686 ギルドマスターはデンデンとおしくらまんじゅうをします
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「パパしゃん、頼める?」
「やってみます」
わたしの呼び掛けに、いつもは柔和なパパしゃんが表情を引き締める。
答えた次の瞬間には足を止めて巨大カタツムリを振り返り、背負っていた大盾を体の前面に構える。
そして足を踏ん張る。
この時、ゆりこさんのそばまで転がっていったトール君が、慌てて立ち上がりながら換装。
いつも使っている長めの片手剣を通常の長さの片手剣に変え、左手に盾を握る。
どうやら盾を装備するとあの長めの片手剣はバランスが悪いらしい。
「あの、俺がやります!」
「トールはゆりこに付け」
ここは配置換えよ、トール君。
クロウの指示にトール君は 「でも……」 と煮え切らない態度を見せていたけれど、ここはパパしゃんの出番なの。
見せ場をとらないでとかそういうことではなくスキルの問題。
確かに盾を構えればシールドチャージを出来るけれど、トール君はスキルとしての 【シールドチャージ】 を持っていないはず。
例えば 【一刀両断】 は、スキルを持っていれば大剣でなくても発動する。
でもスキル自体は大剣を所持している状態でなければ取得出来ず、今は大剣装備に条件があるため、ご新規のプレイヤーに所持者は少ない。
同じように 【シールドチャージ】 も一つのスキルであり、大盾装備でなければ取得出来ない上、大盾装備でなければ発動もしない。
持ってないわよね?
ただ盾で体当たりをしたくらいで 【幻獣】 の足を止められると思ったら大間違い。
しかも巨大カタツムリがノックバックしないことを前提に仕掛けるわけだから、【シールドチャージ】 を持っていても、ステータスをVITに寄せている盾剣士であっても無事には済まない。
間違いなく吹っ飛ばされるし、失うHPの量だって半端ない。
たぶんトール君だと……
落ちる
まぁそんなわけでトール君はパパしゃんと配置換え。
この時トール君はまた勘違いをしていて、あとでクロエに怒られるんだけどね。
うん、あとでね。
とりあえずわたしは、パパしゃんが足を止めたタイミングに合わせます。
「起動……」
だってパパしゃんと巨大カタツムリが接触してから詠唱していては間に合わないもの。
運営はルゥを含めた 【幻獣】 のステータスを一切公表していない。
それでもプレイヤーのスキルが 【幻獣】 を越えることはないからパパしゃんが吹っ飛ばされるのは確定で、どれほどの時間を足止め出来るかは不明。
たぶんそれほど長い時間じゃない。
そのわずかな時間を有効活用しないと意味がないからね。
案の定、次の瞬間には猛進を続けようとする巨大カタツムリと、それを留めようとするパパしゃんが衝突。
ちょっとビックリするような勢いで、わたしのすぐ横をパパしゃんが吹っ飛ばされていく。
「焔獄。
起動……」
「ヒール」
「パパさん」
ここからが色々とカオス。
とにかくカタツムリを硬直状態から解放させないため、わたしは詠唱に忙しい。
それに対してインカムの向こうからいつもの三人が……
『始まったな』
「業火。
起動……」
『インカム切ってやれよ』
『ん? なに?』
『グレイさんがカタツムリ焼き始めた』
『同じ魔法使いがいうなよ、カニ』
「スパイラルウィンド。
起動……」
『そういやエスカルゴって旨いんか?』
『さぁ、俺も食ったことねぇ』
『結局虫やし、俺、ザリガニとかカタツムリはちょっとなぁ』
『エスカルゴって言えや、田舎者』
「ウォータースライサー。
起動……」
さっき自分たちも対戦したじゃない。
そういう会話はその時にしてよ! ……といってもそんな余裕はなかったけど。
だって今、その余裕のなさを実感しているからね。
ちなみにクロウは、わたしが範囲魔法を織り交ぜて連発しているために手出し出来ず。
唯一範囲攻撃を持つ職種だからって単体魔法が少ないのも問題よね。
だから代わりに隣でMPの回復をしてくれています。
いつもお手数をお掛けします。
申し訳ございません
一方うしろでは、巨大カタツムリに吹っ飛ばされたパパしゃんを 【ヒール】 で回復するゆりこさんはいいとして、駆け付けてしまうトール君。
いやいやいや、配置換えっていったじゃん。
ゆりこさんのそばを離れちゃ駄目じゃん
そりゃちょっとくらいはいいけれど、うん、転がっていったパパしゃんを助け起こすのはいいかもしれない。
でもね、そもそもトール君は状況を理解していなかった。
自分がどんな重要な配置にいるかということに、ね。
だってわたしたち、この迷路の中で道の片側を巨大カタツムリに塞がれている状態。
つまり行き止まりにいるのよ。
うしろから他のパーティに襲撃されても、逃げ道がないどころか挟撃。
しかも一度始めてしまった以上わたしは詠唱の間を空けられないし、クロウは……回せます。
はい、誰か来たらそちらの対処に回ってもらいます。
そうね、誰か来た時はクロウにもそちらの対処に回ってもらうし、回復途中のパパしゃんももちろん迎撃に参加する。
でも違うのよ。
哨戒
トール君の一番の役目は、ゆりこさんのそばに張り付きつつ後方を哨戒すること。
当然退路の確保もだけど、紫陽花の壁一枚挟んだ向こう側も。
さすがに視覚制限が掛かっているため銃士の狙撃を察知するのはほぼ無理だけれど……いや、制限が掛かっていなくても距離的に銃士の狙撃を阻止するのは無理だけれど、紫陽花の壁一枚なら魔法使いは仕掛けられる。
それを事前に確認するのがトール君の役目……だったのに、周囲を全く気にすることなく転がってきたパパしゃんのそばに駆け付けた。
んー……
これはひょっとしてトール君は、パパしゃんがいつもただうしろでゆりこさんに張り付いているだけと思っていたのかしら。
いやいやいや、さらにうしろの状況とか、うしろから見た戦況の確認とか、結構重要な役目をしてるのよ。
ついでに言えばゆりこさんのサポートもしていて、回復が必要なメンバーを確認してくれたりもしている。
かなり緊張感のある忙しい立ち位置なんだけど、やっぱり気づいてなかったのね。
「起動……百花繚乱」
HPの流出から推測して、まだまだ巨大カタツムリは落ちない。
再起動準備を考えてスキルの順番を考えるわたしに余裕はない。
だからせめて巨大カタツムリを落とせる目処が立つまで待って欲しかったんだけど、そうは問屋が卸してくれません。
世の中はそういうものだってわかっているけれど、実際に紫陽花の壁の向こうからいきなりプレイヤーが姿を現わすのを見ると、この皮肉が恨めしくなる。
ココちゃんの再来を思わせるように姿を現わしたということは、たぶんここまで這ってきたのね。
しかも身を隠しているあいだに詠唱を終えていた……というか、逆ね。
詠唱を終えたタイミングで姿を現わしたというのが正解だと思う。
さらにさらに、かなり火力のある範囲魔法をぶっ放してきた……ということは、そこそこレベルの高い攻撃型魔法使い。
「百花繚乱」
愛用というほどではないけれど、わたしも所持する火焔属性の範囲魔法 【百花繚乱】 が放たれ、花びらを模した無数の焔が渦を巻きながらトール君たちに襲いかかる。
もちろん範囲魔法である以上トール君一人では済まされない。
近い位置にいたパパしゃんやゆりこさんもトール君とともに包まれ、その全身から大量のHPを流出させる。
これは……
わたしが最初に思った以上にレベルの高い攻撃型魔法使いだったらしい。
もちろんVITの高いパパしゃんのダメージはそれほどではない。
すでにゆりこさんのおかげでHPも回復していたし、ほぼ問題はない。
問題なのはトール君とゆりこさん。
「エリアヒール」
「起動…………」
HPの消費がちょっと多い 【範囲回復】 をすぐにゆりこさんが発動。
三人まとめて回復するけれど、相手プレイヤーはすでに次弾の詠唱を始めている。
VITの高さから、一番最初に 【百花繚乱】 による硬直から解放されるパパしゃんが、焔の中でゆりこさんを庇うように立ちはだかる。
範囲魔法が相手では意味がないけど。
でもそんなパパしゃんの努力を報いるように、相手プレイヤーの次弾発動を銃声が阻む。
『トール君、君、なにしてるの?』
銃声が聞こえるのとほぼ同時に、前につんのめるように倒れ込むプレイヤー。
その後頭部から流出HPに驚いてるトール君に呼びかける声。
また凄いタイミングでクロエが復活したわ。
しかもちょっと語気を強めた感じでトール君を責めている。
「え? あ、クロエさん、そっち終わったんですか?」
そんな呑気なトール君が 「お疲れ様です」 とクロエに労いの言葉を返そうとした矢先、再び銃声が轟き、紫陽花の壁の向こうに立つ魔法使いが後頭部を撃たれる。
「起動……」
『パパしゃん、シールドチャージ出来る?』
全く以て縁のないスキルなので再起動準備がどうなっているのかわからないけれど、クロエの問い掛けにパパしゃんは 「大丈夫です」 と力強く答える。
そして再び大楯を前面に構えて足を踏ん張った……と思ったら勢いよく巨大カタツムリに向かって突進。
その直前に再び銃声が轟いて巨大カタツムリが頭部を撃たれる。
「業火」
代わってわたしが 【業火】 を放ったのは紫陽花の向こう側。
銃士に狙われているとわかった魔法使いが、狙撃対策として再び身を屈めて紫陽花の陰に隠れて射線を切ったから。
しかもさっさと逃げればいいのに、隙をついて改めて仕掛けるつもりだったのか。
流出したHPが紫陽花の上にチラチラ見えているからまだそこにいるみたい。
「起動……」
「起動…………」
あら?
逃げられないと思ったのか、わたしの詠唱に一瞬遅れて向こうも詠唱を始める。
その狙いはわたしか、それともゆりこさんたちか。
別に逃げてもいいけれど 【業火】 を浴びて硬直中だっけ。
向こうが知っているかどうかはわからないけれど、わたしに魔法攻撃は効かない。
だから目標を変えるのはいいけれど、ゆりこさんは回復系魔法使い。
被ダメと与ダメの我慢大会に勝てるつもりでいるのかしら?
あ、でもその前にわたしとの詠唱速度勝負に勝たないと……
「焔獄」
My win!
ちょっと思ったように進まない回でした。
性悪クロエの名誉挽回と、実はパパしゃんは凄かったというお話・・・になっているでしょうか?
なってるといいな・・・と思いつつ、次話ではさらにイベントが進行します。
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー