751 ギルドマスターはさっきの友と敵になります
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ボケられれば突っ込まずにはいられない関西人・カニやん。
グレイと美沙、二人のボケを相手に、どこまで突っ込み続けられるか・・・というお話ではありません。
悪しからず・・・
「起動……スパイラルウィンド」
そう言えばそうなのよね。
初戦の美沙さんは紅軍で、しかも早々にヤシマに向かってしまったからわたしとは一度も遭遇せず。
ニアミスすらなかった。
だから落ち着いて考えてみれば知らなくてもおかしくはないわけで、わたしが小船の底に張り付いているのを見て、剣士の攻撃を少しでもかわすためだと思っていた。
いや、まぁそう考えるのはちょっと無理があるけれど、理由がわからないから無理矢理にそう考えていたのかもしれない。
全然違うけど
でもカニやんは違うのよね。
ニアミスどころかがっつり遭遇したし、交戦もがっつりしました。
カニやんたちのほうから仕掛けた来たからね!
脳筋コンビどころかクロウまで引き連れて!!
取らないでよね、わたしのか……か…………しなんだから!!
「いらねーよ。
起動…………氷雪乱舞」
そうよね、カニやんには柴さんとムーさんがいるわけだし。
三人目なんていらないわよね。
それどころか、噂によれば親衛隊までいるって話だし。
「あんただっているじゃねぇーか。
ってか俺より全然多いし」
「カニさんってば、ギルマスと張り合って妬いてるぅ~。
起動………………ホットポット」
カニやんのそんなところが可愛いとか、JKの考えるところはちょびっとわかります。
だってほら、わたしだって数年前はJKだったんだもの。
ちょっとくらいは若かりし頃の記憶というか、気持ちだって残ってるわよ。
でもカニやんは、可愛いというよりやっぱりイケメンよね。
しかも親衛隊の存在は否定しないし。
「今だって十分若いでしょ。
こんな喪女に妬かねぇーよ」
「起動……業火」
返事の順番が逆転していますが、イケメンは女性に優しくて、どちらの相手も対等にするのに忙しい。
わたしは詠唱だけで手一杯です。
まぁ初戦は、そんな人の好さが裏目に出て早々に脱落。
そのあとはずっとギルドルームでモニター観戦していたから、色々と知っているくせにこの態度よ。
「質問やけど、ひょっとして俺が運ぶ?」
「じゃあわたしをここに置いていくつもり?」
まさかと思うけど、そんな薄情なことしないわよね?
なに、その嫌そうな顔はっ?
ちょっとカニやんっ?!
「起動…………ダイヤモンドダスト」
詠唱で誤魔化されると思わないでよ。
さっきカニやんのことを、女性に優しいイケメンと言ったけれど訂正するわ。
自力で移動出来ないわたしを、こんな混戦の中に放置して行こうとする薄情なイケメンです!
「結局イケメンやねんな」
そこは事実なので変えられません。
誤解のないように言っておきますが、わたしだって不本意なのよ?
でも動けないんだもの、仕方がないじゃない。
ほら、あれよ、あれ。
背に腹は変えられない
ええ、カニやんがイケメンという事実も変えられませんが、背に腹も変えられません。
「言いたいことはわかるけど、現実見ぃや」
「どういう現実よ?
起動……百花繚乱」
「俺かてSTR高ないねん。
どういう意味かわかるやろ?」
えーっと、つまりカニやんでもわたしを運ぶと落水するということね。
「大正解」
「起動………………ホットポット」
語尾を美沙さんの詠唱に被らせながら、カニやんにはにひっと笑われました。
うん、まぁそうなるわよね。
わかってるけど、他に方法がないじゃない。
いつまでもここで揉めていたら、クロエが待ちくたびれて毒を吐くわ……と思ったけれど、いつもならとっくに毒を吐いていてもおかしくはないと思う。
でもなにも音沙汰がないというのはどういうこと?
まさか……
落ちた?
あのクロエが?
俄には信じがたいけれど、状況は魔法使いよりも銃士にはさらに不利な戦場。
当然クロエだって落ちる時は落ちるわけだから、可能性は無きにしも非ず……というか、結構可能性は高い。
でもそれを確かめる余裕はなかった。
ノーキーさんが来ちゃったからね。
「よぉ~グレぇ~イ」
海中から顔を出したノーキーさんは、船の縁に片腕を掛け、もう一方の腕で水を滴らせる前髪を掻き上げる。
はい、カニやんと同じタイプです。
「ど~せまた動けないんだろぉ~?
俺が運んでやろうか……あ……」
「スパーク!」
余裕たっぷりにそんなことを言いながら、水から上がろうとしたノーキーさんの声が不自然に途切れたのは、わたしの脇あたりから美沙さんが 【スパーク】 をぶっ放したから。
レベル差に威力が表われるスキルだけれど、踏ん張ろうにもノーキーさんの足下は水中。
水から上がろうと両腕を船縁に突っ張っていたから、まともに美沙さんの 【スパーク】 を食らって……まぁ吹っ飛ぶというというほどのことはなかったんだけど、水没はしてくれました。
ありがとう、美沙さん。
ナイスタイミングです
「てめぇ!」
「この激ヤバ……とちょっと違う?」
舟から少し離れたところに浮いてきたノーキーさんが、船上のわたしたちを見上げて声を上げる。
その顔を見て、罵り返そうとした美沙さんが気づく。
なかなかの観察眼です。
「いや、吹っ飛ばす前に気づいたってや。
起動…………スパイラルウィンド」
不公平のないように、美沙さんにもがっつりカニやんの突っ込みが入ります。
つまりなに?
美沙さんってば、ノギさんと間違えてノーキーさんをとっさに吹っ飛ばしたってことかしら?
まぁ確かに似てるわよ、兄弟だもの。
「はぁっ?! 兄弟ってなんですかっ?」
なにって、兄弟は兄弟よ。
えーっと、原材料と製造元が同じってやつ?
「どんな説明やねん」
だってほかに言い様がないじゃない。
「激ヤバ野郎の弟って、激ヤバ野郎じゃないっすか!」
「ちょっ、グレイ!
誰彼かまわずバラしてんじゃねぇー!!」
苦情は真田さんと不破さんにお願いします。
特に口止めもされてないし。
ちなみに 「運んでやろうか?」 なんて親切ぶって近づいてきたノーキーさんだけど、その手には乗りません。
だってさっき、水から上がろうとした時に見たもの。
初戦と同じく、その、ね、はだけたむ……に、赤い鉢巻きをネクタイ代わりに結んでたのを……。
紅軍じゃない!!
もともと攻撃スキルとしてはほとんど威力を持たない 【スパーク】 だし、ノーキーさんが相手では、わたしが撃ってもほとんどダメージは出ない。
ノギさんといい、サラッとくらいしかHP流失しないからね。
見逃してもおかしくはないけれど、その鉢巻きの色は絶対に見逃しません。
落ちろ!!
「起動……焔獄」
喚いているあいだにも上がってくればよかったのに……いえ、また舟に近づいたら美沙さんが 【スパーク】 で吹っ飛ばしそうね。
も、もちろんわたしだって吹っ飛ばすわよ。
近づかれれば落とされるのが魔法使いの運命だもの。
剣士に接近されるなんて、冗談じゃない。
しかも海中では、いつものように一瞬で間合いを詰める踏み切りも出来ない。
蹴る地面がないからね。
近接武器装備の剣士にとって、接近出来ないというのは大きなストレス……ではなくて致命的。
一撃で落とせなくても、このまま削り落とすわ。
『うしろ!』
不意にインカムから、それまで沈黙を守っていたクロエの声が聞こえてくる。
反射的に振り返り様、視界の隅にムーさんの姿を捉えた時には少し遅かった。
目を離してしまったノーキーさんは、直後に響いた銃声とともに眉間に黒々とした穴を開けて静止……というか、ダメージによる硬直状態に陥る。
「スパーク!」
わたしを庇って脇腹を刺されたカニやんが、刺された箇所からHPを流出させながらも懸命に反撃に出る。
まずは 【スパーク】 を使ってムーさんを吹っ飛ばすと、直後に再び銃声が轟き、その後頭部を撃ち抜いた弾丸が眉間から抜けて黒々とした穴を開ける。
「いってぇ!
クロエかよっ?」
「知らねぇよ!
起動…………雪月花」
『グレイさんは先にノーキーさんを落として!』
とっさに 【ヒール】 を唱え掛けたわたしの耳に、クロエが制止をかけるべく指示を出してくる。
ついうっかりしていたけれど、今回のイベントはHPの回復は不可。
【ヒール】 は無効でした。
了解!
水から上がって小船の上にいるムーさんのほうが危険だけれど、少しでも高い位置にいる分狙いがつけやすいのだと思う。
逆に水中から頭しか出ていないノーキーさんは、的の位置が低すぎてクロエには狙いにくい、そういうことだと思う。
「起動……避雷針!」
「ちょ、待……」
激しい雷鳴とともに天空から放たれる雷の矢に脳天を射抜かれたノーキーさんは、周囲にいた他の紅軍プレイヤーを巻き込みながら、【避雷針】 の直撃ダメージに加え、放電という追加ダメージに硬直しながら大量のHPを流出させる。
さすがにいくらわたしでも、この状況で 「待て」 といわれて待つはずがないじゃない。
ノーキーさんだって、わたしが 「待って」 とお願いしても絶対に待ってくれないくせに、自分のお願いだけ聞いてもらえると思ったら大きな間違いよ。
わたしはそんなに甘くありません。
「起動……業火」
まぁ開戦直後だからね。
ノーキーさんほどのランカーが、早々ダメージを食らうとは思ってなかったけど。
思ってなかったけど……まだ落ちないとか、面倒臭いわね。
もう!
「起動……」
「お前、ちょっとくらい待てよ!」
待つわけないでしょ?
硬直が解けたらこっちが斬られるんだから。
それこそ 「斬らないで」 とお願いしても聞いてくれないくせに。
「百花繚乱」
「そこまでよ、グレイちゃん!」
「スパーク!
からの起動…………」
【百花繚乱】 の視覚効果の中から飛び込んでくる真田さん。
それを吹っ飛ばしてくれる美沙さん。
おかげで真田さんも水没です。
でも美沙さんの次手が間に合わない。
カニやんみたいに大杖を使って首から攻撃を逸らせるとか出来ればいいけれど、STR云々以前に、美沙さんが使っているのはアキヒトさんと同じスティック状の杖。
タイミングを合わせるのも難しいし、STR負けは絶対。
それこそ直撃は避けられても、首半分くらいは持っていかれると思う。
たぶんね、真田さんのSTRと美沙さんのVITを考えれば、直撃でなくても首を半分でも持っていかれれば美沙さんは一撃で落とされる。
これはまずい。
「起動……」
間に合うかっ?!
超重量級爆撃機グレイと重量級爆撃機カニやんの魔法使いコンビでも、さすがに美沙を庇いつつランカー二人を相手にするのは厳しいかっ?
クロエの援護を受けつつもさらに真田が登場し、事態はますますピンチに・・・