691 ギルドマスターはデンデンとブンブン舞います
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「あの……俺、MPポーション一本も持ってないです」
当然と言えば当然よね。
だってトール君は剣士だもの。
うん、いつもならそれでもいい。
不要なアイテムでインベントリを圧迫したくないもんね。
わたしだって
だから普段は武器なんて持っていません。
大鎌は杖の改造だし。
ああいうのを魔改造っていうんだっけ?
………………
いけない、つい突っ込みを待ってしまう。
いま会話が出来るのは同じエリアにいる五人だけだってわかってるはずなのに、無意識って怖いわね。
気を遣ってトール君が 「俺、突っ込みましょうか?」 と言ってくれるけれど、キャラじゃないからね。
それに申し訳ないけど、いつものトール君のペースでの突っ込みは待っていられません。
突っ込みはサクッと入れないと。
鮮度と角度が重要です。
わたしのインベントリには時々屍鬼が入っているけれど、まぁそれはその、わたしの我が儘というか、なんというか。
でもあれはわたしのものではなくてクロウのもの。
本人の了承を得てわたしのインベントリに入れています。
そういう意味では、クロウのインベントリにはガッツリMPポーションが入っている。
おかげでわたしは助けられることがしばしば。
ついうっかり回復を忘れた時とかね。
ちなみにわたしやゆりこさんのインベントリには、MPポーションだけでなくHPポーションも入っている。
たぶんカニやんやの~りん、アキヒトさんのインベントリにも。
【ヒール】 を所持していてもダメージによっては回復が間に合わないこともあるし、そもそもゆりこさんを除いた他の魔法使いはみんな攻撃型魔法使い。
火力こそ正義……ではなくて、攻撃こそ最大の防御。
危ない危ない
思わず脳筋みたいな発想をしてしまった。
遠距離攻撃の銃士はとにかく射程が長すぎて無理だけど、機動力を持つ剣士なら、自身が落とされる前に魔法使いを間合いに捉えることが出来る。
そして剣士みたいに高いSTRやVITを持たない魔法使いは、近づかれれば落とされる。
だからその前に、戦闘三職の中では唯一範囲攻撃を持つという利点を活かし、残す味方のために少しでも敵を削る。
そのためには 【ヒール】 で回復している時間はない。
詠唱出来るギリギリまで、残るMPを使い切って敵を削る。
自身の回復は、可能であればポーションで……という時のためのHPポーション。
だからあまり数は持っていない。
だいたいは
ただわたしのインベントリには、日課のように毎日クロウから送られてくるから。
あれ、まだ続いてるからね。
ほんと、いい加減にして欲しいわ。
だから結構な数が入っているけれど、普通はあまり持っていないと思う。
そういう意味では、脳筋コンビもきっとMPポーションを持っていると思う。
いつもカニやんがそばにいるからね。
塩対応の恭平さんも、きっとアキヒトさんのために持っている。
でもトール君は、これまでずっと剣士ばかりの学生組で組んでいたからあまり考えなかったのかもしれない。
それにインベントリに格納出来るアイテム数には上限がある。
以前は持ち歩いていたけれど、使わないからと処分してしまった可能性もある。
でもこれからは美沙さんと組んでもらうことも考えているから……というのはまだ秘密だっけ。
危ない危ない
まぁMPポーションのことはあとで話してみるとして、問題は、いま、この時点で一本も持っていないということ。
ギルドメンバーに調合士がいるという利点が今回に限って油断につながるとか、思いもしなかった。
インカムがつながらなければ依頼することも出来ないからね。
おそらくこの蜂の巣はID扱い。
それだけでも隔離されているのにインカムまで切られるとか、どんな徹底ぶりよ?
本当に演出過剰な運営ね。
そりゃステータスポイントをINTに振らない剣士でも 【ファイアーボール】 は撃てる。
MPだって0ではない。
レベルごとに設定された基本パラメーターがあるからね。
ステータスポイントをINTに振らなくても、レベルが上がればそれなりにMPの最大値も上がる。
それでも低い!!
低いのよ。
そりゃ 【ファイアーボール】 一発に消費するMPなんてしれているけれど、その 【ファイアーボール】 すら数を撃てないってどんだけよっ?! ……という低さです。
特にトール君は、クロウやパパしゃんとはレベルが違う。
おそらくパパしゃんもクロウほど高くはないだろうけれど、トール君はそれより低いはず。
そのトール君がMPポーションを一本も持っていないというのは、この状況では結構致命的なのでは?!
撤退
ただ、今すぐにという状況にまでは追い込まれていない。
トール君のMPが切れるまで、ほんの少しだけの猶予がある。
わたしから何本か譲ってもいいけれど、融通出来る本数に限りがある上リスクが高い。
可能な限り燃費のいいスキルを選んで使用しても、わたしが一撃を撃つために消費するMPが半端ないからね。
それに、さっきも言ったけれどトール君のMP最大値が低すぎる。
どちらもMPポーションの消費が激しいことを考えれば、在庫を融通し合うのは危険すぎる……となると、やっぱり撤退が賢明だと思う。
猶予はあるけどね
じゃあその猶予を使って可能な限り情報を集めましょう。
次の遭遇につなげるためにね。
トール君はパパしゃんと一緒にゆりこさんのカバーに入って頂戴。
もちろん無理はしなくていい。
ゆりこさんも 【ファイアーボール】 くらいなら持っているし、ステータスの都合上パパしゃんより威力もある。
トール君には、火力を持たないはずの回復系魔法使いより剣士の火力が低いという逆転現象に違和感があるようだけど、今さらよ。
だって物理攻撃無効の敵が相手の場合、剣士はただの壁役にしかならないじゃない。
そんなことは今までに何度もあったと思うけど?
「それはそうですが……」
逆の場合……つまり魔法が無効だった場合、回復系魔法使いはともかく、攻撃型魔法使いなんてVITが低すぎて壁にすらならない。
逃げ回るしか出来ない時の悲しみとか虚しさとかを考えたら、壁役があるだけ全然いいと思うけど。
とりあえず何かしら成果を上げて戻らないとクロエがうるさいからね。
今の装備や所持品やれるところまでやってみましょう。
「はい」
群れを作って飛び回る働き蜂の動きを見ながらゆっくりと慎重に、ゆりこさんのそばに立ち位置を変えるトール君を見てわたしも詠唱を始める。
道を開けるわ、クロウ。
「起動……業火」
女王蜂とクロウのあいだに群れる働き蜂を、範囲魔法 【業火】 の焔で焼き払う。
最大火力の最大範囲で。
上手くいえば女王蜂もかすめるかと思ったけれど、まぁそんなに甘くはないわよね。
でもこちらからの先制には反応があった。
alert 蝶のように舞う女王蜂 / 種族・幻獣
………………
まぁいいわ、蝶と蜂は別物よと突っ込みたかったけれど無視してあげる。
最近はわたしの無視スキルも随分上達したでしょ? ……うん、突っ込みは入りません。
たぶんこの蜂の巣を出ないとインカムは通じないだろうから、ここは寂しさと物足りなさを堪えて頑張ります。
撤退のタイミングを見計らう必要もあるし。
ちょっと調子が狂いがちだけど、お仕事お仕事。
わたしが放った 【業火】 の焔。
その進路にあった、あるいは通りかかった働き蜂の群れが一斉に焔に包まれる。
もちろん他にも群れはあり、数が減れば新たな群れが作り出される。
だからその道が開いているのはほんのわずかな時間のこと。
抜き身の屍鬼を片手に、ようやくその姿の全てを現わした女王蜂の許に向かってその道を駆け抜けるクロウ。
速い
「起動……」
その道や周囲の空間を確保、及び支援のために次弾の準備をする。
でもそれは思わぬ形……というか、予想外のタイミングで発動することになる。
わたしが 【業火】 で開いた道を駆け抜けたクロウは、巨大女王蜂に向かって斬り掛かる。
うーん、ルゥとどっちが大きいかしら?
あれを抱っこねぇ……あ、わたしは断然モフ派だけど、世の中には昆虫派という人もいるだろうから否定しない。
否定はしないけど、結構な硬さがあると思う。
しかもそれだけじゃなかったの。
斬り掛かったクロウの屍鬼を、丸っとしたボディとは裏腹にほっそりした手で真剣白刃取りしちゃうとか……
小癪っ!!
しかも蜂の手というか、足?
どっちでも好いけど六本もあるのよ。
まずはそのうちの二本でガッツリ屍鬼の刃を掴み、さらにもう二本でガッツリキープ。
マズいと察したクロウが蹴りを繰り出そうとすれば、もう一対の手で来るかと思ったら、さらにその下にあるぶっとい針を突き出してきた。
ヤバイ!!
「焔獄」
女王蜂は 【幻獣】 だからノックバックしない。
【スパーク】 で弾くことはもちろん、【クロノスハンマー】 で動きを止めることも出来ないから直接攻撃を仕掛ける。
硬直時間のあいだに屍鬼を奪い返したクロウは、退くと見せかけて再度仕掛ける……けれど、狙った首は落ちなかった。
被ダメ0……ということは、あれね。
物理攻撃無効
大振りな大剣と違い、狙いを細かく定められる長刀・屍鬼。
お仕事の出来る上司様は器用で、女王蜂の、頭部と胴体の接続部分を狙って屍鬼を振りきったはずだった。
けれど耳障りな金属音が響いただけで視覚効果も全くなし。
つまり女王蜂は無傷。
それどころか剣戟にも似た音を響かせたと思ったら、刹那、クロウの長身が吹っ飛ばされる。
間違えた。
これはあれだ。
滅多に見ないけど……
物理攻撃反射
魔法攻撃反射はよく見るけれど、逆は珍しい……のではなくわたしが遭遇する機会に恵まれなかっただけかもしれない。
わたし自身魔法使いで、ほぼほぼ物理攻撃を使わないというか、使えないというか。
だから物理攻撃反射の敵に遭遇してもまず気づかない。
逆にほら、【素敵なお茶会】 には魔法攻撃を反射する常時発動スキル 【震える鏡】 の所持者がいるからね。
おかげで魔法攻撃の反射はとても身近で、いわゆるオウンゴールの危険さえある状態です。
「クロウ!」
援護攻撃のため、クロウと女王蜂を繋ぐ直線上にいなかったのが幸いし、気前よく吹っ飛んだクロウが、HPを流出させながらわたしのすぐ横を転がってゆく。
クロウには申し訳ないけど、ぶつかったらわたしも吹っ飛ぶもの。
被害倍増よ。
もちろんただ見送るだけでなく急いで回復しようとしたけれど、【ヒール】 の 「ヒ」 を口にしたところでゆりこさんに怒られる。
「それはわたしの仕事!」
「はいっ!」
ぴしゃりと怒られて背筋が伸びたわたしは、女王蜂の追撃や周囲を飛び回る働き蜂の群れを牽制するために詠唱する。
ほぼ同じタイミングでゆりこさんが、無詠唱の 「ヒール」 でクロウの回復を始める。
「起動……ウォータースライサー」
頭の片隅で、なんとなく風属性の 【スパイラルウィンド】 はマズいかなと思って。
しかも女王蜂ったら羽根を羽ばたかせる速度を上げ、追撃を狙って前進していたくせに、わたしが放った 【ウォータースライサー】 からスィーッと身をかわすように後方上空に下がる。
え? ひょっとして蝶のように舞うってこういうことっ?!
蜂のくせに蝶を気取るなんて、同じ虫偏でも全然違うじゃない! ……とか思ったけど、そういうことっ?
……ん? あれ?
ちょっと待って。
いま何か閃いたというか、ときめいたというか。
「グレイちゃん、トキメキはちょーっと違うわよ。
ヒール」
「ギルマス、クロウさんが吹っ飛ばされる姿にときめいたんですか?」
入らない突っ込みをわたしが寂しがるあまり、ゆりこさんばかりパパしゃんまでが突っ込んでくれました。
ありがとう。
でも違うから!!
しかも折角のトキメキ……じゃなくて、閃きを忘れちゃうじゃない!
返して、わたしのトキメキっ!!
最後まで閃きとトキメキを間違えたままのグレイ。
女王蜂に一矢報いることも出来ないまま次話は一時離脱です。
もちろんただでは離脱出来ませんけど・・・
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー