700 ギルドマスターはデンデンの甘さを食べられません
PV&ブクマ&評価&感想&誤字報告&いいね、ありがとうございます!!
祝700話です!
本当に、本当に、本当にここまでお付き合いいただきましてありがとうございます!
最近は更新が滞りがちではありますが、予定しております結末に必ず辿り着きます。
頑張って向かっております。
まだ大分遠いのですが、800話を目処に行き着きたいと思います。
どうぞ、最後までお付き合いくださいますよう、よろしくお願いいたします。
2022/09/12 藤瀬京祥
やってしまった……というか、やられた感じ?
その……ルゥを迷子にしてしまったというか、置いてけぼりにされてしまったというか。
いつものことと言われればそれまでだけれど、ついうっかりルゥから目を離してしまい、迷路の中で迷子にさせてしまった。
ごめん、ルゥ
「そこ、ワンコに謝るところかっ?」
「謝るところやろっ?!」
ルウがまた一人になって泣いているのではないかと思って……気がつくまでは全然ご機嫌にフンフンフンフンと匂いを嗅ぎながら探索を楽しんでいるルゥだけど、気がついた瞬間に大泣きするのよね。
それを思って申し訳なくなったら、なぜかムーさんに突っ込まれた。
え? だって謝るところよね?
飼い主としては……という反論を、飼い主がする隙を与えずムーさんに突っ込み返すカニやん。
さすが獣の下僕だわ。
「とりあえずルゥを探さないと。
えっと、どっち? どっちに行けばいい?」
ここが転送位置だからどちらから来たとかそういうのがなくて、一本の道の左右を忙しく首を振って見ていたら、カニやんに 「とりあえず落ち着け」 といわれました。
で、でもですね、ほら、ルゥが泣いてると思うの。
だから早く見つけてあげないと、その、普段は邪魔さえしなければ他のプレイヤーには目もくれないけれど、えっと、ですね、機嫌が悪いと八つ当たりするじゃない?
ご迷惑をかける前に回収しておきたいな……とか思うのですが?
それで焦っているのですが?
「いや、探すに決まってんだろ?
タマ、頼めるか?」
なぜかタマちゃんに声を掛けるカニやん。
でもタマちゃんも珍しく飼い主の気持ちを理解したらしく、いつもならふいっと顔を逸らせて知らん振りをするのに、「にゃ~ん」 と可愛らしく鳴いたと思ったらなにかを探すように道の左右を交互に、ゆっくりと首を振るように何度か繰り返し見る。
そんなタマちゃんを見ていてわたしは既視感を覚える。
あれ? この感じ、前にもあったような……
でも記憶を手繰ろうとした矢先、タマちゃんのヒゲがぴくりと動き、鼻の「ω」みたいな形のところ、あるじゃない。
あそこがぷくっと膨らむ。
そのあとお髭がピンッと伸びた……と思ったら、もう一回 「にゃ~」 と鳴き声を上げて歩き出す。
「行こう」
カニやんに言葉で促され、クロウに背を押されるように促され、わたしもタマちゃんのあとについて歩き出す。
タマちゃんのすぐうしろをカニやんと柴さんが。
そしてわたしとクロウが続き、殿をムーさんが務めてくれる。
だってここはイベントエリアで、他のプレイヤーにわたしたちの事情なんて関係ないからね。
仕掛けてくるプレイヤーは仕掛けてくる。
油断大敵
そんな状況でルゥったら迷子になるなんて、もう、なにしてるのよ?
このゲーム最強の 【幻獣】 だから心配ないとは思うけど、思うけど……ちゃんと無事でいてよ。
幸いにしてそれなりに朝も早い時間……といっても10時近く。
【素敵なお茶会】 のメンバーもそうだけど、きっと大半のプレイヤーは、イベント初日ということで昨日は遅くまで遊んでいたのね。
それでまだ寝転けている。
そういうことだと思う。
いいけど
そのほうが安全だからね。
巨大カタツムリはともかく、P K戦は出来るだけ避けたいもの。
他のプレイヤーとの遭遇は少ないに越したことはない。
おかげでルゥも無事だった……し?
うん、まぁ無事といっても例によって大泣きしてたけどね。
わたしたちがノーキーさんたちに足止めされている最中、一人でどんどん行っちゃうからよ。
まったく……
入り組んだ紫陽花の迷路。
ルゥよりもさらに小さなタマちゃんは当然ルゥよりも足が短いはずなのに、少しも急ぐ様子を見せず、でもずんずんと、わたしたちを待たせることなく先導。
そうして幾つめかの角に差し掛かった時、不意にしっぽが膨張した……と思ったら二つに割れ、本体までが本来の姿である化け猫になる。
そしてさっきまでの可愛らしい鳴き声から一変、「ナ"ァ"ァ"ァ"ァ"ァ"~」 と地の底から響くような鳴き声を上げる。
しかも一体どうしたのかと思ったら急に駆け出し、その姿はあっというまに角を曲がって見えなくなってしまった。
「待って、タマちゃん!」
ここでタマちゃんまで見失ったら……二匹とも強制収容かな。
だって、もう他に方法がないもの。
タマちゃんはルゥの巻き添えだけど、突然振り切るのはやめて欲しい。
その点はタマちゃんの自己責任だから。
もちろんすぐに追いかけたけれど、わたしたちが角を曲がった時にはタマちゃんのしっぽは随分と遠くにあり、さらに角を曲がって見失ってしまう。
ちょっとカニやんっ?!
「……とりあえず、曲がった角まで追いかけよう」
さすがにカニやんも、このタマちゃんの行動は想定外だったらしい。
呆気にとられていたけれど、すぐに気を取り直して駆け出す。
そうしてわたしたちが揃って角を曲がると、随分先から、化け猫姿のままのタマちゃんが戻ってくる。
その口に、ルゥの首根っこをくわえてね。
あら、かわいい
どうしてもタマちゃんには敵わないらしいルゥは、ガックリと首をうなだれ、しおしおにしおれたしっぽやうしろ足を引きずられながらもおとなしく運ばれてくる。
よぉ~く見ると、案の定というかなんというか、目の縁に一杯涙が溜まってるわ。
タマちゃんに見つけてもらう前に迷子に気づいたのね、きっと。
そんでもって大泣きしているところをタマちゃんに見つけてもらい、首をガップリされてここまで運んでもらったって感じかしら?
「ルゥ、よかった」
しおしおにしおれながらもタマちゃんの前では泣くまいと強がっていたのか?
わたしの声を聞いたルゥはうなだれていた頭を上げ、飛び出しそうなほど大きな目でこっちを見てくる。
うんうん、その顔も可愛いわ。
すると次の瞬間、堪えきれなくなって大粒の涙をボロボロとこぼしながらも、よりによってタマちゃんに頭突きのようなものを食らわせて振り切る。
そして短い足で駆けてくる。
速い、速い
ほんと、その短い足でどうしてその速さで走れるのかしら?
不思議よねぇ~と思っていると、用は済んだとばかりに可愛いお猫様の姿に戻ったタマちゃんが、ルゥのうしろからゆっくりと戻ってくる。
こういう時のお猫様の悠然とした態度は美しいとすら感じるわ。
まぁルゥも、さすがにここはPKエリアなのでいつもの頭突きはしなかったけど。
いや、だってほら、ここであれを食らったら、わたし、間違いなく落ちるから。
否応なく、食らった瞬間に即死ならぬ即落ちするから。
だってクロウでもヤバイのに、魔法使いのわたしに耐えられるはずがないもの。
いつもは一般エリアだから大丈夫なだけであって、PKエリアでは誰も耐えられません。
運営の小林さんアバターならわからないけど。
あの人、自分だけずるしてそうだからね。
それこそ運営の特権最大限に振りかざして……じゃなくて、活かして 【幻獣】 並みのアバター作っていそうだもの。
案外このゲームの最終攻略はあのアバターだったりして。
冗談よ
でもプレイヤーのアバターは耐えられません。
だからちゃんとそれをわかって……いるかどうかはわからないけれど、ボロボロと大粒の涙をこぼしながらも、足下で可愛らしくおすわりをするルゥをもっふりと抱き上げる。
もう、一人で勝手にどこかに行っちゃ駄目じゃない。
「めっ!」
「きゅ♪」
これは絶対に怒られているとは思っていないわね。
まぁそこは残念なAIだし。
ルゥが悪いわけじゃないもの、仕方がない。
それこそ小林さんたちの仕業。
だからこれ以上ルゥを怒っても仕方がない。
とりあえず無事にちゃんと回収出来たから良しとしましょう……というのは少し甘かった。
えーっと、その、ね、ほら、前のイベントでわたしがシャチに腕をバックリと食べられた時、丁度同じタイミングで美沙さんとトール君がピンチに陥って。
クロウが仕事の都合でログイン出来なかった時ね。
だからルゥと二人でシャチを狩っていたら、よりによって恐怖の増し増しタイムが始まって。
インカムから二人の声が聞こえてきて、それでわたしは焦ってしまい、うっかり自分の回復を忘れたままトール君たちのところに駆け付けようとしたら、タマちゃんの案内でカニやんがわたしとルゥと合流した。
位置表示を出していないわたしの居場所を、どうしてそんなにもピンポイントで当てられたのかと思ったらタマちゃんが案内してくれたらしい。
あの時は冗談かと思ったけれど、今回のことといい、ひょっとしたら本当にタマちゃんはルゥの位置を把握出来るのかもしれない。
少なくともカニやんはそう信じていて、だからさっきもタマちゃんにお願いした。
そしてタマちゃんは本当にルゥを見つけて捕獲してくれた。
なにを思って小林さんがタマちゃんにそんなプログラムをしたのかはわからないけれど、前回に続き、今回も助かった。
その点は感謝してる。
大いに感謝してるわ。
本当に感謝しているわ、心の底からね。
でもうっかりしていました。
タマちゃんにルゥを探知する能力があるように、ルゥにも凄い能力があったじゃない。
しかも昨日、その能力を披露してくれている。
あの巨大カタツムリの位置情報を把握するだけでなく、この迷路の中、そこに辿り着くための道順まで割り出せるという凄い能力をね。
います
すぐそこにいます、巨大カタツムリが。
それこそ悠然と歩いてこちらに向かってくるタマちゃんのすぐうしろにね。
すぐに気がついたカニやんが 「ターマー!」 と叫び声を上げています。
うるさい
つまりなに?
またルゥったら巨大カタツムリを見つけ……てもルゥの目線では、抱っこしてあげないと紫陽花の壁越しには見えないはずなのに、ちょっとおかしいわね。
それでも見えたってことかしら?
あるいはその短い足で力一杯ジャンプしたら見えたとか?
うん、この可能性が高そう。
ノーキーさんの相手に忙しくて見ていなかったから本当のところはわからないけれど、なんらかの方法で巨大カタツムリを見つけ、そのまま一人でずんずんと行ってしまった……としたらきっと、ルゥはわたしたちがついてきていると思っていたのね。
実際に巨大カタツムリの下に辿り着いて振り返ったら誰もいない。
ひょっとしたらタマちゃんが急に化け猫になって走り出したのは、ルゥが泣き出したからかもしれない。
とりあえずそのへんは全部推測に過ぎないけれど、ルゥがこの巨大カタツムリを目指して行ってしまったのは間違いなさそう。
だからさっき頭突きをしなかったのはご褒美をねだるため。
褒めて欲しかったからなのね。
そう考えたら全ての辻褄が合うような気がする。
まだまだルゥへの理解が足りておらず、PKエリアということをわかっていて……なんていうわたしの考えは甘々でした。
とてもじゃないけれど食べられないほどの甘さよね。
ハヤシライスの甘口並みに甘いわ……といったらカニやんに突っ込まれた。
「いや、ハヤシライスに甘口とか中辛とかねぇし。
辛めとかならあるけど、甘口はねぇ」
余計なお世話です。
もうとっくの昔にお料理が出来ないことは自己申告しているので、そんな突っ込みされても恥ずかしくともなんともありません。
頑張って強がってそっぽを向いたらクロウと目が合ったので、訂正させていただきます。
頑張ってお勉強したいと思います。
もうね、クロウったらいつもずるいタイミングで笑ってくれるから、ちょ、ちょっと顔がにやけて、その、あ、熱くなってきたーっ!
ひぃぃぃ~!!
と、とりあえずカニやんはタマちゃんを回収して!
だってほら、巨大カタツムリはルゥと同じ 【幻獣】 だから。
ルゥには勝てるタマちゃんでも、きっとルゥ以外の 【幻獣】 には勝てないから……と、恥ずかしいのを誤魔化そうとしたら思わぬところから水を差される。
『グレイさん、申し訳ありません』
久々に聞くその声は……と思ったら次の瞬間、わたしの頭部に衝撃が走った。
久々にあの人が登場!
ということは当然あのギルドが・・・。
そして蜂の巣の情報が集まらない理由も判明っ?!




