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701 ギルドマスターはデンデンの脳天を撃ち抜きます

PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!

『グレイさん、申し訳ありません』


 通称 「内緒話」 といわれるチャット機能の一つ直通会話は、選択した対象プレイヤーと一対一での会話のみを可能とする。

 礼儀正しいセブン君は、いつもならその直通会話をする前にコールをしてお伺いを立ててくる。

 いつもいつもこちらの都合などお構いなしに、突然話し掛けてくる真田さんや蝶々夫人とはい違うのよ。

 でもそのセブン君の声が、珍しくコールもなしにいきなり聞こえた……と思ったら銃声が聞こえた刹那、わたしの頭部に衝撃が走る。


 狙撃


 うん、これが狙いなら事前お伺いを立てるわけにはいかないわよね。

 インフォメーションが出るから、わたしだけでなくカニやんたちにもなにかあるとバレてしまう。

 それこそわたしが声に出して読み上げかねない。

 そうすると襲撃は失敗に終わる。

 だから 『グレイさん、申し訳ありません』 はセブン君なりの、精一杯の忠告というか、予告というか。


 銃声が聞こえたと思ったら、うしろからいきなり殴りつけられたような重い衝撃に襲われ、その勢いにVITのないわたしは完全に負けて頭から前につんのめる……のをクロウが寸前に助けてくれる。

 えっと、その、差し出される腕に自分からしがみつきました。

 はい、ごめんなさい、嘘を吐きました。

 両手でガッツリしがみつきました。


 ちなみにもっふりと抱いていたルゥは、狙撃された瞬間の衝撃で反射的に落としました。

 不可抗力です。

 でもそのおかげで両手があいて、顔面から地面に突っ込むのを防げたわけですが、落とされたルゥはわたしの腕の中ですっかり安心しきっていたらしく、無防備なまま落下。

 お尻からポテッと地面に尻餅をつく。

 でもVITが高いからか、痛くはないらしい。

 なにが起こったのか理解出来ない様子で周囲をきょろきょろと見回していたけれど、ほどなくよっこらしょ……といった感じでお尻を上げると、またどこかに行こうとする。


 ちょっとルゥ!!


「タマ、止めろ!」


 セブン君の予告めいた言葉はわたしにしか聞こえなかったけれど、わたしが撃たれたことで狙撃があったことは一目瞭然。

 柴さんに庇われるように屈んだカニやんが声を上げると、お猫様の姿をしたままのタマちゃんが 「にゃ~ん」 と可愛い鳴き声を上げたと思ったら小走りにルゥを追いかけ、その短いしっぽに思いっ切り噛みつく。


 え? ちょ……


「ぎゅー!!」


 うん、まぁルゥにも予想外だったわよね。

 見ているわたしたちにも予想外だったわ。

 驚いたルゥは悲鳴のようなものを上げて跳び上がった。

 たぶん 【幻獣】 だから痛くはないと思う。

 タマちゃんは格下の 【妖獣】 だしね。

 しかもNPC同士だからなのか、あるいは不具合(バグ)なのか。

 噛まれたルゥのしっぽからHPの流出はない。

 そういえばさっき迷子になったルゥを回収してくれた時も、タマちゃんにくわえられた首根っこからも流出しなかったわね。

 そんなことを考えていたら再び銃声が聞こえた……と思ったら、ルゥが 「ぎゅっ!!」 と明らかに怒った声を出し、撃たれたとおぼしき右前肢の付け根あたりからHPを流出させながら着地する。


「ルゥ!

 ちょっとセブン君!!」


 ただでさえチャット機能に制限の掛かっているイベントエリア。

 しかも遠距離攻撃(ロングレンジ)を得意とする銃士(ガンナー)がエリアチャットの有効範囲にいるはずもなく、わたしの文句なんて聞こえるはずもない。

 わかっていても文句を言わずにはいられなかったというか、とっさに口をついていたというか。


「セブン?」

「【鷹の目】 か」

「ちと面倒な相手やな」


 紫陽花の壁を背に、狙撃の方向に視線を遣りながら話すカニやんたち三人。

 もちろん見えてないけどね、壁があるから。

 様子を見ようとして柴さんが少しばかり顔を出してみると、刹那、銃声とともに眉間に黒々とした穴を開けられる。

 さすが 【鷹の目】、狙いは外さない。


 ちなみにクロエもそうだけれど、銃士(ガンナー)がプレイヤーの頭部を狙って狙撃するのは少しでもHPを削りたいから。

 首から上は欠損しない代わりに、ダメージが他の部位よりも大きいというか、HPの流出量が多い。

 それが狙い。

 魔法使いのように範囲攻撃を持っていないし、剣士(アタッカー)のように首を切断という一撃必殺という手段も持たない銃士(ガンナー)の利点はその攻撃距離。

 近寄られるより前に少しでもHPを削りたい。

 そのために少しでもダメージの大きな頭部を狙ってくる。


 まぁクロエが眉間ばかり狙うのは別だけどね。

 だって首から上ならどこも同じだもの。

 だからこそセブン君はわたしの後頭部を撃ったわけ。

 まぁ飛び出したルゥに関しては、さすがにそこまで狙いを定めることは出来なかったみだいだけど。


「タマちゃん、ありがとう」

「タマ、戻れ」


 わたしのお礼に可愛らしい声で 「にゃ~ん」 と鳴いて応えてくれたタマちゃんは、交戦状態ではいつもそうであるように、今も、カニやんに呼ばれるまでもなくその足下に戻ってゆく。

 ルゥは、HPの流出こそなかったけれどよほど痛かったのか、「ぎゅーぎゅー」 とタマちゃんに文句を言っていたけれど、いいながらもわたしの足下に戻ってくる。

 うんうん、痛かったわね。

 でもルゥが悪いのよ、また一人で勝手にどこかに行こうとするから。


「きゅ~」


 ちょっとは反省してくれたのか、情けない声で鳴かれてしまった。

 とりあえず改めてもっふりと確保したところで、カニやんに突っ込まれる。


「落としたあんたもあんただけどな」


 不可抗力です


 まさかここで狙撃されるとは思わなかったもの。

 直前にセブン君の声は聞こえたけれど、用件は言わなかったし。


直通会話(ナイショバナシ)

 セブン君から?」

「うん」

「だったら撃たなきゃいいのに、あいつ……」

「まぁセブン君もギルマスだからね」


 【特許庁】 とは違う意味での過激派が揃ったギルド 【鷹の目】。

 その中でもセブン君は穏健派だけど、メンバーの手前、主催者としての面子もある。

 だからセブン君個人の都合で、【素敵なお茶会(わたしたち)】 だけを例外扱いするわけにもいないはず。

 だからそのせめてもの良心があの直通会話だったんだと思う。


「とりあえずやな、移動や、移動」

「ここ()ったらヤバイやんけ」


 四つん這いの状態でカニやんの肩を押し、移動を促してくる脳筋コンビ。

 わたしもクロウに、身を屈めたままの状態で移動を促される。

 タマちゃんまでカニやんの手首にしっぽを絡めて引っ張るから、何事かと思ったら、すぐそこに巨大カタツムリが迫っていたっていうね。


 忘れてたっ!!


 セブン君の狙撃に驚いて状況をすっかり忘れていたけれど、わたしたちは巨大カタツムリと遭遇した直後だった。

 もちろん魔法攻撃なら、詠唱さえ出来ればいつでもどこでもどんな状態でも可能です。

 だから立っていてもすわっていても大丈夫。

 体勢は全く関係ないけれど、ずんずん迫ってくる巨大カタツムリに押し潰される危険があるということ。


 一定以上の距離まで近づかれると、粘度の高い唾のようなものを吐きかけられる。

 さらに近づかれると太い首を大きく振って、ボディアタックのようなものを仕掛けられるか、押し潰されるか。

 中距離攻撃(ミドルレンジ)魔法使い(わたしたち)はVITが低いため、どちらの攻撃もNo Thank youです。


 そのために壁役の剣士(アタッカー)がいるけれど、この状況で立ち上がると、紫陽花の壁から頭が出た瞬間に 【鷹の目】 の狙撃に遭う。

 だからといって屈んだ状態ではろくな攻撃も出来ない。

 そればかりが対象と接近しなければ攻撃出来ないのに、接近しても足止め出来ないまま押し潰されるか、ボディアタックのようなもので吹っ飛ばされるか。


 というわけで現状は撤退一択。

 わたしたちは苦しい姿勢で、でも急いで巨大カタツムリから逃げる。

 だって最初に遭遇した巨大カタツムリほどではないけれど、このカタツムリも結構足、速くない?


「速いな」

「せやな」


 さすがに剣を鞘に戻して両手を空け、四つん這いになりつつも殿(しんがり)を務めてくれる柴さんとムーさん。

 しきりにうしろを気にしているのは仕方がない。

 一方その前を、二人の頭突きでお尻を押されるように四つん這いで進むカニやんは悲鳴を上げていた。


「ちょ、タマ、首はアカンて!

 苦しいからやめて!」


 どうやら最初は手首にしっぽを絡めていたタマちゃんだったけれど、四つん這いで移動するには支障があるからと訴えたら今度は首に巻き付けられたらしい。

 うん、まぁHPの流出は見られないから大丈夫よね。

 んー……でもこれ、中途離脱(リタイア)したほうがよくない?

 ここで他のプレイヤーと遭遇したらさらに厄介なことになるじゃない。

 しかもセブン君たちの 【鷹の目】 パーティが同じエリアにいる限り、巨大カタツムリと遭遇するたびに狙撃される気がする。

 つまりこのままでは巨大カタツムリを倒し、残った殻をくぐってエリアを移動することも出来ない。


「あー……それな」

「確かに」


 お尻で二人の意見を聞いたカニやんは、少し前を同じように這っているクロウと視線で意見交換。

 それを見てちょっとムッとするわたしを無視して中途離脱(リタイア)が決定した。

 ひょっとしたらセブン君たち、イベントエリアにいられる三時間ギリギリまであのエリアに居続けるつもりかも。

 そして巨大カタツムリと遭遇したプレイヤーをことごとく狙撃し、イベントエリア(ゼロ)に行かせないようにしているのかもしれない。


「それなー……」


 一般エリアに戻ってから、改めてイベントエリアに入るためのキーアイテムであるカタツムリを探しながら、メンバーの誰にともなく言ってみる。

 なにか言い掛けたカニやんは、タマちゃんのしっぽから解放された首をさすりながら思案する。

 大丈夫よ、索条痕(さくじょうこん)とか残ってないから。


「あってたまるか。

 それよりセブン君のことやけど……」


 わたしが 「うん?」 と相槌を打つと、少し離れたところでタマちゃんとルゥに混じってGを潰している柴さんが割って入ってくる。

 もちろんムーさんもね。

 ちょっと二人とも、いま探してるのはカタツムリであってGじゃないんだけど?

 しかもルゥだけでなく二人までタマちゃんに負けるとか、どうなってるのよっ?


「ヌコ様最強!」


 そんなムーさんのタマちゃん賞賛は無視(スルー)して柴さんの話を聞いてみる。


「いや、たぶんそういうことやと思う」


 そういうことというのはわたしの推測ね。

 柴さんはわたしの推測が合っている、あるいは支持すると言いたいらしい。


「いや、さっき公式サイト検索したやん。

 でも全然新しい情報上がってへんかったし、なんかおかしいな思て」


 でもセブン君を筆頭に、【鷹の目】 のギルドパーティがああやって妨害をしていたとしたら……。

 メンバーのほとんどは銃士(ガンナー)だし、セブン君やクロエほどではないもののみんな凄腕。

 あの程度の狙撃ならセブン君以外のメンバーにも出来ると思う。


 楽勝よ


 しかも(たち)の悪いことに、【鷹の目】 は廃課金ギルドというだけでなく廃人ギルドでもある。

 つまり一日中いるのよ。

 マメもそうだけど、あの人たちっていつ眠ってるの?

 それがわからないくらいログインしてる時間(滞在時間)が長い。

 システムや健康の都合で、どこの運営も三時間以上のログインを推奨していないけれど、あの人たちはサブ垢を幾つも持っていて、ログアウトした振りをして他のアカウントでログインしているらしい。

 そうやって一晩中ログインし、他のプレイヤーの妨害をし続けていたのかもしれない。


 ひょっとして通報案件?

久々に登場のセブンとギルド【鷹の目】ですが、相変わらずやることが・・・

通報するかどうかも含め、次話から女王蜂と再戦(予定

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― 新着の感想 ―
[一言] ん~? あれか?セブン君、ガンナーだと、デンデン、倒せないから、他に八つ当たり?
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