688 ギルドマスターはデンデンを数えます
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※大丈夫だとは思うのですが、虫が苦手な方はご注意ください。
『グレイさんたち、イベントエリア0にいます』
一瞬ハルさんがなにを言っているのかわからなかった。
わかった次の瞬間には、すでにトール君がウィンドウを開いて確認していた。
さすが反応が早い!
のぞいてみれば、確かにトール君の位置情報が 【イベントエリア0】 になっている。
例の女王蜂と遭遇したというプレイヤーが、女王蜂と遭遇したのがこのイベントエリア0。
それにしては、見渡すエリアの様子は他と変わらない。
確認をわたしやトール君に任せて周囲を警戒していたクロウやパパしゃんも、他のエリアと比べて特に変わっているようには見えないという。
もちろん視界には制限がかかっており、その点も変わらないと二人は言う。
落ち着こう
えっと、まずは制限時間。
このイベントでは、イベントエリアにいられる時間は最大三時間。
それを越えると強制的に退去させられ、入り直さなければならない。
これについては時間管理を任せたクロウからOKが出る。
午後からの探索を始めてまだ一時間も経っていないというから、確かに十分。
あとは情報ね。
公式サイトの掲示板によれば、ここで巨大カタツムリを倒して中に入ったら蜂の巣で、女王蜂がいた。
確かそんなことが書いてあったはず。
実装されているダンジョンの中では最強の重火力ダンジョン 【富士・火口】 と同じ、ダブル 【幻獣】 戦ね。
『トリプルじゃね?』
ん? カニやん?
どういうこと?
『イベントエリア0に入るためにも 【幻獣】 戦があんじゃん』
イベントエリア1~9から0に入るため、まず巨大カタツムリを一体叩く。
そしてこのイベントエリア0で蜂の巣に入るため、また巨大カタツムリを一体叩く。
運良く蜂の巣に入れたら女王蜂戦で、合計 【幻獣】 が三体。
しかもこの三体は運が最高潮にいい時、最短距離で蜂の巣を発見出来た場合。
巨大カタツムリを落とせば必ずイベントエリア0に辿り着けるわけではないからね。
下手をすれば何体もの巨大カタツムリを倒して、装備などの耐久をボロボロに削られた状態でようやくイベントエリア0に辿り着くかもしれない。
そのあとで女王蜂戦となると結構な地獄ね。
たぶん一般エリアから、直接イベントエリア0に転送されることはないと思うし。
つまりなに?
今回のイベントも迷路探索なんてお遊び感覚に見せかけて、実はガッツリ重火力イベントってこと?
しかも運が悪ければ、一体も 【幻獣】 に遭遇出来ないままエリアを強制退去させられてしまうという、0かガッツリの両極端。
場合によってはさっきクロエに全滅させられたパーティのように、プレイヤーに落とされる可能性もある。
これはハルさんの商売繁盛が予想されるイベントね。
装備だって、予備があるのなら鍛治士もガッツリ儲けられるわよ。
でも聞いた話では、一番儲けているのはやはり聖女らしいけど。
『単価がちゃうから』
『桁違いやんけ』
経験値を溶かすことはもちろん死亡回数にすら頓着しない脳筋コンビだけど、聖女にだけはお財布を悩まされているらしい。
この二人を悩ませるって、ほんとどんだけあの聖女はがめついのかしら。
クロウのお財布は謎だけど、この二人のお財布だって絶対スカンピンになることはないんだから。
そのくらい入っているはずなのに悩まされるって……。
『運営的には 【聖女の涙】 を売りたいんやろうけどな』
『そうは問屋が卸さんで』
【聖女の涙】 は、調合士が作る死亡状態回復アイテム 【復活の灰】 と同じ効果を持つ課金アイテム。
但し死亡制裁0です。
当然課金アイテムだから購入には現金を必要とする。
その点でもこの二人は国家資格所持のお医者さま。
余裕があるはずなのに……
『前も言うたと思うけど、親の病院で扱き使われとる薄給取りや』
『うちも看護師の定着率よすぎて俺が一番下っ端やからな』
高給取りという言葉はよく聞くけれど、薄給取りという言葉は初耳かもしれない。
なかなか斬新な響きに感じるのは、きっと同じ薄給取りだからね。
言われる前に言っておくと、薄給にもピンからキリまであるのは十分承知しております。
どっちがピンでどっちがキリかは言えないというか、言いたくないというか。
こんないつものように雑談をしながらエリア内を探索していると、不意にゆりこさんが両手を打ち鳴らした。
しかもそれが結構な勢いだったから、パーンという乾いた音が気前よく響く。
「どうしたのっ?」
みんなと雑談をしながら前を歩いていたわたしが振り返ると、ゆりこさんが、自分の顔の前で合掌中。
なにを拝んでいるのかと思ったら……
「蜂がいたの。
刺される前にお仕置きしてあげたわ」
そんなことをにっこりと笑って教えてくれる。
さすがゆりこさんね、一撃で的確に仕留めるなんて。
仮想現実とはいえ素手で蜂を潰すことを躊躇ったわたしとは大違い。
でもその両手を開く勇気はある?
違うとわかっていても、分解を始める前の蜂の死骸とかあったら嫌だな……と想像するだけでわたしはゾッとするけれど、ゆりこさんは違った。
「わたしはね、鼻をかんだあとのティッシュを開いて確かめたりしないの」
な、なるほど……
妙に説得力のある例えね。
こんな話をしているあいだにもゆりこさんの手の隙間から、電子分解をした蜂の残骸がさら~と流出。
ゆりこさんはなにもなかったように手を下ろし、再び歩き出す。
なに、このスマートな対応は。
ちょっと憧れます。
『グレイさんには無理だから』
「やってみないとわからないじゃない!」
『わかるから』
なんでよ~!!
「あの、蜂が飛んでるってことは、ここから他のエリアに飛んで行ってるってことですか?」
遠慮がちに尋ねてくるトール君。
ん~……それはちょっとわかりません。
えっと、このイベントエリア0から移動している可能性は十分にあるけれど、その、この迷路から……というのはちょっと違うかもしれない。
迷路内にいる蜂は、おそらく巨大カタツムリからつながる蜂の巣から出て来ているけれど、あくまで巨大カタツムリの出口側から。
入り口を開けようと思ったら 【幻獣】 を倒さなければならないからね。
働き蜂はSTRのないゆりこさんの素手で落とせるくらいだもの。
どう考えても魔法使いと同じ非力よ。
このエリアにも蜂がいるのは、おそらく巨大カタツムリの出入り口は同じエリアでもつながっているからだと思う。
『マジっすかっ?』
巨大カタツムリの転送を使っても、必ずしもエリアを移動するわけではないという可能性に、驚きの声を上げるのはJB。
それこそ可能性の話だから 「絶対にそれはない」 という確認が取れない限りは、確率は0にならない。
まぁその程度の話だと思ってくれていいわ。
どうせ深く考えたって仕方ないし。
『どうして仕方ないんですか?』
キンキーが素直に尋ねてくる。
「だって、結局カタツムリ叩きまくって転送されるしか0には行けないからね。
叩くしかないでしょ?」
『でも火力イベントなら俺、いないほうがいいですか?』
「それを考えての班分けだから大丈夫よ」
それでもキンキーは一度落ちているからね。
もちろんキンキー自身が下りるのなら下りてもいいけれど、気は使わなくても大丈夫。
キンキーは 『それならいいですけど……』 といいつつもまだ煮え切らない様子だったけれど、ごめんね、相手をしている余裕はちょっとなくなった。
歩いていた通路の前方、視認出来るギリギリの距離に巨大カタツムリが姿を現わしたから。
今ポップアップしたのではなく、おそらくずっと向こうから歩いてきた感じ。
というわけでキンキー、話の途中で悪いけれど対 【幻獣】 戦に入るからちょっと待ってね。
『頑張ってください!』
ありがとう!
でも二戦目だからね。
しかもわたしの班にはお仕事の出来る上司様がいるからね。
さらには邪魔をするプレイヤーが見当たらない……というか、このエリア、ひょっとしてわたしたちしかいない?
そう思えるくらい静かというか、閑散としているというか。
数字の世界でこういう感覚もおかしいとは思うけれど、なにか違和感がある。
この違和感の正体については、カニやんと恭平さんが 『確率だろ?』 と二人だけで通じ合っているような会話を始める。
もちろん意味はわかる。
いつものあれよね?
今回のイベントは週末の二日のみ開催で二週間にわたって行なわれる。
つまり合計四日もある。
それを初日でクリアされてはイベントとして盛り上がらない。
でも最終日になってもクリア出来ないと盛り下がるから、イベントの残り時間が減るにつれて確率が上がっていくといういつものあれ。
そして今日はイベント初日。
それはそれは辛い確率で、なかなかイベントエリア0には入れないように仕組まれているっていうね。
いつものあれよ
だから初日に入れたわたしたちはかなりラッキー。
巨大カタツムリにも遭遇出来て、豪腕剣士と鉄壁剣士のおかげで倒すことも出来た。
もちろんわたしやトール君だってちょっとはお手伝いしたわよ。
ちょっとだけね。
ここまでの道のりも遠かったけれど、このイベントの真骨頂はたぶんこの先。
さらにはついさっきわたし自身が予測したように、必ずしも蜂の巣に辿り着けるとは限らない。
下手をするとここでも 「いつものあれ」 かもしれないから。
『100%ではないやろうけど、せいぜい二分の一の確率くらいやろ』
『さすがにそこまで確率調整されたら厳しすぎる』
そう?
とりあえず入り口が開いたから入ってみるわ……と軽く考えたら甘かった。
イベントエリア0に転送された時と同じように、カタツムリの中は真っ暗。
そのため視覚ではどのタイミングで転送されたのかはっきりしない。
一時的にインカムが切れるからそのタイミングなのはわかるけれど、事前に知ることは難しい。
そしてどれほどの距離も歩かず見えてくる出口。
トンネルを抜けるような感覚で見えてくる外の明るさに、近づくにつれ聞こえてくる羽音。
これはもう間違いないと思う。
いる!!
なにがって?
もちろん蜂よ。
しかもポールさんたちを襲った群れよりももっと多くの蜂が。
物凄い羽音が、耳ではなく頭の中で響く。
でも一度入ってしまえば出られないのが巨大カタツムリの殻。
よくよく考えてみれば転送されているわけだから、そりゃ戻れないわよね。
もちろん逆転送があれば別だけど、このカタツムリの殻にその機能はない。
完全な一方通行で逆走不可。
だから進むしかなくて、闇を抜けたそこは事前にあった情報通りの蜂の巣。
それこそ無数にある六角形の穴には卵が産み付けられてあり、すでに孵化して幼虫が顔をのぞかせる穴もある。
そして中央の広い空洞部分を、幾つもの群れを作る働き蜂が飛び交っている。
……ぁ……
「グレイ?」
思わず出掛かった言葉を頑張って堪えるけれど、わずかに漏れた声に気づいたクロウが気遣うように声を掛けてくれる。
可能であるならば、ここはにっこり笑顔で 「大丈夫よ」 と返したかったけれど、無理。
でもなにか言わなきゃとうっかり口を開いたら本音が漏れた。
気持ち悪いーーーーっ!!
前書きにも書きましたけど、自分でもちょっと気持ち悪いです。
次話でもっと気持ち悪くなるかもしれないと思うと進まない。
あぁぁぁぁぁごめんなさぁ~い!!
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー