692 ギルドマスターはデンデンとブンブンに刺されます
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この仮想現実では、プレイヤーはもちろん、NPCであっても首は最大の弱点。
それこそこのゲーム最強のNPC 【幻獣】 であっても。
公式の発表では胴を断っても一撃で落とせることになっているけれど、VITと胴体部分の太さの都合上一撃で断つことは難しく、結果、現状では首が最大の弱点となっている。
けれどその首を狙ったクロウの一撃を受けた女王蜂は全くの無傷。
それどころかものの見事にクロウを吹っ飛ばし、その全身から珍しいくらいのHPを流出させた。
クロウがこんなにも大きなダメージを受けるのを見るのは、ひょっとしたバトルロワイヤルでノギさんとノーキーさんに斬り刻まれた時以来かもしれない。
ノギ兄弟
いま思えば、普段は名前を口にするのも耳にするのも嫌とばかりに嫌いあっているくせに、あの瞬間ばかりは見事に意気投合。
さすが兄弟とばかりに息の合ったタイミングで、アイコンタクトすらなしにわたしを狙ってくれた。
斬られたのはクロウだけど。
脳筋コンビの話では、剣士トップ3の中でもクロウが頭一つ抜けているらしいけれど、ノギさんとノーキーさん、二人同時に相手をすればさすがのクロウも相応のダメージは避けられない。
【幻獣】 が相手でもね。
しかも今回は吹っ飛ばされた。
あのクロウが……
普通の物理攻撃無効なら、斬り掛かってもダメージが出ないだけ。
それが吹っ飛ばされたとなると、これは物理攻撃反射。
【幻獣】 はノックバックしないから、殴りかかったりしたら吹っ飛ばされるのはプレイヤー。
だけど今のクロウはただ斬り掛かっただけ。
それで吹っ飛ばされたということは物理攻撃反射だと思う。
魔法攻撃反射だと、魔法自体が全方位攻撃だから反射も全方位反射で、放った本人に返ってくるとは限らない。
でも刀剣による物理攻撃は基本が接近戦だから、反射もそのまま本人に返る。
多少は威力も減少していると思うけれど、クロウのSTRだからね。
反射されるSTRも半端なくて、気前よく吹っ飛ばされながら大量のHPを流出させた。
でもそこもクロウで、吹っ飛び方も格好いいけど、お腹がぷよぷよ過ぎてすぐに起き上がれないわたしと違い、回転レシーブをキメた直後のバレーボール選手みたいに即座に態勢を立て直す。
そこにすかさずゆりこさんの 「ヒール」 が飛び、そのゆりこさんをパパしゃんがカバー。
この時点ではまだ女王蜂の標的はクロウで、周囲を飛び交う働き蜂の群れもクロウを中心に狙ってくる。
女王蜂のフォローをするためか、クロウと女王蜂のあいだに入るような形で。
女王蜂自身も攻撃参加する気満々で前進してくるから、働き蜂の群れごと女王蜂に少しでもダメージをと 【ウォータースライサー】 を放ってみれば、向かってくる水の刃に働き蜂の群れはほぼ正面衝突。
まとめて排除することが出来たけれど、無限湧きだからね。
正直、働き蜂の群れをいくら焼いても仕方がない。
問題は女王蜂。
蝶のように舞う女王蜂 / 種族・幻獣
その名に恥じぬ華麗さで交わしてくれました。
これはひょっとしてひょっとするけれど……いや、ひょっとしないか。
ほぼほぼ間違いなく魔法耐性、低いわよね。
しかも……
「起動……」
ここは考えている時じゃない。
落とせるかどうかわからないけれど、やってみる価値はある。
「業火」
やっぱり範囲魔法は華麗に回避。
あいだを飛び交っている無限湧きの働き蜂ばかりが落ちる。
むしろ働き蜂は範囲魔法の的をそらせるため、故意に対象プレイヤーと女王蜂のあいだを飛んでいる。
以前同じような 【幻獣】 はいたけれど……ほら、魔女とか吸血鬼とか。
でもあれはカラスやコウモリを、自分の手足の延長のように攻撃手段として使役していたけれど、どうやらこの女王蜂は盾として働き蜂を使役しているらしい。
この女王蜂にそこまでして守る価値があるかどうかは甚だしく疑問……というか、働き蜂をそんな風に利用するなんて、女王として失格じゃない?
蜂の巣なんて閉じられた世界とはいえ、仮にも一国の女王よ。
それが忠実な下部をそんな風に扱うなんて。
でもこれで働き蜂のHPやVITの低さにも納得がいく。
だって攻撃力は必要ないんだもの。
範囲魔法はNPCかプレイヤーに当たればそこから効果範囲を展開してしまう。
その目的で群れをなす働き蜂は女王蜂とプレイヤーのあいだに入り、範囲魔法の効果範囲を女王蜂から遠ざけようとする。
その役目を果たすためにはHPやVITは関係ないからね。
無害を装って、実は女王蜂よりも有害というか、厄介というか。
「起動……百花繚乱」
女王蜂に一矢報いてやるつもりだったけれど、物理攻撃反射、及び魔法攻撃対象とわかっただけでここはよしとしましょう。
蜂の巣を脱出ついでにイベントエリアも中途離脱して、このメンバーで出来る対策を考えましょう。
蜂の巣から直接中途離脱することも考えたけれど、あの出口の外も確かめておきたかったから。
働き蜂が他のエリアに飛んでくることを考えれば、たぶんプレイヤーもイベントエリア0以外のエリアに飛ばされると思う。
でも一応確認をしておこうと思って。
「出口の位置は変わってません」
ゆりこさんのカバーをしつつ働き蜂の動きを見ていたパパしゃん。
クロウが斬り掛かってからも、働き蜂の群れはどこかのエリアに蜜を集めに……行っていたかどうかはわからないけれど、幾つもの群れが蜂の巣を出ていった。
その様子を目で追い、出口の位置が変わっていないことを確認していたパパしゃん。
さすがです、今日もお仕事にぬかりはありません。
「OK、離脱するわ」
「わかりました」
クロウのHPがどの程度回復したかわからない。
その点に不安が残るけれど、すでに体勢を立て直しているクロウが 「大丈夫だ」 というから大丈夫だと思う。
ゆりこさんの回復力の高さはもちろんだけど、クロウのHPも高いからね。
ここは二人を信じます。
ということでトール君、出番よ。
「はい」
クロウやパパしゃんを真似、襲って来る働き蜂の群れを体の正面で受けず、ずらして盾で払うというやり方を覚えたトール君。
現役高校生だけあって考えるより先に体が動く感じ?
習うより慣れろかしら。
見様見真似でかわしているうちに体は覚えたけれど、そのあとが少し心許ない。
剣士三人の中では一番レベルが低く 【ファイアーボール】 の火力も低いからね。
それをゆりこさんがカバーしていたけれど、クロウが吹っ飛ばされてからは本業で忙しくなっている。
潮時ね
わたしたちはトール君を先頭に、この蜂の巣を離脱することにした。
いつもなら合図はわたしかクロウが出すところだけど、今回はトール君にお任せで。
「行きます!」
表情をキリッと引き締めたトール君は、そう声を上げたと思ったらいつもの躊躇を見せず、確認しておいた出口に向かってスタートダッシュする。
距離にして50mくらいかしら。
目測だけどたいした距離はない。
トール君ならダッシュでも十分に駆け抜けられると思う。
その、ちょっとわたしには難しいけどね。
うん、でも全力で走りました。
ゆりこさん、パパしゃんを追いかけて必死に走りました。
殿のクロウに追い抜かれないようにね。
状況的に魔法使いのほうが殿に相応しかったけれど、過保護な保護者だからね、クロウは。
「行け」
そう言われれば、わたしが走り出すまでクロウはテコでも動かない。
ゆりこさんのおかげである程度回復しているとはいえ、まだHPに不安を残すクロウに無理はさせられない……となれば走り出すのが一番確実。
ということで走り出しました。
しかも追いついたクロウに背中を押されるように、壁に描かれた絵のようなものだとわかっていても気持ちの悪い蜂の巣に突っ込む。
乱暴ではなかったけれど、有無を言わせない力強さでね。
まぁクロウも、すぐそこまで女王蜂に迫られていては仕方がない。
あの女王蜂ったら範囲魔法を華麗に交わすだけでなく、追いかける足まで意外なほど速かった。
足というか、飛んでいるから移動速度とでもいうべきかしら。
しかもわたしより速いから追いつかれるという悲劇。
だからクロウはわたしの背中を押さずにはいられなかった。
申し訳ございません
出口そのものはアバター一体分以上の幅があり、わたしの背中を押しながらほぼ横並びで壁に突っ込むクロウ。
わたしはてっきり壁の向こう側は、入ってくる時のように暗いトンネル状になっていると思っていたけれどビックリ。
明るいそこには紫陽花の迷路が広がっていた。
出口は固定されたカタツムリの殻、それは間違いない。
それはわたしもわかっていたから、てっきり外に出るには入り口と同じように暗いトンネルを抜けるものだと思っていたのに、実際は殻の入り口に見える闇が一枚のカーテンのようなものだった。
裏側に蜂の巣が描かれている感じ。
ただカーテンのように開けるわけではなく、そのまま突っ込んで幕を擦り抜ける感じで外に出た。
ただここでわたしは一つ、勘違いをしていた。
すぐそこまで迫る女王蜂から、わたしを庇うように背を押したクロウが心配で外に出た次の瞬間に振り返ったわたし。
すぐ横からクロウが出て来てホッとした刹那、たった今抜けたはずの闇から出てくる一本の……棒?
なに、これ?
地面に対してほぼ水平に突き出てきた棒は先端が尖っていて、そのままずっぷりとわたしのお腹を突き刺す。
どういうこと?
そもそもこの針はなに?
刺された瞬間、激しい痛みとともに大量のHPが背中から流出……ということは貫通攻撃っ?
どうなってるのっ?!
「グレイっ!」
「ヒール」
反射的にお腹を貫く棒を両手で掴んだわたしが何気なく顔を上げると、すぐそこで女王蜂が、最初に合ったあの大きな目だけを闇の中から出してわたしを見ていた。
ひぃぃぃぃ~!!
なに、このホラーはっ?
まだ梅雨よ。
夏にはちょっと早いんだけどっ?!
つまり何? この棒は女王蜂の……毒針?
え? 毒針なの?
ちょっとやめてよ。
だってわたし、無意識のうちに掴んじゃったんだけど?
気持ち悪ぅ~い!!
「起動……避雷針」
刹那、雷鳴が轟き、天から降ってきた雷の矢が闇に突き刺さる。
位置的に女王蜂の脳天かしら。
その部分は闇の中に残されていて見えないけれど、たぶんそのあたり。
えっと……つまりどういうこと?
わたしは……たぶんクロウも、ここにエリアの境界がある。
女王蜂はここを越えて出てくることはないと思っていた。
ついでにいえば、今の女王蜂の標的はわたしだったのよね。
これはすっかり忘れていたというか、うっかりしていたというか。
ほら、クロウが吹っ飛ばされた直後、フォローのために 【ウォータースライサー】 を放って攻撃したから。
それで今はわたしに標的が変わっている。
クロウは覚えていたけれど、エリアの境界を越えてまでは攻撃出来ないと思っていた。
だからわたしの背中を押してまで境界の向こう側に押し出したのに……。
しかも女王蜂は、間違いなくわたしの放った 【避雷針】 の直撃を受けたはずなのにダメージ0。
闇の中にHPの流出現象は見られず、女王蜂は、一度出たら戻れないはずの闇の中へと戻っていった。
いつもとはちょっと感じの違う終わり方ですが、次話から突っ込みが復活予定。
蜂の巣を出ましたからねw
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー