702 ギルドマスターはデンデンと夜更かしをしたので眠いです
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どこのゲームにも一定数はいる廃課金プレイヤーと廃人プレイヤー。
その両方を兼ね備えた集まりがギルド 【鷹の目】。
別名銃士ギルドともいわれるほど銃士の数が多いけれど、実は加入条件に職種は関係ない。
あ、でも廃課金なので生産職の、特に鍛治士の製作装備をすっごく下に見ているというか、バカにしているというか。
そもそも鍛治士を修理屋呼ばわりしているような連中だけあって、調合士を含めた生産職のギルド加入を認めていないらしい。
そんな好き嫌いをしていては、今回の 【中級】の解毒ポーションなどを必要とするイベントでは苦労するのではないかと思われるけれど、そこも廃課金だから。
なんでもお金の力で解決よ。
現金でね
但し、意外な話だけどRMTには絶対に手を出さない。
むしろアイテムを持っているアバター、あるいはアカウントとして目をつけられると乗っ取られる危険があるため、業者とおぼしきアバター、あるいはアカウントには近づかないという慎重さ。
しかもそれをギルドで情報共有するという厳戒態勢までとっている。
一人が乗っ取られると連鎖する危険があるかららしい。
【鷹の目】 が廃課金ギルドなのは、このゲームでは有名だからね。
複垢までしてるから、一人でも乗っ取られると結構な被害を出してしまうらしい。
そんなセレブでお金と時間を持て余す、暇な廃人どもが徹夜でなにをやっていたかと思ったら……
横殴り万歳!!
もうね、呆れちゃう。
もちろん自分たちが巨大カタツムリと遭遇した時は倒すだろうけど……一応 【鷹の目】 にも魔法使いや剣士はいるからね。
さっきも話したけれど 【鷹の目】 のギルド加入は、生産職を除いては職種制限を設けていない。
条件は二つだけ。
廃課金の廃人であること。
この二つよ!
でもよくよく考えてみたら廃課金ユーザーが生産職なんて、特に鍛治士はしないわよね。
欲しい装備はお金の力で手に入れられるんだから、わざわざ自分で作る理由がわからない。
それどころか腕のいい鍛治士は天敵にも等しい。
あまりにも性能のいい装備を作られたら課金装備が捌けなくなるもの。
少なくとも値が下がってしまうじゃない。
製作装備の流通量は、月一回程度で行なわれるイベントのおかげで、耐久値の都合でそれなりに入れ替わり一定に保たれているようだけど、これは運営の、課金ユーザーへの忖度っぽい。
けれど 【鷹の目】 は、運営にとってただ贔屓にしたお客様ではすまない。
これまでにもひっそりと色々やらかしてるから。
結局なにをやらかしたのかわからないままだけど、少し前にもなにかやって運営に目をつけられたらしく、しばらく主要メンバーがサブ垢などを使って身を潜ませていたことがあった。
そんな 【鷹の目】 が、今回は横殴りをしまくってイベントの進行妨害を企んだ……とわたしは思ったけれど、カニやんには 「あー……」 と渋られた。
「通報かぁ……したけりゃしてもいいけど、たぶん運営は対応しない」
「だって十分すぎるほどの通報案件じゃない?」
「いや……んー……なにかおかしいとは思ったけど、まさかこうなってるとは思わなかったけどなぁ」
なにやらごもごも言い出したカニやんの主張は、結論としては 「運営は対応しない」 の一択。
他はないらしい。
その理由は……まずログインしてきたわたしたちは、人数が揃うまでの時間をギルドルームで、公式サイトの掲示板をのぞいて情報収集に当てていた。
でもほぼほぼなにも見つからず。
わたしはこれを、深夜時間にログインしている人口が少ないからだと思っていたけれど、カニやんは何かおかしいと感じていたらしい。
なにも言わないし表情にも出さないけれど、たぶんクロウもね。
脳筋コンビは知らないけど。
実際にイベントエリアに入ってみてわかったのは、さっきのあれね。
横殴り万歳!!
おそらくあれを一晩中やっていたのだろう。
もちろん横殴りばかりではなく、ちゃんと巨大カタツムリと遭遇した時には倒していたと思う。
その遠距離攻撃を可能にする照準器は銃士に高い索敵能力も与え、今回のイベントエリアでの横殴りはもちろん、巨大カタツムリの接近を事前に感知することも出来る。
近寄られれば落とされる銃士だけど、あれだけ見通しがいいと、隠れる場所がない代わりに、接近戦に持ち込まれる前に対象を落とすことが出来る。
主催者であるセブン君を筆頭に、【鷹の目】 の主要メンバーは十分すぎるほどの火力を持っているし、【幻獣】 が相手でも射程さえ確保出来れば全く問題なし。
つまりあの盛大な横殴りはただの嫌がらせか、あるいは巨大カタツムリと遭遇するまでの暇潰しか。
本当に暇人ね……と思うわたしに、柴さんが勘違いを指摘してくる。
「横殴りっていうのはちょっと違わね?
あいつら、デンデンには一撃も加えてへんから」
そうだった
移動しているとはいえ、あのスピードだもの。
的もデカいし、【鷹の目】 のメンバーが外すとは思えない。
でも撃たれたのはわたしとルゥだけ。
全身がモフモフで、しかも白っぽいルゥは狙いを定めにくいところもあったかもしれないけれど、わたしは明らかに頭部を狙ってきた。
「明らかにプレイヤー狙いやろ」
「だったらやっぱり通報した方が……」
そう言い返したら、柴さんはカニやんに視線を移す。
どうやら続きはカニやんと話せということらしい。
柴さんの視線を追いかけてわたしまでがカニやんを見ると、凄く嫌そうな顔を返された。
あら、いつものように、男前ににひっと笑わないのね。
「……簡潔に言や、仕様だから」
「ん?」
「仕様。
迷路の壁を低くして、かつ壁越しの攻撃は可能。
これは運営が今回のイベントに用意した仕様だから違反ではない。
クロエたちも最初にやっただろ?」
………………そうでした!
この時ほど自分のうっかりに恥ずかしくなったことはないかも。
今回のイベント仕様に気がついた時、クロエを含む結構な数の銃士が撃ち合いを始めた。
でも結局派手に撃つとかえって的になる。
おまけに近くにいるプレイヤーを呼び集めてしまうという事実にも気がついた。
特にこのゲームは剣士が多いからね。
近寄られれば落とされるのが運命の銃士にとって剣士は天敵だもの。
自分から呼び寄せる危険度の高さは、容易くは冒せないほどのレベルです。
もちろん一部には日頃から 【鷹の目】 にいい印象を持っていないプレイヤーもいて、ひょっとしたら公式サイトに話題を立てようとしたかもしれない。
でも仕様である以上違反はなく、【鷹の目】 だけを標的にして批判するのはフェアじゃない。
それこそ仕様に対する不満は運営に訴えるべきだし、それでもなにか言いたいことがあるのなら、それは銃士全員に向けていうべきこと。
まぁそんなことすればフルボッコにされるだろうけど。
いくら多勢の剣士に対して銃士が無勢とはいえ、生産職や回復系魔法使い、短剣使いに比べれば全然いるからね。
あくまでも主力である戦闘三職の中では一番少ないというだけだもの。
仕様はあくまでもイベントを面白くするための運営の指向であり、多くのプレイヤーはそれをわかっているだろうから数で押そうとしても賛同は得られないと思う。
おそらく深夜時間帯における 【鷹の目】 の行動に対する不満は、通常のイベント話題のスレに紛れて、一つ、二つは書いてあるはず。
ひょっとしたらもっと書き込まれているかもしれないけれど、わたしたちは蜂の巣情報だけを探していたから、おそらくそれで紛れている書き込みに気づかなかったんじゃないかな。
特にわたしなんてろくに読まないし。
「そういや今日は休日だもんな。
あんた、活字読まないんだっけ」
「読みませんがなにか?」
今さらなことを言わないで欲しい。
頑張って読もうとしても目が活字の上を滑って、内容が全然頭に入ってこないんだもの。
仕方がないじゃない。
不可抗力よ
「ま、いいけど。
実をいえば、いちいちイベントエリアを出る必要はなかったんだけどな」
は?
「だって俺とグレイさんがいれば、火力ごり押しでカタツムリ落とせるじゃん。
魔法使いは座ったままでも詠唱出来るわけだし」
はぁ~?
「じゃあどうして中途離脱なのっ?」
「理由は二つ。
【鷹の目】 のパーティはあれ一つやないやろ?
【鷹の目】 のメンバーって複垢多すぎて実際のユーザー数はわからへんけど、五人しかおらへんてことはないから、いま潜ってるパーティかて一つってことはないやろ」
今回のイベントエリアは0から9までの10エリアで、参加プレイヤーの数を考えれば決して多くも広くもない。
つまり他のイベントエリアに移動しても、【鷹の目】 のギルドパーティと遭遇する可能性は高い。
しかもそれとは別に固定カタツムリの殻は出口とわかっているから、PKを狙って転送待ちをしているプレイヤーもいる。
そんなリスクばかりの状況なら一度離脱した方がいいと考えたらしい。
「でもそれだと入り直しても同じじゃない?」
「もちろん離脱はただの時間稼ぎ。
たぶんそろそろ 【鷹の目】 はあれをやめる」
「そっか、プレイヤーが増えるから……」
深夜時間帯から早朝はともかく、日曜日の今日はそろそろみんな起き出してログイン人口が増えてくる。
そうすると迷路内とはいえ、パーティ同士の遭遇は必然的に増える。
近寄られれば落とされるのが運命の銃士としては、派手な射撃で近くにいる剣士を呼び寄せることは避けたいもの。
ひょっとしたら一度ログアウトして一眠りしてくるかもしれない。
「それはあるかも」
「そうよね、廃人でも人間なんだから眠らないと」
「あいつらって、ログイン状態で仮眠とかしてたりするらしいから、実際はそれなりに寝てるみたいだけど」
「それって、駄目なんじゃないの?」
「推奨はされてないというか、危惧されてるけどね」
業界的になんら規制もないし、システム的な制約もない。
あくまで呼び掛けだから、最終的には個人の判断任せになるのが現状なのよね。
でもいいわ。
セブン君たちだっていい歳した大人なんだから、体調管理ぐらい出来るだろうし。
わたしとしては 【鷹の目】 があれをやめてくれれば十分。
他の銃士ならともかく、【鷹の目】 があれをするとちょっとね。
「うん、まぁ学生組とかまた徹夜しそうだし……あ、明日は平日だから寝るか」
それどころか、イベントは今日の23時59分59秒で前半戦が終了です。
深夜時間帯はほとんど無いから大丈夫じゃない?
逆に来週の土曜日は、日付が変わる0時0分0秒から開始だから、明け方まではまたやるかも。
「一応話しておいて、来週の金曜日にでもも一回注意しておく感じ?」
「そのくらいでいいんじゃない?
あまり色々言うとうるさがられるかもしれないし」
「それな」
そんな話をカニやんとしたけれど、ひょっとしたトール君たちは知っているかもしれない。
結構遅くまで遊んでいたみたいだし、遭遇している可能性は高い。
うっかり撃たれてるかも……なんて心配していたら、いや、まぁ遭遇もしていたし撃たれてもいたんだけど、収穫もあった。
なんとトール君たちが蜂の巣に突入していた。
どんな感じだった?
『その、物理反射だったんで……』
メンバーはトール君、美沙さん、マコト君、ジャック君の四人。
途中まではの~りんも一緒だったらしいけれど、眠気に勝てずパーティから離脱。
一足先にログアウトしたらしい。
『ごめん、俺も寄る年波には勝てないから……』
大丈夫、の~りんが悪いわけではなく、悪かったのはタイミング。
むしろそんな遅い時間まで学生組に付き合ってくれて感謝よ。
贅沢をいえばの~りんが離脱する前に入れていればよかったけど……そっかぁ、物理攻撃反射だったかぁ~。
う~ん、そうだよねぇ、そうなるとメンバーがちょっとねぇ。
の~りんがログアウトするよりも早く……というか、その時にはの~りんを除く社会人組はとっくに全員がログアウトしていて、メンバーの補充も出来なかったもんねぇ。
『わたしの火力じゃ全然ダメでしたー!』
やっぱり美沙さんの、そのポジティブな姿勢はいいわね。
しかもマコト君が、一人でも落ちる前にと蜂の巣から直接中途離脱を選択。
その迅速な判断で無駄死にを回避することが出来た。
「さすがマコト君」
『でも全然なにも情報が無くて……』
カニやんに褒められたマコト君は申し訳なさそうにそんなことを言っていたけれど、そこは問題じゃないから。
ぶっちゃけ、わたしたちも恭平さん班も同じだから。
たいして何もわからなかったから。
『耳が痛い』
恭平さんの苦笑いが思い浮かぶ声が聞こえてくる。
ギルド倉庫から貸し出している 【中級】 の解毒ポーションは、マコト君たちがログアウトする前にハルさんのポストに返還済み。
そのハルさんも 『遅くなりました』 とログインしてきたから、カタツムリイベント前半戦二日目の攻略を始めましょうか!
【鷹の目】騒動はこれで一応落着。
改めて攻略開始です!