720 ギルドマスターはブンブンと転がります
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「ところでさ、あの蜂の巣、増えてるんだけど。
ひょっとしてあの蜂の巣も潰すの?」
【ナゴヤドーム】 の出入り口に陣取ったクロエが、照準器の向こうに見える不穏な状況をわたしたちに説明してくれる。
もちろん近くならわたしたちにも見えているけれど、クロエの視界はもっとずっと遠くまで見通せるからね。
つまりなに?
そのずっと遠くまで蜂の巣がどんどん増えてるってこと?
ついでに質問もしてきました。
そうそう、蜂の巣ってあのスズメバチの巣みたいなあれよね?
あれが増えてる?
そもそもあれってどうやって作っているのかと思ったら、すぐ近くでその行程を見ることが出来た。
ちょっと行程とは違う気もするというか、そもそもあれは巣作りとは言わないと思う。
だって作ってないもの。
女王蜂が、壁に張り付いたり木にぶら下がったり……まぁ適当な状態でピタリと動きを止めると、その……ちょっと気持ち悪くてあまりじっくり見ていたくないんだけど、女王蜂のあとを追って飛んでいた働き蜂が女王蜂の体に張り付き、うごうごと動きながら見る見るうちにあのスズメバチの巣のような……バームクーヘン? それとも地層といえば伝わるかしら?
あんな姿形に変わる。
気持ち悪い……
しかもしばらくしたら、下の方から働き蜂がブンブンと飛び出してくる。
こう言ってはなんだけど、その……
「なんかあれやな」
「ケツから出とるみたいな?」
「それそれ」
「働き蜂が糞みたいやな」
「マジそれな」
下品なおっさん二人が、わたしが言おうとしたことを先に言うのはかまわないけど……その、かまわないけど、さすがに、だから、えっと……とまでは言ってないというか、言おうとしてないから!
さすがにそれは言いすぎだから。
しかも一度そう聞いてしまうと、下から出てくる働き蜂が、もうソレにしか見えなくて困る。
ひぃぃぃぃぃ~~~~っ!!
わたしは、女王蜂のお……お、りから出て来ているように見えるって言いたかっただけなのに……
「いや、それ、変わらんやん。
ケツから出てくるもんなんて限られとんのやし」
うるさぁ~い!!
カニやんまで……もう、なに言ってるのよっ?
しかもなにを思ったのか、クロエがその、巣のね、働き蜂の出口あたりをいきなり撃った。
もちろん撃つだけなら問題はないけれど、よりによって物理攻撃反射で気前よく跳弾。
さらにはその弾がアキヒトさんに当たって大出血ならぬ、HPが大流出。
反射は、元々の威力そのままではなく半減されるはずだけれど、撃ったのがクロエだからね。
セブン君と、銃士のトップ双璧を張っているのは伊達ではない威力です。
おまけに当たったのが魔法使いのアキヒトさん。
こちらもVITの低さに定評があるからダメージ甚大です。
HPがだだ漏れ
「ちょっとクロエくーんっ!!」
普段は付けない 「君」 呼びをしてアキヒトさんなりの怒りを表現しているつもりらしいけれど、まぁ日頃のアキヒトさんがあれだし、相手はクロエ。
蚊に刺されたほどにも感じないというか、そんな怒りはガン無視です。
うん、だってそれどころではない事実が発覚したじゃない。
「巣も反射、物理と魔法の2パターン?」
もちろんこれを言う前に、クロエの口からはちゃんと 「アキヒトさん、うるさい」 という毒が吐かれてます。
でも今、そこは重要じゃないから。
重要なのは、女王蜂のみならず、その化身とも言える巣までが2パターンの反射型。
しかも女王蜂同様、見た目は同じだから仕掛けてみないとわからないっていうね。
おかげで通常エリアもちょっとしたカオスになりました。
あちらこちらで剣士が、HPをキラキラと流出させながら吹っ飛んでいき、そのへんの置物やプレイヤーも巻き込んで勢いよく転がっていく。
……あ、魔法使いも吹っ飛んでるわ。
当然のことながら、剣士以上の勢いでHPを流出させながら、ね。
しかも剣士より体力がないから落ちる確率も高い。
でも飛来する女王蜂はもちろん、蜂の巣も壊さないと次々に増えていって、それこそイベント終了までに 【ナゴヤドーム】 まで巣で埋め尽くされそうな勢いで増える、増える、増える。
これでもかって勢いで増えるのよ!
気持ち悪ーいっ!!
相変わらずというか、どこまでも演出過剰な運営です。
おかげでキンキーが大人気。
まだ 【蘇生】 は習得していないため死亡状態に陥ると無理だけれど、そうならないよう 【ヒール】 でメンバーを支援。
でもそんなキンキーを守るため、筋肉の壁が必要です。
なにから守るかって?
もちろん吹っ飛んでくるプレイヤーからです。
だって今のキンキーのレベルでは、その、非力すぎてね、掠るだけでも吹っ飛んでいきます。
それはそれは、たぶんどの魔法使いよりも気前よく吹っ飛んでいくのよ。
一回飛びました
幸いにして一般エリアではPKは出来ない仕様だった。
はからずもキンキーでソレがわかるっていうね。
ゴメン!!
「大丈夫です!
PK出来ないなら落ちないですから!」
いや、それはそうなんだけど……こう、ちょっと脳筋コンビの気持ちがわかったかもしれない。
キンキーの成長っぷりがこんなにも嬉しいなんて。
なんて逞しい科白かしら。
装備は、相変わらず可愛い少年陰陽師だけど。
しかも仮想現実だから、どんなに気前よく吹っ飛んでも、装備が汚れることもなければキンキー自身が泥だらけになることもない。
でもね、やっぱり起き上がったキンキーは無意識のうちに埃を払ってしまう。
そしてそんな自分に気がついて、恥ずかしそうに笑うのよ。
可愛い
「俺らがやっても絶対可愛いなんて言ってくれへんくせに」
「俺も言われたことねぇわ」
いつもの二人が口を尖らせるのは無視です。
内心では 「突っ込み万歳」 とか思っているけれど、当然内緒です。
ついでにアキヒトさんが、「俺もー」 といいながら吹っ飛んでいったのも無視です。
もちろん自分の攻撃を反射されたの。
つまり今アキヒトさんが対面している巣は魔法攻撃反射。
そのことを知った恭平さんが、大量にHPを流出させながら吹っ飛んでいくアキヒトさんを尻目に、すかさず巣に一刀両断を決める。
アキヒトさんは 「キョウちゃん助けてー」 なんて叫んでいたけれど、自分で回復してください。
わたしたちも含めて、多くのプレイヤーは最初、巣は攻撃を仕掛けてこないので放っておいてもいいかと考えた。
女王蜂が率いる働き蜂は攻撃的だけど、巣からバラバラに出てくる働き蜂は、ある程度プレイヤーに近づかないと攻撃的にならない。
巣自体はそんな働き蜂を吐き出すだけ。
だから放っておいてもいいと考えたんだけど、すぐに吐き出される働き蜂が無限湧きであることを思い出し、放置を撤回。
巣の撤去を開始した。
むしろ女王蜂のほうを放置し、巣になるのを待ってから撤去した方が安全かもしれない。
もちろんこれも攻撃的である以上、どんなに無視を決め込んでも向こうから仕掛けてくるけど。
アキヒトさんみたいにね。
「どういう意味?」
ちょっと意味がわからないと、わたしの横に付けるカニやんに聞かれる。
どうって、どんなに無視されても恭平さんに追いすがるあの感じよ。
するとカニやんはもちろん、丁度巣に斬り掛かって吹っ飛ばされた……くせに堪えた柴さんや、それを眺めていたムーさんにも 「あー」 とか 「それな」 とか言われ、恭平さんはうんざりした顔。
アキヒトさんだけが 「え~!」 と抗議の声を上げていたけれど、多数決で的確な例えと認定されました。
民主主義です
芸能人は歯が命ですが、民主主義は数が命です。
数を味方に付けたほう勝ちです。
とりあえず、柴さんが斬り掛かったあの巣は物理攻撃反射なので……
「起動……焔獄」
「あ、出遅れた」
「いただきました」
ふふふ
『わたしもそんな風に優雅に笑いたぁ~い』
ついさっき、魔法攻撃を反射されて落ちた美沙さんの声が、インカムの向こうから聞こえてくる。
大絶賛 【ナゴヤドーム】 地下教会の、さらに地下にある墓地から、芋のように洗われながら戻ってくる途中です。
頑張って!
本当に道を覚えたらしく、ちゃんと一人で戻ってこられるみたい。
その地下墓地、わたしは未だ行ったことがない場所だけど、ますますひどい状態になっているらしい。
転送場所というか、スペースが足りないため転送にひどいラグが起こっている。
そのため落ちて転送されてから、復活してインカムの向こうから声が聞こえてくるまでの沈黙が、今までより随分長くなっている。
今頃運営は、サーバの負荷に冷や冷やしている頃かしら?
「この程度なら大丈夫じゃね?」
『鯖落ちとか許さないよ』
カニやんは楽観しているけれど、ぽぽたちと一緒に後方で控えるクロエが毒突く。
それを宥めるように恭平さんが……いや、別に恭平さんはクロエの機嫌なんてどうでもいい人だっけ。
だから普通にね、根拠を示しながらも楽観派を支持する。
「場所がないから転送出来ないだけで、負荷はそれほどかかってないんじゃない?
場所も限定的だし」
なるほど
じゃあ落ちる心配は無さそうだし、ガンガン行きましょう!
そうしないと自分が落ちるからね、遠慮はしません。
だって向こうも遠慮なく湧いて、遠慮なく仕掛けてくるんだもの。
慎ましやかになんてやってられないわよ。
PKなしだから巻き込みの心配をしなくてもいいし。
「あんた、PKありでも撃つやろう!」
「なんかケツ燃やされた覚えあんで!」
またお尻に戻るの?
今話はちょっと短めですが、丁度いいのでここで切りました。
ちなみにお尻の話は次話にも続きます。
そしてノーキーに匹敵するあの人が再登場し、ちょっと恥ずかしい姿をさらす羽目に・・・( ̄。 ̄;)
今イベントではすでに一度登場しておりますあの人です。
時間に余裕があれば、次話あたりで久々の休閑小話を置くかもしれません。
が、頑張ります・・・ (*꒪ཀ꒪)و