７ ギルドマスターは俺TUEEEEします？
pv＆ブクマ＆評価、ありがとうございます！
『琵琶湖から生還、おめー』
どこから聞いていたのか、インカムからクロエの声がする。
今まで静かだったから、たぶん向こうはパーティーチャットで話していたんだと思うけど、いつものように笑ってる。
「琵琶湖っていうよりノブナガ」
の～りんは少し疲れてる感じだけれど、あんた、何もしてないでしょうが！
レベルの低いトール君とココちゃんはともかく、あんた、一発も攻撃参加してないでしょうが！
見てただけなのに、なんでそんなに疲れてるのよ？
無事ノブナガを撃破して、文句タラタラの【鷹の目】メンバーたちと別れて中部東海エリアに戻る途中でのこと。
たぶん向こうもナゴヤドームに戻ると思うんだけど、ま、一緒は嫌よね。
わたしも嫌
セブン君はいい子なんだけど、他のメンバーがね。
わたしに言わせれば、なんであんな廃課金の廃装備なのにあんなに柔らかいのよ？
不思議で仕方ないわ。
『ん～っていうか、廃課金っていうのは課金で色々端折っちゃってるから、余計に中身がないんじゃない？』
クロエがもっともらしいことを言うんだけど、カニやんが割り込んでくる。
『普通はそうなんだろうけどね』
『あ、カニやんさん、こんー』
『こんにちはー』
『カニ、ログインでーす』
自分でも言っていたけれど、カニやんは今ログインしたみたい。
つまりクロエたちと一緒にダンジョンに潜ってるわけじゃない。
ホームのナゴヤドームにいるのかな？
『普通の廃課金はそうだけどさ、あいつら廃人じゃん。
時間は無限にあるんだけどね～』
つまりカニやんもあいつらを残念に思ってるわけだ。
実際残念すぎるんだけどね。
『ノブナガって、第六天魔王？』
アギト君だ。
なんかね、声の感じがちょっと変。
怒ってる感じかな？
『トール、いまレベル幾つ？』
「ノブナガを倒した経験値もらったから、15に上がったよ」
『なんだよ、それ？
きったねー』
なにが汚いの？
PTを組んでたんだから、当然ボス撃破の経験値は分け前が入るわよ。
そういう仕様だもん。
何がいいたいんだろう、この子？
『あーあ、そんなチートがあるんだったら、俺もそっち行けばよかった。
ダンジョン潜るなんて、かったりー』
……？？？ なに言ってるの、この子？
わたしだけが理解出来ないの？
えーっと……困りに困ってクロウを見たんだけど、ま、無駄よね。
いつもの表情乏しいまま。
で、なにげなくの～りんとココちゃんを見たんだけど、それでわかった。
そういえばフチョウから戻る途中、なんか言ってたもんね。
クロエが向こうのパーティーに入ってるって、文句言いたそうにしてたアレよ、アレ。
しかもレベリングでシャチ銅に潜ってた時も、この二人だけ先にログアウトしたっけ。
きっとアレもそうなんだ。
わたしは歩きながらウィンドウを開き、チャットを直通会話に切り替えてクロエに話しかける。
「クロエ、何があったの？」
『何もないと思うけど？』
「クロエ、真面目に」
ちょっと強めに言ったら、わたしの危機感というか焦りが伝わったらしい。
面倒臭いんだから、すぐに気づいてよ！
『というかね、アギト君ってこういう子でしょ？』
「どういう意味？」
聞き返してようやくクロエが話してくれたのは、アギト君の困った行動の数々。
とりあえずダンジョンに潜っても、ボス以外は叩かない。
武器の耐久が減るから嫌なんだって。
初期装備なんて、店売りで幾つも安く買えるのに、それでも嫌なの？
でもそれじゃスキルも取得できないし、スキルレベルも上がらないじゃない。
雑魚でも報酬はあるし、ドロップもある。
で、それは頂戴っていうらしいの。
……はい……？
ドロップが欲しけりゃ自分で叩けばいいじゃない。
元々アギト君とトール君が主賓だったんだから、時間が掛かっても全部叩きたけりゃ叩けばいいんだし、それで一緒に行くのが嫌ならパーティから抜ければいいだけの話じゃない。
ま、それでの～りんとココちゃんは抜けたらしいんだけど、もちろんアギト君の 「くれくれ」 が嫌でね。
そのの～りんとココちゃんの話によると、ボス部屋では銅シャチと戦うんだけど、ダメージ食らったらすぐにココちゃんに回復させて、そのココちゃんが狙われても守らないの。
それどころか何周目かで、ココちゃんを狙わせたらしいのよ、わざと。
一度自分が標的になって、そのまま銅シャチをココちゃんのところまで引っ張っていったの。
たぶん私が聞いた 『お前、へっぼ』 はその時。
もちろんの～りんとか怒ったんだけど 「どんだけ柔らかいか見たかっただけ」 だって。
いやいやいや、そういうことしなくていいし。
わざわざそんなことしなくても、いずれ不可抗力事態で見ることもあるから。
それでわかるから、わざわざしなくてもいい。
しかも 『お前、へっぼ』 とか、留め刺さなくていいんじゃない？
思わず出ちゃった言葉にしちゃ、悪意というか、棘がありすぎでしょう。
今日も私がログインする前に二手に分かれる話し合いをしたらしいんだけど、アギト君がココちゃんと一緒は嫌だって言ったらしい。
なによ、それ
前回のダンジョンでの～りんも一緒だったから、今回は彼も一緒に行かないってことにして、他のエリアを見たいっていうトール君を案内することにしたらしい。
知らなかった……
いま一緒にダンジョンに潜っているのは、前回ログインしていなかったメンバーたち。
それも今はどう思っているのだろう？
「あー……これは駄目だ。
とりあえず全員集合！」
『ドームだね』
『りょ』
『はーい』
『えー、俺、もうちょっと潜りたいんだけど』
ギルドチャットに切り替えて集合を掛けたんだけど、やっぱりアギト君だけは自分のやりたいことを主張してくる。
『ギルマスの召集だよ』
特に怒るわけでもなく諭すクロエだけど、当然アギト君は聞く耳なんて持ってくれない。
『みんな行くの？
誰か付き合ってよ』
『だからギルマスが召集してるって』
ちょっと苛立ったこの声はベリンダね。
たぶんクロエと一緒に、アギト君パーティにいるメンバーの一人。
ギルドメンバーリストにログインが表示されてる。
『いいじゃん、ギルマスなんて放っておいて。
それより俺に付き合ってよ』
『そんなに潜りたけりゃ一人で潜りなよ』
『えー、誰か代わりに雑魚叩いてよ。
ドロップないじゃん』
なに、これ？
この会話、なに？
真面目に聞いていたら、ちょっと頭がおかしくなってきちゃった。
それとも耳がおかしいの？
そもそもわたしの頭がおかしいのっ？
『もーいいよ！
そっちにクロウさんいるんでしょ。
こっち来て俺と潜ってよ』
うわー、よりによってクロウを指名する？
ま、どうせクロウのことだから、いつもみたいに黙って知らん顔するんだろうけど……と思ってたんだけど
「死ね、クソガキ」
……珍しい……
クロウのこの発言も珍しかったんだけど、アギト君も珍しかった。
ギルドのホームポイントであるナゴヤドームで会うと、聞いたこともないような持論を展開してくれたの。
うん、いや、まぁこれはVRMMORPGだし、色んな人がいるのはもちろんわかってる。
わかってるんだけど、これはないわぁ～と思えるようなことを平然と言ってくれるの。
しかもアギト君はそれを当たり前だと思ってるみたい。
いや、みたい……じゃなく、そう思ってる。
絶対的な自信が自分にある感じ？
わたしみたいに、ちょっとしたことでグラグラ揺れちゃう人間には、あり得ないくらいの絶対感。
中央広場の噴水に腰掛けて話を聞いてたんだけど、なんか……へばっちゃった。
人の話を聞くだけでこんなに疲労感を覚えるなんて、仕事でも経験したことないわ。
残業で終電逃した時より疲れたわ。
「あのねアギト君、あなた、何が楽しくてゲームしてるの？」
思わず初歩的なことを訊いてしまったんだけど、返ってきたのは当たり前じゃなかった。
「俺TUEEEEするために決まってるでしょ」
……うん、ま、これは理解出来た。
でも、たぶん理解出来たのはここまで。
「そのためにレベル上げとかしなきゃならないんでしょ？
装備とか揃えたり」
「そんなのギルマスなんだから課金してよ。
俺、欲しい装備があるんだ」
……わたしに課金させてどうしようっていうの？
装備を揃えようとか、レベルを上げようとか、スキルを磨こうとか……
「そんなん面倒臭いじゃん。
手っ取り早く俺TUEEEEしたいんだけど」
じゃあその方法を自分で考えなさいよ。
うん、考える行程は面白そうよね。
で、それを実践する。
うん、全然面白そう。
っていうか、凄い面白そう。
「グレイさんはもうその状態だよね。
俺じゃないけど、ネカマ疑惑あるけど、わたしTUEEEEって感じ？」
クロエってば、無責任なくらい軽く言ってくれちゃって。
ここまで育てるのにどれだけ苦労したと思ってるの？
課金はほとんどしてないけど、時間と労力は費やしてるのよ！
一杯周りに迷惑掛けちゃったし……主にクロウだけど……一杯恥ずかしい思いしたし……クロウも巻き添えにしたけど……それを、こんな奴が……
…………
なんか、自分でももう、なに言ってるのかわからなくなってきちゃった。
やっぱり頭、おかしくなってきたのかしら？
人間、疲れるとろくなこと考えないって、きっとこういうことね。
思わず溜息が出ちゃった……
わたしが、まとまらない考えに頭をグルグルさせていたら、クロウが頭撫でてくれるの。
よしよしって。
泣きたくなってきたぁ……
そりゃさ、ゲームの楽しみ方なんて人それぞれだよ。
わかってる、わたしの楽しみ方を押しつけちゃいけないって。
しかもそれを真面目に語るとか、恥ずかしいよね。
でもアギト君のプレイスタイルは、なんていうか……人を馬鹿にしてる。
うん、他のプレイヤーを馬鹿にしすぎ！
自分が楽をして楽しむだけに、お金を出させたり、ドロップ拾わせたり……奴隷じゃないのよ、ちょっと！
腹が立ってきた
トール君のプレートを使ったのだってそうだったじゃない！
あのシャチ銅巡りのあと、残った銅のプレートをトール君にあげたんだけど、クロエもアギト君にあげようとしたんだけど
「荷物になるから持っててよ。
インベントリ、一杯になっちゃうし。
潜る時は呼ぶしさ」
……だって……。
クロエはあんたの荷物持ちでもないし、犬でもないのよ!!
呼んだら尻尾振って喜んで来るとでも思ってるのっ?!
