690 ギルドマスターはデンデンとブンブンします
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※サブタイトルがまたあれですが、いつものあれです(汗
そういえば掲示板情報にあったっけ。
女王蜂は一抱えほどの大きさがあったって。
ルゥと同じくらいの大きさみたいだけど、断然ルゥのほうが可愛い。
そもそも蜂なんて抱っこ出来ないし、したくもないし。
抱っこするには羽根も邪魔だし、あのビヨンと伸びた触覚も邪魔。
虫が好きな人にはいいかもしれないけれど、わたしは断然モフ派です。
………………
あら? いつもならここでカニやんの突っ込みが入りそうなのに、珍しく沈黙?
いつもなら絶対に 「俺も!」 とか言ってくるところじゃない。
それともまた誰かに見つかって交戦中?
……………………
ん? いやいやいや、カニやんが沈黙なら代わりに脳筋コンビが喋るのでは?
魔法使いが詠唱で忙しくても、脳筋は考えるまでもなく体が動くから口は暇よね?
三人とも忙しくてそれどころではなくなる事態もありうるけれど、その時は恭平さんのフォローが……入らないのはなぜ?
「……ひょっとして、インカム制限されてる?」
「そのようだな」
転送で一時的にインカムが切れるのは仕様だけれど、それはとっくに終わっている。
転送装置とも言えるカタツムリの殻を出ているしね。
それどころか女王蜂とご対面してるわよ。
大きな目とバッチリ合ってるわよ。
黒々とした大きな目とね。
「ねぇトール君、蜂って複眼?」
「え?」
ちょっとわたしの質問が唐突すぎたのか、トール君は目を白黒させて戸惑っている。
うん、だから蜂の目は複眼? それとも単眼?
いつもならカニやんか恭平さんが教えてくれるけれど、インカムが制限されているらしく通話出来ないから。
代わりに男の子なら詳しいかな? ……と思ってトール君に訊いてみた。
いや、まぁクロウやパパしゃんもいるけど、すっかり元男の子って感じじゃない。
現役の男の子のほうが詳しいかなと思ったけど……
「すいません。
俺、虫って興味なくて……」
それどころか好きじゃないらしい。
女の子に虫好きがいるように、男の子にも虫嫌いはいるものよね。
いつものように申し訳なさそうな顔をするトール君に代わり、パパしゃんが、少し思い出すように答えてくれる。
「確か、目が二つじゃないんです。
三つか四つか。
それで単眼と複眼を持ってると、なにかで読んだ記憶があります」
マジですか……
今わたしと合っている目は単眼か複眼か。
まぁどちらでもいいけれど、これ、先に目をそらしたほうが負け?
ほら、動物はともかく、昆虫には表情がないから結構怖いというか、気味が悪いというか。
目をそらしたら次の瞬間に襲いかかってくるとか、そういうパターン?
まだアラートは出ていないけれど、それこそ目をそらした瞬間にアラートが出てきて襲いかかってくるとか。
アラートが出ていないのはまだ距離があるからだと思うけど……と考えて、ある事実に気がつく。
だってほら、インカムが通じていないということは、わたしたちが蜂の巣に入ったことを他のメンバーは知らないということでは?
カニやんやクロエ、恭平さんは、インカムが通じていない時点でなにか気づいてるとは思うけど……
「あの三人が気づいているなら心配ないわよ。
他のメンバーにも説明してくれるでしょ」
女王蜂と合わせた目をそらせないままでいるわたしの耳に、ゆりこさんのクールな声が聞こえてくる。
こうして話しているあいだにも女王蜂は、飛び交う働き蜂の群れの向こう側にいるけれど、幾つもある働き蜂の群れは、わたしたちの近くを何度もかすめては飛び去ってゆく。
その群れの一つが……わざと? それとも偶然?
わからないけれどトール君の真横から猛進してくる。
でもそこは動ける剣士。
まぁトール君はちょっと動きも遠慮がちだけど、それでも剣士。
おまけに用心してそのままにしていた盾装備が役に立つ……と思ったけど、これ、どうなんだろう?
トール君を襲った状況を説明すると……する前に、今度はゆりこさんに向かって群れが襲いかかってくる。
こちらはすぐさまゆりこさんの前に回り込んだパパしゃんが、ご自慢の大盾で回避……出来るかと思ったけれど、やっぱり無理か。
以前にも同じようなシチュエーションがあった。
その時に群れをなしてプレイヤーを襲ったのはカラスとコウモリ。
ただ体当たりを食らわしてくるだけでなく、羽根で切り裂いてもくれて。
吸血鬼はともかく、あれだけの数のコウモリに血を吸われなかったのはせめてもの幸いだった。
貧血で倒れる
でも働き蜂は……どこから説明したらいい?
まずは小さいのよ。
コウモリやカラスに比べてずっと小さい。
【ナゴヤドーム】 周辺に出現する雑魚並みにVITも低く、魔法使いのゆりこさんでも両手で叩きつぶせるくらい弱い。
だから盾に衝突した衝撃で、それこそ一瞬にして電子分解するくらい脆い。
衝突の瞬間、トール君やパパしゃんの盾の表面が光って見えたくらいあっけなく消滅する。
けれど俊敏さと速度があって、盾に衝突して消滅する仲間をよそに、盾を避けるように群れが左右に分かれて回り込み、トール君やパパしゃんを攻撃する。
「屈んで!
ファイアーボール」
物凄い数の働き蜂に襲われるトール君を見てわたしが声を上げると、言われたトール君と同じタイミングでパパしゃんが反応。
わたしとほぼ同じタイミングでゆりこさんも 「ファイアーボール」 を放つ。
さすがゆりこさん、状況の理解と判断が早い。
もちろんトール君やパパしゃんの反射神経もね。
PKエリアだから直接トール君やパパしゃんに 【ファイアーボール】 をぶつけるわけにもいかず、そうなると当然避ける働き蜂もいる。
まるで粉塵爆発でもするように、ブワッと膨らむように 【ファイアーボール】 を回避出来た働き蜂たちは、改めてトール君たちを襲うかと思ったけれど、そのまま飛び立ち、飛びながら群れの形を取り直す。
そこに、周囲の六角形から羽化した若い働き蜂たちが飛んできて合流。
新たに群れを形成し直し、再び周囲を飛び交い始める。
そのあいだにゆりこさんが素早くウィンドウを操作し、インベントリから解毒ポーションを取り出す。
あれだけの数に襲われたトール君とパパしゃんは、その……水玉? その、ね、顔とか腕とかに、刺された痕が紫色の水玉模様になって残っている。
それをゆりこさんが解毒ポーションを投げつけて消す。
働き蜂の毒は通常ポーションで解毒出来るからね。
ヤバイ?
ひょっとしてだけど、これ、ヤバくない?
さっきのトール君とパパしゃんの様子を見ていて思ったんだけど、あの小さな蜂を剣で斬るのは難しい。
凄く難しい。
ベリンダが持つ短剣ならもう少し使い勝手も良さそうだけど、パパしゃんの、大盾に比重を置くためか、少し短めの片手剣ですらその速さに追いつけない。
わざわざ持ち替えたトール君の、普通の片手剣はいうまでもない。
しかも数が数だもの。
半端ない数で群れて飛ぶから……たぶん、あの状態で出口側のカタツムリの殻から出てくる。
運悪くその状態に襲われたのがポールさんたちのパーティね。
でもそれならどこかに出口が……と思って周囲を見回そうとしたら、すでに気づいていたらしいクロウが見つけたらしく 「グレイ」 と呼びながら顎で指し示す先で、丁度働き蜂の群れの一つが、周囲と同じ、六角形に埋められる壁に吸い込まれてゆく。
たぶんあそこだけは壁ではなく壁紙。
もちろん周囲と違和感はないけれど、群れの先頭が接触した瞬間に波紋が広がり、中に吸い込まれるように黒い集団が消えてゆく。
あそこが出口
一見にしてわからないよう表面を六角形の壁紙にしてあるとはいえ、中に幼虫がいそうな気がして突っ込むのを躊躇うわ。
でもそんなに幾つも出口があるとは思えないし、見渡す限りの六角形。
入ってきたはずの入り口さえも六角形にカモフラージュされていてわからなくなっているくらい六角形で、他に出口があったとしても六角形に突っ込むことに変わりない。
嫌だな……
蜂の子って美味しいの……と思ったけど、インカムを切られているため返事はありません。
まだ隔離されてからそんなに時間も経っていないはずだけど、すでにホームシックというか、あの腹の立つ突っ込みの数々が懐かしくなってきた。
寂しささえ感じてます。
だからといってあの六角形に突っ込んで脱出するのは最後の手段。
女王蜂と一太刀も交えず……というか、わたしはそもそも魔法使いで刀剣は持っていないし、よくよく考えたらアラートすら出ていないっていうね。
でもこのままなにもせず脱出したら、間違いなく突っ込んでもらえる。
そこに後ろ髪を引かれながらも、いつのまにか換装しているクロウを見る。
小さすぎる働き蜂を相手にするのに大剣は向かない。
トール君やパパしゃんを見るまでもなく換装したクロウは屍鬼に持ち替え、左手にラウンド型の盾を持つ。
身長190㎝越えのクロウには小さい盾だけど、そもそもが両手剣を扱う剣士で、パワープレイやスピードプレイを得意とする。
受け身に回るつもりが全くない攻撃型だから、大盾はともかく、普通の盾でも邪魔になるんだと思う。
ちなみに屍鬼は長刀で、分類はたぶん両手剣。
刀だけど。
両手剣のくせに盾が装備出来るのは、おそらく課金装備だから。
時々ね、全く条件がないわけではないけれど、課金装備にはそういう抜け穴のようなものがあるのよ。
不具合なのか、運営が意図したものかはわからないけれど。
だからひょっとしたら、この抜け穴みたいなものをくぐれるのがラウンド型の盾しかないのかもしれない。
ついでにいえばあのラウンド型の盾も、ひょっとしたら課金装備かもしれない。
「クロウ、ファイアーボールはある?」
「ある」
そう答えたクロウはわたしを押しのけるように、向かってくる働き蜂の群れを盾で払う。
やっぱり接触した衝撃で何匹もの働き蜂が一瞬で消滅し、盾の表面が光って見える。
ただ正面から受けたパパしゃんやトール君と違い、体の側面で、しかも盾を使って払うように群れをいなしたため、減らした数も少なかったけれど、二人のように、まともに群れに囲まれることはなかった。
「うまい!」
それを見たパパしゃんが上げる声に被せ、すかさず 「ファイアーボール」 を放つクロウ。
それまでの勢いを失い形を崩していた働き蜂の群れを、クロウの放った 【ファイアーボール】 が襲うけれど、その、クロウには申し訳ないけれど、さすがに剣士だからね。
ステータスポイントのほとんどをSTRに振っている。
そしてここは仮想現実で数字が全て。
現実世界なら、出来ないことはないのではないかと思えるほどお仕事の出来る上司様も、数字に支配された仮想現実に逆らうことは出来ず。
放った 【ファイアーボール】 にわたしやゆりこさんほどの威力はない。
群れの形を崩して広がっていたのもタイミングが悪く、生き残った群れの半分以上を焼き逃す。
手強い
状況的に、この働き蜂は無限湧き。
一つの群れが出ていくと新たな群れが出来、ずっとほぼ同じ数の群れが、女王蜂を中心に飛び交っている状態だと思う。
つまり働き蜂はいくら倒しても仕方がない。
それこそ働き蜂を倒せば倒すほど女王蜂が弱くなるならいい。
そういうゲームならガンガン溶かすわよ。
でも多分そうじゃない。
この働き蜂をいくら倒しても女王蜂はウンともスンとも言わないというか、痛くも痒くもない。
仕掛けるべきは女王蜂。
まだアラートも出ていないけれど、どうせ直接女王蜂に仕掛けたら出るんだし。
やるなら先手必勝! ……と思ったらゆりこさんの声に止められる。
「トール君、どうかした?」
「その……すいません」
いつものように、先に謝るトール君。
なにか不都合があったのかと思えば、【素敵なお茶会】 の利点が活かせないこの状況で、メリットがデメリットにひっくり返る事態が起こっていた。
トール君のインベントリ内でひっそりと。
もちろんハルさんは悪くない。
トール君も悪くはないけれど、ちょーっとうっかりだったかな。
「あの……俺、MPポーション一本も持ってないです」
油断大敵よ!!
いつもの三人組がいないためちょっと調子が狂っておりますが、グレイやトールのうっかりはいつもどおりですw
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー