682 ギルドマスターはデンデンに包まれて間違えます
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後書きに新たな班分けを置いておきます。
参考にご利用ください。
午後からのわたしの班にはパパしゃんとゆりこさんが入り、トール君と美沙さんがトレードされて五人編成に。
トール君と美沙さんには申し訳ないけれど、ロミオとジュリエットというか、織り姫と彦星というか。
今回のイベントでは離ればなれになる運命のようです。
もちろん悪気はないのよ、カニやんにも恭平さんにも……というのも、例によって今回の再編も二人がちゃちゃっと決めました。
主催者の立場なんてまるでないのもいつもどおりです。
泣く……
『だいじょーぶでーす!
篠崎とはさっき二人きりで遊べたしー』
「ちょ、塚原、おま……」
無意識?
それともあざとく狙ってみんなに主張してる?
あえて……いや、これも無意識の可能性もあるけれど、それでも 『二人きり』 なんて言葉を使う美沙さんに、トール君は顔を真っ赤にしてしどろもどろ。
でも二人がアオハルなのはギルド公認なのに今さらっぽくない?
しかも 『二人きり』 とはいえただ 【紫陽花の迷路】 を探索していたことも、ノギさんと遭遇するという不運に見舞われたこともみんな知っている。
そのノギさんのせいで折角の 『二人きり』 もすぐに終了してしまったのに、そこは気にならないらしい美沙さんは元気いっぱいに、大きな声で溜まりかけたわたしの涙を吹っ飛ばしてくれる。
おかげで涙は止まったけれど、赤くなるトール君を見たら、なぜかわたしまで顔が熱くなってきた。
ヤバイ……
ま、まぁまた機会があったら二人で潜って頂戴。
それこそイベント限定にする必要もないわけだし。
スキル取得とかだと職種が違うから難しいこともあるけれど、普通にレベル上げとか通貨を稼ぐためなら全然平気だしね。
なんならエピソードクエストを進めてくれてもいいしね。
あ、もちろん火力でも盾でも、必要ならいくらでも使っていいからね。
『使うって……せめて人扱いしてくれない?』
『その時は遠慮なくー』
カニやんの嘆きも、美沙さんは元気な声を被せて抹殺。
さすが怖いものなしのJKです。
猪突猛進が止まりません。
でも怖いものなしのわりに戦い方は堅実で、盾の使い方がとても上手い。
時々タイミングを間違えて誤爆することもあるけれど、その程度のことはわたしも未だにしてるから問題ない。
『問題大ありだから!』
『なんでなしになんねんっ?』
『勝手になくすなや!』
……わたし、どうして怒られてるのかしら?
しかもカニやんなんて壁にならないくせに……と思っていたら 『お前は黙っとれ』 とか 『お前もやっとるやろ』 などと怒られていたけど。
当然
火力が余っているからってはしゃぎすぎないでね。
このあともみんなでイベントエリア 【紫陽花の迷路】 を探索していると、その最中、マメから面白い話がもたらされた。
もちろんネタは公式サイトの掲示板。
誰かが新しいスレッドを立ち上げ、お天気に関する情報を集めたらしい。
たぶんこういう人が攻略wikiとか作っているんだろうな……とか思いながらマメの話を聞いてみると、雨に降られた、あるいは霧に包まれたプレイヤーに、そのエリアナンバーと時間を書き込むというスレッドで、集まった情報を総合してみると、やっぱり全エリアで一斉に天気が起こるわけではない。
でも事象自体は一斉に起こる。
つまり雨は、雲の湧いたエリアで一斉に降り出す。
同じタイミングで霧も一斉に発生する、そういうことらしい。
【酸性雨】 にしても 【集中豪雨】 にしても、雨については上空に曇が出るからわかる。
それこそ降る前からね。
でも霧の発生については役に立つかな……と思ったら、ちょーっと問題がありました。
うん、まぁ発生するタイミングはわかる。
だから用心するけれど、黒い 【毒霧】 はともかく、【濃霧】 は気がつくと包まれていた感じになってしまう。
しかもアラートが出るタイミングがそれぞれで違うらしく、【濃霧】 はほぼ視界を塞がれた状態になってから出るという不親切さ。
alert 濃霧警報 / 属性・天気
警報なの?
注意報……は、発生するかもしれないから注意してね、か。
すでに発生しているから警報なのはわかったけれど、視覚にモヤのようなものを感じて 「ひょっとして……」 と思ったらもう霧の中。
速攻に遭った感じ。
アラートが出るのと、濃霧に気づくのと、アバターの外側からHPがふわ~っと流出を始めるのがほぼ同時。
実際は違うんだろうけれど、体感としてはそう感じた。
周囲を警戒しながら 「ギルマス」 と声を掛けてくるパパしゃんの語尾に、トール君の焦った声が重なる。
「グレイさん、ここから出ないと……」
そうね
文句を言うのは後回しにして、とりあえず 【濃霧】 を出ましょう。
ちなみにルゥは、転送前にまたカタツムリを美味しくバックンしてしまうというおいたをし、ゆりこさんに叱られたので格納しました。
もちろん叱られたのはルゥです。
いや、まぁその、悪いことを……というほどではないけれど、イタズラをしたのはルゥだからね。
でもルゥ自身にそんなつもりはなくて、ゆりこさんのお説教も上の空でカイカイしてました。
相変わらず残念なAI搭載です。
飼い主としましては、いつルゥがゆりこさんをバックンするか気が気ではなかったけれど、基本的にゆりこさんは手を出さない。
おかげでバックンは回避出来ました。
生きた心地が……
おかげでこの 【濃霧】 の中でもルゥを迷子にさせずに済んだのは怪我の功名とでも言うべきか。
逆に言えば、いない時に限ってちゃんとルゥのことを気に掛けているという皮肉でもある。
世の中ってそんなものよね。
特にわたしみたいなうっかりは。
そんなわけで視界の悪い中、わたしたちは足下を気にすることなく走り出す。
ただ、一寸先は闇ならぬ霧状態。
あまりに視界が悪く、どちらに向かうのが正解だったのかわからなかった。
たぶん元々の進行方向に、誰ともなく走り出していたんだと思う。
しかもこの 【濃霧】 の中にいると、どんどんHPの流出量が増えていく。
えーっと、誰か 【属性・天気】 の中では 【濃霧】 が一番ダメージが低いって言ってなかったっけ?
『言ってねぇよ。
起動……』
カニやん班はよそのパーティと遭遇して大絶賛対人戦中。
忙しいのならわざわざ返事なんてしなくてもいいのに。
とりあえずキンキーのことはよろしく。
わたしたちはトール君ね。
ある程度HPを失ってもクロウとパパしゃんは問題ない。
二人とも高レベルの剣士で、しかもパパしゃんはステータスをVITに寄せた盾剣士。
わたしとゆりこさんは自分で回復スキルを持っている。
ほら、やっぱりトール君だけが問題です。
育成も進んでそれなりにレベルも上がっているけれど、他のメンバーがメンバーだし。
『トール君、ポストにHPポーション送っておくよ』
機転を利かせたハルさんが、ギルドルームの隣にある作業部屋からトール君に声を掛けてくる。
いつもどおりポーション代金の精算はあとで。
不要分を今日の夜、ハルさんがログアウトするまでに送り返しておくと、送信記録と受信記録を元に精算。
翌日にハルさんから請求書が届くことになっている。
インベントリに余裕のないトール君は、あまりポーションを準備していなかったらしく、走りながら 「ありがとうございます」 と。
礼儀正しいのは全然変わりません。
しかもこのハルさんの気遣いは、この直後さらに功を奏することになる。
なにがあったかといえば……
行き止まり
う、うんまぁ迷路だしね、ここは。
そこら中に行き止まりはある。
あるとわかっているけれど、このタイミングで行き止まりにはまるのはどんな不運?
しかもただの行き止まりではなく、例の固定されたカタツムリに行く手を塞がれました。
ド畜生!
「ねぇグレイちゃん、これ、本当にこちらからは入れないの?」
一応ゆりこさんとパパしゃんには、前もってイベントエリアのすでにわかっていることは説明してある。
もちろんこの固定されたカタツムリと、動いているカタツムリがつながっていることもね。
ついでに動いているカタツムリが入り口で、固定されているカタツムリが出口であることも。
でもその目で見たわけでもないからね。
ひょっとしたら入れるんじゃない? ……と考えてしまうのも無理はない。
わたしも一瞬 「ひょっとしたら……」 と思ってしまい、それこそ午前中に実際確かめてるのに、それでもついうっかり 「ひょっとしたら……」 なんて思ってしまい、固定されたカタツムリのぽっかりと空いた闇に手を伸ばしてみる。
うん、無理
指先は、特に冷たくも温かくもない固いなにかに当たり、まるでパントマイムでもしているように見えない壁を撫でる。
闇の壁とでも表現したらいいのかしら?
それを見てゆりこさんも 「あら、残念」 と首をすくめながらトール君に 【ヒール】 を掛ける。
トール君も心配だけど、ゆりこさん自身の回復もしてね。
もちろんいざという時は一目散に紫陽花の壁にダイブしてください。
この状況は継続探索の必要がないからすぐ回収に向かいます。
でもこの時一番うっかりしていたのはわたしだった。
そのことにわたし自身が気づいたのはこの直後。
「お覚悟!」
不意に闇の中から声が聞こえた……と思ったらその刹那、銀色の閃光がわたしの鼻先をかすめて宙に弧を描く。
続いて見えない壁に触れていたわたしの右手が手首のあたりで切断され、一瞬にして大量のHPが噴水のように流出する。
いったぁ~い!!
うっかりしていたけれど、この固定されたカタツムリは出口。
その入り口がどこにあるかはわからず、いつ誰が出て来てもおかしくはないという事実をすっかり忘れていたっていうね。
油断した!
「下がれ!」
杖を持った左手で、しても無駄だとわかっていながらも無意識のうちに右腕を庇うように抱え込むわたしは慌てて闇から離れる。
同じタイミングで声を上げるクロウがわたしと闇のあいだに立ちはだかり、切り返された、闇から抜け出る銀色の刃と大剣を打ち合わせて剣戟を響かせる。
片手剣と両手剣を刃だけで見分けるのは少し難しいけれど、大剣とその二種類の剣では明らかに刃の身幅が違う。
分が悪いと察したのか、その刀身が闇の中にすーっと引き下がるのを見て、わたしもクロウに押されるようにさらに下がる。
もしカタツムリの中に銃士や魔法使いがいれば、引いた剣士に代わって仕掛けてくるはず。
でもこの時点で攻撃がないということは、どこかのエリアから二つの殻を使って移動してきたパーティにその二職はいない。
あるいは油断させて隙を衝くつもりなのか。
少しずつ晴れて行く霧の中、対峙するパーティも慎重に、ゆっくりと殻の中から姿を現わす。
「……踏み込みが甘かったか」
背に他のメンバーを庇うように姿を見せた剣士が呟く。
つまりわたしの腕を斬り落としたプレイヤーね。
柴さんたちに聞いた話によると、殻の中から外の様子は見えるけれど、あまりに深い闇は距離感が掴めないらしい。
おそらくこのプレイヤーもわたしの首を刎ねるつもりで踏み込んだ。
でも距離感を間違え、刃は手首を切り落としたものの切っ先は鼻先をかすめて空を切った。
ご愁傷様
そしてこのパーティは剣士だけで構成され、魔法使いはもちろん銃士もいない。
その理由はパパしゃんたちが教えてくれる。
「……見覚えがあります。
以前 【暴虐の徒】にいたポールというプレイヤーです」
『ポール?
確か新しいギルドを作ったとは聞いてたけど……』
『なんて名前のギルドやっけ?』
プレイヤー名を聞いて柴さんとムーさんが続き、やはりギルド名は思い出せないという恭平さんがいう。
『確か、また剣士だけのギルドだ』
主催者のライカさんの一件で事実上の解散となったギルド 【暴虐の徒】。
ギルド自体は今もあるけれど、早々に幹部連中はギルドを脱退。
ポールさんは残ったメンバーに新たなプレイヤーを募り、ギルドを作ったらしい。
ご本人と会うのは初めてだけど、わたしもそのプレイヤー名には聞き覚えがある。
だってランカーじゃない
予定していたエピソードが入りきらなかったのですが、キリがよかったのでここで一度切ります。
グレイたちは、このあと運営のもう一つの悪い癖を思い出すことに・・・
アールグレイ班
アールグレイ / ソーサラー
クロウ / 剣士
ゆりこ / ヒーラー
パパしゃん / 盾剣士
トール / 剣士
カニやん班
カニやん / ソーサラー
しば漬け / 剣士
ミンムー / 剣士
ぽぽ / 銃士
キンキー / ヒーラー
タマ / 妖獣
クロエ班
クロエ / 銃士
の~りん / ソーサラー
ベリンダ / 短剣使い
マコト / 剣士
ジャック / 剣士
恭平班
恭平 / 剣士
くるくる / 銃士
ジャック・バウアー / 剣士
アキヒト / ソーサラー
サミー / ソーサラー