729 ギルドマスターは紅いリボンで絞殺します
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初日を迎えた新たな期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】。
その初戦の開戦を数分後に控え、【素敵なお茶会】 のギルドルームは不穏な空気に包まれていた。
だって 「これは誰の陰謀っ?!」 と突っ込みたくなるようなことが起こったんだもの!
なにが起こったかを順を追って説明すると……まずは予定どおり、初戦の事前登録終了を開戦30分前に迎え、つい先程、運営から配布された鉢巻きがポストに届いた。
information 運営からアイテムが届きました
うん、ここまではいい。
いいというか、手順通りです。
だから問題はありませんでした。
じゃあなにが問題かと言えば……
わたしだけ白軍っ?!
え? ……え? ええっ、どういうことっ?!
集合を掛けたわけでもないのに、開戦前にギルドルームに集まっていた参加メンバーたちは、ほぼ同時に表示されるインフォメーションを見て、ほぼ同時に届いたばかりの鉢巻きをポストから取り出した。
転送前にそれをアバターに装備することが最終的な参加条件となるため、早速みんな、思い思いの場所に取り付ける。
鉢巻きだから普通に頭に巻いたり、チョーカーみたいに首に結んだり、ミサンガみたいに手首に巻いたり。
さすがに踏むと危ないから、足首に巻こうとした美沙さんは止められていたけれど。
こう……靴紐を踏んで転倒する感じ?
あれ、危ないわよね。
止めてあげたトール君は大正解だと思う。
それこそ 「GJ」 と褒めてあげたいくらい。
そんなトール君の鉢巻きの色は紅で、止められた美沙さんの鉢巻きも紅。
美沙さんには良かったわねと言ってあげたいところだけれど、他にも紅い鉢巻きが一杯……というか、紅色ばかり。
ギルドルームを見渡す限り、紅、紅、紅、紅!
しかもクロウまでっ!!
「結んでもらっても良いか?」
そんなことを言われ、サービス精神旺盛な居酒屋店員ばりに 「はい、喜んで!」 なんて飛びついて、嬉々としてクロウの腕に結んであげている場合ではありませんでした。
あ、いや、まぁ頼まれれば結びます。
はい、結びます。
喜んで!!
だって断れば、代わりにカニやんとか脳筋コンビが結ぶわけでしょ?
彼女としては譲れないところよね。
彼女の座は譲れません! ……と思っていたら
「安心せぇや。
性別の都合上、俺ら彼氏にしかなられへんから」
まさかまさかの彼氏狙いでした。
さすがにこれは……カニやんの言葉ではないけれど 「性別の都合上」 わたしには彼氏の座まで守れないというか、そもそも彼氏にはなれないというオチが……。
「そもそも狙ってへんけどな」
そんなことを言っていつものようににひっと笑うカニやんも、クロウを真似て腕に巻いた鉢巻きの色は紅。
そんなカニやんの彼氏の座を狙う脳筋コンビも当然紅。
「そんな座、いらんて」
「熨斗付けて譲ったるわ」
紅い鉢巻きを互いに腕に結び合っています。
立派な上腕二頭筋に紅が映えます……なんてうっかり褒めたら、結び終えた二人が……これは照れ隠しなの?
いつもの意味不明な筋肉ポーズを見せつけてきました。
いや、要らないし。
誰も要望してないから。
しかもJBまでが一緒になってポーズをとるんだけど、やっぱり巻いている鉢巻きの色は紅。
「キョウちゃん、結んでぇ~」
なんて言って、ここぞとばかりに甘えるアキヒトさんの鉢巻きも当然紅。
甘えられた恭平さんは無の表情で、アキヒトさんの腕に巻き付けられていた鉢巻きをシュルリと解いたかと思ったら首に巻き付け、結ぶ振りをしてアキヒトさんの首を鉢巻きで思いきり絞めるっていうね。
「きょ、キョウちゃんっ?!
死、死ぬ……ちょ……ま……」
大丈夫よ、ギルドルームは安全地帯だからPK出来ません。
それこそ非力なアキヒトさんでも絶対大丈夫よ。
そんな恭平さんの背後に立ったハルさんが、クスクス笑いながら恭平さんの後ろ頭で恭平さんの鉢巻きを結んであげている。
もちろんその色は紅ね。
ちなみに生産職のハルさんは、予定どおり不参加。
作業を中断し、みんなをお見送りするためギルドルームに出て来てくれたらしい。
そんな恭平さんとアキヒトさんを見て、どこに結ぼうか悩んでいた美沙さんは自分の首に巻き付けた……と思ったらトール君に背を向けて立つ。
「ね、ね、篠崎!
後ろで結んで!」
「え? うしろって、え? 俺が結ぶのっ?」
「早く!」
唐突な美沙さんのお願いに、驚いたトール君は顔を赤くしてあたふた。
それでも美沙さんのお願いに……あ、もちろんトール君は恭平さんみたいに、美沙さんの首を絞めたりしないわよ。
そんなことが出来る性格じゃないもの。
わたし以上にトール君のことをよく知っている美沙さんは、そんな疑いなんて微塵も持っていないから、あとは結ぶだけの状態にして、髪を上げてうなじを出した状態でトール君の前に立っている。
完全に無防備
いや、アキヒトさんもそんな疑い微塵も持っていなかったけど、そこはやはり恭平さんとの関係性というか、アキヒトさんの日頃の行いというか。
うん、日頃の行いよね。
首を絞められ続けてギャーギャー騒いでいるアキヒトさんをよそに……というか、あれはあれで実はアキヒトさん、結構喜んでるとか?
「あー……そうかも」
「どんな変態やねん」
「そこはアッキーやし」
わたしの疑問に、いつもの三人は冷静に……いや、ちょっと呆れてる?
それともうるさくて迷惑してる?
まぁそんな感じで意見を返してくれる。
とりあえずそんなアキヒトさんと恭平さん、ハルさんの様子をよそに、美沙さんとマコト君に急かされたトール君が、美沙さんの首の後ろで紅い鉢巻きを結んであげる。
あら、かわいい
それはそれで可愛いわね。
子猫の首に、首輪代わりにリボンを結んであげてる感じ。
あんな可愛い感じに出来上がりました。
もちろんその色は紅だけど……
「お前のも結んでやろう」
結んであげたお礼に結び返してくれるというクロウに、やむなくわたしも自分のポストから純白の鉢巻きを取り出したんだけど、紅軍の中、たった一人の白軍を見てギルドルーム内の空気が一瞬で不穏に……なったと思ったら美沙さんが思わぬ発言をしてくれた。
「ギルマスのパ○ツ、白なんですかっ?」
みんながわたしの鉢巻きの色を見て 「白だ」 とか 「白」 とか連呼していたせいだとは思うけれど、どうして 「白」 と聞いて、しかも開戦前のこの状況で 「敵」 ではなく 「パ○ツ」 を連想するのよ?
美沙さんの思考はどうなってるのっ?
「その……俺も時々、塚原がなに考えてるかわからなくて……」
トール君にわからないものがわたしにわかるはずがない!! ……んだけど、わたしには今日、自分が穿いているパ○ツの色もわからないっていうね。
申し訳ないというか、お恥ずかしいというか……か、顔が熱くなってきた。
とりあえず必死に記憶を手繰ろうとしたら……もちろん穿いているパ○ツの色を思い出すためにね。
でも邪魔をするようにクロウに口を押さえられました。
「待て」
あら、珍しい。
いつも沈着冷静な、お仕事の出来る上司様がちょっと慌ててる。
これを現実世界で見たいとか思わず欲を張ってしまうわたしですが、期間限定イベント 【ヤシマの眩惑】 転送直後、自己主張の集合体、お祭り大好きギルド 【特許庁】 の面々に囲まれたのはなんの罰ゲーム?
どういう状況?
「どういうって言われてもねぇ」
腕組みをして立つ真田さんは思案げに呟くと、いつものようにそばに立つ不破さんに視線を向ける。
ちなみに二人の、露出の高い胸元で、ゆるっと結んだ白い鉢巻きが潮風になびいております。
ネクタイの変わりに鉢巻きを結んだ感じ?
ちょっとこう……○エプロンのサラリーマン版みたいな感じ?
裸ネクタイ
特に不破さんは今日もホスト感が満載で、フェ……ロモン? ……が全開で、見ているこちらが恥ずかしくなります。
しかも熱くなってきた顔に 「ヤバイ!」 と思っていたら不破さんと目が合って、営業スマイルまで全開にしてきた!
ちょ、ヤバっ!!
「グレイさんと同じ軍になれるなんて、光栄ですね」
「お前もブレないな」
「もちろんです」
ちょっと呆れた様子の真田さんにまで営業を掛ける不破さん。
ホストの本気は性別を超えるらしい、さすがだわ。
妖しいくらいにっこりと笑ってみせるけれど、まぁそこは付き合いの長い真田さん。
まるっきり通じていません。
でもそこは不破さんも不破さんで、真田さんに通用しないことは百の承知。
まるで気にする様子はない。
「まぁむっさいオッサンを総大将にするより全然マシだけど」
「そうでしょ?」
ん? なんの話?
総大将? そんなルールあったっけ?
「ありませんが、これだけの人数が二手に分かれるわけでしょ?
ある程度の数を誰かが束ねたほうがいいと思いませんか?」
「なぜか 【特許庁】、白軍に固まってて」
はぁ……
二人の言いたいことはよくわからないけど、とりあえず転送直後の状況を確認すべく周囲を見回す。
うん、見渡す限り、海、海、海、海!
あと船、船、船、たまに小島?
ゆるい波に小舟が何艘も浮かび、そこにプレイヤーが1~5人くらい乗っている感じ。
わたしや真田さんが乗っている船は浜辺からそれほど離れていないところに浮かんでいて、振り返った浜にもプレイヤーがいる。
もちろんみんな、アバターのどこかに白い鉢巻きを巻いた白軍。
紅軍の姿は見当たらない。
一人もね。
これはどういうことなのか? ……と思うんだけど、とりあえず揺れる小舟の上で立つのって難しいのね。
日々、事務仕事で足腰の筋力が退化の一途を辿るOL。
上手く立てなくてよろけていたら、不破さんが手を差し出してくれるからガッツリ掴ませていただきました。
だって立てないんだもの!
で、でもね、辛うじてしがみつくのは堪えてます。
手をガッツリ掴んでるだけよ。
その、それほど大きな揺れじゃないの。
でも規則正しく揺れているわけではなくて、しかも時々大きく揺れたり、揺り返しの間隔が狭まったりして上手くバランスが取れない。
これは慣れるまで結構大変じゃない? ……と思ったら、突然サンバホイッスルが景気より吹き鳴らされる。
まさか……
ちょっと信じられない気持ちで見回してみる。
さっきは気づかなかったけれど、少し離れたところに浮かぶ小舟の上で、同乗者の迷惑も顧みず、肺活量の限界に挑むような勢いでサンバホイッスルを吹きながらサンバを踊るちゅるんさんの姿が見えた。
もちろん白軍です
いよいよ開戦!
前話の後書きで 【素敵なお茶会】v.s.アールグレイと書いたのですが、正しくは 【素敵なお茶会】v.s.【特許庁】feat.アールグレイでしょうかw
こうなると他のギルドも気になるところ。
ちなみに総大将というルールはありません。
詳細は次話で・・・・・・(たぶんw