714 ギルドマスターはデンデンを蹴散らしてブンブンします
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枯れ始めた紫陽花の壁。
その活動を活発化させる働き蜂の群れと、荒廃が進むイベントエリア。
イベントも後半に入り不穏な空気がありありと見えるけれど、四つの班に分かれたギルドメンバーと相談している最中にも次々と邪魔が入る……んだけど、わたしたちだけ暇ってどういうこと?
『どういうこともこういうこともねぇよ。
暇なら考えろや。
起動…………』
カニやんはただのイケメンではなく優しいイケメンで、ついでにサービス精神が旺盛です。
忙しい中でもバッチリ突っ込んでくれます。
ありがとう!
やっぱりこうでなくっちゃね。
とりあえず他の班は忙しくしているけれど、わたしたちは探索を続けましょうか?
ちなみに話しているあいだにHPもMPも回復は終わりました。
まぁわたしはMPもHPも、自然回復速度を速める常時発動スキルを持っているので全回復をする必要はないんだけどね。
でもこうなってしまった以上、さっきみたいなことがいつ起こるかわからない。
そう考えると全回復しておくに越したことはないけれど、そもそもわたしに選択権はないから。
決定権はクロウが持ってるから。
悲しいことに……
ポーションが髪を伝って滴ってこなくなると、ルゥは最初、どうして落ちてこなくなったのかわからなくて 「きゅ~?」 と首を傾げる。
どうしてと尋ねられましてもねぇ……回復が終わったからとしか言い様がないんだけど、基本的に回復を必要としないというか、回復出来るかわからないルゥにはちょっと理解が難しいかもしれない。
そもそもルゥって、プレイヤーの言葉を理解しているようでしていないのよね。
少なくとも飼い主の言葉は全く理解しないというか、聞いてくれもしない。
飼い主は頑張って理解しようとしてるんだけど、そういう愛情みたいなものも全く通じていないし……
泣きたくなる
完全なるわたしの一方通行よ。
片想いみたいな?
もちろんルゥの、そういう自由奔放なところも可愛いんだけど。
可愛いんだけどちょーっと淋しいというか、悲しいというか。
きっとカニやんなら、そこを堪えてこそ下僕とか言うんだろうな。
いや、むしろその淋しさや悲しさこそ下僕の醍醐味とか言われるかもしれない。
今は忙しくて突っ込み入れる余裕もないみたいだけど、あの過重火力パーティを手こずらせるって、ちょっと気になるかも。
「ギルマス、来たー!」
「グレイさん!」
枯れた紫陽花を蹴散らすガサガサッという効果音とほぼ同時に、美沙さんとマコト君が声を上げる。
もちろんわたしが来たわけではありません。
お客さんというか、訪問者というか、邪魔者?
うん、邪魔者ね。
こういう情報は伝達が早すぎて、あっというまに広まってしまう。
まぁおかげで他の三班も忙しいわけだけど、うちは一難去ったばかりというのにまた来ました。
ノーキーさんという、このゲーム屈指の面倒臭い一人を斥けたばかりだというのに、回復程度の休憩しかくれない。
いや、まぁ他のプレイヤーには、そんなわたしたちの事情なんて関係ないというか、知らないというか。
ついでにいうと、うっかりルゥの可愛さに見とれて出遅れました。
ヤバイッ!!
ノーキーさんが踏み荒らしたのと同じ場所から、向こうの通路からこちら側に渡ってきた見知らぬプレイヤー。
わざわざ紫陽花を越えてこちらに来て仕掛けようとしているということは接近戦狙いで、接近戦を狙ってくるのはほぼほぼ間違いなく剣士。
魔法使いは、別に紫陽花の壁一枚程度なら全然邪魔にならないもの。
むしろ剣士が相手なら、紫陽花の壁が一枚あるだけで圧倒的優位に立てる。
でも紫陽花を踏み越えて接近を許すと圧倒的に不利になる。
ええ、今まさに剣士に接近を許し、接近戦を仕掛けられようとしています。
しかも反応出来ません!!
ほら、わたしは典型的な魔法使いだからとっさの事態に弱いのよ。
というわけで、ここは定石通りに対応します。
「スパーク!」
不本意ながら焦りが声に出てしまい、大声になってしまった。
装備から見た感じ、中堅クラス?
だいたいレベル30から40くらいのプレイヤーで……と言ってもあくまでも見た目ね。
あとわたしの独断というか、偏見というか。
少なくとも 【素敵なお茶会】 にいる脳筋どもより弱そうな感じ。
そういう意味では全然強そうじゃないというか、怖そうではないんだけど、いきなり距離を詰められるのはちょっと……その、こういう男性は苦手なのよね。
だから容赦なく吹っ飛ばしてあげる。
「うおっ!?」
今回のイベントでは大人気の 【スパーク】 のはずだけど、対魔法使い戦に慣れていないのか。
あるいは見立てよりも経験値が低いのか。
それこそ初見のように驚いた声を上げながら見事にひっくり返ってくれる。
なんかいいわ、この初々しい反応。
ちょっと嬉しくなっちゃう。
いつも可愛げのない筋肉に囲まれているから新鮮……とか感動している場合ではありませんでした。
幸か不幸か相手は男性プレイヤー。
いくらでも押っ広げてください。
ズボンを穿いているのでパ○ツ見えないし。
まぁ今回は女性プレイヤーであっても、踏み分けてきた紫陽花の壁の向こう側に吹っ飛ばしたから見えないけどね。
とっさのことだったからちょっと失敗してしまい、紫陽花の壁の上に乗せられませんでした。
失敗失敗
とりあえず遠ざけられただけでも良しとしましょう。
向こうが立ち上がる前に追撃しなければ……と思ったけれど、わたしが詠唱を始めるより早く、軽やかな足取りで枯れた紫陽花を掻き分けて向こう側に行ってしまうルゥ。
いつものようにフンフンしながら探索するのではなく、こう……勇んでいく感じ?
ただルゥは小さいから紫陽花の向こう側に行ってしまうと姿が見えなくて、吹っ飛ばしたプレイヤーもまだ起き上がっていないのか、姿が見えないまま。
でも不穏な声や物音が聞こえてきた。
「あ! ちょ、やめっ、や、やめ……ぎゃー!!」
ルゥがなにをしたのかはわからないけれど、見えないところでなにが起こっているのかは見当がつく。
しかもすぐ決着がついたらしく、一際大きな悲鳴が上がったと思ったらすぐ静かになり、超がつくご機嫌な足取りでルゥが戻ってくる。
そしていつものようにわたしの足下に可愛らしくおすわりし、ご褒美をねだるようにキラキラのお目々で見上げてくるからもっふりボディをワシャワシャに撫でて褒めてあげる。
お疲れ様
「ワンコさん、勝っちゃったんですかっ?!」
何度かルゥの強さを見ているはずの美沙さんだけど、今回は見えないところでのこと。
俄には信じられなかったのか、紫陽花の壁の上に両手を着き、向こう側を覗きこんでさっきの男性プレイヤーがいないことを確かめる。
この時うっかり片足、あるいは両足が地面から離れてしまったのかもしれない。
隣の通路を覗きこんだ姿勢の美沙さんが 「あ、ほんとに……」 と言うところで声が途切れたと思ったら悲鳴が上がり、美沙さんはお星様になりました。
こう……悲鳴が遠ざかる感じ?
それが最終的に、空の高いところでお星様キラーンみたいな。
『意味わかんねぇよ!』
一段落付いたらしいカニやんの突っ込みが入りました。
ちょっと息切れしてる感じ?
『マジしんどかったわ、今の』
重火力のカニやんを手こずらせるなんて……と言いたいところだけれど、剣士に接近される確率が上がったため、銃士のぽぽだけでなくキンキーを連れているカニやん班は、その重火力全力で二人を守る必要がある。
つまりカニやんも守る側なのよ、後衛職だけど。
それはそれはさぞかし忙しかったでしょうね。
タマちゃんのお手伝いがあるとはいえ、自分自身も守らなくてはならないし。
そうか
イベント全体としてはほんのちょっとの変化だけど、紫陽花を乗り越えられないことで半殺しにされていた剣士の機動力が少し復活。
ただ戦闘三職の中で剣士の機動力はずば抜けているからね。
少しでも復活すれば盤面が大きく動く。
全プレイヤーの中でも一番の人数を占める職種だし。
そのためにイベントエリア内が、イベント開始直後のように活発に動き出しているのかもしれない。
つまり対人戦が増えている。
しかもこの現象は悪い方でも作用していて……
『ギルマス~、やっちゃったぁ~!』
転送のラグがあり、一般エリアに戻された美沙さんの声がインカムから聞こえてくる。
今回は死亡ではなく中途離脱の扱いだから、戻されたのは死体置き場ではなく、イベントエリア転送前の場所。
美沙さんの場合は、イベントエリアに入るために必要なキーアイテムを探していた 【ナゴヤドーム】 出入り口近くね。
もう、なにやってるんだか。
ちょっと苦笑いしちゃうわ。
しかもそんな美沙さんが面白いことに気づいた。
イベント後半戦に入って仕様変更にも似た状況が起こり、盤面が大きく動いた。
そのことによって対人戦が再び活発化し、【ナゴヤドーム】 内地下にある教会のさらに地下。
死体置き場とか墓地とか呼ばれている、死亡プレイヤーが転送される場所が賑わっているのはわかる。
今回は強制転送だから特にね。
おかげでアイテムを使わずに復活させてくれる銭ゲバ闇堕ち聖女が、プレイヤーがルールに慣れてくるにつれて減っていた収入が再び復活。
仕事は忙しくなるけれど、その分ウハウハ状態になっているそうです。
でもそれでまたストレスためて、今年のクリスマスで闇墜ちとかやめてよね。
迷惑だから
美沙さんが気がついたのはそっちではなくて、中途離脱まで増えているということ。
キーアイテムを探すため、一日を通して 【ナゴヤドーム】 出入り口周辺が賑やかなのはともかく、どう見ても美沙さんのようにお星様になって一般エリアに放り出されたプレイヤーが周囲に沢山いるというの。
もちろん見た目ではわからない……いや、ちょっとわかるかも。
今回のイベントは団体戦が有利だから単身は少ない。
それなのに美沙さんの周りには不自然に単身状態のプレイヤーが沢山いて、美沙さんと同じように、インカムの向こうに向かって、謝罪を口にしながら頭を下げているというからまぁ間違いないでしょう。
これに関しては、カニやん班に続いて戦闘を終えた恭平さんが教えてくれる。
『つまりさ、枯れたところから向こう側に行く奴を見るとさ、後ろから追いかけてくるパーティメンバーがそれに釣られてうっかり紫陽花飛び越えるんだよ』
こう、対人戦へのわくわく感とかで浮き足だってついうっかり……みたいな感じ?
『そんな感じだね』
クロエも口を揃えるからほぼ正解ということでいいらしい。
ただまぁ恭平さんが呆れていたのは、剣士の接近を阻もうとしたアキヒトさんがうっかりやらかしたからよ。
枯れた株を蹴散らして迫ってくる相手に対し、後退しようとして反対側の紫陽花を乗り越えたっていうね。
もちろんあっけなくお星様よ。
例外なし
たまたま互いの転送位置が茂みの陰で見えなかったけれど、意外に近い場所だったらしく、周囲を見回したらすぐにお互いを見つけられたみたい。
美沙さんが一瞬早く 『アッキーみっけ!』 と笑い声を上げると、アキヒトさんも 『あ、いた』 と。
でもアキヒトさんは美沙さんに興味はないからね。
すぐさま恭平さんにすがりつく。
『キョウちゃん、早く迎えに来てぇ~』
『しばらく反省してろ』
『え~あたしも反省ぇ~?』
あ、美沙さんは大丈夫よ。
すぐ迎えに行くから。
『ありがと、ギルマス!
愛してるぅ~』
『ちょ、待って俺はっ?!』
あまり美沙さんを一人にするわけにもいかないから待てないし、そもそも班が違うから。
頑張って恭平さんのご機嫌取りをしてお迎えに来てもらってください。
『じゃああたしもお迎えが来るまで、正座して反省してまっす!』
『アキヒト、お前も正座してろ』
『え? なんで俺まで?』
『アッキーはそういうところっすよ』
『JBー、今は俺がキョウちゃんと同じ班だからなっ!』
なんだかインカム内がカオスになってきたけれど、とりあえずわたしたちの班は美沙さんを回収するため中途離脱するわ。
恭平さん班はあくまで恭平さんが班長だからお任せします。
アキヒトさんがいないと範囲攻撃がなくなるけれど、くるくるの安全さえ確保出来るなら、アキヒトさんの回収タイミングは恭平さんが決めて下さい。
『了解した』
『ギルマスまでぇーっ?』
だってそう決めたじゃない。
しかもわたしが。
そんなコロコロ方針転換しないわよ。
ちょっと進行速度が落ちておりますが、一気にラストスパートが来ます。
とりあえず次話あたりでゆりこさん、パパしゃんが再び合流。
イベントもラストへ。
デンデンとブンブンの逆襲をお楽しみに(たぶん嘘w
アールグレイ班
アールグレイ / 魔法使い
クロウ / 剣士
マコト / 剣士
サミー / 魔法使い
ルゥ / 幻獣
カニやん班
カニやん / 魔法使い
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / 魔法使い
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / 魔法使い
ジャック・バウアー / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ベリンダ / 短剣使い
トール / 剣士
アキヒト / 魔法使い