681 ギルドマスターはデンデンとお星様になります
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『ノギさんっ?!』
『え? 篠崎の知り合い?』
今回のイベント 【紫陽花の迷路】 には、イベントエリアにいられる制限時間がある。
その制限時間を迎える前に、わたしたちは自主的にイベントエリアを離脱することを選んだ。
そうして一般エリアに戻ってみれば、時間はお昼前。
丁度いいからとわたしたちの班は一度解散し、一足お先にお昼ご飯を摂ることにした。
カニやん班、クロエ班、恭平さん班も、それぞれに適当なところでお昼休みを摂るように話してログアウト。
今日はよく利用するパスタ専門店の宅配を、お父さん、お母さんと一緒にツルツル~っと……いや、パスタはツルツルとはちょっと違うかな?
つるん……も違うわね。
それはうどんとか蕎麦とか。
ラーメンだとズルズル~という感じだけど、パスタは?
ねぇ誰か、パスタを食べる表現を知らない? ……という話は置いといて、頑張って食べました。
ほうれん草とサーモンのカルボナーラとコーンサラダ。
ランチタイム限定のミニパスタとサラダのセットです。
美味しかった
このお店のカルボナーラ、大好きなのよね。
お腹もいっぱいで気分よく再ログインしてみれば、突然にインカムから聞こえてきたのがこの声でした。
えーっとトール君と美沙さん?
それにノギさん? ……ん? ノギさんっ?
え? ひょっとしてノギさんと遭遇したのっ?
ちょっと二人とも、今どこにいるのっ?
大丈夫っ?!
あとで……というか、二人とはすぐに会えた。
だからインカムを通さず直接顔を見ながら聞いた話によると、二人がログインした時……といっても一緒にログインしたわけではないらしい。
先にログインしていたのは美沙さん。
彼女は、一番早くお昼休みに入っているからね。
その美沙さんのお誘いを受け、慌ててご飯を掻き込んでログインしたのがトール君。
でも他にメンバーはおらず、探索くらいなら……と二人で挑戦したらしい。
ここまではOK
でもそのあとが悪かった。
だってよりによってノギさんと遭遇するなんて、どんな悪運よ。
わたしが再ログインしてすぐに聞こえてきたあの声がその瞬間。
一般エリアにいたわたしにはどういうシチュだったかなんてわかりようもないけれど、ガッツリばっちり出会ってしまったらしい。
なんて不運かしら。
これがもし不破さんなら、トール君なんて鼻にも掛けないというか、そこにいることを視認すらしない可能性がある。
だってほら、不破さんは格下認定したプレイヤーの相手はしない主義だから。
でもよりによって実際に二人と出会ったのはノギさん。
来る者拒まず去る者追わずなところがある真田さんとも違い、来る者拒まず去る者も追いかけ回すノーキーさんとも違う。
そもそも去らせてもくれないというか、逃げることすら許さないのがノギさん。
こういうところは徹底してるからね。
そんなノギさんを前にした二人が 【ナゴヤドーム】 内にある死体置き場からの復活ではなく、中途離脱という形で一般エリアに転送されてきたのは美沙さんの機転があったから。
もちろんノギさんはトール君だけでなく美沙さんも斬る気満々で、トール君も剣を抜いて受けて立つ覚悟でいた。
その邪魔をしたのは美沙さん。
「だってあの人、無茶苦茶ヤバヤバオーラ出してたもん!
あの人、絶対激ヤバじゃん!」
うん、その直感は大正解です。
本能のままに生きるJK……ではなく、これは美沙さんの才能とでもいうべきかしら。
「女の直感です!」
なるほど
美沙さんもなかなか高い危機管理能力を持っているらしい。
そこからは彼女の機転が見事にスパーク! ……ではなくて、見事な功を奏する。
今日は朝から大活躍の美沙さん。
の~りんの助言で、レベル上げより取得を優先した 【スパーク】 でね。
だからそのレベルで 【スパーク】 を取得していることは凄いけれど、威力はまだまだ。
バロームさんですら吹っ飛ばせなかったほどなのに、わたしの 【スパーク】 ですら吹っ飛んでくれないというか、すっころんでくれないノギさんよ。
悪いけど美沙さんの 【スパーク】 ではバランスも崩さないかもしれない。
でも彼女の機転はここから。
そう、機転が功を奏したのはここからなの。
彼女ったら素早く立ち位置を変えたと思ったら、よりによってトール君に体当たり。
よろけたトール君が紫陽花の壁に寄りかかったところを 【スパーク】 で吹っ飛ばした。
次の瞬間、それこそ一瞬にして空のお星様になったトール君。
まさか美沙さんがそんなことをするとは思っていなかったらしく、呆気にとられるノギさんの前で美沙さんは自分から紫陽花にダイブ。
トール君に続いて強制退場となった。
GJ!
あとで会った真田さんが 「グレイちゃんところのJK、とんでもない子なんだって?」 と笑っていた。
どうやらノギさんから話を聞いたみたい。
それはそれは楽しそうに笑っていたから、美沙さんの行動はノギさんにとってもかなり予想外だったらしい。
いったいどんな顔をしていたのやら。
あまり会いたくはない相手ではあるけれど、その顔はちょっと見てみたいです。
「あんな方法で逃げられるとは思わなかったって、静流が呆れてたわ」
そうですか、あのノギさんが。
それは最高の褒め言葉ね、きっと……というか、そういうことにしておきます。
実際、美沙さんの選択は最善だったと思う。
一撃のダメージも受けておらず、ただの仕切り直しだからね。
まぁそうやって二人は、再ログインしたわたしの前に転送されてきた。
無事でなによりです、ちょっとビックリしたけど。
だってノギさんと遭遇したっ? ……と思ったら突然目の前に転送されてきたからね。
落とされたとしたら地下死体置き場に転送されるはずだから。
トール君には悪いけれど、ノギさんに敵わないことはわかっている。
レベル差はもちろんだけど、他にもレベルカンストしているプレイヤーがいる中でも、剣豪が揃うランカーの中でも、クロウやノーキーさんとともにトップを張るノギさんだもの。
他のランカーでも剣士トップ3に勝つことは難しいのが現状だからね。
トール君ではいうまでもない。
せめて不破さんの眼中に入るようにならないと、正直、万が一の可能性もないかな。
それこそ億分の一の可能性なら…………ゴメン、トール君。
その可能性もほぼありません。
だってノギさんだもの。
そもそもあのノギさんが獲物を逃すのが珍しい。
そういう意味でも美沙さんの機転は本当にGJです。
美沙さんの話では、トール君は彼女を庇って勇ましく剣を抜いたらしい。
もちろん正面から当たって砕けるのもいい。
でも時と場合と相手によっては違う選択肢もある。
三十六計逃げるにしかず
わたしが得意とする戦法です。
まぁあまりにも足が遅くて逃げ切れないことが大半だけど。
悲しいことに運動神経が退化し、体力が擦り切れたOLに定められた運命なのよ。
でも美沙さんが機転を利かせ、ノギさんと正面からぶつからないという選択をしたことには美沙さんなりの理由があった。
物凄くしっかりした理由がね。
「だってキンキーが落ちた時、生き返るのに凄いお金かかるっておっさんたちが言ってたじゃないですか!
あたし今、そんなに通貨持ってないんです。
絶対ヤバいと思って」
なるほど、確かにそれは大問題ね。
もちろん美沙さんの懐が寂しいのには理由がある。
イベントに備えて防具の準備をした上、午前中にハルさんから大量にポーションを購入したから。
それで手持ちを随分使ってしまったらしい。
由々しき問題です。
つまり美沙さんは、懐が心許ないという現状から逃げるという最善の選択をしたというわけ。
PKエリアでノギさんを前にして、冷静に自分の置かれた状況を分析出来るだけでも凄いのに、最善の選択が出来るなんて。
ノギさんの怖さや強さを知らないとはいえ、本能的に 「激ヤバ」 と見抜いているし。
実は美沙さん、天才なんじゃない?
横でトール君が 「塚原、おっさんたちって、それ……」 と呟くのが聞こえたけれど、まぁ本人たちもまだいないことだし、いいんじゃない?
脳筋コンビもさりげなくアンチJK発言してたし。
わたしもしょっちゅうおっさん呼ばわりしてるし。
「だってグレイさんは柴さんたちと歳だって近いし……」
トール君はそんなことを言っていたけれど、そこはそこで触れないであげてくれない?
あんな筋肉が服着て歩いているようなおっさんどもだけど、微妙な年頃らしいから。
あんな厳ついイケメンのくせに……とか言ったらトール君を 「えっと……」 と困らせてしまった。
でもその脇で美沙さんが豪快な笑い声を上げる。
「ギルマスー、筋肉が服着て歩いてるって……当然じゃないですかー!
どんな露出狂ー?」
こっちはこっちで、さすが箸が転げても笑えるお年頃ね。
お腹を抱えて大声で笑い、さらにトール君を戸惑わせている。
うん、ここはトール君も一緒に笑っておけば?
たぶんそれが正解だと思うのよ。
どう?
「どうって……その……」
やっぱり戸惑わせてしまったか。
とりあえず一つだけ訂正させていただきますと、わたしと脳筋コンビの歳はそんなに近くありません。
確か五歳以上離れています。
「こっちも微妙なお年頃だからな」
そう言って現われたのはカニやん。
ついさっきギルドルームに再ログインし、タマちゃんを撫で撫でしながら 【ナゴヤドーム】 の外まで歩いてきたらしい。
その手からするりと抜け出したタマちゃんがトール君の足にスリスリ。
撫でろと言わんばかりに可愛らしく 「にゃ~ん」 とひと鳴きすると、その催促に、トール君は慌ててタマちゃんの頭を撫でるけれどいつもぎこちない。
まぁカニやんのように、まるで恋人のように仲睦まじくとは行かないわよね。
でもタマちゃんも万人に愛されるコツというものを弁えていて、ぎこちなくも要望に応えてくれるトール君を見上げて嬉しそうな顔をする。
この愛嬌が万人を魅了するのよね。
だって本当に可愛らしいもの。
「ちなみにわたし、カニやんとも五歳くらい離れてるから」
「はいはい」
そういっていつものようににひっと笑ってかわされてしまった。
イケメンの爽やかな余裕の笑顔って、ノギさんといいカニやんといい、物凄く腹が立つ。
だからといってここで暴力に訴えたりはしないけどね。
どうせ当たらないし。
「でも、トール君が気にするのもわからなくはないけどね」
唐突に話を切り出してくるカニやんに、わたしはてっきり年齢の話の続きかと思ったら違いました。
さっきの話……つまりノギさんから逃亡してきた話の続きでした。
カニやんは、トール君がノギさんと斬り結ぶ選択をしたのも理解出来るというけれど、それくらいならわたしだって理解出来るわよ。
もちろん逃げるなんて格好悪いとか、そんな理由じゃないこともわかってる。
トール君はどこまでも真面目で、美沙さんを守らなければと思ったのよね。
まさかあの場から逃亡するなんて脱出方法があるとは思わなかっただけ。
本心をぶっちゃければ、わたしだって思いつかないわよ。
まさかお星様になれば脱出出来るなんて、どんな柔軟な脳みそを持っていれば思いつけるのよ?
ひょっとして美沙さんてば天才っ?!
「やった!
ギルマスに天才とか言われたー!」
「でも塚原の成績って、そんなに……」
うん、だからトール君はそういうところね。
学校の勉強は出来るらしいけれど、広い世界にはいろんな形の天才がいるのよ。
このあとほどなくクロウがログインしてきたのを皮切りに、お昼休みを取っていたメンバーが次々にログインしてくる。
午後から参加のゆりこさんやパパしゃんもね。
全員が揃うのにはまだ少し時間がかかりそうだったけれど、ある程度メンバーが揃ったところで班分けを再編成する。
午前中の班分けではわたしの班とクロエ班が四人だったけれど、そこにゆりこさんとパパしゃんを入れるだけでは火力バランスが悪いからね。
そのあとは、メンバーが揃った班から午後の探索を開始しましょうか?
美沙ばかりが活躍していいとこなしのトール君ですが、きっとそのうち見せ場があるはず。
そう信じて頑張ってもらおうと思います。
予定どおりノギも登場しましたが、ノーキーとは違う形での退場。
こちらもまた登場する可能性があるということで、午後からの攻略開始です!
2022/07/14付けで活動報告【6月の反省】を更新しております。
ぜひぜひそちらもご覧下さい! ←珍しくちょっと積極的に言ってみましたw