689 ギルドマスターはデンデンで滑ります
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クロエの協力とパパしゃんの尊い犠牲で、わたしたちは猪突猛進してくる巨大カタツムリを成敗。
そのままクロエに撃ち落とされる前にカタツムリの中に入り、イベントエリア3から移動してきたのはイベントエリア0。
もちろんパパしゃんも一緒にね。
落ちてないわよ
盾剣士でも前に出ないパパしゃんはあまり目立った見せ場がない。
でもレベルは十分すぎるほど高いし、全然弱くもない。
むしろ強い。
おかげでゆりこさんが落ちることも滅多になかったくらい。
そのくらい強いパパしゃんが簡単に落ちることはなくて、一緒にイベントエリア0到着です。
エリア内は他と変わった様子はない……といっても、おそらく運営の意図で確率を操作され、入れるプレイヤーの数はまだ少ない。
たぶんね。
そんな詳細を運営が公表することはないからユーザーが正確に知ることは出来ないけれど、たぶん操作されている。
そのため、早速目前に迫ってきた巨大カタツムリ討伐の邪魔をされずに済んだ。
突然目の前にポップアップした一つ前の巨大カタツムリと違い、今度の巨大カタツムリは出現済み。
その足でのっそりモゾモゾと移動し、わたしたちの前に現われたというか、迫ってきたというか。
ノックバックしないのが 【幻獣】 とはいえ、VITの高いパパしゃんをも景気よく吹っ飛ばした巨大カタツムリ。
その勢いたるやわたしの中にあったカタツムリの認識を覆すほどだったのに、一転、イベントエリア0で遭遇した巨大カタツムリは、いかにもカタツムリらしい鈍重さでわたしたちに迫ってきた。
むしろ遅い
待ち構えているから余計に遅く感じた可能性はもちろんある。
十分すぎるほどあって、焦れたわたしは自分から近づこうとしてクロウに止められた。
実際その制止は正解で、先制するわたしの攻撃に対して目標を定めた巨大カタツムリはわずかにその歩速を早めた。
本当にわずかにね。
でも感覚として速めたことがわかる程度には速くなったことは確か。
もちろんアラートも出ます。
alert 梅雨空のカタツムリ / 種族・幻獣
当然のことだけどこの表示は変わりません。
去年の夏にあった海賊戦イベントでは、最終攻略対象だった船長が出現のたびに属性を変えてプレイヤーを手こずらせた。
でもどんなに属性が変わっても、出現のたびに出るアラートは全部同じだった。
だからもし巨大カタツムリにも異なる属性があったとしてもこのアラートは同じ。
移動速度が変わるのはカタツムリの個性というのが 【素敵なお茶会】 の認識だし。
両側を紫陽花の壁に囲まれたこの通路は、たとえ 【幻獣】 であっても変えることは出来ず真っ直ぐ進んでくるしかない。
わたしたちに向かって。
今回の巨大カタツムリの速度なら十分に逃げ切れたけれど、そもそもこのカタツムリは攻略対象。
さっきのエリアで思わず逃げてしまったのは、その接近速度があまりにも速すぎたからであり、ポップアップが突然で距離が近すぎたから。
しかもポップアップしたと思ったらすぐにプレイヤーを認識し、アラートを置き去りにして襲ってきたからね。
態勢を整えるために仕方なく後退したら足を止められなくなりました。
そこで活躍したのが盾剣士のパパしゃん。
イベントエリア0で遭遇した巨大カタツムリの足は速くなかったけれど、あの首を振っての攻撃は結構な迫力がある。
「起動……焔獄」
このメンバーでは一番射程の長い魔法使いの先制攻撃が位置を決める。
直後、ゆりこさんをトール君に任せたパパしゃんが、わたしの両翼からクロウとともに飛び出す。
もちろん狙いは、【焔獄】 の焔に包まれた巨大カタツムリ。
でもここはPKエリア。
いま突っ込めば、直撃であるカタツムリほどのダメージはないとはいえ巻き添えは必死。
どちらも高レベルの高VITとはいえ、無駄な装備の損耗は避けたい。
調合士という強力な後方支援がある 【素敵なお茶会】 は、落ちさえしなければ、HPであろうとMPであろうといくらでもポーションで回復出来る。
パーティメンバーには強力な回復系魔法使いもいるし。
けれど装備は、確かに 【素敵なお茶会】 にはりりか様という鍛治士もいるけれど、主力の装備を解除して予備と交換するのは心許ない。
さっきも少し話したけれど、どうやら今回のイベントはかなりの重火力ダンジョンみたいだし。
特に今のわたしたちは問題のイベントエリア0におり、現在進行形で対峙する巨大カタツムリのあとにもう一戦、それも連続で 【幻獣】 戦をすることになる可能性がある。
同じ 【幻獣】 戦とはいえ、未知の女王蜂に比べて巨大カタツムリとはすでに一戦交えてる。
なんとか余力を残して女王蜂戦に備えたい。
掲示板の情報でも、この巨大カタツムリ戦で無駄に消耗して女王蜂戦を戦えなかった実例が書かれていたしね。
単体魔法である 【焔獄】 は、攻撃対象である巨大カタツムリが、その高いVITで硬直を振り切った時点で効果を失う。
その瞬間に斬り込むクロウ。
でも脳筋コンビの話しにもあったとおり、カタツムリの体は粘液のようなものに覆われていて角度を合わせなければ斬撃は通らない。
それ自体にかなりのSTRを持つ大剣であっても。
だからその粘液が、カタツムリが持つ唯一の防御手段と言えるかもしれない。
違う
うん、だって言うじゃない?
攻撃は最大の防御って。
もちろん足はあっても手のないカタツムリ。
武器は持っていないけれど、そもそも高STRの高HP。
どちらも 【幻獣】 の特性だけど、HPはおいておくとして……いや、もちろん高HPも厄介だけど、その高STRを存分に活かして首を振ってくるのはやめて欲しい。
【焔獄】 の硬直を振り切った巨大カタツムリに対し、抜いた愛剣・砂鉄を大きく振りかぶったクロウは正面から斬り込む。
次の瞬間、盾などを持たない巨大カタツムリはそのまま砂鉄の直撃を食らう……と思ったら、わずかに後退してその間合いを外す。
カタツムリのくせにタイミングばっちりに身をかわすとか、なんか小癪!
しかも動きこそ遅いくせに、反応だけは速いってどんな矛盾っ?!
『戦闘能力の高さも 【幻獣】 の特性だから』
たまたま忙しいカニやんに代わり、恭平さんが指摘してくれる。
そういえばルゥも、小っちゃな体でも 【幻獣】 だけあって、とにかく戦闘能力が高いのよね。
つまりこの巨大カタツムリもそういうこと?
『そういうことだと思う』
なるほど
理屈は理解したけれど、目の前でそれを見せつけられると、許せないというか、納得出来ないというか。
しかもそうやってわずかに間合いを外すことで、表面の粘液が効果を発揮する。
斬り込みの浅さで刃が滑り、斬りつけた武器が大剣であるにもかかわらずダメージはごくわずか。
【幻獣】 が高HPの高STRなだけでなく高VITなのもわかっている。
だから元々対プレイヤー戦に比べてダメージが少ないのはわかっているけれど、本当に表面を掠った程度のダメージで、流出するHPもごくわずか。
サラッと
威嚇するように高々ともたげた頭を、そのまま真っ直ぐに振り下ろせば串刺しにされる。
そう思ったのか、大きくグルリンと回して横から薙ぐように振り下ろしてくる。
でもこれも速さと角度を合わせなければ、刃が表面を滑るだけでなく吹っ飛ばされる。
それを防ぐために登場するのがパパしゃん。
クロウと、横薙ぎに振り下ろしてくるカタツムリの首とのあいだに割り込むと、大盾でその太い首を受け止める。
大盾とカタツムリが接触した衝撃で、踏ん張っていたパパしゃんの両足が後ろへと滑る。
さすがにあの巨体の正面から体当たりを食らったさっきとは違い、今回は首で殴られたようなもの。
ちょっとどこの筋肉かわからないけど、【幻獣】 がノックバックしないのはもちろん、パパしゃんも派手に吹っ飛ばされることはなかった。
そして二人の力が拮抗してピタリと動きが止まった瞬間……
「一刀両断」
クロウの詠唱スキル 【一刀両断】 が巨大カタツムリの太い首を断つ。
こうして遭遇した巨大カタツムリも、豪腕剣士と鉄壁剣士のおかげで倒すことが出来た。
このあいだもゆりこさんは、前衛の二人がタイミングに失敗した場合、あるいは不測の事態に備え、トール君は周囲を哨戒。
そのトール君があることに気がついた。
本当はもっと前に気づいていたけれど、わたしたちが巨大カタツムリを倒すまで待っていたらしい。
確かにそれは特別急ぐ必要のないこと。
でもとても意味深な現象というか、演出というか。
「ちょっとグレイちゃん、いい?」
トール君から話を聞いたゆりこさんが呼びかけてくる。
本体を失い殻だけになった巨大カタツムリの、ぽっかりと空いた闇を前に現われたインフォメーションをクロウたちと見ていたわたしは 「なぁに」 と応えつつ振り返る。
ゆりこさんとトール君の二人は紫陽花の壁のすぐそばに立ってわたしを待っていた。
「トール君が気づいたんだけど、見て」
そう促されたのは、もちろんこの迷路を構成する紫陽花の壁。
どのエリアも同じだと思ってちゃんと見ていなかったのか、その違いに全く気づいていなかった。
違和感すら覚えていなかったけれど、ちゃんと見れば違いは歴然。
枯れてる
花はもちろん、葉も。
この事実を知って、反対側の壁を見てもやっぱり枯れていて、クロウに 「なにをしている」 と怒られながらも紫陽花の壁の上に身を乗り出して……吹っ飛ばされないよう、両足を地面から離さないように注意してね。
一つ隣の通路の、向こう側の紫陽花の壁を見てもやっぱり枯れている。
当然反対側もね。
これはひょっとして……
このエリア全部?
「どうしてこんな……」
「蜜を全部吸われた感じかしら?」
呆気にとられているトール君と違い冷静なゆりこさん。
つまり蜂の仕業?
うん、わたしも演出的にはゆりこさんに賛成かな。
ただ実際に、蜜を吸い尽くせるかはわからない。
切り花は枯れそうだけど、まだ根っこが付いているなら枯れることはないかな?
ついでに蜜が枯れたら花も枯れるかどうかもわからないけれど。
もしこれが蜂の仕業という演出でなければ、考えられるのは毒。
ええ、また毒です。
例えば 【酸性雨】 や 【毒霧】 が発生したあとはこうなる……はないか。
よくよく考えたら、この紫陽花は仕掛け付きの置物。
破壊不可だから、おそらく状態変化もしないはず。
たぶん大丈夫だと思うけれど、念のためHPやMPの残量を確認しておく。
もちろんゆりこさんやトール君にも声を掛ける。
少し離れたところにいる筋肉二人は別にいいけど。
だってMPは関係ないし、HPは最大値が違いすぎる。
わたしたちが落ちてから慌てたって間に合うくらい差があるはずだもの。
それに離れているといっても、制限のかかったエリアチャットでも十分声が聞こえる距離。
この話だって聞こえているから、わざわざわたしに声を掛けられなくても自分たちで確認しているはず。
クロウは言うまでもなく、パパしゃんもそのへんはしっかりしてるからね。
『そこはグレイさんがうっかりしすぎでしょ』
ようやく手すきになったらしいカニやんの声が聞こえてくるけれど、ここは無視してカタツムリの中に入ることにした。
そうして抜けたトンネルの向こうはガッツリ蜂の巣でした、と……
きーもーちーわーるーいー!!
もう、なんなのよここは!
集合体恐怖症ではないと思うけれど、さすがにこの景色は気持ち悪いというか鳥肌が立つ。
しかも視覚だけでなく、無数の羽音という聴覚からもおぞましさが襲って来るというコンボよ。
無数の働き蜂が群れをなし、黒い雲のようになって飛び交うのは巣の中央部分。
高さが……これ、どれくらいあるのかしら?
三階とか四階まで吹き抜けになった感じ?
とにかく結構な高さのある中央に空洞部分があり、幾つもの群れが縦横無尽に飛び交っている。
「ギルマス、あれ」
トール君と配置を戻したパパしゃんが、空洞部分の一画を指さす。
自在に飛び交う働き蜂の群れに阻まれてよく見えないけれど、中央あたりになにかいる。
ひょっとして噂に聞く女王蜂?
そう思いながら目を懲らしていると、偶然切れた群れの隙間から拳ほどの目が見えた。
げ、目が合った!!
そういえば今回のカタツムリの速度を書き忘れていた・・・というどうでもいいことを思い出してしまい、気がつくとほぼ一話が終わったはずのデンデン戦に戻っておりました。
次こそは女王蜂戦に入ります。
そして700話まであと10話となりました!! ←だからどうした?
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー