687 ギルドマスターはデンデンの闇をくぐります
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「焔獄」
対巨大カタツムリ戦を繰り広げるわたしたちの前……というか、紫陽花の壁の向こうから襲ってきた魔法使い。
最終的にはゆりこさんと被ダメと与ダメの我慢大会を繰り広げるか、わたしと詠唱速度で勝負するかという状況に陥り、そのまま落ちた。
ココちゃんが放った 【浸食】 が紫陽花の壁を越えたように、紫陽花の陰に隠れている相手でも魔法なら攻撃出来るから。
わたしが放った 【焔獄】 も、詠唱速度でわたしに負けてとっさに紫陽花の花影に隠れた魔法使いを溶かす。
「ヒール」
この声はわたしのうしろを、巨大カタツムリに 【シールドチャージ】 を仕掛けて吹っ飛んでいったパパしゃんを回復するゆりこさん。
その語尾に再び銃声が被り、巨大カタツムリの頭部からHPが流出する。
パパしゃんの迫力ある 【シールドチャージ】 で、ノックバックこそしないけれど足を止める巨大カタツムリに、クロエが狙撃で追い打ちを掛ける。
なにかスキルで足止めしないと、今度こそ轢かれるから。
次に動き出したらも逃げられないと思う、わたしは。
なんだかんだいってゆりこさんはきっと逃げられる。
「そうねぇ、それなりにこどもの運動会とかで走って来たから?」
そんなことを以前に言っていたもの。
わたしはこどもどころか結婚もしていないし、運動会で走ったのも何年前よ?
高三の運動会以来だから、えっと……七年くらい前?
待って
そういえばわたし、高三の運動会は走っていない気がする。
その、走らなくてもいい種目を選んだ気がするの。
足がね、その、お……恥ずかしい話だけど、その、ですね、遅いの、わたし。
だからクラスのみんなが、走らなくていい種目でいいよぉ~っていってくれて。
それで確か大縄跳びを飛んだ記憶が今蘇ってきました。
ついでにうちの高校は点数制の体育祭で、わたしのクラスがガチ勢揃いだったことも思い出しました。
体育会系
担任も保体担当の先生だったし、ガチの優勝狙い。
いま考えれば足の遅いわたしはお荷物だったのね。
ちょっと悲しい。
とりあえず再起動準備を考えたスキルローテーションを忘れないうちに巨大カタツムリを……と振り返りながら詠唱のために息を吸い込んだら、目の前でクロウが巨大カタツムリの胴……あそこは胴なの?
それとも首?
んー……ひょっとしてカタツムリの胴体って、あの殻の中に入ってるんじゃない?
だって確か、うろ覚えの記憶だけど、あの殻の中に内臓があるのよね?
だったらやっぱり胴体はあの中と考えるべきでは?
そうすると必然的に、殻から出ているのは首とか顔とか頭とか、あと足?
足はたぶん地面と接している部分だと思うから違うか。
じゃあやっぱり首から上になるんじゃない?
お仕事の出来る上司様はわたしより早くそのことに気がつき……ひょっとしたらわたしが攻めていた時には気づいていたかもしれない。
でも範囲攻撃の巻き添えになるから手を出せず、わたしのMP回復係兼哨戒をしていた可能性も高い。
しかも先にこの巨大カタツムリと接触していたカニやん班の二人によると、カタツムリの表面は粘液のようなものに覆われていて剣が滑るらしい。
そのため斬り込む角度も重要らしく、タイミングを計っていたのかもしれない。
おまけにわたしったら魔法攻撃は全方位なのに、うっかりすっかり忘れて振り返ってから攻撃するなんて時間の無駄遣いをしようとして。
その隙間を埋めるようにクロウが砂鉄で斬り込んだ。
「一刀両断」
わたしたちにとって幸いだったのは、さっきの魔法使いに仲間がいなかったこと。
正確には……というかクロエ情報によると、魔法使いに仲間はいた。
チャット機能に制限がかかっているため、いつもならエリアチャットで会話が出来る距離でも、このイベントエリアでは聞こえない。
同じく視覚にも制限がかかっているとはいえ、魔法使いたちのパーティがわたしたちを発見したということはこちらからもあの人たちが見えたはず。
それがクロエのこの科白につながる。
『トール君、君、なにしてるの?』
当然銃士であるクロエの距離でその会話は聞こえないけれど、話している様子から仲間割れが伺えたらしい。
紫陽花の壁があると、魔法使いか銃士にしか攻撃出来ないからね。
クロエが照準器からのぞき見たその様子は、残る剣士四人は攻撃に反対。
それでも強行する魔法使いを置いてどこかに行ってしまったらしい。
クロエはそのまま魔法使いを監視し、わたしたちに攻撃を仕掛けるタイミングで狙撃した。
気づいていたのなら教えてくれればよかったのに……
『どうしてして僕が?
それはトール君の役目だったでしょ』
『そこはトール君だし?』
『甘いよ、カニやん』
ま、そこはクロエだしね。
ちゃんと自分の仕事はするけれど、がっつり文句もいいます。
同じパーティにいるわたしたちとしては結果オーライにしたいところ。
おまけにクロウの 【一刀両断】 でケリも付いたし、全員無事だ……あ、念のため訊くけど、クロエ班の損害は?
『僕の銃弾』
りょ
ちょっとアキヒトさんを真似てみた。
だってクロエの銃弾って、銃士を落とせば終わるのに、撃たれた腹いせにパーティを殲滅したのはクロエの自由じゃない。
銃弾の浪費は自己責任です。
こっちのサポート分はわたしが補填するから、それでいいでしょ。
『どうして?』
ちょっと意味がわからない。
とりあえず転送装置の入り口が開いたからクロエたちも一緒に行く?
『それだけど……』
不意に割り込んでくるのはもちろんカニやん。
なんでしょうか?
『たぶん単身含めて一組しか入れないと思う』
『俺たちが入ったあと、追いかけてきた連中がなにか叫んでたんやけど』
『結局追って来んかったんや』
「それはつまり、追いかけてこられなかったということ?」
『たぶん』
『マイマイの口が閉じたみたいやで』
「マイマイってなに?」
『え? カタツムリのことマイマイって言えへん?』
ちょっと記憶にございません。
んー……でもクロエの支援も大きかったじゃない?
というかクロエの支援なしでは難しかったわけだし。
どうする?
『どうもこうもしないよ。
だってそこどこ?』
そうなのよねぇ。
ここは迷路だから、プレイヤーの任意で行きたいところに行けるわけではない。
むしろ行き着けません。
迷路ってそういうものよね。
MAPもないし、作れないように色々と細工もされているし。
さっきルゥは見事な鼻で……あれ、鼻? 鼻なの?
あの可愛いお鼻でカタツムリの匂いを嗅いで……ということはないと思うし、そもそもまぐれっぽい。
だって絶好調な残念AIだもの、参考になりません。
ということで簡単に目的地に辿り着けないから、クロエには悪いけどこのカタツムリはわたしたちで使わせてもらうわ。
ありがと
『どういたしまして』
『気をつけて』
『行ってらっしゃい』
マコト君やの~りんに言葉で送られ、わたしたちはカタツムリの中に入ってみる。
ぽっかりと口を開く虚ろな闇の中は、正直少し気持ち悪い。
だってカタツムリの中よ。
ここは仮想現実で全ては数字だと頭ではわかっている。
それでもやっぱりここに内臓が入っていたと思うとちょーっとね。
そのへんに破片というか、肉片みたいなものが落ちていそうで気持ちが悪い。
だってほら、ここの運営は演出過剰だから。
余計なところでいらない過剰演出がそここに施されている迷惑さを、これまでに何度も経験してきたからね。
だから用心はしていた。
でも結局真っ暗な闇でなにも見えず、例えなにかが残っていたとしても、踏むことなく気づかずに済んだ。
トンネルの出口が見えたところでも、もう一度用心をして外の様子を伺う。
一度外に出てしまえば戻れない。
それどころか退路を塞がれた状態での戦闘になりかねない。
ポールさんパーティみたいにね。
さすがにそれは避けたかったから、殻から出る前に外の様子を伺ってみる。
大丈夫
少なくとも殻の中から見える通路には誰もいない。
念のためトール君は盾装備のまま、パパしゃんと一緒にゆりこさんについて頂戴。
わたしとクロウが前を行くわ。
「わかりました」
でもね、こんなに用心したのに肩すかしを食らいました。
トンネルを抜けたそこには本当になにもなく、さっきまでと同じ紫陽花の迷路が広がっていただけ。
拍子抜けするくらいね。
だから殻を出たところで思わずボーゼンと立ち尽くしてしまった。
なんなの?
今回のイベントはいつもの運営らしくないというか……いや、ミスリードを幾つも用意してプレイヤーを嵌めようとしているところはいつもどおり。
ということは、ここもなにかある……ようには見えないのよね、どう見ても。
どんなに目を懲らしても。
いや、制限がかかっているからそれほど遠くまでは見えないけど。
とりあえずひどい脱力感というか、虚無感というか。
そんなもののおかげで、わたしはカタツムリの殻を出たところで棒立ちです。
「グレイ?」
「あ、うん」
クロウに背中を押されて進むけれど、やっぱりなにもないのよね。
全員がカタツムリの殻を出て数歩歩いたところで、ふと思い出したようにゆりこさんが足を止める。
「ちょっと待ってもらってもいい?」
「どうかした?」
振り返って問い掛けるわたしには答えないゆりこさんは、「ハルさん、ちょっといいかしら」 と呼びかける。
ゆりこさんの用がなんなのか、これでわかったようなものよね。
だからわたしはそれ以上追求せず、インカムの向こうから返ってくるハルさんの声を一緒に聞くことにする。
『どうしました?』
「HPポーションを購入したいんだけど」
『MPではなく、HPですか?』
「そう、HP」
ハルさんだけでなくわたしも意外に思った。
声にこそ出さなかったけれど、トール君も顔に出ている。
わたしも 【ヒール】 を持っているけれど、いざという時MP切れになると困る。
だから基本的にHPはポーションで回復する。
でもゆりこさんは回復系魔法使いだから、いざという時もなにもない。
だって火力を持っていないし、攻撃参加することもないんだから。
とにかく 【ヒール】 だから、HPポーションを使うことはほとんど無い。
それであまり在庫を持っていなかったけれど、さっきパパしゃんの回復を急ぐためにほとんど使ってしまったらしい。
あまりパパしゃんが主体になって攻撃を組むこともないしね。
そのこともあってハルさんの返事を待つゆりこさんは……
「もう少し持っておいたほうがいいみたいね」
などとつぶやきながらウィンドウを開き、自分のインベントリと相談している。
持てるアイテム数に限りが有るからね。
ハルさんの 『どのくらい持ってたんですか?』 という問い掛けにゆりこさんが答えようとした時、その声を遮るようにハルさんが 『あれ?』 という声を上げる。
どうかした?
『どうかした……かもしれません』
なにやら戸惑いがちなハルさんの声。
これは本当になにかあったかな? ……と思えば、ハルさんはとんでもないことに気づいていた。
『グレイさんたち、イベントエリア0にいます』
え? ここが0っ?!
そろそろ女王蜂の登場・・・ですが、簡単にはいかないのが本作ですw
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー