736 ギルドマスターは尻で季節外れの餅をつきます
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「ギルマス!
今、その女から助けてあげます!
ついでにその酷薄野郎からも!
起動……」
一難去ってまた一難。
いや、わたしにとってはちゅるんさんが落ちて、わたしの運搬役がノーキーさんに代わったという災難があったから、一難去って二難が去って三難目?
バロームさんの登場です。
ゲーム内に主催者多しと言えど、彼女が 「ギルマス」 と呼ぶのはもちろんノーキーさんのことで、「その女」 呼ばわりされているのがわたしです。
失礼ね!
わたしには安積ぁ……じゃなくて、アールグレイというアバター名があります!
それはそれは立派なアバター名がね。
……うん、まぁ自分で言ってちょっと恥ずかしいというか、なんというか、その、ね。
別に、みんなと同じようにグレイと呼んでくれてもいいけれど、「その女」 呼ばわりは失礼だからやめて欲しい。
気持ちはわからないでもないけれど、わたしだって好きでノーキーさんに運ばれてるわけじゃないの!
不可抗力!!
だってわたしに選択権はないんだもの。
あれば真田さん指名よ。
少なくともノーキーさんは指名しません。
うん、まぁその、不破さんも外します。
可能なら真田さんも遠慮したいというか、もっと可能なら自分の足で移動したいところです。
出来ないけど
出来ればこんな苦労というか、屈辱というか、醜態を晒さずにすんだのよ。
せめて……せめて……【特許庁】 のお世話にならずに済めば……。
どうしてよりによって 【特許庁】 なのよっ?!
いや、もちろん 【特許庁】 でなければいいという話ではなくて、それこそ 【素敵なお茶会】 のメンバーでも嫌というか、恥ずかしいというか。
こんな人前で……
それこそクロウでもご容赦ください。
「…………ホットポット」
来た!
ファイアーボールの三連発。
バロームさん愛用の 【ホットポット】 が。
「あいつ、俺ごと燃やす気か!」
ごめんね、ノーキーさん。
常時発動スキル 【愚者の籠】 を所持するわたしに、通常の魔法攻撃は通じない。
両手が塞がっているノーキーさんをフォローするため、併走していたはずの不破さんはとっくの昔に回避行動に入っている……というわけで、「俺ごと」 ではなく 「俺だけ」 が燃やされます。
ノーキーさんだけが……
「しゃらくせぇーっ!」
うんうん、さすがノーキーさん。
強気にいくというか、浴びるというか。
逃げも隠れもせず受け止めて、派手に焼かれてます。
ひょっとしたら 「妬かれる」 の間違いかしら?
落ちないけど
別にバロームさんを馬鹿にするつもりはないけれど、【ホットポット】 程度の火力でノーキーさんを落とすのは難しいわよね。
たぶんわたしが使っても、一撃では落とせないと思うもの……というか、落ちません。
だってクロウやノーキーさんクラスの剣士は、威力全開の 【焔獄】 や 【業火】 でも一撃では落ちないんだから。
レベルを考えても、バロームさんでは難しいと思う。
でもおかげで、バロームさんがただの嫉妬で仕掛けてきたのではなく、紅軍として仕掛けてきたことがわかりました。
だってほら、バロームさんとローズは、敵味方関係なく仕掛けるじゃない。
だから今回も、その、だから、えっと、ですね、この状態とでもいえばいいのかしら?
まぁそれを見てバロームさんは嫉妬しただけとも考えられたわけですが、【ホットポット】 の焔を浴びたノーキーさんが盛大にHPを流出させたので、バロームさんは間違いなく紅軍です。
今回のイベントは、味方にはダメージを与えられない仕様なので。
ん? そういえば……
ここでちょーっと気になることに思い当たったんだけど、後回し。
まずはバロームさんを片付けます。
「きど……」
「このクソ野郎!」
「黙れ」
あ、あら?
詠唱しようとしたら、とっくに落とされていたバロームさんが、アバターを電子分解させながら、すぐそばに立っている不破さんを口汚く罵っていました。
つまり、バロームさんから真っ直ぐに飛んでくる三つの火の玉を回避した不破さんが、そのまま突っ込んでバロームさんの首をサクッと刈り取ったと。
そういうことのようです。
当然このあと、不破さんはノーキーさんからも罵られておりました。
バロームさんが仕掛ける前に落とせとかなんとか。
それはそれは大きな声で。
もちろんそんな簡単なことではないけれど、今回のイベントではHPの回復は出来ないからね。
可能なら、こんな序盤からダメージは食らいたくないもの。
しかもノーキーさんだから、まぁ言いたい放題。
それにこの二人は、なんと幼稚園からの幼なじみ。
元々が言いたい放題のお付き合いだから。
不破さんは不破さんで、すっかり聞き慣れたノーキーさんの抗議なんて、綺麗さっぱり無視してわたしに話し掛けてるし。
「ご無事ですか?」
「ありがとうございます」
気遣いは無視できません。
でも相変わらず不破さんを近くで直視するのはちょっと難しい。
しかも海面が陽の光をキラキラと反射させていて、いつもとは違うホスト感を演出している。
そのおかげ余計に直視できないというか、落ち着かないというか。
「グレェ~イ!
礼をいう相手が違うだろうがっ」
ん?
……あ、助けてもらったお礼じゃないわよ。
気遣いに対するお礼よ。
しかも別にノーキーさんには助けてもらったわけじゃないでしょ?
わたしを助けてくれたのは常時発動スキル 【愚者の籠】 ですから。
「はぁ~?」
「はぁ~? じゃないわよ、このクズ!
