731 ギルドマスターはイケメンに嫉妬してイケ女を目指します
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いつもいつも敵に追いかけ回されているノーキーさん。
今回も開戦直後になにかやらかしたのか、盛大に追いかけられていた。
モテモテね
これを言うとノギさんには怒られると思うけれど、ノーキーさんもお兄さんのノギさんとよく似たイケメンです。
ちょーっと爽やかさが足りないけれど、イケメンはイケメンです。
ちょーっと変な髪型と髪色をしているけれど、やっぱりイケメンはイケメンなのよね。
そんなノーキーさんを追いかけ回す紅軍のプレイヤーたち。
ガッツリ攻めの姿勢です。
確か……と、発表されたルールを思い返してみるけれど、紅軍はヤシマを目指さなければならないはず。
それがどうして白軍の、それもよりによってノーキーさんを追いかけ回してるわけ?
ああ見えてランカーよ、ランカー。
しかもクロウやノギさんと並ぶ、このゲームの剣士のトップ3っていうね。
いや、むしろノーキーさんだから追いかけているのかもしれない。
ほら、あの時代ってあったじゃない。
敵将の首を討ち取って名を上げろっ!! ……みたいなやつ。
あんな感じでランカーのノーキーさんを討ち取って名を上げるというか、ゲーム内で有名になる!! ……みたいなのを狙っているとか?
そう思えるくらいアクティブにノーキーさんを追いかけ回している……と思ったら……
【白い鉢巻きを受け取ったプレイヤーは、以降白軍と呼ぶ。
また紅い鉢巻きを受け取ったプレイヤーは、以降紅軍と呼ぶ。
開戦と同時に、白軍は紅軍を追ってこれを撃破すること。
紅軍は白軍を撃退しつつ、一人でも多くヤシマに辿り着くこと。
またイベント時間内では、ミニゲームが発生することがあります】
……ルールに書いてありました。
この場合、紅軍はヤシマに向かうプレイヤーと迎撃をするプレイヤーに分かれるため、どうしても不利になる。
迎撃しつつそのプレイヤーもヤシマに向かって後退……いや、この場合は前進か。
逃げてるからね。
開戦直後の今は両軍入り乱れている。
転送位置は運営が決めてる……といっても、おそらくランダムだと思う。
だからプレイヤーにはどうしようもないけれど、マップを見た感じでは、全体的にやや南側に紅軍が寄っている……というか、白軍の一部は転送位置が浜。
これはあの、ごまめ的な?
紅軍に対するハンディキャップとして、白軍の一部は転送位置があんな後方に設定されているとか?
まぁ参加全プレイヤーを、ただ転送するだけでは紅軍が不利になるからね。
だって白軍は、ただただ逃げる紅軍を追って狩るだけ。
ひたすら狩る、狩る、狩る、もう一つ狩る。
対する紅軍は、迫る白軍を迎撃しつつヤシマを目指す。
もちろんただただヤシマを目指して走ってもいい。
むしろそれが大正解だと思う。
大正解ではあるけれど、特に開戦直後の混乱は自力で道を切り開かなければ、ヤシマに辿り着くどころか遠目にすら拝めない。
今回のイベントには参加条件として、レベル20以上という制限が設けられているけれど、それこそギリギリ参加のプレイヤーなんてランカーと遭遇すれば一溜まりもない。
ギリギリでなくても、このあたりにいる重火力を相手にするのは分が悪いと思う。
わたしの周辺にいる重火力を相手にするのには、ね。
ちなみにちゅるんさんは、今も踊りながら剣を振ってます。
さすがにサンバホイッスルはちょっと途切れがちだけれど、ステップは軽快です。
軽快すぎて、そのヤバさで近寄りがたいところもあるらしい。
むしろそういう意味では、一見奇声を上げているだけのノーキーさんのほうが追いかけ回しやすいのかもしれない。
実際は、ヤバさも火力もノーキーさんのほうが上だけどね。
無茶苦茶上だけどね。
トップ3だから
見た目は変な人だけど、火力だけは馬鹿高いのよ。
超弩弓重量級火力。
まぁノーキーさんも煽るの大好きだし、どうやら追いかけられるのも好きみたい。
しかも追いかけるほうは本来の、ヤシマを目指すという目的をすっかり忘れているのか、ガッツリ攻めの姿勢でノーキーさんを追いかけてます。
むしろ紅軍が白軍に仕掛けています。
「起動……スパイラルウィンド」
その程度の相手にノーキーさんが落ちるとは思っていないけれど、一応同じ白軍なのでわたしもお仕事します。
お仕事しながらちょっと考えました。
今回のイベントでは、おそらく人数も火力均衡も両軍を公平にしているはず。
そうなるとどちらの軍にも、参加制限レベル20ギリギリのプレイヤーがいて、特に紅軍側だと格好の餌食になる。
火力以上に逃げ足の遅さは致命的だもの。
そうなると狙い目は後衛職。
でも意外に銃士は逃げ足が速い。
射撃センスが皆無のわたしは、職業の選択肢から早々に銃士を外していたからステータスの振り方がよくわからない。
でも意外なくらい速いのは事実。
今回のイベントで、紅軍はまずレベルの低いプレイヤーと共に銃士を先に逃がし、遠距離射撃で後続の後退を支援してくると思う。
特にイベント後半は、おそらくヤシマ近くでの攻防になるから、クロエやセブン君のような高火力の銃士は特に脅威になる。
イベント開始前、海上戦や船上戦を想定し、足場の悪さや隠れる場所がないなど銃士には不利な気もする……なんて言っていた自分をぶん殴りたい気分です。
もうね、きっとこういうところも銃士には不向きなんだと思う、わたしは。
ただ、ここまで考えれば気づくこともある。
紅軍がヤシマ防衛のため銃士を先に逃がすことを考えれば、白軍にとっても後半のヤシマ付近での攻防に銃士が必要だということ。
「銃士を下がらせるわ!」
それこそ本土まで下がらせて、文字通り後方から前線を支援。
前線の南下に合わせて移動させるわ! ……と、ついついいつもの調子で言ってしまうわたしに、すぐそこで、それはそれは楽しそうにプレイヤーをぶった斬っていたノーキーさんが声を上げる。
「真田ぁ~、指示伝達!
急げや!!」
「聞こえてるわよ!
まだそんな歳じゃないわ!」
「そりゃ~よかったっ!」
えーっと、これは仲良し小好しということでいいのよね?
「大丈夫ですよ。
俺はちょっと下がりますが、グレイさんはここに留まりますか?」
どうやら不破さんが伝令に走るみたい。
気をつけてね。
「グレイさんもお気をつけて。
すぐに用を済ませて戻りますから」
「いってらっしゃい。
起動……業火」
手を振って不破さんを見送りつつ、もちろん詠唱です。
だって不破さんが、遠回しに後退を勧めてくれた理由はわかってるから。
一人でも多く味方をヤシマに逃がしたい紅軍は、この混戦から味方を救いつつ白軍を足止め。
かつ白軍の戦力を削ろうとする。
狙い目は後方支援職。
まぁ逆に白軍も、この混戦の中で狙いやすい後方支援職を狙っていくけどね。
でも銃士の移動能力は意外なくらい速い。
すでに指示が届き始め、銃士は後退を始めている。
そうなると狙われるのは、いつもどおり魔法使いよね。
しかも今回のイベント、おそらく回復系魔法使いは参戦していない。
攻撃型魔法使いよ
だから不破さんは遠回しに後退を勧めてくれたわけだけど、銃士ほど攻撃型魔法使いの射程は長くない。
開戦直後で前線が広がっているこの状態では、銃士と一緒に後退したら攻撃型魔法使いは射程が届かない。
多少危険ではあるけれどこの場に踏みとどまり、全方位攻撃の利点を活かして剣士を支援したほうが火力になる。
MP無制限だし。
燃やすわ
「起動……百花繚乱」
わたしが放った焔の中で軽快なステップを踏むちゅるんさんは、まるでその背に負った派手派手しい羽根飾りから焔の花びらを散らすように豪快に剣を振り、焔の中で硬直中の紅軍プレイヤーをぶった斬りまくる。
たぶんあれもPSよね。
大剣だとバランスが違うから出来ないかもしれないけれど、振りの速さを落とさずに切り返してる。
まるで剣が腕の延長みたい。
あの振りの速さって、ひょっとしたらクロウといい勝負するかな?
もちろんレベルやSTRの差があるから、真っ向から勝負したらたぶんちゅるんさんに勝ち目はないと思うけど。
でも剣の振りや切り返しの速さはいい勝負だと思う。
そのちゅるんさんが、容赦なく敵を斬り捨ててから言ってくる。
「でもぉ~紅軍の銃士、撃ったほうがよくない?」
言いたいことはわかります。
わたしだって少しでも、それも早い段階で紅軍の銃士を減らしておきたいのが本音です。
それこそ本土まで後退しては、すでに後退を始めているだろう紅軍の銃士を、白軍の銃士が捕捉することは難しい。
たぶん射程が届かない。
だからといってこの混戦の中に残っている紅軍の銃士を狙い撃ちするくらいなら、さっさと後退して欲しい。
数を残しておきたいのよ、後半戦に備えて。
いわば本土側は白軍の陣地のようなもの。
もちろん最初の転送位置が浜だった紅軍プレイヤーもいて、そこはもうご愁傷様としか言い様がない。
白軍に囲まれて、開戦から数秒後には落とされたと思う。
逆に、紅軍が多い南側に転送された白軍プレイヤーもまた、開戦数秒後に落とされているはず。
こればかりは仕様だから。
例えそれが貴重な銃士だったとしても、申し訳ないけれど救助は難しいと思う。
そう、銃士は少ないのよ。
だから余計に貴重なの。
しかも両軍の火力均衡は、職種ではなくレベルやステータスで割り振られている可能性がある。
つまりどちらかの陣に銃士が偏っている可能性もあって、余計に人数を残しておきたい。
さすがに紅軍の剣士も、足止めのために本土近くまでは切り込まないはず。
もちろん銃士を減らしておきたいのは紅軍も同じだと思うけど、前線の北側から本土までの海域は白軍が多い。
逆に紅軍は、主に前線の南側からヤシマまで、移動しているため広い範囲に火力が広がっている。
そして前戦は本土側に近いところに展開されている。
つまり今の戦況は白軍有利。
でもじきに戦場がヤシマ側に移動することを考えれば、ここで紅軍が無理をする意味はない。
銃士を減らしたいからと言って、本土側まで数人で攻め入ってもたいした戦果は上げられず、返り討ちというか袋叩きに遭うのが目に見えているもの。
そんな無理は戦略的に意味がないからね。
むしろ火力の無駄遣いはしたくないはず。
紅軍の移動に合わせ、尻尾に食いついてくる白軍を押し止めるために。
白軍にとってはこの足止めの火力が厄介なのよ。
たぶんあいつらよ。
だから混戦のうちに、可能な限り紅軍を落とすわ。
そのために、狙われるとわかっていても踏みとどまるのよ、攻撃型魔法使いはね。
MP無制限任せに撃ちまくるから、落としそびれた重火力の始末はお願いね。
紅軍の予測より早い段階で、前線を少しでも南側に移動させる。
とにかく焼きまくるから、剣士は少しでも南下して前線を南側に移動させて頂戴。
紅軍の足止めより深い位置で食らいつくわ。
先っぽに噛みついたところで、トカゲの尻尾切りをされたら意味がない。
あの連中が殿についたら、勝ちを取りに行くため戦略優先で自己犠牲万歳よ!
「え~? うっざぁ~い!」
「考えがグレイちゃんと同じだから、あいつらは」
「そうね、凄くウザいわ」
「考えすぎってことはぁ~?」
それはない
だって紅軍には、【素敵なお茶会】 が誇る超優秀な頭脳が二つもあるんだから。
カニやんはともかく、恭平さんは、だからこそ副主催者権限持たせたくらいなのよ。
しかもあの二人は、開始前から同じ紅軍だってお互いに知っていたわけだし。
さすがにギルドルームには白軍がいたから、転送前から相談とかはしていなかったけれど。
転送で位置を離されても、お互いにすぐマップを開いて状況を確認して打ち合わせたはず。
おまけにクロウとクロエがいて、脳筋コンビまで。
たぶん二人が指示を出す前に、クロエは銃士を率いてヤシマに向かったはず。
それを踏まえてカニやんが指示を出せば、不足分を恭平さんが補って脳筋コンビとクロウが動く。
「それってぇ~、カニにギルド乗っ取られてなぁ~い?」
慌てた様子で真田さんが 「ちょ、るん!」 とちゅるんさんを止めてくれるけれど、大丈夫。
うん、前からわかってたけどね。
主催者、いらないわよね……?
ここに【休閑小話】を置こうと思ったのですが、一話より少し短いくらいにまで話が広がってしまったので、次話を【番外】として『side紅軍』を置きます。
おわかりかと思いますが、グレイの知らない紅軍の様子を少しだけ。
カニやんを中心にお送りいたします。