけど……」
想像するまでもなく、言われるだけで恥ずかしくなってくるんですけど?
タイミングがいいのか悪いのか、顔を見られる心配がない状態なのでそこは安心だけど。
「なんでそこが安心なんかわからんわ。
起動…………スパイラルウィンド」
この微妙な女心は、カニやんにはわからないと思います。
まるで米袋のように担がれる彼女の気持ちが!
「一生わからんでえぇわ」
そんな強がりを返したカニやんですが、移動中は何度か海に落ちそうになったらしい。
その、ね? ほら、わたしはずっとクロウの背中を見ていたから、顔は隠せたけれど、おかげで周囲の様子がまったく見えなくて。
それでわたしは知らなかったんだけど、なんだかんだ偉そうなことを言っても、カニやんもわたしと同じ魔法使い。
STRがない
数値が全ての仮想現実は、現実世界で思うほど自在には動けないわけで。
それこそいつもの感覚なら飛べる距離でも、数値による制限で飛べなかったり。
これは決してカニやんが、現実世界で運動音痴だって言いたいわけじゃないのよ。
むしろカニやんの名誉のためであって……どうしてわたし、こんな言い訳してるのかしら?
話を戻すわ
まぁそんなわけで、カニやんだけでなくぽぽもちょっと危うい感じだったらしくて。
一番レベルの低い美沙さんはトール君が上手くカバーに入ってくれていて、落ちそうになりながらも手を引っ張ってあげたりしてなんとか移動は出来ていた。
それでもね、時間には限りが有る。
あ、人生とかの話ではなくて、ゲームの話よ。
今回のイベントだと、一戦は2時間ね。
だからあまりゆっくりしていられなくて、移動方法を変えることにしたわたしたち。
人数も多いし
わたしとクロウ、それにカニやん、トール君、美沙さん、クロエにぽぽ、恭平さんと八人の大所帯。
当然イベントの参加者数から見れば全然大所帯ではないけれど、通常の1パーティが五人と考えれば十分多いと思う。
しかもSTRの都合上移動速度もバラバラで……いえ、その、ね、運動神経とか? も違うわけで。
「主にあんたがな」
ちょっとカニやん!
そこはわざわざ言わなくてもいいのよ。
突っ込まなくてもいいの!
これだから関西人は……
「その一言で関西人を敵に回しちゃったね、グレイさん」
今日はというか、今戦ではやたらとぽぽに絡まれます。
なに? どうしたの?
ひょっとしてぽぽは、くるくるが早々に落とされたことを根に持ってるとか?
それを早く助けに行かなかったわたしのせいだと思ってるとか?
違うから
そこは、わたしに助けを求めるというクロエの戦略的ミスだから。
わたしのせいじゃないから。
「僕もちょっとミスったと思ったよ。
状況を知らせておこうとしただけなのにさ」
珍しくクロエが素直に非というか、自分のミスを認めました。
これまた本当に珍しいことが……
明日は雨?
「降ってもえぇけど。
どうせ俺ら、明日も仮想現実におるし」
まぁそうね。
とりあえず全関西人はわたしの敵らしいから、カニやんは近づかないでくれる?
「自分から敵に回しといてよう言うわ」
ちょっとうっかり口が滑っただけじゃない。
これだから関西人は……あらやだ、わたしったらついうっかり……。
「わざとやっとるやろ?」
「わざとでもなんでもいいけど、二人とも仕事してくれる?」
喜んで!
「起動…………氷雪乱舞」
これまたついうっかり愛想のいい居酒屋店員みたいな返事をしたくせに、カニやんに出遅れました。
個々の移動速度の違いを解消するため、わたしたちは小船で移動することに。
船頭ならぬ漕ぎ手は、STRの一番高いクロウが。
小船から小船に移動する場合、いつも都合のいい場所に小船があるわけでもなければ、そこに敵がいる可能性もあるからね。
だいたいいます
下手をすると海に落ちるわけで、実際に美沙さんが何回か落ちました。
トール君も精一杯手助けしてくれているんだけど、タイミング悪く敵が来た場合、安全の確保……つまり敵の排斥が優先となり、美沙さんが海に落ちるっていうね。
それを何回かやったわけだけど、こればっかりは仕方がない。
まぁそんなこんなで小船ごと移動することにしました。
おかげでわたしも下ろしてもらうことが出来たわけだけど……。
クロエたち銃士は大波小波でどんぶらこっこすると狙いを定めにくいけれど、魔法使いはそこまで繊細な照準を必要としないから。
しかも小船ごと動いているから、足下に展開する魔法陣から離れる……つまり無効になる心配もない。
そこで移動中も当然攻撃を仕掛けるわけだけど、その、ですね……まだ顔が熱くて、上げたくないんだけど……。
「仕事しなよ」
この揺れの中でも、混戦の中を抜けて南下を狙う紅軍側銃士を後背から狙うクロエとぽぽ。
その難しさを思えばサボっていられないのもわかるんだけど、顔を上げたくないのよぉ~!!
「一回海に飛び込んで冷やせば?」
そんなことしているあいだに置いていくくせに!
「じゃあ頭押さえてあげるから、顔だけ浸ける手もあるよ」
他の人ならともかく、クロエだけは遠慮させて。
絶対そのまま顔を上げさせてくれないし。
「STRはグレイさんのほうがあるんじゃない?」
絶対その手には乗らないから。
もう一度言うけれど、他の人ならともかく、クロエは絶対に御免です。
「だったら仕事しなよ」
「起動……百花繚乱」
そうね、それが一番無難よね。
「でもグレイさんとカニやんさんが仕掛けたら、視覚効果が派手になりすぎて目立つんじゃないですか?」
小船を漕ぐのはクロウに任せ、船の進路をわたしとカニやんで確保。
あ、もちろん美沙さんもね。
恭平さんと一緒に遊撃に回っているトール君が少し心配そうに訊いてくるけれど、まぁそこは心配ありません。
別に目立ってもいいの。
「いいんですか?」
「うん、いいの」
むしろわたしたちの動きを見て欲しいというか、気づいて欲しいというか。
その上で紅軍がどう動くか?
これはさっきのトール君の質問への答えになるような気がするんだけど、これはね……
「チキンレース仕掛けてるようなもんやから、紅軍が乗ってくれんとそもそもレースが成立せん」
「チキンレースっ?」
わたしに代わって説明してくれるカニやん……ということは、少なくともカニやんは理解しているわけだけど、思っても見なかったらしいトール君はちょっと大きな声を上げて驚いていた。
仕掛けに乗ってもらうためにも、まずはせいぜい派手にしないとね。
「起動……業火」
グレイが仕掛けたチキンレース。
まだ始まったばかりのはずの初日第二戦だが、早くも終盤っ?!