こんなところでなにやってんの?」
少し離れたところで乱暴に四、五人ぶった斬った真田さんが、わたしたちが変なところで足を止めたので様子を見に来る。
予定ではもう少し先まで移動することになっていたからね。
不破さんからバロームさんの急襲を聞いて、真田さんは 「あの子も、このクズのどこがいいんだか」 なんてぼやく。
三人が揃ったところで、さっき気がついたことを尋ねてみる。
ローズはどっちの陣?
「ローズ? 誰だ?」
うん、ノーキーさんはデフォね。
主催者のくせにメンバー全員を覚えていないような気はしていたの。
だってほら、ノーキーさんはbest of 脳筋だから。
このゲームでもトップクラスの脳筋だから。
【特許庁】 についても、実権はほぼほぼ真田さんと蝶々夫人に握られてるし。
結局どこのギルドも、主催者なんてお飾りなのよ。
わたし然り、ノーキーさん然り、ロクローさん然り。
セブン君は違うけど
【3年B組ドンパチ戦線】 のホリーさんはわからないけれど……そういえば 【グリーン・ガーデン】 のアンジェリカさんもどうなのかしら?
「鉄砲玉よ。
いつもグレイちゃんにウザ絡みしてる」
「あ~あ、あの変なビキニアーマーな」
「ローズも、クズには変とか言われたくないと思うわ」
「うるせぇ」
「ちょっと記憶にないんだけど、知ってる?」
ノーキーさんはもちろん真田さんもローズの陣を知らないらしい。
真田さんに聞かれた不破さんはサラリと答える。
「あいつも紅軍です」
面倒臭い
……あ、ついうっかり本音が。
だって白軍でも鬱陶しいけれど、紅軍でも面倒臭いんだもの。
まぁローズのことだから、この混戦から生き残れる確率はそんなに高くないと思うけど……だってほら、レベルはそこそこ高いけれど、剣士としてのセンスがない。
おまけに無駄に目立ちたがりだし。
ノーキーさんほどレベルの高さや強さがあればともかく、そこまでレベルも高くないし強くもないんだもの。
一応気をつけるけど、バロームさんと同じく、ローズも登場時には必ず声を上げてくれるからそこまでは気にしなくてもいいけど。
ほら、戦国武将とかが 「やぁやぁ我こそは!」 みたいな、あの感じで。
名乗るわけではないけれど、今さらあの二人に名乗ってもらう必要もないしね。
うるさい
うん、普通にうるさいわ。
とりあえず足を止めてしまったし、予定ほど前進していないけれどこのあたりでまた少し紅軍を焼こうかしら。
「いいねぇ~」
わたしの提案に乗ってくれたのはいいけれど、気が逸るのか、ノーキーさんったら少し乱暴に下ろしてくれる。
ノーキーさんに丁寧というか、優しさを求めるわたしが間違えていることはわかっているつもりです。
わかっているけれど、半ば落とすように下ろされるのはちょっと。
いや、思い切りお尻から落とされたんですけど?
一応ね、ちょっと屈んでくれたからそれなりに低い位置からだったとはいえ、落とされたものは落とされました。
お尻からぺたりと着地しまして……
「起動……業火」
「ひゃっほぉぉぉぉぉ~!」
わたしが範囲魔法の 【業火】 をぶっ放すと、一瞬で背中の大剣を抜いたノーキーさんが奇声を上げ、多くのプレイヤーを包む 【業火】 の焔の中に突っ込んでゆく。
その拍子にまた小舟が大きく揺れて立ち上がれません!
「結局座りこむんだから、落とされてもいいんじゃない?」
ちょっと真田さん、なにを言っているのかしら?
「なにって、だってグレイちゃん、舟の上で立っていられないじゃない。
だったら……」
真田さんの言葉が不自然に途切れたのは、背後から紅軍のプレイヤーに襲われたから。
もちろん一撃でざっくりよ。
これまた当然だけど真田さんは無傷で、一人落として勢いづいたのか、そのまま二、三人続けて落とす。
うん、結構紅軍が残ってるわね。
「起動……スパイラルウィンド」
「ちょ、おま!」
ん?
支援のつもりで範囲魔法を続けて撃ったら、なぜかノーキーさんが抗議してくる。
だって今回のイベントでは、味方はダメージ受けないんだから大丈夫でしょ?
なのにどうして怒ってるの?
「お前の火力が強すぎんだよ!
落ちちまうだろうが!」
「落としてるのよ!」
なに言ってるのかしら、この人は。
もちろんわかってるわよ、ノーキーさんは自分の獲物が減ることに文句をつけているんだってことはね。
でも文句を言われる筋合いじゃないの。
わたしは悪くないの。
悪いのは一撃で落ちるプレイヤーのほうじゃない。
「相変わらず無茶言うわねぇ、グレイちゃんったら」
近くに真田さんがいるし、次の移動は真田さんにお願いしよう……と思っていたのになぜかまたしてもノーキーさん。
だってわざわざ戻ってきてまで抱えるのよ?
なんなのかしら、この使命感じみたものは。
だってノーキーさんにそんなものがあるとは思えないもの。
でもいざ再移動となったら戻ってきました。
なんなの?
しかも次の予定地点に着いたと思ったら、やっぱり落とされるように下ろされるんだけど、そのタイミングでなぜかわたしの手元にインフォメーションが出た。
えーっと、確か今はイベント中よね?
どうしてインフォメーションが? と思ったら……
information これよりミニゲーム 『那須与一タイム』 が始まります。
あなたが射手に選ばれました。
……これはなに?
これにてバロームが退場。
732話の【番外】side紅軍 ですでにローズも紅軍であることがわかっておりましたが、時系列としては、この時点ですでにローズは落ちているので初戦でローズの登場はありません。
そして本編は、唐突に始まりましたミニゲーム。
グレイ同様「それはなに?」と思われた方は、イベントのルール説明を再読してみてください。
書いてありますw