683 ギルドマスターはデンデンと腹に棲みます
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「……踏み込みが甘かったか」
わたしの右手を切り落とした男性プレイヤーは、そう言って固定カタツムリの闇の中から姿を現わす。
元 【暴虐の徒】 のメンバーでランカーのポールさん。
形だけ残っている 【暴虐の徒】 の元メンバーから希望者を募り、新たに作ったギルドもまた剣士オンリー。
だからおそらく一緒にパーティを組んでいるメンバーも剣士のはず。
うん、ちゃんと剣は持ってるわ。
当たり前だけど、抜き身を手にね。
それらの情報を、当人を前にしたパパしゃんを先頭に脳筋コンビや恭平さんに教えてもらうあいだも、わたしの右手からはHPの流出が続く。
部位欠損だからね、そんな簡単には止まらない。
視界の隅に表示されるHPゲージを気にしながらも、ポールさんとのあいだに割って入るクロウに庇われる形で後退する。
しかもHPの流出量はダメージによって決まっているもの。
つまり手で押さえたところで止められるわけもない。
でもそれがわかっていても、ついついうっかり手で押さえてしまうお馬鹿なわたし。
気づいた瞬間の恥ずかしさをどうやって誤魔化すかを悩んでいます。
『誤魔化さんでええんちゃう?』
『てか腕、復活させぇや』
『HPの回復も忘れんなや』
う、うん、わかってます。
わかってるからちょっと待って。
わたしとしてもすぐにでも回復したい。
たまたま左手に持ち替えていたから杖を落とさずに済んだけれど、やっぱり利き手が使えないと不自由というか、バランスが悪い。
一瞬は庇ってしまったけれど、ここが仮想現実で、欠損部を激しく振ったところでHPの流出量が変わらないことを思い出してブンブン振ります……が、バランスが悪いのよね。
しかも目の前では、わたしを庇ってあいだに割って入ったクロウが、力強く踏み込んでくるポールさんと剣を斬り結んでいる。
この状況で半端なくMPを消費する 【リカバー】 を使うのは難しい。
さらにはギリギリと、クロウと剣を斬り結んだままのポールさんが 「離れろ!」 と自分のパーティメンバーに指示を出すと、その背後から出たメンバーたちがクロウを取り囲もうとする。
それを見てパパしゃんが珍しく大きな声を出す。
「トール、カバー!」
クロウの背後に回らせるわけにはいかないからね。
でもパパしゃん自身はゆりこさんのそばを離れられない。
それこそパパしゃんがゆりこさんのそばを離れたら間違いなくゆりこさんが狙われる。
一応火力はあるけれど、そこそこレベルの剣士を一撃で落とせるほどの威力は無いからね。
ポールさんたちと遭遇した時の立ち位置で剣を抜いていたトール君は、少し慌て気味に 「はい!」 と返事をしてクロウの左翼につこうとして、男性プレイヤーと剣を斬り結ぶ。
右手側はわたしがフォローします。
「スパーク」
美沙さんのように上手くはいかないものね。
一応狙ってみたけれど、わたしの 【スパーク】 で弾かれた男性プレイヤーは吹っ飛ばされつつも、こう……自分で方向を調整した感じ。
吹っ飛ばされる直前にアバターの重心を変えるなどしたらしく、思ったほうには吹っ飛んでくれない。
そうか、剣士だとそういうことも出来るのね。
今までもみんな、そういうことしてたのかしら?
おかげで狙いが外れ、男性プレイヤーは紫陽花にダイブしてくれず。
数を減らしたかったのに、残念でした。
ちなみにポールさんが 「離れろ!」 と指示を出したのは、もちろん固定されたカタツムリの殻から。
まだあの殻の絡繰りははっきりしないけれど、でも出口なのよ。
だから出てくるの。
ポールさんたちもあそこから出て来たけれど、おそらく自分たち以外のパーティまでがあの殻から出てくることを警戒しているんだと思う。
挟撃に遭ってしまうからね。
一回、あるいは一組しか転送されないという検証結果もない。
それで殻から離れることを急いでいるんだと思う。
状況的にわたしたちが進路を塞いでいる形になっているし。
狙ってないけど
そっか、そういえばそうなのよね。
入り口はおそらく動いているカタツムリ。
でもあれ、中身が入っている状態だから出口にはならない。
それこそ中からカタツムリを叩かないと出られないじゃない。
出来るかどうかというのもだけど、そもそも 【幻獣】 だから簡単にはいかないと思う。
動いているカタツムリと固定している殻だけのカタツムリが同じ数とは限らないし、出口と入り口が固定されていない可能性もある。
ランダム
そう考えると他のプレイヤーも転送されてくる可能性は十分にあって、ポールさんが警戒するのも当然のこと。
しかも 「離れろ!」 だけで指示が通じるということは、あらかじめメンバーと打ち合わせていたと思われる。
まさか出口に他のパーティが待ち伏せているとは思っていなかっただろうから、ポールさんたちもわたしたちを見て慌てたでしょうね。
もちろんわたしたちだってわざわざ待ち伏せていたわけじゃない。
天気 【濃霧】 から抜け出したかっただけ。
でもすっかり晴れ……てはいない相変わらずの曇天だけど、【濃霧】 自体はすっかり晴れて跡形もない。
視界明瞭よ
おかげで、ポールさんが危惧していた後続もはっきり見えた。
うん、本当に出て来たのよ。
でもそれはプレイヤーではなかったっていうね。
状況的に数の優位をとられているわたしたち。
さすがのクロウも分が悪い。
ランカーのポールさんはともかく、残る四人を一人でも落とせればと思って……
「起動……」
でもそれはわたしが詠唱を終えるより早く姿を現わした。
詠唱を始めるのとほぼ同時に聞こえてきたブ~ン……という音。
それは幾つもの羽音が重なってシンクロし、増幅されたように大きく響く。
どこから聞こえてくるのかと思えば、固定されたカタツムリの殻。
そのぽっかりと開いた口の中に広がる闇から抜け出るように、不自然に形を変えながら黒い固まりが姿を現わす。
げっ!!
「うわっ?!」」
思わず 「げっ!!」 なんて下品な声を出してしまったことは、聞かなかったことにしてスルー願います。
でもまぁ立ち位置の都合上、殻に背を向けていたポールさんたちより一瞬早く気づいたわたしたち。
もちろん音には同じタイミングで気づいたけれど。
わたしたちの視線や驚きの声で振り返り、ようやく気づいたポールさんたちも口々に驚きの声を上げる。
「うわー!」
「なんだよ、これ?」
「は、蠅?」
「いや、蜂だ!」
そう、蜂の大群が出て来たの。
たぶん十匹とか二十匹ではないと思う。
もっと沢山の蜂が一つの群れをなし、ぶ~ん……と耳障りな音を立てながら、殻に一番近いところにいた男性プレイヤーに襲いかかる。
「いてっ! いっ……」
「大丈夫か、おい!」
背後でのパニックに、クロウと斬り結びながらも焦りを隠せないポールさん。
その鼻先を、群れから離れた一匹の蜂がかすめて飛ぶ。
反射的に手で払おうとする隙をつき、砂鉄を大きく横に薙ぐクロウ。
でもポールさんだってランカー。
そのまま首なり胴なりを両断にされることはなかったけれど、体勢が悪く、ギリギリで砂鉄に打ち当てた剣を吹っ飛ばされる。
思わずその軌跡を辿るわたし。
いや、ちょっと気になることがあって見てたんだけど、やっぱり銃弾同様武器も紫陽花を越えられるらしい。
今後は紫陽花の壁越しに遭遇したのが剣士でも、紫陽花の壁を越えられないからと安心するのは止めます。
下手をしたら剣が飛んでくるかもしれないからね。
とりあえずすでに詠唱を終えているので、予定どおりに行動しましょう。
「業火」
蜂ごとポールさんたち五人を 【業火】 の焔に包んでみるけれど、最初の予想通りポールさんは落ちない。
うん、大丈夫、予想通りです。
でも一人は完全に落ち、焔の中でアバターが電子分解を始めている。
他の三人もかなりのHPを流出させている上、硬直時間から推測してそれほどレベルは高くない……とは言っても 【業火】 一撃で落ちないのだから、トール君とはレベチ。
おそらく脳筋コンビや恭平さん、JBレベルだと思う。
あっさりと 【業火】 の焔から抜け出し、急いで予備の武器を装備すべくウィンドウを開こうとするポールさんはクロウに任せ、わたしは残る三人を仕留めます。
出来たら蜂も……と欲張ったけれど、一掃とはいかなかった。
それどころかクロウとトール君が刺された。
い……痛そう……
蜂取り名人のルゥを呼ぶまでもなく始末して、見れば二人とも、刺された場所が直径3~5㎝くらいの大きさで紫色に変色している。
しかも案の定というか、被毒状態でHPが減少しているらしい。
継続ダメージね。
急いで解毒しないと……と思ったらインカムの向こうからカニやんに言われる。
『トール君はともかく、クロウさんは大丈夫だと思うから先に自分を回復したら?』
あ……
継続ダメージとはいえ痛みは斬られた時だけ。
おまけに思わぬ場所から登場した蜂に驚いてすっかり失念していたけれど、わたし、右手を欠損していたんだっけ。
しかもようやくのことで思い出したのに、利き手であり、おまけに左手に杖を持っていたこともあり、ないと確認しながらも右手でウィンドウを開こうとして失敗するっていうね。
お恥ずかしい
MP残量もギリギリ足りるから、先に欠損回復をしたほうが良さそうね。
ゆりこさんにはトール君を任せ、クロウは自分で解毒だけを済ませた。
ランカーを相手に無傷では済まなかったけれど、今すぐ回復しなければならないほど削られてはいないらしい。
「あとで回復する」
なんてやせ我慢……ではないか。
そこはもうお仕事の出来る上司様だからね。
HPの回復と残量の管理は完璧らしく、先にポーションを使ってわたしのHPを回復し始める。
パパしゃんと一緒に周囲を哨戒しながらね。
これを言うのは久々だけど、わたし、HPポーションを消費したいのよね。
理由はクロウが一番よくわかってると思うけど。
「起動……リカバー」
【避雷針】 や 【リカーム】 並みにごっそりとMPを消費する欠損回復スキル 【リカバー】 を使うと、久々にMPの残量が一桁になった。
今さらながら、あのタイミングで欠損回復をしなくてよかったと思う。
とりあえずクロウのおかげでHPは警戒領域まで回復してるし、わたしはMPを回復しようかしら。
もちろん移動しながらね。
ここに居続けると逃げ場がなくなるし。
「あの、グレイさん……」
いつものように申し訳なさそうに……というより、なにか恐ろしいモノでも見た。
あるいは恐ろしいことに気づいてしまったかのように切り出してくるトール君。
なんとなくいいたいことはわかる。
たぶん蜂のことよね?
「はい。
あの蜂、その……ひょっとしてですけど、カタツムリの中に巣くっている、とか……?」
確かに、想像するのもおぞましい。
それこそ生きたカタツムリのお腹の中に……と想像しそうになって慌てて打ち消す。
それは想像する前に思考を打ち切ったはずなのに鳥肌が立つほどのおぞましい予想だったから。
いわゆる寄生よね?
見合わせた顔を強ばらせるわたしとトール君に、この様子こそ見えないけれど、会話で状況を察したと思われるカニやんがインカムの向こうから割り込んでくる。
『たぶん違うと思う』
「どう違うのよ?」
『去年の夏、覚えてる?』
去年の夏?
えーっと、蝉とり?
それとも海賊退治?
確か去年の夏はその二本立てだったはず。
『海賊退治』
もちろん覚えてます。
だって人生初のビキニを着せられたもの。
忘れたくても忘れられません。
『浜辺にあった貝のことは覚えてる?』
貝……?
サブタイトルですが、デンデンの・・・にするとあれなんで、デンデンととしました。
そろそろネタが揃ってきたので、本格的に攻略を開始しようと思います。
浜辺の貝、覚えてますか?
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー