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734 ギルドマスターはどんぶらこっこどんぶらこっこします

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

 眩しいほどの夏の太陽。

 その陽光を受けてキラキラと輝く海に負けないくらい、水飛沫をキラキラと飛ばしながら前髪を上げる不破さん。

 掻き上げるんじゃなくて、振り上げる?

 ん? これ、なんて説明したらいいのかしら?

 こう、勢いよく顔を上げて前髪を振り上げるみたいな?

 まぁそんな感じです。

 水飛沫と一緒に、ホストの妖しいフェロモンを振りまきながらね。


 やめてっ!!


 しかもノギさんに愛刀屍鬼(しき)を貸してしまったから、大絶賛丸腰。

 ランカーを斬るなら今よ! ……と周囲に言い触らしたいところだけれど、白軍(味方)なのでやめておきます。

 言わなくてもクロウは知ってるけどね。

 目の前に思いっ切り屍鬼が飛んできたし。

 おまけにノギさんと不破さんでこんなこと話してるし。


「けっ!

 お前だって丸腰だろうが」

「助けてもらってその言い草はないんじゃありませんか?」


 そもそもノギさんが、銛の代わりに自分の大剣を投げたのがいけないんだけどね。

 でもその原因が、わたしがクロウと遭遇してしまったことだから、その、強くは批難できないというか、なにも言えないというか。

 一応助けてもらった形になるんだけど、そもそもノギさんが、参加しているだろうことは予想していたけれど、まさか同じ白軍とは思ってなかったし。

 そもそもクロウに遭遇するという今戦最凶の事態に、ノギさんの存在なんて思い出す間もなかったしね。


 助けてもらえるなんて、思う思わない以前よ。

 落ちる覚悟を決めたところで、せめて一矢……と思ったらノギさん登場だもの。

 まぁそのノギさんも、寸前にクロウに気づかれて一太刀も浴びせられてないけれど、とりあえず状況は三対一。

 白軍圧勝の状態です……と言いたいところだけれど、相手がクロウだからね。

 あまり圧勝とは言えない状況です。


 特にわたしは、いつ首を打たれてもおかしくない状況だったりするわけで、とりあえず不破さん、あまり舟を揺らさないでくれる?

 舟の上で立つのはとっくに諦めたけれど、そんなに揺らされると、へたり込んでいることさえ難しいのよ。

 それこそ無様に転がっていきそうです。


 い、一応ね、状況はそれなりに緊迫してるの。

 クロウとノギさんが遭遇したというだけでも十分緊迫の場面だもの。

 そこに、今は丸腰で参戦できないとはいえ、ランカーの不破さんもいるし。

 その緊迫感をぶち壊しそうなくらい無様に転がりそうです。


 そ、そもそもわたし、この状況でどう立ち回ればいいの?

 もちろん自分が白軍だということはわかってる。

 凄くよくわかっています。

 ノギさんと不破さんが味方だということもわかっています。

 わかっているけれど、その、二人と一緒になってクロウを叩くのは気が引けるというか、なんというか……はっきり言って、この二人とつるんでクロウを叩くのは嫌。

 クロウと一対一なら全然いいんだけど、特にノギさんは、ずっと以前に、ノーキーさんと組んでわたしを狙ってきたことがあったからね。


 あの時は完全な個人戦だったのに、あとになってみればさすが血の繋がった兄弟。

 考えることも呼吸もピッタリだったわ。

 でもだからといって、今回のイベント仕様の都合で、わたしの攻撃は二人には通じない。

 落とすことはもちろん、足止めすら出来ないっていうね。


 どうする?


 船底にへばりつきながらもそんなことを考えているうちに不破さんも舟に上がってきて、インベントリから予備の武器を取り出している。

 うん、まぁそうよね。

 今回のイベントでは武器の損耗はないけれど、普段は使えば使うほど耐久値が削れて、そのうちに斬れなくなってしまう。

 装備(アイテム)の予備を持ち歩くのは常識よね。

 お陰様で事態は完全なる三対一で、クロウが圧倒的不利に……と思ったら、わたしの視界の隅を銀色のなにかが横切る。

 それが刃だと気づいた刹那、船縁のすぐ向こう側から聞き慣れた声がする。


「へいへいへい、なに多勢に無勢で(なぶ)ろうとしてんの?」

「旦那嬲ろうとか、百万年早くね?」


 脳筋コンビ


 つまり何?

 わたしの首筋に剣を突きつけてるのは、柴さんかムーさんのどちらかということ?

 声がした順番から考えて、ムーさんかな?

 とりあえず……


「スパーク」

「ぶぇっ!!」


 ほほぉ、海中にいる相手も吹っ飛ばせるのね。

 最大出力で飛ばしたはずなのに、通常よりちょっと威力が落ちているような気がするのは、水圧みたいな?

 摩擦とか、そういう感じの影響があるということかな?

 ギルドメンバーとはいえ今は敵だからね。

 加減をすると落とされるので容赦なく吹っ飛ばしてみたら、ムーさんてば変な声を出して、ついでに派手に水音を立てて吹っ飛んでいきました。


「だから迂闊に近づくなっていったやないか」


 残った柴さんの呆れ声。

 まぁその距離でもたぶん飛ばせるけれど、その用心深さに免じて柴さんは勘弁してあげる。


「そりゃどうも」


 水から首だけを出している柴さんは、波に合わせて海面を上下している。

 そこに吹っ飛ばされたムーさんが泳いで戻ってくる。

 うん、普通に泳いでる……ということは、海に落ちても大丈夫ということかな?

 ダメージとかは特にないと考えてもいい?

 まぁ詳細はあとで不破さんに聞くとして……ノギさんは答えてくれなさそうだからね。

 たぶん訊いても面倒臭そうにされるというか、斬りに行くのに忙しくて、訊く暇を与えてくれないような気がするから不破さんに。

 本心を言えば真田さんに訊きたいところだけれど、ノーキーさんのカバーでちょっと離れたところにいっちゃってるし。

 そのあたりのタイミング的な都合で、ノギさんのカバーに不破さんが来たってことかな。

 とりあえず、もうなりふり構っていられないので、無様に転がりながら反対側の縁まで移動します。


 しました!


 慌ててスカートの裾を直しているところをムーさんに見られた。

 柴さんにも見られた。

 二人ったらわたしが転がっているあいだに船縁まで来て、今度はそこから首だけを出して覗きこんでるのよ。


 もうっ!


「いや、女王はズボン穿いてるやん」

「せめて生足見せてや」


 嫌に決まってるでしょ!!

 絶対に見せません。

 相変わらずのドスケベ変態親父コンビめ! ……あ、脳筋が抜けた。


「どっちかっていうと脳筋は抜かんといて」

「俺もそっちの方がええわ」


 ふーん、脳筋の自覚はあるんだ。


「あるていうか、一応俺ら頭脳労働やけどな」

「患者が患者やさかい、結構肉体労働もあるけどな」


 整形外科医と小児内科医の二人。

 整形外科はわかるけど、小児内科も肉体労働?


「こどもって意外に力あるんやで。

 しかも奴ら、加減を知らんからな」


 それを押さえ付けて治療するのが小児内科医らしい。

 特に注射を嫌がるこどもは全力で拒否してくる。

 でも柴さんが全力で押さえ付けたらこどもは怪我をするから、柴さんが怪我をする覚悟で加減をしながら……ん? 結局脳筋で合ってない?


「いやいやいや、基本は頭脳労働やて。

 国家資格取るの、どんだけ大変やったと思とんねん」


 そんなの考えたことないわよ。

 まぁ凄く大変だろうとは思うけど、ズボンを穿いていて見えないとわかっていて、二人が見ていたことに変わりはありませんから。


「ズボンの上からでも女王の足、綺麗やし」

「それな。

 つい目がいってまうねん」


 ………………


 わたしが言い返せずにぐっと言葉を飲み込んだタイミングで、なぜかノギさんがクロウに斬り掛かるっていうね。

 あとで不破さんが解説してくれたところによると、一応わたしの安全が確保されたからだって。

 確かにノギさんには助けてもらったけれど、この安全はわたしが自力で確保したからね。

 首に剣を突きつけられながらも自力で脱出したからね。

 うっかり接近を許しちゃったのはわたしの油断だけど……。


 揺れる!


 足下の不安定さもものともせず、大きくクロウに斬り込むノギさん。

 おかげで小舟が揺れる揺れる。

 縁に手を掛ける脳筋コンビも 「お?」 とか 「おいおい」 とか声を上げるけれど、それ以上の反応を見せないのはさすがというか、なんというか。

 直後、剣戟が響いてわたしの意識もクロウとノギさんに戻る。


「……やーっぱ屍鬼(これ)、使い(づれ)ぇーわ!」


 まぁ大剣相手だし、屍鬼はその長さのせいで少し癖があったりするからね。

 大剣を使い慣れているノギさんには、確かに扱いづらいと思う。

 でも長刀屍鬼(しき)が持つ固有スキル 【(たま)()い】 が発動し、クロウのHPを削っているらしい。

 相手のHPを、(やいば)を打ち交わすたびに削っていくという固有スキルね。


 【(たま)()い】 は通常のHP流出現象が起こらないから、周囲で見ているプレイヤーにはわからないけれど、屍鬼を握るノギさんはもちろん、HPを削られているクロウは分かっている。

 もちろんノギさんもクロウに、少しずつ地味に切り刻まれてるけど。

 その時々で武器を換装したり、武器に合わせてスピードとパワーのプレイスタイルを変えるクロウと違い、ノギさんは根っからのパワープレイヤー。

 たぶん切り替えることはそんなに難しくはないと思うけれど、やっぱり屍鬼というのが曲者だと思う。

 どうしても長さがね。

 だったら自分から仕掛けなければよかったのに……と思うけれど、この状況で沈黙を守れないのがノギ兄弟の共通点。

 さすがにノギさんは、ノーキーさんみたいに奇声を上げたりはしないけれど、クロウとやり合える数少ない機会だからね。


 逃しません


 狭い舟の上を、不本意にもジリジリと追い詰められる結果に。

 それを黙って見ている不破さんではないけれど、またしても、脳筋コンビとは逆サイドから横槍が入る。


「起動…………氷雪乱舞」


 カニやんっ?!


 この声といい、この詠唱といい、間違いなくカニやんよね。

 味方をPK出来ないのをいいことに、【氷雪乱舞(範囲攻撃)】 で船上を丸ごと狙ってきた。

 直前に気がついた不破さんは、「ちっ」 とかホストらしからぬ舌打ちをしてみせ、ノギさんは低く 「邪魔してんじゃねぇよ、カニ野郎!」 とか言ってるし。

 但しこの攻撃は、紅軍(味方)のクロウはもちろん、魔法攻撃を吸収する常時発動(パッシブ)スキル 【愚者の籠】 を所持するわたしには効かないけどね。


 反射的に視線を向けると、少し離れたところに浮かぶ小舟の上で、見慣れたイケメンがいつものようににひっと笑う。

 もちろんただ見るだけじゃありません。

 スキルそれぞれに射程が微妙に違うけれど、この距離なら全然届きます。


「起動……焔獄(えんごく)


 お返しよ!


 直後に 「ちょ、やめて!」 とか言うカニやんの声が聞こえたけれど、やめるわけないじゃない。

 文句を言いながらも 【焔獄】 の焔に包まれたカニやんが、全身から大量のHPを流出させるけれどまだ落ちない。


 カニやんだって高レベルプレイヤー。

 だから元々のHP最大値は高いけれど、今回に限っては、イベント開始直前に課金アイテムを使ってHPの最大値を上げていたっていうね。

 いわゆるドーピングです。

 今回のイベントでは、開始……つまりイベントエリア転送後ではHP関連のアイテムを使うことは出来ないけれど、その前に使用しておけばOKというわけ。


 裏技でもなんでもないし、アイテムの使用時になにかしら変化があるわけでもない。

 だから転送直前のギルドルームで、カニやんが開いた自分のウィンドウでポチポチ操作されていてもなにをしているのかまでは誰にもわからない。

 わたしもこのことは、この初戦が終わってから知ったんだけどね。


 とはいえ、元々カニやんのレベルを考えれば 【焔獄】 一撃で落とせるとは思っていない。

 可能ならば連続攻撃で確実に落としておきたかったけれど、カニやんの 【氷雪乱舞】 に合わせて柴さんが動いた。

 船縁を両手で掴み、体を持ち上げたのよ。

 それが見えていたから、カニやんに反撃をしつつ、柴さんの接近を阻むため、再び 【スパーク】 を放って吹っ飛ばしておく。

 上半身だけとはいえ水から上がっていた柴さんは、わたしが放った 【スパーク】 の直撃を受けて気前よく吹っ飛び、派手派手しく水音を立てて落下する。

 その様子を振り返りつつ、船縁に張り付いたままのムーさんがインカムに向かって声を上げる。


「恭平、聞こえるか?

 カニが落とされた。

 俺らもそっちに合流するわ」


 話している相手は恭平さん。

 うん、それはいいです。

 同じ紅軍(こうぐん)だからね。

 でもちょっと待ってね。

 だってカニやんはまだ落ちてませんけど?


 健在です


 それなのにもう落ちた前提で話してますね。

 え? なに、それ?

 どういうこと?

 もちろん本人も黙ってはいません。


「ちょい待てっ!

 俺、まだ落ちてへんねんけどっ?

 なんでお前、勝手に俺落としてんのっ?!」


 さぁ、どうしてでしょうね?

海中での条件なども今話で書こうと思ったのですが、カニやん死亡説(?)を今話のオチとして用意しておりまして、ここまでを書いたら長くなったのでカットさせていただきました。

とりあえず水に入っての移動も可能ということで。

次話ではカニやん死亡説の真偽(?)から・・・(予定


どうなる、カニやんっ?!

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― 新着の感想 ―
[一言] 次話で明らかになるだろうけど、「カニやん死亡説」はグレイ避けでしょうか? グレイの近くは死亡率高そうだし何なら特許庁とかいるし、紅は逃げたら勝ちですし... カニやんも魔導士なんだから、グ…
[一言] グレイ対カニやんだと、吸われて回復される分、カニやんが不利だから? 周りの白軍がグレイに近すぎて魔法がグレイに吸われて近づきすぎたカニやんピンチ(//▽//) 笛、吹かずに近づいた…
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