742 ギルドマスターはすわったまま挨拶をします
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クロエと組んで、よりによってわたしを狙ってきたベリンダ。
この作戦にGOサインを出したのはおそらく恭平さんだと思うけど、本人の姿は影も見せず。
どこにいるのかもさっぱりわからないけれど、実行犯の片割れ、クロエもね。
ヤシマ方面から狙ってきたのは間違いないと思うけれど、あのクロエが易々と自分の姿を見せるわけがないのはともかく、相棒のベリンダを撃った銃声はすぐ近くで聞こえた。
しかもなぜかわたしまで撃たれました。
どうしてっ?!
わたしを撃った銃士が紅軍ならともかく、先に撃たれたベリンダが落ちたということは、撃った銃士は白軍。
幸いにして、味方の攻撃はダメージが出ない今回のイベント仕様に助けられたわけだけど、そうでなかったら結構ヤバかったかも。
だって直撃よ、直撃。
「冗談きついわね」
「グレイさんは時々面白いことを仰る」
「ほんと、それ。
グレイちゃんがヘボの一発で落ちてくれたら苦労しないわ」
肩をすくめてみせる真田さんに、不破さんまでが苦笑い。
最初はヘボい一撃と言っているのかと思ったら、ヘボいプレイヤーの一撃という意味だったらしい。
ちょっとした空耳というか、勘違いというか。
早とちり?
う、うん、まぁそのへんはどうでもいいわ、そのへんは。
問題は、真田さんに 「ヘボ」 扱いされ、不破さんに 「そこのドブス」 と呼ばれた銃士のこと。
その、真田さんの 「ヘボ」 扱いもたいがいだけど、不破さんの 「ドブス」 発言もちょっと、ね。
ベリンダも不破さんを 「こっち」 呼ばわりして雑に扱ったけれど、その仕返しとばかりに落とされた……いや、落としたのは件の銃士か。
剣士と違って銃士の攻撃に一撃必殺の火力はないから、それ以前に不破さんが削っていてくれたことは確かだけど、とどめを刺したのは間違いなく件の銃士。
その銃士を不破さんは 「ドブス」 と呼んだわけだけど、不破さんはバロームさんのことも 「ドブス」 呼ばわりしているから正直あてにならない。
ちなみにバロームさんも、今戦ではすでに不破さんが落としてイベントエリアにはもういません。
バッサリ斬られました
不破さんったらホストなのに、相手が女性であろうと容赦がないから。
言うまでもないと思うけど、バロームさんが不破さんの怒りを買ったのはノーキーさんを巻き込んだから。
まぁいつものことよね。
もう一つ言うまでもないけれど、不破さんは男性が相手でも容赦しないから。
しかもお眼鏡にかなうほど強くないと一対一の勝負はしないくせに、こういうイベントでは手当たり次第で一切の容赦なし。
さすがランカーだわ。
でもいつも思うよの。
そりゃ不破さんも、いわゆる顔面偏差値は高いです。
馬鹿みたいに高いわよ。
しかもホストだし。
顔が命のご商売……といっても剣士としては顔は二の次でいいわけで、女性に対して……いえ、男性が相手であっても 「ドブス」 はどうなの?
うん、問題はそこじゃないけどね。
問題はベリンダを撃った銃士よ、銃士。
ついでにわたしも撃たれたけどね。
痛かった……
「起動……百花繚乱」
たぶんベリンダを撃ったのも、わたしを撃ったのも同じ銃士。
しかも白軍のね。
クロエはともかく、紅軍のほとんどの銃士はもっとヤシマ近くに待機しているらしく、まだわたしたちは射程に入っていない。
同じく白軍の銃士ももっと北、本土近くにいるはず。
それともわたしの知らないうちにこんなところまで前進してきていたの……と思ったら、ちょっと変わった銃士だったっていうね。
詠唱を続けながら不破さんを見たら、同じ小船に飛び込んでくる女性プレイヤーの姿があった。
銃口を空に向けて持っているのは、このゲームでは初めて見る拳銃。
しかも彼女はそれを両手に持っていた。
なるほど、拳銃となると確かに射程が短い。
ひょっとするとだけど、魔法使いの射程より短い……ということはさすがにないかな?
でもたぶん、それほど変わらないか、少し長いくらいじゃない?
だから攻撃を仕掛けようとすると、ある程度標的に近づかなければならない。
それって、銃士の優位が全くなくなるんだけど?
そもそも拳銃装備って、銃士なの?
「起動……業火」
「相変わらずくそみそな照準しやがって」
詠唱を続けるわたしの影で真田さんがぼやく。
十分すぎるほどエリアチャットの範囲内だから彼女にも聞こえていたはずだけど、聞こえなかった振りをして、彼女は不破さんに、その肩に腕を掛けながら話し掛ける。
「おい、こら不破!
誰がドブスだよ?
バロームと一緒にすんなって、何回言ったらわかるんだよ?
この脳筋。
助けてやったんだから、礼くらい言えよ」
脳筋には激しく同意ですが、おそらく不破さんはわざと 「ドブス」 呼ばわりしている。
返す言葉も、お礼ではなく 「黙れ、ドブス」 だもの。
これもよくバロームさんに言ってるわね。
バロームさんはこれに対して 「黙れ、酷薄野郎」 だけど、彼女は違った。
「だ~か~ら! 誰がドブスだよ?
このミラクル級の絶世傾国美人の真凛様の、ど~こ~が~ブスだよ?」
こういうのを蓮っ葉な感じって言うのかしら?
ちょっとわざとらしさを感じるから、いわゆる性格設定ってやつかしらね。
しかも絶世傾国美人ってなに?
そういう単語があるのかしら?
「起動……スパイラルウィンド」
「あるわけないでしょ。
真凛の造語よ、造語」
ん? 真凛?
そういえば彼女も自分で 「真凛様」 と言っていたような?
それはつまり真田さんや不破さんとも知り合いということで、さらにそれは 【特許庁】 のメンバーということでは?
「ああ、グレイちゃんは会うの初めて?」
「初めて見る顔かも」
「そうだったのか。
じゃあ紹介しないとな」
そういった真田さんは、すぐそこにいる紅軍プレイヤーを二人ほど豪快にぶった斬り、不破さんに 「離れろ、ドブス」 と言われている真凛さんを呼ぶ。
あ、詠唱のタイミングがあるのでちょっとお待ちを。
「なんだよ、サブマス?」
「ご挨拶なさい。
こちら、【素敵なお茶会】 のギルマスよ」
「あたしのほうが美人じゃん」
「あ、い、さ、つ!」
ふんっ! と鼻息荒くわたしに張り合ってくる真凛さんを、真田さんが鉄拳でお仕置き。
そこはほら、銃士と剣士ではSTRの差がありすぎて、真凛さんは 「いってー!」 と殊更大きな声を上げて痛がる。
うん、わたしも撃たれて痛かったわ。
とりあえずちょっとお待ちを。
「起動……百花繚乱」
「まったく、あんたときたら。
挨拶の一つも満足に出来ないの?」
小言をいう真田さんに真凛さんは 「うるさいなぁ」 と言い返し、少し離れたところから不破さんにまで 「まともに撃てもしないくせに」 と言われ、真凛さんは 「うるせぇ、不破!」 と声を荒らげる。
話し方だけでなく、立ち居振り舞いも男っぽく見せかけてはいるけれど、普通に女の人なのよね。
とりあえずご挨拶、ご挨拶。
「初めまして。
ギルド 【素敵なお茶会】 を主催しているアールグレイです」
久々の営業スマイル……は必要ないんだけど、これをいう時にはなぜかセットで付いてくる営業スマイル。
自動付与みたいな感じ?
いや、自動付随かしら?
ま、まぁその、無意識のうちに営業スマイルになってしまう。
そもそもこうやって挨拶するのも本当に久しぶりだわ。
ちょっと新鮮に感じました。
「あたしは真凛。
ギルド 【特許庁】 でガンマンをしてる」
「よろしく」
ん? ガンマン? そんな職種あったかしら?
「ないない。
真凛が勝手に言ってるだけ」
そう言って、またまたざっくりと紅軍プレイヤーをぶった斬る真田さん。
何度見ても鮮やかで豪快な斬り口です。
真田さんに呼ばれて、不破さんの側からわざわざこちらに来てくれた真凛さんは、わたしの側、それもすぐ前まで来て少し胸を反らし気味に挨拶。
でも彼女は二丁拳銃を構えているため握手は出来ません。
拳銃を持ったまま両手を腰に当てるようにして、少し、その、上から睨むように見てくる。
これにはちょっとムッとしたけれど堪えます。
だってほら、わたしは小船にへたり込んでるからね。
初対面の人とご挨拶を交わすのにすわったままというのもなんだけど、立てないものは仕方がありません。
「起動……業火」
「みんなが美人美人って持て囃すからどんなものかと思ったけど、たいしたことないじゃん」
自分に自信があることはいいことだと思います。
その自己肯定感の高さは見習いたいとさえ思うのですが、傲慢さは不要では?
他者を下ろして自分を上げるのは見苦しいというか、そうしないと上げられない自己肯定感は低いってことですよね?
もちろん言わないけど。
それより問題は職種よ、職種。
ガンマンってなに?
真田さんは真凛さんの 「自称」 と言うけれど、クロエたち一般的な銃士が装備するライフル銃とは明らかに異なる拳銃。
真田さんの説明によると、射程を捨てる代わりに、ライフル銃より装填時間が短いらしい。
但し二丁装備していても同時には撃てず、あくまで片方ずつ。
それぞれに装填時間が発生するため……たぶんこれは魔法スキルと同じだと思う。
例えば 【業火】 の再起動準備中でも 【スパイラルウィンド】 は発動できる。
そしてこの二つが再起動準備中でも 【百花繚乱】 は発動できる。
こんな感じで、右の拳銃が装填時間中でも左の拳銃を撃つことが出来る。
そして左の拳銃が装填時間中でも、装填時間が終わった右の拳銃を撃つことが出来る。
但し火力は、プレイヤー自身と装備、双方のステータスから導き出されるため、ライフルと拳銃、どちらが強いとは言えない。
「起動……スパイラルウィンド」
真凛さんが 【特許庁】 のメンバーということは、たぶんその拳銃はカジさんの力作だと思う。
作れない物はないんじゃないかと思われる、超凄腕の鍛治士カジさん。
その分製作依頼が引きも切らず超多忙だけど、所属するギルド 【特許庁】 のメンバーは優待扱い。
そもそもカジさんを超多忙にしているのは、その 【特許庁】 のメンバーが出す難度激高な要望が原因で、たぶん真凛さんが装備する拳銃も、そのカジさんが作った物と思われる。
鍛治士に作れるということはレシピがあるということね。
つまり本来は剣士に分類される短剣使いと同じってことかしら?
つまり銃士だけど、装備するのが拳銃だからガンマンみたいな?
ん? ……ちょっと待って?
なにか引っかかりを覚えるんだけど?
改めて見る真凛さんは、穿いている迷彩ズボンが少し 【鷹の目】 のメンバーっぽい。
銃士だから余計にね。
上は黒のタンクトップを着て、その、ちょっとだけむ……谷、間が見えてます。
でもこう言ってはなんですが、たぶん胸はわたしのほうがあると思う。
たぶんね、たぶん。
その上から、左肩だけずらす感じで赤いロングコートを着ている。
どうして 【特許庁】 の女性プレイヤーは赤が好きなのかしら?
いや、まぁ派手好きってことなんだろうけど、それより思い出しました。
ほら、前に言っていたじゃない、【特許庁】 に銃士は一人しかいないって。
それともガンマンと銃士は別扱いで、二人いるってこと?
「起動……百花繚乱」
「一人よ、一人」
わたしの疑問に真田さんが答えてくれる。
それってつまり……
「そいつが乱射魔。
近くにいる時は気をつけて」
つまりさっきの誤射はそういうことね。
うん、わかった。
でも出来たら早く教えておいて欲しかったです。
避けられないけどねっ!!
新キャラ、乱射魔(自称ガンマン)真凛登場!
銃士が勝敗の行方を握っているかもしれない後半で、こんなの出て来ましたけど・・・(汗
案外すぐに退場するかもしれませんけどねw
真打ちがうしろに控えてますから。