725 ギルドマスターは吊り橋でモフの愛を確かめます
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「それもあるやろうけど、運営の視野にはサービス終了も入ってるやろうし」
いやいやいや、ちょっと待ってよカニやん。
さすがにそれは話が飛躍しすぎじゃない?
だって確か、イベントの報酬として 【中級】 解毒ポーションというのも破格だけど、いつもなら付いているはずの 【譲渡不可】 が取っ払われているのは 「そりゃエピの進行やろ」 というところまでは理解出来る。
あまりにも飛躍しすぎていて、一瞬思考が停止しました。
…………………………はっ?!
誰だってこうなるでしょ?
ならないほうがおかしい話の展開よ。
いくらなんでも突飛すぎ。
でもそう思ったのはわたしだけ。
もちろんそのこと自体ちょっと受け入れがたいんだけど、インカムの向こうから恭平さんも 『それな』 とか言ってるし。
それってどれよ?
運営がエピソードクエストの実装を急ぐのも、プレイヤーにエピソードクエストを進行させたいのも、そもそものサービス終了が見えてるからってこと?
「見えてるっていうか、まだ視野の範囲じゃね?」
『考えなきゃならない頃だろうな』
相変わらず 【素敵なお茶会】 が誇る二つの頭脳は、二人だけでわかり合ってる。
うん、わかってる、わかってるの。
そもそもこの二人を副主催者に任命したのはわたしだし、だからこそ任命したってことは。
わかってるけど、もう少し説明してくれない?
さすがに内容が内容とあって、恭平さんたちと一緒に 【ナゴヤジョー】 に潜っていた学生組もちょっと落ち着かない感じになっている。
アキヒトさんだけは変わらずだけど、ある意味これは恭平さんに対する信頼?
うん、まぁよくわからないけど、「視野に入ってる」 なら 「見えてる」 んじゃないの?
カニやんが言う 「視野の範囲」 との違いがわかりません。
ニュアンスの違いを利用して誤魔化されているような気さえします……と突っ込んでみたらカニやんににひっと笑われた。
ん?
「まぁ多少は」
『ユーザーに公開されてる情報なんて限られてるから』
またこの二人でわかりあってるんだから。
その公開されている情報とやらの説明をしてもらえる?
なんの話なのよ、いったい?
「前にちょっと話したことあると思うけど、規制の話」
そういえば大分前に、感覚センサーの話があったわね。
現実に近い感覚が味わえるのを売りにしている海外のゲームで、本当にプレイヤーが死亡する事故が起こってるって話。
そういえばあの時カニやんのVR機器、感覚センサーが、右だか左だか、足だか手だか忘れたけど、壊れてるって言ってなかったっけ?
あれ、どうしたの?
「反応悪いって話な。
壊れてねぇよ。
ってかなんでそんな細かい個人的なことは覚えてんのに、もっとデカいこととかヤバいこととか、色々忘れてるかね、あんた」
なんの話でしょう?
「あれから型落ちしたやつ買いました。
感覚センサーはいいけど、ゴーグルの中古はちょっとキショかったから」
「あ、ゴーグル型にしたのね。
お揃い」
「俺とお揃いにして何が嬉しいんかわからんけど。
ヘッドセットとか、特にマイク。
スポンジ代えても、誰の唾飛んだかわからへんのはちょっとキモかった」
意外にカニやんが神経質でした。
う~ん、でもわたしもやっぱりこういう物の中古は嫌かな。
お揃いね
「せやから、俺とお揃いのなにが嬉しいねん?
あん時も話したけど、法整備のほうはまだまだ政治家さんたち、ケツ重すぎて動こうとせぇへんけど、業界的にな」
『小さな事故が起こるたびに物議は醸すけど、ほとぼりが自然に冷めるのを待ってるのが現状だろ?
でもこの状態が続くと新規参入はもちろんだけど、既存のゲームもコンテンツの追加に足踏みする運営も増えてくる。
そうなるとユーザーが海外市場に流れていく』
いつそういった規制が作られるかわからない状態だと、確かに新たなゲームのリリースはためらわれるかもしれない。
しかもユーザーは流行に敏感だし、面白くないと思ったら結構あっさりと乗り換える。
それはそれは見事に、掌を返すようにあっさりとね。
だから過疎りだしたらあっという間よ。
『それで最近、大手を中心に、業界として規制を作ろうって動きが結構本格化してきてる』
なるほど
情報サイトもそういう話題で賑わいだしたんだ。
規制次第では、既存のゲームは存続が難しくなるかもしれない……というか、ほとんどのゲームが、一度サービスを終了する可能性が高い。
そのため早めにエピソードを進行させたいのね。
でこのゲームの場合、多くのプレイヤーが引っ掛かっている難所 【ゴショ】 に、とりあえず挑戦してもらいたくて、必須アイテム 【中級】解毒ポーションを市場に流してみた、と……。
『まぁそんなところじゃないかと』
もちろんサービス終了といっても、今日明日とかの話ではない。
それこそ今からなら、半年先とか一年先とか、そんな感じよね。
あるいは規制自体が出来上がってから半年先とか、そんな感じかな。
「まぁそんな感じ?
参加賞まで出してるから数が数やし、ちょっと市場価格に影響出ると思うけど、今回調合士はMPとHPでも儲けてるし。
そんな不満は出ぇへんのちゃうか」
ハルさんには悪いけれど、そもそも調合士自体、このゲームではごく少数だもの。
運営としては、大いなる目的のために目をつぶると思う。
そっかぁ……サービスの終了……そうよね、いつかは来るわよね。
わかってることだし、まだ先のことでもあるけれど、考えるとちょっと憂鬱になる。
だってほら、そうなると絶対にルゥとはお別れだもの。
泣く
あら? やだ、想像しただけで涙が出てきた。
やだやだやだ、ちょっと……
「やっぱ美人の涙は綺麗やな」
「見応えあんな」
…………ちょっと柴さん、ムーさん?
さっきまで、あれほどカニやんのほうに行ってとお願いしても移動してくれなかったくせに、どうしてこのタイミングでそっちに行ってるのよ?
いつのまにそっちに行ったのっ?
あんまり二人がジロジロと、それこそ珍獣でも観察するような目で見るから、おかげで涙が引っ込みました。
垂れてきた鼻水は、さりげなくクロウの装備で拭ったけど。
「相変わらずひでぇ嫁やな」
「獣のためには涙流すくせに、旦那には鼻水つけんのかよ」
「当たり前じゃー!!
1に獣、2に獣、3、4も獣で5も獣に決まってるやろが!!
旦那、嫁にベタ惚れやねんから、問題あるか!」
わたしが反論しようとした矢先、わたしの遥か上を行く獣の下僕が力説を始めました。
さすが獣至上主義ね。
ないはずの3と4もあって、それも獣ときました。
まぁカニやんの場合、どんなに猫が好きで飼いたくても、出来ない猫アレルギーだもんね。
ヒスタミンだっけ?
反応しない仮想現実で目一杯お仕えしてください……というか、そういうペットを飼育するだけのゲームってなかったっけ?
「あんなん温いねん。
俺は一緒に戦いを潜り抜けてやな、タマとの絆を深めていきたいねん」
んー……それは、ひょっとしてだけど吊り橋理論の応用?
そうやってタマちゃんとドキドキハラハラを共有して、絆みたいなものを深めようと?
あわよくば、タマちゃんに飼い主として認めてもらおうとか、考えてる?
え? まさかそんな甘いこと考えてないわよねっ?
だってルゥもタマちゃんもプログラムだから。
絶対に無理よっ!!
「いや、それ、カニの下僕度がひたすらアップするだけのやつやん」
「そもそもカニとお猫様の関係は、カニの完全なる一方通行やから」
えー? 一方通行のどこが悪いの?
前にも言ったけど、わたしはルゥになら騙されてもいいの。
あの可愛さのためなら、死亡回数の100回や1000回がなんだっていうのよ!
「ここにもアホがおったわ」
「1回も落ちたことあらへん奴がなに言うとるねん」
「さすがに俺も我に返るわ。
どうやったらグレイさん落とせんねん?
ってか誰が落とせんねん?」
そんなのわからないでしょ?
そりゃ物理攻撃を仕掛けようとしないカニやんには難しいかもしれないけれど、脳筋コンビなら、本気を出せば落とせると思う。
それこそ、さっきからわたしの髪で遊んでいるクロウもね。
絡まるからやめてよ……
「誤魔化そうとしてるけど、また顔赤なってんで」
「全然誤魔化されてへんから」
「耳まで赤なってんで」
うぅぅぅ……
それこそわざわざ言われなくてもわかってます。
耳どころか頭皮も真っ赤です。
絶対に見せないけど……上から見てるクロウには丸見えなのが無念すぎる。
そんなわたしの無念以上に無念を抱えた敵が、次の相手のようです。
しかも脳筋コンビと全力で勝負する羽目になるっていうね。
もちろん脳筋コンビだけでなく、ギルドメンバー全員と。
なんの話かといえば次のイベントのこと。
【紫陽花の迷宮】 の結果発表の末尾に、本当にちょっとだけ次のイベント開催の予告が書かれていて。
舞台はセトウチ
……ということは、村上水軍?
あれ、確か海賊よね?
去年も海賊船だったけど、今年もやっぱり夏は海と海賊ってこと?
山だと山賊よね。
ちなみにイベントエリア 【セトウチ】 は、イベント限定という感じかな?
それとも 【アワジ】 実装前の試験的な?
「そこまではわからへんけど、紅白の鉢巻き配布ってあるから源平ちゃうか?」
さらに古いわね。
どんだけ怨念抱えて沈んだのよ。
「生きることへの妄執やな。
あの時代は敗者には死あるのみやし」
まぁ現代の戦争とは全然違うものよね。
でも結局それって、またゾンビとか骨格標本とかじゃないの?
ホラーじゃないの?
「紅と白のチームに分ける意味は?」
「得点を競い合うとか?
確か平氏の誰かを守るため、女の人が扇を的代わりにして余興みたいなことをする話、なかったっけ?」
「那須与一?
あれは余興ちゃうやろ?
あれ余興とか言うたら、それこそ恨まれるんちゃうか」
にひっと笑うカニやんに、脳筋コンビまでが声を揃えて 「呪われんでぇ~」 とか、わざと声を低くして言うのはやめて!
開始前から怖くなるじゃない。
でも実際に始まったイベントはもっと怖かったというか、結局生きてる人間が一番怖かった。
そのことをしみじみ実感しました。
「あんたが一番怖いんじゃ!」
え? どうして???
この規制のお話、もう何話前の話だったのか?
作者も忘れかけるくらい前の話を蒸し返し、サービス終了の話はサラッと流しておきます。
そしていよいよ次話から新イベント 【ヤシマの眩惑】 スタート!!